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10. 遠慮と本音
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「まだ今日お会いして少ししかお話しておりませんのに、私へ心を許して下さったなんて嬉しいです。では、遠慮しなくていいと仰って下さいましたから言いますね。では私、帰ります。」
「…帰る…それは、自国へか?」
ナターシャが言葉を繋ぐと、ラドは肩をガックリと落とし、ものすごく残念そうな顔をして言葉を発する。
その声はなぜか先ほどのように覇気が無く、掠れたような声であった為、ナターシャはどうしたのだろうと首を傾げながら言った。
「まだ来たばかりですので、すぐには国には帰りませんけれど、今から〝朝食を摂られる〟と言われた、それに対してです。これから商人組合へ行ったりもしたいですし。」
「そ、そうか!国には帰らないのだな!…ん?商人組合へ行くのか?」
「はい。残りのハンカチを販売するにあたって、許可を得たいですから。」
商人組合で登録すれば、街中で露店を開き、ハンカチを販売する事が出来るのだ。
「…ナターシャ嬢。もしよければ、うちが請け負ってもいいだろうか?見た所、露店で売るには少々値が張りすぎて売れないと思うんだ。これは、現在流通しているものよりかなり上質だからね。庶民向きではないんじゃないかな。」
「え?ええと…」
(そう言われたらそうかもしれないわ。一般的な絹よりも丈夫で光沢も素晴らしいのだもの。庶民が買える値段かと問われたら、私には判断出来ないわ…。でも、私一人で判断は出来ない…。)
ミロシュに助け船を出され、ナターシャは考える。そして、自分では判断が出来ずエドとキャリーを見遣る。
すると、エドはキャリーと顔を見合わせた後、再びナターシャへと近づき、腰をかがめて片膝を床に付け、頭を少し下げて話し出した。
「失礼致します。恐れながら…私が口を挟む事をお許し頂けますでしょうか。」
「ん?どうしたんだい?」
「寛大なお心、感謝致します。私は我が領主より、話が大きくなった際は一度話を持ち帰る事を言われております。ですので、領主に確認を取る事をお許し頂けませんでしょうか。」
エドは、ナターシャの父からもし本当に販路拡大する事が出来たならそれでいいし出来なくても一カ月程でナターシャをどうにかなだめて一度帰ってこいと言われていた。
また、本当に販路拡大出来たとして、ナターシャだけでは判断出来ない際は必ず、すぐ返事はさせない事と、一度確認を取れと言われていた。
つまり、エドはナターシャのお目付役として傍にいるようなものであった。
「まぁ、確かにそうだよね。うん、じゃあそうしよう。返事はすぐでなくていいよ。あ、騎士団への販売も、僕から騎士団長へ話をしておくから、お願いしたいな。」
「寛大なお心、重ね重ねありがとうございます。」
そう言うと、頭を再度下げ、エドはまた壁際へと下がった。
ラドは相変わらず呆けていて、ポカンとしていたが、ミロシュが対応していると意識を取り戻したのかナターシャへとまた話し出した。
「話を一度持ち帰るとは…国へ帰るという事か?」
ナターシャはそれを聞いて、
(え!?そうなると…そうなるのかしら?でもこの国へ来てたった二日よ。まだこの国には何があるか見てもないのに帰るのも…けれど確かに、お父様に聞いて来ないといけないものね。うーん…。)
「そうですね…確認を取らないといけません…でも…エドが行って聞いて来てくれない?私とキャリーで待っているから。」
ナターシャは、初めはラドへ向けて言ったが、途中からエドへと顔を向けてそのように言った。
するとエドは一瞬だけ顔を歪ませ、けれどまた表情を戻すと、
「ナターシャ様…それは、領主様との約束を違える事になりますよね?一度帰りませんと。」
と冷たくも聞こえる程ナターシャへ淡々と告げた。
「…そうだったわね。」
ナターシャは、分かってはいたもののしょんぼりとして言った。
「約束…?」
ラドはその言葉に反応して聞き返した。
「あ…ええ。父は、〝どうしてもの時以外は必ず三人で行動する事〟という条件で、この国へ送り出してくれたのです。」
「それは、護衛という意味合いかな?」
すかさず、ミロシュが聞いた。
「はい。もちろん、この国は偉大なるドラガン国王様が統治されていらっしゃるから治安がいいと聞き及んでおりますし、だから父も私達三人と少数でも滞在を許してくれました。けれども、エドが抜けてしまったら確かに、キャリーだけでは負担が大きすぎるでしょう。」
「また、来ればいいのです。」
あまりにもナターシャが項垂れている為に、さすがにエドも言い過ぎたかとそう言葉を添えた。
「護衛という意味合いであれば、ここにいればいい。」
不意に、ラドが先ほどよりは力を込めてナターシャへと言った。それは、とても優しい声であった。
「え?」
「エドとやらが、確認を取りに行っている間、ここに滞在すればいい。そうすれば一緒にいられ…い、いろいろと案内をしてやれる。」
「で、でも…」
「先ほども言ったように、本音を言ってくれて構わない。言葉遣いも…も、もう少し砕けた感じで話してくれて構わない…から。」
(砕けた感じで?本当にいいのかしら?まだあまり会って少ししか経っていないのに。でも、構わないって、いいって事でいいのよね?分かりづらいけど。)
と、ナターシャは少し疑問に思ったが、そういえばミロシュもラドに対して砕けた感じで話しているし、ナターシャより年上の気がするがエドや兄に話すように話せばいいのだろうと思った。
「じゃあそのように話させてもらうわね。もし、本当に滞在していいのならとても嬉しいわ!だって、私まだこの国へ来て二日しか経っていないのにもう帰るだなんて寂しいと思ったの。でも、本当はご迷惑ではないの?」
「迷惑なわけない!むしろ居て欲しいから言っているんだ!そうかそうか!そうやって、本音を言ってくれると俺も嬉しい!つ…ついでと言っては何だが、ナターシャと呼んでもいいだろうか…?」
ナターシャは、本音を言ったが、初対面である人の屋敷に滞在するなんていいのだろうか、と思いそう言った。信用出来る人物だ、とは昨日ミロシュが言っていたが、そこまでお世話になっていいものかと迷いながら言ったのだ。
対してラドは、本音を言ってくれたナターシャに必死になって力むようにそう言った。そして、ついでと言いながら、先ほどからいつ言おうかと悩んでいた言葉を思い切って最後に繋いだのだった。
「…帰る…それは、自国へか?」
ナターシャが言葉を繋ぐと、ラドは肩をガックリと落とし、ものすごく残念そうな顔をして言葉を発する。
その声はなぜか先ほどのように覇気が無く、掠れたような声であった為、ナターシャはどうしたのだろうと首を傾げながら言った。
「まだ来たばかりですので、すぐには国には帰りませんけれど、今から〝朝食を摂られる〟と言われた、それに対してです。これから商人組合へ行ったりもしたいですし。」
「そ、そうか!国には帰らないのだな!…ん?商人組合へ行くのか?」
「はい。残りのハンカチを販売するにあたって、許可を得たいですから。」
商人組合で登録すれば、街中で露店を開き、ハンカチを販売する事が出来るのだ。
「…ナターシャ嬢。もしよければ、うちが請け負ってもいいだろうか?見た所、露店で売るには少々値が張りすぎて売れないと思うんだ。これは、現在流通しているものよりかなり上質だからね。庶民向きではないんじゃないかな。」
「え?ええと…」
(そう言われたらそうかもしれないわ。一般的な絹よりも丈夫で光沢も素晴らしいのだもの。庶民が買える値段かと問われたら、私には判断出来ないわ…。でも、私一人で判断は出来ない…。)
ミロシュに助け船を出され、ナターシャは考える。そして、自分では判断が出来ずエドとキャリーを見遣る。
すると、エドはキャリーと顔を見合わせた後、再びナターシャへと近づき、腰をかがめて片膝を床に付け、頭を少し下げて話し出した。
「失礼致します。恐れながら…私が口を挟む事をお許し頂けますでしょうか。」
「ん?どうしたんだい?」
「寛大なお心、感謝致します。私は我が領主より、話が大きくなった際は一度話を持ち帰る事を言われております。ですので、領主に確認を取る事をお許し頂けませんでしょうか。」
エドは、ナターシャの父からもし本当に販路拡大する事が出来たならそれでいいし出来なくても一カ月程でナターシャをどうにかなだめて一度帰ってこいと言われていた。
また、本当に販路拡大出来たとして、ナターシャだけでは判断出来ない際は必ず、すぐ返事はさせない事と、一度確認を取れと言われていた。
つまり、エドはナターシャのお目付役として傍にいるようなものであった。
「まぁ、確かにそうだよね。うん、じゃあそうしよう。返事はすぐでなくていいよ。あ、騎士団への販売も、僕から騎士団長へ話をしておくから、お願いしたいな。」
「寛大なお心、重ね重ねありがとうございます。」
そう言うと、頭を再度下げ、エドはまた壁際へと下がった。
ラドは相変わらず呆けていて、ポカンとしていたが、ミロシュが対応していると意識を取り戻したのかナターシャへとまた話し出した。
「話を一度持ち帰るとは…国へ帰るという事か?」
ナターシャはそれを聞いて、
(え!?そうなると…そうなるのかしら?でもこの国へ来てたった二日よ。まだこの国には何があるか見てもないのに帰るのも…けれど確かに、お父様に聞いて来ないといけないものね。うーん…。)
「そうですね…確認を取らないといけません…でも…エドが行って聞いて来てくれない?私とキャリーで待っているから。」
ナターシャは、初めはラドへ向けて言ったが、途中からエドへと顔を向けてそのように言った。
するとエドは一瞬だけ顔を歪ませ、けれどまた表情を戻すと、
「ナターシャ様…それは、領主様との約束を違える事になりますよね?一度帰りませんと。」
と冷たくも聞こえる程ナターシャへ淡々と告げた。
「…そうだったわね。」
ナターシャは、分かってはいたもののしょんぼりとして言った。
「約束…?」
ラドはその言葉に反応して聞き返した。
「あ…ええ。父は、〝どうしてもの時以外は必ず三人で行動する事〟という条件で、この国へ送り出してくれたのです。」
「それは、護衛という意味合いかな?」
すかさず、ミロシュが聞いた。
「はい。もちろん、この国は偉大なるドラガン国王様が統治されていらっしゃるから治安がいいと聞き及んでおりますし、だから父も私達三人と少数でも滞在を許してくれました。けれども、エドが抜けてしまったら確かに、キャリーだけでは負担が大きすぎるでしょう。」
「また、来ればいいのです。」
あまりにもナターシャが項垂れている為に、さすがにエドも言い過ぎたかとそう言葉を添えた。
「護衛という意味合いであれば、ここにいればいい。」
不意に、ラドが先ほどよりは力を込めてナターシャへと言った。それは、とても優しい声であった。
「え?」
「エドとやらが、確認を取りに行っている間、ここに滞在すればいい。そうすれば一緒にいられ…い、いろいろと案内をしてやれる。」
「で、でも…」
「先ほども言ったように、本音を言ってくれて構わない。言葉遣いも…も、もう少し砕けた感じで話してくれて構わない…から。」
(砕けた感じで?本当にいいのかしら?まだあまり会って少ししか経っていないのに。でも、構わないって、いいって事でいいのよね?分かりづらいけど。)
と、ナターシャは少し疑問に思ったが、そういえばミロシュもラドに対して砕けた感じで話しているし、ナターシャより年上の気がするがエドや兄に話すように話せばいいのだろうと思った。
「じゃあそのように話させてもらうわね。もし、本当に滞在していいのならとても嬉しいわ!だって、私まだこの国へ来て二日しか経っていないのにもう帰るだなんて寂しいと思ったの。でも、本当はご迷惑ではないの?」
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ナターシャは、本音を言ったが、初対面である人の屋敷に滞在するなんていいのだろうか、と思いそう言った。信用出来る人物だ、とは昨日ミロシュが言っていたが、そこまでお世話になっていいものかと迷いながら言ったのだ。
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