【完結】侯爵家の娘は、隣国へ販路拡大しに来ました!

まりぃべる

文字の大きさ
9 / 20

9. 購入してくれるなら

しおりを挟む
「こちらが、私の実家で作っております絹でございます。」

「なるほどね。見せてもらうぞ。」

「どうぞ、よろしければ手に取ってじっくりとご覧下さい。」

 ラドは、ナターシャが長机に置いたハンカチを手に取り、くしゃくしゃと擦り合わせた。キュッキュッと絹鳴りがすると、ラドは少しだけ口角を上げ、ハンカチを広げた。

「光沢感は素晴らしいし、それによく見る絹よりも分厚いな。それでいて軽い。」

「はい。一般的な絹糸よりも、少し細いのですが、それを編み込んでいく事で分厚く丈夫にしております。」

「耐久性に優れているのか。」

「はい。絹の弱点を補おうとした結果です。下着などにも応用出来ます。それから、もう少し厚みを持たせれば、騎士様達が着る服の下に着れば、更に分厚い防具となるでしょう。」

「絹で防具…。」

「それはすごいな!ナターシャ嬢、そういう事も隣国ではされているのか?」

 騎士、と聞いたからかミロシュが身を乗り出して会話に入って来た。

「はい。ベストを作っております。」

「おい、ラド!これはもう買うしかないぞ!結構上質な絹じゃないか!?」

「まて、ミロシュ。…君は、これをなぜ俺に?」

「ええと…正直に申しますと、私は隣国より販路拡大にこの国へと参りました。どなたに購入して頂いても良かったのですが、ミロシュ様が、ラド様をご紹介すると言って下さったのでそうしたまでです。」

「…誰でもいい、だと?」

「?はい。購入していただけるのであれば。」

 そう言うと、ラドは大きな目をパチパチと瞬かせ、やがて大きな声で笑い出した。笑うと顔がとても柔らかい表情で、先程までは目力が強いと思っていたのに、目が無くなるくらい微笑む顔は、子供のように無邪気で可愛く見え、そのギャップにドキリと胸が高鳴ったようにナターシャは感じた。

「ハハハハ!誰でも良かったのか!この俺でなくとも!では、貢ぎ物などではないのだな?」

「ええと…はい。欲しいのでしたら差し上げますが、購入していただけると嬉しいです。」

「なるほど。ミロシュ、そういう事か!」

「だから言ったでしょうに!それを勝手に勘違いしたのはラド、お前だ!」

「それもそうか!いや、最近じじぃ達がうるさかったからな、敏感になっていたんだ!」

「それは分かるけどね。でもさ、それにしては態度が悪過ぎたと思うよ?」

「確かにそうか。いや…ナターシャ嬢。改めて謝罪する、済まなかった。俺は、君の事を勘違いしていたみたいだ。今までの無礼を許して欲しい。」

 そう言って、ラドは頭を軽く下げた。
 それを見たナターシャは、驚いた。先程とは人が変わったように、顔に表情が出ていて、無愛想とは程遠い。しかも、素直に謝ってきたのだ。イライラとしていた気持ちは、絹のハンカチを褒められた事もあり、薄れていた。

「え?えと…はい。」

「俺は、俺に取り入りたい輩かと勘違いしたのだ。君は、そうではなかったのだな。」

(取り入る?どういう事かしら。それよりも先ほどとは雰囲気が全く変わって、なんだか柔らかくなったわ!屈託なく笑った顔、整っているから素敵…。いいえ!でも理由があったからって、初対面であんな態度取るなんて!…理由があったからしょうが無い、のかしら…?)

 ナターシャは、自分が言った言葉で、途端に威圧感満載の雰囲気から、柔らかく優しい雰囲気にラドが変わった事に驚いていたし、自分の気持ちも何だか良く分からなくなっていた。そのため、どう答えたらいいのか迷い、弱々しく笑うに留めた。

「お詫びと言ってはなんだが、そのハンカチを購入してもいいだろうか。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

(購入してくれるなんて!やったわ!ほらご覧なさい!やっぱり、実物を見て貰えば買いたくなるのよ!)

 ナターシャは、先ほどは弱々しい笑いだったのだが、購入してくれると言われた為に途端に気持ちが舞い上がり、心からの笑顔でにっこりとラドに笑いかけた。

(あら?ラド様、口に手を押さえて、顔を逸らしてしまったわ。どうしたのかしら?)

「…良かったね、ナターシャ嬢。これで胸を張って国に帰れるね。」

「なに!?国に帰る!?」

 ミロシュは、ラドのその姿を見て少しだけニヤニヤとすると、すぐに真面目そうな表情を張り付けてナターシャへと声を掛けると、ラドが慌ててそうナターシャへと言った。

 ナターシャは、このハンカチ一枚を購入してもらっても、まだまだ残っているのですぐに帰るわけではない。だが、胸を張って帰れるのは確かにそうだと思って頷いて言った。

「はい!」

「ま、待て!まだ帰るな!そうだな…今日の予定はどうなっている?あ、そうだ!取りあえず今から一緒に朝食をどうだ。早かったから食べていないだろう?こんなに早くから来てくれて、済まなかったな。」

 ナターシャは、なぜラドはそんなに焦ったように言うのか不思議であったが、朝食までご馳走になるわけにはいかないと思い、遠慮する事にした。

「ええと…そんなつもりで来ておりませんので…ご遠慮させていただけると嬉しいのですが…。」

「遠慮する!?どうして断るんだ?この俺がいいと言っているんだぞ?」

「ラド!おい、その口調は良くない!…ええとね、ナターシャ嬢。ラドの笑顔を見れた者はラドが心を許した証拠なんだ。だから、遠慮しなくて本音で接すればいいよ。」

「ん?ああ……そうだな。済まない。そのミロシュの言い方は少々語弊があるが、確かにその…き、君には心を許している。だから、全く遠慮しなくていいんだ。」

 ナターシャは、断ったつもりだったのだが遠慮したようにとられたのかと思った。そして、ラドは〝この俺が〟と言っているから、やはりそれなりに偉い立場なのかと思った。でも、ミロシュが焦るように口を開き、ナターシャへとそう言ったので、クスリと微笑んだ。
確かに、部屋に入った時はムッとしたように怒っているような表情しかしていなかったなと思い返したのだ。
 そして心を許してくれていると聞いてなぜだかとても嬉しくなった。

(遠慮しなくていいなら、本音で話していいのよね。)

 そう思い、ナターシャは言葉を繋いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】トリマーだった私が異世界という別の場所で生きていく事になりました。

まりぃべる
恋愛
私、大橋れな。小さな頃から動物が好きで、念願のトリマーの職に就いて三年。そろそろ独立しようかと考えていた矢先、車に轢かれたと思う。だけど気が付いたら、全く知らない場所で、周りの人達も全然違う感じで、外国みたい。でも言葉は通じるの。いやこれはどうやら異世界に来ちゃったみたい。 私はきっと前の世界では命を落としたのだから、ここで生きていけるのならと、拾われたエイダさんと共同生活する事になった。 エイダさんの仕事を手伝いながら、自分がやりたかった事とは多少違っても皆が喜んでくれるし、仕事が出来るって有意義だと思っていた。 でも、異世界から来た人は王宮に報告に行かないといけないらしい。エイダさんとは別れて、保護下に置かれる為王宮内で新しく生活をするのだけれど、いつの間にか結婚相手まで!? ☆現実世界でも似た名前、地域、単語、言葉、表現などがありますがまりぃべるの世界観ですので、全く関係がありません。緩い世界ですので、そのように読んでいただけると幸いです。 ☆現実世界で似たような言い回しの、まりぃべるが勝手に作った言葉や単語も出てきますが、そういう世界として読んでいただけると幸いです。 ☆専門の職業の事が出てきますが、まりぃべるは専門の知識がありませんので実際とは異なる事が多々出てきますが、創作の世界として読んでいただけると助かります。 ☆動物との触れ合いは少ないです。 ☆完結していますので、随時更新していきます。全三十二話です。

【完結】異国へ嫁いだ王女は政略結婚の為、嫌がらせされていると思い込んだが、いつの間にか幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
オティーリエ王女は幼い頃は誰とでも分け隔てなく接していた心優しい少女だった。しかし八歳から始まった淑女教育や政略結婚の駒とされる為に様々な事を学ばされた為にいつの間にか高慢で負けず嫌いな性格に育ってしまった。常に王女らしくあれと講師の先生からも厳しく教育され、他人に弱みを見せてはいけないと言われ続けていたらいつの間にか居丈高で強気な性格となってしまう。 そんな王女が、とうとう政略結婚の駒となり、長年確執のあった国へと嫁がされる事となる。 王女は〝王女らしい〟性格である為、異国では誰にも頼らず懸命に生活していこうとする。が、負けず嫌いの性格やお節介な性格で、いつの間にか幸せを掴むお話。 ☆現実世界でも似たような言い回し、人名、地名、などがありますがまりぃべるの緩い世界観ですので関係ありません。そのように理解して読んでいただけると幸いです。 ☆ヨーロッパ風の世界をイメージしてますが、現実世界とは異なります。 ☆最後まで書き終えましたので随時更新します。全27話です。 ☆緩い世界ですが、楽しんでいただけると幸いです。

捨てられた騎士団長と相思相愛です

京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」

【完結】光の魔法って、最弱じゃなくて最強だったのですね!生きている価値があって良かった。

まりぃべる
恋愛
クロベルン家は、辺境の地。裏には〝闇の森〟があり、そこから来る魔力を纏った〝闇の獣〟から領地を護っている。 ミーティア=クロベルンは、魔力はそこそこあるのに、一般的な魔法はなぜか使えなかった。しかし珍しい光魔法だけは使えた。それでも、皆が使える魔法が使えないので自分は落ちこぼれと思っていた。 でも、そこで…。

【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる
恋愛
『集え!鉱山へ!!莫大な給料が欲しく無いか!?』という謳い文句がある、近くにある鉱山への労働者募集がこのほどまたあると聞きつけた両親が、お金が欲しい為にそこへ働きにいってほしいと領主である父から言われた少女のお話。 ☆現実世界とは異なる場合が多々あります。 ☆現実世界に似たような名前、地名、単語などがあると思いますが全く関係ありません。 ☆まりぃべるの世界観です。一般的に求められる世界観とは違うとは思いますが、暇つぶしにでもそれを楽しんでいただけると幸いです。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして

まりぃべる
恋愛
フレイチェ=ボーハールツは両親から気味悪い子、と言われ住まいも別々だ。 それは世間一般の方々とは違う、畏怖なる力を持っているから。だが両親はそんなフレイチェを避け、会えば酷い言葉を浴びせる。 そんなフレイチェが、結婚してお相手の方の侯爵家のゴタゴタを収めるお手伝いをし、幸せを掴むそんなお話です。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていますが違う場合が多々あります。その辺りよろしくお願い致します。 ☆現実世界にも似たような名前、場所、などがありますが全く関係ありません。 ☆現実にはない言葉(単語)を何となく意味の分かる感じで作り出している場合もあります。 ☆楽しんでいただけると幸いです。 ☆すみません、ショートショートになっていたので、短編に直しました。 ☆すみません読者様よりご指摘頂きまして少し変更した箇所があります。 話がややこしかったかと思います。教えて下さった方本当にありがとうございました!

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...