22 / 26
22 彼らの新生活 ーお出かけと言う名の追放ー
しおりを挟む
王都から馬車で二時間ほどかかる、トルンロース侯爵家の屋敷にいたディーサは、父親からの呼び出しで告げられた言葉に、嬉しくて大声を上げた。
「えっ結婚!?」
「そうだ。
…ショールバリ侯爵家の、嫡男だったビリエルという男とな!」
「本当ですの??お父様、嬉しいですぅ!」
一昨日、ビリエルと初めて会い、その流れで白いワンピースを贈られて夕食を共にしたディーサ。その時、近い内に結婚を前提に付き合いたいと屋敷に挨拶に行くと約束を取り付けたディーサはやっと結婚出来ると思った。
これまでもディーサには、男性からの誘いはそれなりにあった。しかし自分の容姿にはかなり自信があるディーサは気が強く、自分の意見をはっきり言うため、実家の爵位の侯爵よりも下の者の誘いには完膚なき辛辣な言葉で断っていた。やっと誘われたとしてもなぜか二回目以降の誘いが無かった。それが、やっと見つけた侯爵家の嫡男。
一昨日話した限りでは、騎士道学校をあと半年で卒業すると言っていた。二十二歳のディーサにとって自分よりも四歳も年下ではあるが、顔もそれなりに整った方であるし細身のスラリとした体つきは充分に許容範囲ではある。
昨日は、あの有名高級ホテルに泊まらせてくれると言っていたのだが、ホテル側の都合でダメになってしまったとビリエルに言われたが、ビリエルのタウンハウスに一昨日に続けて二度も行き、ディーサは早くも上機嫌だった。
それが、結婚が決まった、と父親から告げられたのだ。なぜか仏頂面の顔であったが、そんな事などディーサは気にも止めず喜びの声を上げた。
「…よかったな、と言うべきなのか…まさかこんな事になるとはな。」
「え?」
「いや…ディーサ、お前が嬉しいのなら何よりだ。
昼食を食べたら、すぐ行きなさい。馬車が迎えに来てくれるそうだ。」
「すぐ!?ビリエル様が今日は迎えに来てくれるの?」
今日も、午後から王都で待ち合わせをしていたはずだったが予定が変わったのかと聞くディーサ。
「さぁな…荷物は最小限で行けよ。
…元気でな、ディーサ。」
「はーい、お父様!
今日はね、この服に合うアクセサリーを贈ってくれるらしいのよ?楽しみだわ!いってきまーす!」
一昨日貰った白いワンピースを着ていたディーサは裾を翻してパタパタと駆けながらそう言って玄関へと急いでいった。
それを横目にトルンロース侯爵は大きくため息を吐く。それを見て、壁際に控えていた妙齢の執事が労うように声を掛ける。
「当主様、最後の挨拶はあれでよろしかったのですか?」
「よい。わざわざ真実を全て話さずとも、行けば自分の肌で理解出来るだろう。幸せな気分のまま、旅立たせてやろう。
…どうしてこうなってしまったのか。」
そう言って、目の端に映る今朝方届いた一通の仰々しい封蝋のついた手紙を見遣る。
「昔は笑顔振り撒く可愛い娘だった。よそ様に迷惑を掛ける子ではなかったんだが、いつからそうなってしまったんだろうな…」
「当主様…」
主従関係にある二人の目には涙が溜まったまま、暫く口を開く事はなかった。
☆★
迎えにきた馬車に、御者が何か言っていたような気がするがそれに脇目も振らず嬉々として乗り込んだディーサは、ビリエルの戸惑ったような顔に声を掛けた。今日は、昨日一昨日とは明らかに異なる随分と地味な色の服装だったのだ。
「どうしたの?ビリエル様。」
「どうしたのって…何も聞いて無いのか?」
昨日までとは打って変わって、ぶっきら棒な口調ではあったが打ち解けてきた証拠なのだとディーサはさして気にもせずに隣に座った。
「え?…あ、聞いたわ!私達、結婚するのよね?お父様から聞いたの!
ビリエル様、いつの間にお父様に伝えてくれたの?ありがとう!!」
「いや…ディーサと結婚は嬉しいけど、どうやらエーレブルー国を出て帝国で暮らすみたいだ。」
「帝国!?え?ビリエル様行った事あるの?どんなところなのかしら?」
「無いよ!
騎士道学校で習った内容は、大きな国っていうのと、言葉は通じるって事位だったし。
それにさ、僕達二人で暮らせって…」
「まぁ!…え?でもどういう事?侯爵家は…?」
「知らないよ!
今日だって、いきなり馬車がタウンハウスに来て、服も汚れるからって一番質素なのに着替えてこいって言われたし、ついたら説明するから乗れって…」
「誰に?」
「外に居る御者だよ!
運転中は気が散るから話せないから、ついてから説明するってさ!!」
御者とは、馬車を操る者。今ビリエルとディーサが居る座席の部分ではなく、この箱型の馬車の外側前方で馬の手綱を持ち操縦する者であり、中からでは話し掛け難い。そちら側に小窓が付いているので、そちらを開けて話し掛ければ話が出来そうではあるが、窓を開ければカポカポと馬の足音が響き会話が出来るのか不明である。
「そうなの…ついてからって王都に…?」
「いや、どうだろ…多分、逆方向に進んでる気がする。」
「じゃあ、どこへ向かってるの…?」
「分からない。まさか、そのまま帝国ではないよな?」
「まさか!?…今日中にたどり着けるの?」
「いや…一週間は余裕で掛かるだろう。」
「そんな、まさか…」
答えの出ない話を、二人はしていた。
☆★
五時間ほど走り、日が暮れて来た頃に漸く比較的小さな町の宿屋で馬車は止まった。
すると、すぐにビリエルは御者に詰め寄った。
「おい!何処まで行く気だ!?誰に頼まれたんだ!?」
道中は思いのほか長く、始めはビリエルもディーサも困惑して答えの出ない話をしていたがそれでは状況が読めないと悟り、お互いの聞いた情報を照らし合わせ、馬車が止まったら御者に聞く内容を精査していたのだ。
「フン…ここがどこかお分かりです?」
しかし御者は鼻で軽く笑うと、嘲笑うかのように質問で返した。
「はあ?…どこって、どこだよ!?」
「まぁ、王都から五時間ほど離れた町って事ですね。つまり、歩いて王都まで戻るにはかなり時間のかかる場所。
私は貴女方お二人を無事に目的地にお届けするようにと言付けられました。
しかし、もし、それを拒否されるようであればそれも結構。
自力で帰られますか?どうぞご自由に。ただのビリエルさんとディーサさん。」
と、そう簡単に説明した御者は、馬車を宿屋の隣の馬宿に預けるとさっさと宿屋へと入っていこうとする。
「お、おい!まだ話は終わっちゃいねぇよ!」
「話?話をしたいのであればどうか落ち着いて。ギャンギャンと負け犬の遠吠えのように吠えられると、頭に響くんですよ。
馬車を走らせるのも大変なんです。はぁ疲れたー。」
と、肩を回しながら進もうとする。
「ちょ…お待ちになって!」
「なんです?ディーサさん。」
「目的地って?今日はここに泊まれって事?」
「まぁ、私に従って下さるのならそういう事です。まだまだ掛かりますからね。
正しくは私では無く、私もある方から命令されたまで。逆らうのであればどうぞご自由に。ただし、国家反逆罪という罪名があなた方にもれなく付きますがね。」
「国家反逆罪!?」
「!?
えっと、いろいろと聞きたいのだけど、まず私達お金は持ってないのよ。ビリエル様もそう言っていたわ。あなた、払って下さるの?」
「まぁ、私の言う事に従っていただければもちろん支払いますよ。そのお金は、あなた方のご家族様からたんまり頂いてます。最後の餞らしいですし。」
「どういう事?」
「質問ばかりですね…何も聞いておられないのですか?
はぁ…。私も詳しくは存じ上げませんが、お二人共何かやらかしたんでしょう?そんな方々に国から出すお金は無いという事です。けれどそれでは道中馬車内で野宿となりますし、食事も必要で、そのあたりの費用はあなた方のご家族が持つ、とお聞きしましたよ。
ご夫婦と聞いてますが、最後の慈悲で、お二人一緒に帝国に送られるとか。良かったですね、離れ離れではなくて。」
「…なに?」
「え…?」
ビリエルとディーサは顔を見合わせる。二人とも、何かやらかしたとは全く思ってもいないため、人違いではないかと思ったほどだ。しかし、先ほど呼ばれた名前は確かに二人のもの。
「質問は終わりですね。私も疲れましたので早く宿で休みたいので行きますよ。
で?どうされるんです?ただのビリエルさんとディーサさん。ご自分で帰りますか?泊まりますか?」
「…帰るにも金がないし、国家反逆罪がかけられるのであれば、とりあえず泊まろう。」
「…そうね。お腹も空いたし…」
「さようで。
ではまず、大きな声で話すのは止めて下さいね?さぁ行きましょう。」
そう言って、やっと休めると御者は宿屋へと入って行った。
☆★☆★
☆★
「さぁ、つきましたよ。」
「やっと…」
「ここが…」
あれから十日。
今まで泊まった事もない、部屋の壁がひどく近い小さな宿屋に泊まったビリエルとディーサ。それに加えて食事も今まで食べてきた物とは質も量もなにもかも違って戸惑う事ばかりであったが、それは馬車旅だったからだと二人は結論付け、辿り着いた先では今まで通り貴族らしい豪勢な場所で食事もできるのだろうとホッと息を吐いた。
が。
馬車から降りた正面には、岩肌がゴツゴツとしている山が連なっており、周りは身長ほど大きく伸びた草や木で生い茂っていて道もよく分からない。自然豊かといえばそうであるが、無造作に手入れも行き届いていない場所で鬱蒼としているため、薄気味悪くさえあった。
「どこだ?ここ」
「え?ちょっと…」
「さぁ、行って下さい。そちらの作業場に声を掛けて下されば、説明がありますから。では。」
そう言うと、反論も待たずに元来た道を戻ってしまった。
「おい!待てよ!」
「あ、ちょっと置いてかないで!」
そうは言ったが、御者には聞こえていないのか振り向きもせず行ってしまった。
「えっ結婚!?」
「そうだ。
…ショールバリ侯爵家の、嫡男だったビリエルという男とな!」
「本当ですの??お父様、嬉しいですぅ!」
一昨日、ビリエルと初めて会い、その流れで白いワンピースを贈られて夕食を共にしたディーサ。その時、近い内に結婚を前提に付き合いたいと屋敷に挨拶に行くと約束を取り付けたディーサはやっと結婚出来ると思った。
これまでもディーサには、男性からの誘いはそれなりにあった。しかし自分の容姿にはかなり自信があるディーサは気が強く、自分の意見をはっきり言うため、実家の爵位の侯爵よりも下の者の誘いには完膚なき辛辣な言葉で断っていた。やっと誘われたとしてもなぜか二回目以降の誘いが無かった。それが、やっと見つけた侯爵家の嫡男。
一昨日話した限りでは、騎士道学校をあと半年で卒業すると言っていた。二十二歳のディーサにとって自分よりも四歳も年下ではあるが、顔もそれなりに整った方であるし細身のスラリとした体つきは充分に許容範囲ではある。
昨日は、あの有名高級ホテルに泊まらせてくれると言っていたのだが、ホテル側の都合でダメになってしまったとビリエルに言われたが、ビリエルのタウンハウスに一昨日に続けて二度も行き、ディーサは早くも上機嫌だった。
それが、結婚が決まった、と父親から告げられたのだ。なぜか仏頂面の顔であったが、そんな事などディーサは気にも止めず喜びの声を上げた。
「…よかったな、と言うべきなのか…まさかこんな事になるとはな。」
「え?」
「いや…ディーサ、お前が嬉しいのなら何よりだ。
昼食を食べたら、すぐ行きなさい。馬車が迎えに来てくれるそうだ。」
「すぐ!?ビリエル様が今日は迎えに来てくれるの?」
今日も、午後から王都で待ち合わせをしていたはずだったが予定が変わったのかと聞くディーサ。
「さぁな…荷物は最小限で行けよ。
…元気でな、ディーサ。」
「はーい、お父様!
今日はね、この服に合うアクセサリーを贈ってくれるらしいのよ?楽しみだわ!いってきまーす!」
一昨日貰った白いワンピースを着ていたディーサは裾を翻してパタパタと駆けながらそう言って玄関へと急いでいった。
それを横目にトルンロース侯爵は大きくため息を吐く。それを見て、壁際に控えていた妙齢の執事が労うように声を掛ける。
「当主様、最後の挨拶はあれでよろしかったのですか?」
「よい。わざわざ真実を全て話さずとも、行けば自分の肌で理解出来るだろう。幸せな気分のまま、旅立たせてやろう。
…どうしてこうなってしまったのか。」
そう言って、目の端に映る今朝方届いた一通の仰々しい封蝋のついた手紙を見遣る。
「昔は笑顔振り撒く可愛い娘だった。よそ様に迷惑を掛ける子ではなかったんだが、いつからそうなってしまったんだろうな…」
「当主様…」
主従関係にある二人の目には涙が溜まったまま、暫く口を開く事はなかった。
☆★
迎えにきた馬車に、御者が何か言っていたような気がするがそれに脇目も振らず嬉々として乗り込んだディーサは、ビリエルの戸惑ったような顔に声を掛けた。今日は、昨日一昨日とは明らかに異なる随分と地味な色の服装だったのだ。
「どうしたの?ビリエル様。」
「どうしたのって…何も聞いて無いのか?」
昨日までとは打って変わって、ぶっきら棒な口調ではあったが打ち解けてきた証拠なのだとディーサはさして気にもせずに隣に座った。
「え?…あ、聞いたわ!私達、結婚するのよね?お父様から聞いたの!
ビリエル様、いつの間にお父様に伝えてくれたの?ありがとう!!」
「いや…ディーサと結婚は嬉しいけど、どうやらエーレブルー国を出て帝国で暮らすみたいだ。」
「帝国!?え?ビリエル様行った事あるの?どんなところなのかしら?」
「無いよ!
騎士道学校で習った内容は、大きな国っていうのと、言葉は通じるって事位だったし。
それにさ、僕達二人で暮らせって…」
「まぁ!…え?でもどういう事?侯爵家は…?」
「知らないよ!
今日だって、いきなり馬車がタウンハウスに来て、服も汚れるからって一番質素なのに着替えてこいって言われたし、ついたら説明するから乗れって…」
「誰に?」
「外に居る御者だよ!
運転中は気が散るから話せないから、ついてから説明するってさ!!」
御者とは、馬車を操る者。今ビリエルとディーサが居る座席の部分ではなく、この箱型の馬車の外側前方で馬の手綱を持ち操縦する者であり、中からでは話し掛け難い。そちら側に小窓が付いているので、そちらを開けて話し掛ければ話が出来そうではあるが、窓を開ければカポカポと馬の足音が響き会話が出来るのか不明である。
「そうなの…ついてからって王都に…?」
「いや、どうだろ…多分、逆方向に進んでる気がする。」
「じゃあ、どこへ向かってるの…?」
「分からない。まさか、そのまま帝国ではないよな?」
「まさか!?…今日中にたどり着けるの?」
「いや…一週間は余裕で掛かるだろう。」
「そんな、まさか…」
答えの出ない話を、二人はしていた。
☆★
五時間ほど走り、日が暮れて来た頃に漸く比較的小さな町の宿屋で馬車は止まった。
すると、すぐにビリエルは御者に詰め寄った。
「おい!何処まで行く気だ!?誰に頼まれたんだ!?」
道中は思いのほか長く、始めはビリエルもディーサも困惑して答えの出ない話をしていたがそれでは状況が読めないと悟り、お互いの聞いた情報を照らし合わせ、馬車が止まったら御者に聞く内容を精査していたのだ。
「フン…ここがどこかお分かりです?」
しかし御者は鼻で軽く笑うと、嘲笑うかのように質問で返した。
「はあ?…どこって、どこだよ!?」
「まぁ、王都から五時間ほど離れた町って事ですね。つまり、歩いて王都まで戻るにはかなり時間のかかる場所。
私は貴女方お二人を無事に目的地にお届けするようにと言付けられました。
しかし、もし、それを拒否されるようであればそれも結構。
自力で帰られますか?どうぞご自由に。ただのビリエルさんとディーサさん。」
と、そう簡単に説明した御者は、馬車を宿屋の隣の馬宿に預けるとさっさと宿屋へと入っていこうとする。
「お、おい!まだ話は終わっちゃいねぇよ!」
「話?話をしたいのであればどうか落ち着いて。ギャンギャンと負け犬の遠吠えのように吠えられると、頭に響くんですよ。
馬車を走らせるのも大変なんです。はぁ疲れたー。」
と、肩を回しながら進もうとする。
「ちょ…お待ちになって!」
「なんです?ディーサさん。」
「目的地って?今日はここに泊まれって事?」
「まぁ、私に従って下さるのならそういう事です。まだまだ掛かりますからね。
正しくは私では無く、私もある方から命令されたまで。逆らうのであればどうぞご自由に。ただし、国家反逆罪という罪名があなた方にもれなく付きますがね。」
「国家反逆罪!?」
「!?
えっと、いろいろと聞きたいのだけど、まず私達お金は持ってないのよ。ビリエル様もそう言っていたわ。あなた、払って下さるの?」
「まぁ、私の言う事に従っていただければもちろん支払いますよ。そのお金は、あなた方のご家族様からたんまり頂いてます。最後の餞らしいですし。」
「どういう事?」
「質問ばかりですね…何も聞いておられないのですか?
はぁ…。私も詳しくは存じ上げませんが、お二人共何かやらかしたんでしょう?そんな方々に国から出すお金は無いという事です。けれどそれでは道中馬車内で野宿となりますし、食事も必要で、そのあたりの費用はあなた方のご家族が持つ、とお聞きしましたよ。
ご夫婦と聞いてますが、最後の慈悲で、お二人一緒に帝国に送られるとか。良かったですね、離れ離れではなくて。」
「…なに?」
「え…?」
ビリエルとディーサは顔を見合わせる。二人とも、何かやらかしたとは全く思ってもいないため、人違いではないかと思ったほどだ。しかし、先ほど呼ばれた名前は確かに二人のもの。
「質問は終わりですね。私も疲れましたので早く宿で休みたいので行きますよ。
で?どうされるんです?ただのビリエルさんとディーサさん。ご自分で帰りますか?泊まりますか?」
「…帰るにも金がないし、国家反逆罪がかけられるのであれば、とりあえず泊まろう。」
「…そうね。お腹も空いたし…」
「さようで。
ではまず、大きな声で話すのは止めて下さいね?さぁ行きましょう。」
そう言って、やっと休めると御者は宿屋へと入って行った。
☆★☆★
☆★
「さぁ、つきましたよ。」
「やっと…」
「ここが…」
あれから十日。
今まで泊まった事もない、部屋の壁がひどく近い小さな宿屋に泊まったビリエルとディーサ。それに加えて食事も今まで食べてきた物とは質も量もなにもかも違って戸惑う事ばかりであったが、それは馬車旅だったからだと二人は結論付け、辿り着いた先では今まで通り貴族らしい豪勢な場所で食事もできるのだろうとホッと息を吐いた。
が。
馬車から降りた正面には、岩肌がゴツゴツとしている山が連なっており、周りは身長ほど大きく伸びた草や木で生い茂っていて道もよく分からない。自然豊かといえばそうであるが、無造作に手入れも行き届いていない場所で鬱蒼としているため、薄気味悪くさえあった。
「どこだ?ここ」
「え?ちょっと…」
「さぁ、行って下さい。そちらの作業場に声を掛けて下されば、説明がありますから。では。」
そう言うと、反論も待たずに元来た道を戻ってしまった。
「おい!待てよ!」
「あ、ちょっと置いてかないで!」
そうは言ったが、御者には聞こえていないのか振り向きもせず行ってしまった。
220
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました
ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」
王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。
誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。
「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」
笑い声が響く。
取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。
胸が痛んだ。
けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる