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21 レイグラーフ家でのひと時
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馬車はそれ程時間も掛からずにレイグラーフ家へと辿り着いた。
「来たわよ-!」
カリーネが普段のようにそう言って玄関ホールを入ると、執事が出迎えてくれ応接室へと案内された。
紅茶を用意されて飲んでいると、ほどなくしてデシレアとイクセルが入って来たため、アウロラとシーグルドは慌てて立ち上がり会釈をする。カリーネは、飲んでいた紅茶のカップを置き、そちらを見遣った。
「いらっしゃい。三人ともゆっくりしていってね。」
「アウロラ、どうなったんだ?話しなさい。」
デシレアの言葉に、嬉しそうなカリーネだったがイクセルの言葉に口を尖らせる。
「お父様っては本当せっかちよね!」
「ん?なにがだ?
あぁ、そうだ。デシレアとカリーネは昨日の歌劇の話を談話室で話してくるといい。カロラも異国の歌劇に興味があると言っていたから、聞かせてやりなさい。」
「まぁ、いいの?」
「そうなのね!お母様、そうしましょ?アウロラ、あなた、ちょっと行ってくるわね!」
カリーネは立ち上がり母デシレアへと駆け寄ると、嬉々として二人出て行く。それを見送ったイクセルは、再びアウロラとシーグルドの方を見て座るよう促すと、会話を続けた。
「あの二人は、本当にそっくりだ。
アウロラ。ランナル殿と会っていたが、どうなったんだ?」
再度詰問のように問われ、ドキリとしたアウロラはしかしどうなった、とはっきり自分でも分からず首を傾げながら言葉を濁す。
「どうかなったわけでは…分かりませんが、まずお伝えします。ビリエル様にはどうやら気に入った女性が出来たようで、そちらとはそれで終わったと思います。」
「あぁ、それか。忘れとったわ。ふん、いけ好かん。落ちぶれたもんだ。
それで、どうもなっとらん、のか?」
そっちは興味がなかったと苦い顔をしたが、すぐに表情を戻し急かすように聞き返す。
「ええっと。
昨日は、ランナル様とそのお母様のエメリ様と、ランナル様の妹のクリスティーン様と夕食をご一緒させていただきました。」
ゆっくり思い出すように回答をするアウロラ。ランナルの名前を出す度に少し胸がドキリと騒ぐので、顔が赤くならないように意識をしながら。
「なるほどな。で、次の約束は?」
「特にはしておりません。」
そう。また、誘っていい?とは聞かれたが、具体的には言われなかった。だからそれが単なる社交辞令なのかはアウロラには分からず不安だった。
ホテルを去ったため、偶然会う、という事もなくなってしまった。きっかけを作るためこちらから手紙を書こうか、それははしたない事なのか、アウロラにはよくわからない。
だが分かった事は、今朝エメリに会ったとき、ランナルはたいていラウンジにいるからと言っていたのに今朝は姿が見えなかった理由が分かり少しホッとした事。
「なんだ、そうだったのかあの若造は…。
まぁ、そんなに暗い顔をせずとも不安になる事は無い。
せっかくだから今日はゆっくりして行きなさい。クリストフが会えずに残念がっていたよ。」
「よろしいのですか?」
「アウロラがよければいつまでも泊まればいい。だが、実際はそう長くはならんだろうて。
シーグルドも、昨日の事で心したかもしれんが、淋しくなるのう。」
と、意味深にシーグルドへ伝えるイクセルは、珍しく笑いながらアウロラへと再度語り掛けた。
「アウロラ。カルロッテの我が儘から始まりはしたが、私は孫のカルロッテだけでなくお前にもそれなりの教育は受けさせたつもりだ。それは幼かったアウロラにとって辛かったかもしれんが、しっかりと役に立ったな。あの侯爵家であれば、不足は無いわ。」
「え…」
アウロラは厳格だった祖父にそう言われ、戸惑いながら呟く。
「ま、我らがいろいろとお節介しても良くないだろうから、この話はここまでとしよう。
カルロッテが嫁いでからはアウロラ、なかなかここに寄り付かなかっただろう?ほれ、せっかくだから今までの話をしようじゃないか。」
と、イクセルが目を細めて言った。
☆★
三十分ほど話していると、俄に外が騒がしくなりほどなくしてこの応接室の扉が叩かれた。
「クリストフです。入ってもよろしいですか?」
「なんだ、ずいぶんと早いな。入りなさい。」
イクセルがそう許可をすると、アウロラの従兄弟のクリストフと、その後ろにランナルが入ってきた。
「お祖父さま、お客様をお連れしましたが良かったですか?」
「どうした?アウロラが喜ぶからいいだろう。いい仕事をしたな、クリストフ。」
やはり普段怒ったように見える顔も、口角が上がり若干ではあるが微笑みながらイクセルは言った。
「ありがとうございます。
改めまして、皆さんご存じだとは思いますがランナル=ステンホルム殿をお連れしました。」
「ランナル=ステンホルムです。クリストフ殿に王宮でお会いしまして、急ではございますがお邪魔させて頂いております。」
「そうか、よろしく頼む。
しかしクリストフ、仕事はよかったのか?」
「はい、メルクル王子殿下には許可を頂いて、少し抜けさせて頂きました。」
「ほう。
ランナル殿、何か用があって来たのか?」
「はい。
イクセル様と共にシーグルド様がいらっしゃいますので、お二人合わせてご挨拶させていただいても宜しいでしょうか?」
「挨拶だと?だ、そうだぞシーグルド。」
「は、はい…。
ランナル殿、こちらこそこの場を借りて、一言。毎年美味しい林檎を送っていただき、感謝申し上げる。」
シーグルドは何を言われるかだいたいの予想はついているが、だからこそ緊張しまずはと礼を述べた。
「いえ、こちらこそステンホルムを助けて頂いた折はとても助かりました故、ささやかではありますが御礼で有ります。
…今、貴重な時間を頂けた事、感謝致します。
私ランナル=ステンホルムは、そちらにいらっしゃるアウロラ=フランソン様と、結婚させて頂きたいと思っております。どうか、お許し頂けませんでしょうか。」
と、未だソファに座らず立ち話をしていたランナルはそこで頭を腰の辺りまで下げた。アウロラはいきなりの事で息が止まるような思いがしたが、ジワジワと言われた言葉を反芻し顔に熱が集まるのを感じた。
「うむ、良い心掛けだ。なぁシーグルド?ランナル殿、私から言う事はただ一言、アウロラをどうか大切にして欲しいという願いのみ。
あとは、シーグルド、返事をしてやりなさい。」
「はい。
私も、ランナル殿であればアウロラを慈しんで接してくれると信じています。
アウロラ、彼はとても誠実だからね。安心するといいよ。
ランナル殿、結婚はアウロラの気持ちが最優先だと考えていたんだがね、顔を見れば答えが出ているようだ。娘をどうぞ、宜しくお願いします。」
「あ、ありがとう存じます!!」
緊張していたランナルは再び頭を下げる。
それを隣で見ていたクリストフは、ランナルに言葉を掛けた。
「良かったな、ランナル殿。
じゃあアウロラを借りてランナル殿と行ってもいいですか?」
「そうだな、固まっておるアウロラを連れてっておやり。
談話室は、デシレア達が使っているから庭園に行くといい。」
と、イクセルが頷きながら言葉を繋ぎ、クリストフはランナルの肩を叩くとアウロラにおいで、と声を掛け部屋を共に出たのだった。
☆★
「アウロラ、久し振りだね。暫く見ない内に綺麗になったなぁ。」
庭園までの道すがら、クリストフはあんなに小さかったのになぁと懐かしんでいる。
「ありがとうございます。クリストフ兄さまも、ずいぶん変わりましたね。」
「フフ、そうかい?まぁなかなか会って無かったもんね。」
「はい…あの、クリストフ兄さまとランナル様はお知り合いだったのですか?」
「いや?まぁ、お互いきっと認識はしていただろうけどね。僕は二十四だし、ランナル殿は…幾つだっけ?」
「二十歳です。」
「そうか。
だから、騎士道学校でもそんなに接点は無かったもんね。
だけど、今朝出勤したら偶然にもランナル殿を見掛けたんだ。これは話す機会だと、僕が呼び止めてしまったんだよ。だから、こうやって二人で直接話すのは初めてだよね。」
「はい。マックス王子殿下に呼び出されて、ちょうど帰る所だったので。」
「そうでしたか…」
「あぁ、そういえばあの女…ディーラだっけ?ディールだっけ?」
「え?誰です?」
顔を顰めて言うクリストフに、アウロラは誰の事かと首を捻る。
「だから…トルンロース侯爵家の令嬢だよ。」
クリストフの言葉に、あぁ、と言葉を繋いだのはランナル。
「ディーサ嬢、ですか。」
「へぇ…そんな名前だったっけ?多分そう。」
「あの方、クリストフ兄さまご存じなの?」
「あぁ。年齢が近いし、一応彼女侯爵家だろう?一度、社交の場で会った時に出掛ける約束をしたんだ。」
「!?」
「ええ?そうだったんですか!?」
「そりゃあね。でも…僕にも、この家にも合わなかったからそれっきりだったけど。
アウロラも、あんな女に絡まれたんだろう?大変だったね。」
「ええ、まぁ…」
自分の事より、従兄弟がディーサを誘ったという話が驚き過ぎて、あまり話が入ってこないアウロラに、クリストフは釘を刺す。
「あー勘違いしないで?
どんな女性かって知るには二人で合った方が分かると思ったからだよ?まぁでも、一言二言話すだけで生理的に無理ってあるじゃん?それだったんだよね。」
当時の事を思い出したのか、眉を寄せ肩を竦めてそう話すと、目の前に庭園の四阿が見えてきたので一旦そこに座ろうとクリストフが話題を変えた。
「ここに来るまでの馬車の中でも話したけど、せっかく知り合えたしゆっくりランナル殿とも話したかったんだけどね。」
とそう切り出したクリストフは、しかし従姉妹のためだと今日はアウロラに譲ると言った。
「アウロラとも、話したかったけどね。僕、これでも今はメルクル王子殿下の側近だから、今日は仕事に戻るよ。だからあとは二人で話しなよ。
あ、結婚、認めてもらえて良かったね。アウロラ、幸せになるんだよ?ランナル殿、宜しくお願いします。」
そう言って、席に座ったと思ったのにすぐに立つクリストフは、一応、使用人を近くに配置させるからと屋敷へと戻って行った。
「いい方だね。」
先に口を開いたのは、ランナル。
「はい。優しい、もう一人の兄って感じの方です。」
と、クリストフの印象を話すアウロラ。それに一つ頷くと、ランナルもまた席から立ち上がりアウロラの前へと跪いた。
「!」
「アウロラ=フランソン様。私、ランナル=ステンホルムの、妻になっては頂けませんか。」
飾り気の無い、率直な言葉はアウロラの胸にストンと入り込み、みるみる内に目頭を熱くさせた。
「あぁ、どうか泣かないで。
いや…悲しみの涙も、苦しみの涙も全て受け止めるから、結婚しよう?」
「…はい。」
「良かった!」
そう言って、ランナルは腰を上げアウロラを抱き締めようと体に触れようとした所で踏みとどまり、苦悶の表情を浮かべた後、アウロラの隣に座った。
「ごめん。抱き締めたかったけど、まだ早いって怒られるかもしれないね。
だからせめて…」
そう言って、アウロラの手をゆっくりと握り言葉を繋いだ。
「アウロラ嬢…いや、アウロラって呼んでもいいかな?」
「はい、ランナル様。」
「ありがとう。じゃあ俺の事も、ランナルって呼んでくれるといいな。」
「!
ラ、ランナル?」
「~~~!!
ありがとう。
アウロラと一緒にいると、なんだか温かい気持ちになるんだ。」
「…私も。」
「本当?嬉しいなあ。
次はいつ会おうか。昨日、会う約束をしていなかったとずっと後悔していたんだよ。
そしたら、クリストフ殿が声を掛けてくれて、アウロラの事を聞かれてね。心配していたんだろうね。俺は結婚を申し込みたいって答えたら、じゃあ家に一緒に行こうと言って下さったから、ありがたかったんだ。」
「そうだったのね。ランナルさ…ランナル、夢みたい。」
「夢じゃないよ、現実だからね。ほら、温かいだろう?」
そう言って、しばらく手を握り合いお互いの体温を確かめながら、他愛もない事を話していた。
「来たわよ-!」
カリーネが普段のようにそう言って玄関ホールを入ると、執事が出迎えてくれ応接室へと案内された。
紅茶を用意されて飲んでいると、ほどなくしてデシレアとイクセルが入って来たため、アウロラとシーグルドは慌てて立ち上がり会釈をする。カリーネは、飲んでいた紅茶のカップを置き、そちらを見遣った。
「いらっしゃい。三人ともゆっくりしていってね。」
「アウロラ、どうなったんだ?話しなさい。」
デシレアの言葉に、嬉しそうなカリーネだったがイクセルの言葉に口を尖らせる。
「お父様っては本当せっかちよね!」
「ん?なにがだ?
あぁ、そうだ。デシレアとカリーネは昨日の歌劇の話を談話室で話してくるといい。カロラも異国の歌劇に興味があると言っていたから、聞かせてやりなさい。」
「まぁ、いいの?」
「そうなのね!お母様、そうしましょ?アウロラ、あなた、ちょっと行ってくるわね!」
カリーネは立ち上がり母デシレアへと駆け寄ると、嬉々として二人出て行く。それを見送ったイクセルは、再びアウロラとシーグルドの方を見て座るよう促すと、会話を続けた。
「あの二人は、本当にそっくりだ。
アウロラ。ランナル殿と会っていたが、どうなったんだ?」
再度詰問のように問われ、ドキリとしたアウロラはしかしどうなった、とはっきり自分でも分からず首を傾げながら言葉を濁す。
「どうかなったわけでは…分かりませんが、まずお伝えします。ビリエル様にはどうやら気に入った女性が出来たようで、そちらとはそれで終わったと思います。」
「あぁ、それか。忘れとったわ。ふん、いけ好かん。落ちぶれたもんだ。
それで、どうもなっとらん、のか?」
そっちは興味がなかったと苦い顔をしたが、すぐに表情を戻し急かすように聞き返す。
「ええっと。
昨日は、ランナル様とそのお母様のエメリ様と、ランナル様の妹のクリスティーン様と夕食をご一緒させていただきました。」
ゆっくり思い出すように回答をするアウロラ。ランナルの名前を出す度に少し胸がドキリと騒ぐので、顔が赤くならないように意識をしながら。
「なるほどな。で、次の約束は?」
「特にはしておりません。」
そう。また、誘っていい?とは聞かれたが、具体的には言われなかった。だからそれが単なる社交辞令なのかはアウロラには分からず不安だった。
ホテルを去ったため、偶然会う、という事もなくなってしまった。きっかけを作るためこちらから手紙を書こうか、それははしたない事なのか、アウロラにはよくわからない。
だが分かった事は、今朝エメリに会ったとき、ランナルはたいていラウンジにいるからと言っていたのに今朝は姿が見えなかった理由が分かり少しホッとした事。
「なんだ、そうだったのかあの若造は…。
まぁ、そんなに暗い顔をせずとも不安になる事は無い。
せっかくだから今日はゆっくりして行きなさい。クリストフが会えずに残念がっていたよ。」
「よろしいのですか?」
「アウロラがよければいつまでも泊まればいい。だが、実際はそう長くはならんだろうて。
シーグルドも、昨日の事で心したかもしれんが、淋しくなるのう。」
と、意味深にシーグルドへ伝えるイクセルは、珍しく笑いながらアウロラへと再度語り掛けた。
「アウロラ。カルロッテの我が儘から始まりはしたが、私は孫のカルロッテだけでなくお前にもそれなりの教育は受けさせたつもりだ。それは幼かったアウロラにとって辛かったかもしれんが、しっかりと役に立ったな。あの侯爵家であれば、不足は無いわ。」
「え…」
アウロラは厳格だった祖父にそう言われ、戸惑いながら呟く。
「ま、我らがいろいろとお節介しても良くないだろうから、この話はここまでとしよう。
カルロッテが嫁いでからはアウロラ、なかなかここに寄り付かなかっただろう?ほれ、せっかくだから今までの話をしようじゃないか。」
と、イクセルが目を細めて言った。
☆★
三十分ほど話していると、俄に外が騒がしくなりほどなくしてこの応接室の扉が叩かれた。
「クリストフです。入ってもよろしいですか?」
「なんだ、ずいぶんと早いな。入りなさい。」
イクセルがそう許可をすると、アウロラの従兄弟のクリストフと、その後ろにランナルが入ってきた。
「お祖父さま、お客様をお連れしましたが良かったですか?」
「どうした?アウロラが喜ぶからいいだろう。いい仕事をしたな、クリストフ。」
やはり普段怒ったように見える顔も、口角が上がり若干ではあるが微笑みながらイクセルは言った。
「ありがとうございます。
改めまして、皆さんご存じだとは思いますがランナル=ステンホルム殿をお連れしました。」
「ランナル=ステンホルムです。クリストフ殿に王宮でお会いしまして、急ではございますがお邪魔させて頂いております。」
「そうか、よろしく頼む。
しかしクリストフ、仕事はよかったのか?」
「はい、メルクル王子殿下には許可を頂いて、少し抜けさせて頂きました。」
「ほう。
ランナル殿、何か用があって来たのか?」
「はい。
イクセル様と共にシーグルド様がいらっしゃいますので、お二人合わせてご挨拶させていただいても宜しいでしょうか?」
「挨拶だと?だ、そうだぞシーグルド。」
「は、はい…。
ランナル殿、こちらこそこの場を借りて、一言。毎年美味しい林檎を送っていただき、感謝申し上げる。」
シーグルドは何を言われるかだいたいの予想はついているが、だからこそ緊張しまずはと礼を述べた。
「いえ、こちらこそステンホルムを助けて頂いた折はとても助かりました故、ささやかではありますが御礼で有ります。
…今、貴重な時間を頂けた事、感謝致します。
私ランナル=ステンホルムは、そちらにいらっしゃるアウロラ=フランソン様と、結婚させて頂きたいと思っております。どうか、お許し頂けませんでしょうか。」
と、未だソファに座らず立ち話をしていたランナルはそこで頭を腰の辺りまで下げた。アウロラはいきなりの事で息が止まるような思いがしたが、ジワジワと言われた言葉を反芻し顔に熱が集まるのを感じた。
「うむ、良い心掛けだ。なぁシーグルド?ランナル殿、私から言う事はただ一言、アウロラをどうか大切にして欲しいという願いのみ。
あとは、シーグルド、返事をしてやりなさい。」
「はい。
私も、ランナル殿であればアウロラを慈しんで接してくれると信じています。
アウロラ、彼はとても誠実だからね。安心するといいよ。
ランナル殿、結婚はアウロラの気持ちが最優先だと考えていたんだがね、顔を見れば答えが出ているようだ。娘をどうぞ、宜しくお願いします。」
「あ、ありがとう存じます!!」
緊張していたランナルは再び頭を下げる。
それを隣で見ていたクリストフは、ランナルに言葉を掛けた。
「良かったな、ランナル殿。
じゃあアウロラを借りてランナル殿と行ってもいいですか?」
「そうだな、固まっておるアウロラを連れてっておやり。
談話室は、デシレア達が使っているから庭園に行くといい。」
と、イクセルが頷きながら言葉を繋ぎ、クリストフはランナルの肩を叩くとアウロラにおいで、と声を掛け部屋を共に出たのだった。
☆★
「アウロラ、久し振りだね。暫く見ない内に綺麗になったなぁ。」
庭園までの道すがら、クリストフはあんなに小さかったのになぁと懐かしんでいる。
「ありがとうございます。クリストフ兄さまも、ずいぶん変わりましたね。」
「フフ、そうかい?まぁなかなか会って無かったもんね。」
「はい…あの、クリストフ兄さまとランナル様はお知り合いだったのですか?」
「いや?まぁ、お互いきっと認識はしていただろうけどね。僕は二十四だし、ランナル殿は…幾つだっけ?」
「二十歳です。」
「そうか。
だから、騎士道学校でもそんなに接点は無かったもんね。
だけど、今朝出勤したら偶然にもランナル殿を見掛けたんだ。これは話す機会だと、僕が呼び止めてしまったんだよ。だから、こうやって二人で直接話すのは初めてだよね。」
「はい。マックス王子殿下に呼び出されて、ちょうど帰る所だったので。」
「そうでしたか…」
「あぁ、そういえばあの女…ディーラだっけ?ディールだっけ?」
「え?誰です?」
顔を顰めて言うクリストフに、アウロラは誰の事かと首を捻る。
「だから…トルンロース侯爵家の令嬢だよ。」
クリストフの言葉に、あぁ、と言葉を繋いだのはランナル。
「ディーサ嬢、ですか。」
「へぇ…そんな名前だったっけ?多分そう。」
「あの方、クリストフ兄さまご存じなの?」
「あぁ。年齢が近いし、一応彼女侯爵家だろう?一度、社交の場で会った時に出掛ける約束をしたんだ。」
「!?」
「ええ?そうだったんですか!?」
「そりゃあね。でも…僕にも、この家にも合わなかったからそれっきりだったけど。
アウロラも、あんな女に絡まれたんだろう?大変だったね。」
「ええ、まぁ…」
自分の事より、従兄弟がディーサを誘ったという話が驚き過ぎて、あまり話が入ってこないアウロラに、クリストフは釘を刺す。
「あー勘違いしないで?
どんな女性かって知るには二人で合った方が分かると思ったからだよ?まぁでも、一言二言話すだけで生理的に無理ってあるじゃん?それだったんだよね。」
当時の事を思い出したのか、眉を寄せ肩を竦めてそう話すと、目の前に庭園の四阿が見えてきたので一旦そこに座ろうとクリストフが話題を変えた。
「ここに来るまでの馬車の中でも話したけど、せっかく知り合えたしゆっくりランナル殿とも話したかったんだけどね。」
とそう切り出したクリストフは、しかし従姉妹のためだと今日はアウロラに譲ると言った。
「アウロラとも、話したかったけどね。僕、これでも今はメルクル王子殿下の側近だから、今日は仕事に戻るよ。だからあとは二人で話しなよ。
あ、結婚、認めてもらえて良かったね。アウロラ、幸せになるんだよ?ランナル殿、宜しくお願いします。」
そう言って、席に座ったと思ったのにすぐに立つクリストフは、一応、使用人を近くに配置させるからと屋敷へと戻って行った。
「いい方だね。」
先に口を開いたのは、ランナル。
「はい。優しい、もう一人の兄って感じの方です。」
と、クリストフの印象を話すアウロラ。それに一つ頷くと、ランナルもまた席から立ち上がりアウロラの前へと跪いた。
「!」
「アウロラ=フランソン様。私、ランナル=ステンホルムの、妻になっては頂けませんか。」
飾り気の無い、率直な言葉はアウロラの胸にストンと入り込み、みるみる内に目頭を熱くさせた。
「あぁ、どうか泣かないで。
いや…悲しみの涙も、苦しみの涙も全て受け止めるから、結婚しよう?」
「…はい。」
「良かった!」
そう言って、ランナルは腰を上げアウロラを抱き締めようと体に触れようとした所で踏みとどまり、苦悶の表情を浮かべた後、アウロラの隣に座った。
「ごめん。抱き締めたかったけど、まだ早いって怒られるかもしれないね。
だからせめて…」
そう言って、アウロラの手をゆっくりと握り言葉を繋いだ。
「アウロラ嬢…いや、アウロラって呼んでもいいかな?」
「はい、ランナル様。」
「ありがとう。じゃあ俺の事も、ランナルって呼んでくれるといいな。」
「!
ラ、ランナル?」
「~~~!!
ありがとう。
アウロラと一緒にいると、なんだか温かい気持ちになるんだ。」
「…私も。」
「本当?嬉しいなあ。
次はいつ会おうか。昨日、会う約束をしていなかったとずっと後悔していたんだよ。
そしたら、クリストフ殿が声を掛けてくれて、アウロラの事を聞かれてね。心配していたんだろうね。俺は結婚を申し込みたいって答えたら、じゃあ家に一緒に行こうと言って下さったから、ありがたかったんだ。」
「そうだったのね。ランナルさ…ランナル、夢みたい。」
「夢じゃないよ、現実だからね。ほら、温かいだろう?」
そう言って、しばらく手を握り合いお互いの体温を確かめながら、他愛もない事を話していた。
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