25 / 26
25 挨拶
しおりを挟む
颯爽と駆けてきたアウロラとランナルは、見えて来た景色に手綱を引き、馬の速さを緩ませた。
「アウロラ、とても上手だったね。
さすが名馬を量産しているフランソン領で育っただけの事はあるな。いや、アウロラの努力の賜物か。」
「ふふ、ありがとう!一緒に走ってくれて、とっても楽しかったわ。」
ランナルは、アウロラが走る間一定の距離をきちんと取ってくれていた。隣で並んで走る時もあれば、アウロラが速さを上げると、一定の距離を開けて離れないようについて来てくれていた。きっと、本当はアウロラよりもかなり巧いのだろうと、アウロラは感じていた。
アウロラは大きくなり、一人で領地を走る事が多かった為、誰かと一緒に走る事がこんなに楽しいのだと改めて知ったのだった。
視線の先にはアウロラの生まれ育った屋敷があり、カポカポとそこからはゆったり馬を歩かせながら隣に並んで進んで行く。周りには、広大な草原とその周囲には木で柵が作られ馬が放されていた。
「ここが、アウロラの生まれ育った場所なんだね。」
「ええ。あれが、うちよ。」
乗ってきた二頭の馬を屋敷の敷地内の厩に預け、屋敷へと入り、ランナルを応接室へと案内した。すると程なくして屋敷にいたボルイと、昨日シーグルドと共に帰ってきたスティーグが入ってきた。シーグルドはすでに仕事へと、王宮に行ったのだと思われた。
それを見て、ランナルは立ち上がり口を開いた。
「いきなり訪ねてきてしまったのに、挨拶をする機会を与えてくれてありがとう。
私はランナル=ステンホルム。この度アウロラ嬢と結婚をさせて頂く事となり、お邪魔させて頂きました。」
ランナルよりも年下である二人に、きちんと挨拶をしてくれたとアウロラはなんだか心が温かくなりつつ、見守っている。
「いいえ!こちらこそ、我が領地までご足労頂き、感謝申し上げます。
私はアウロラの兄、スティーグ、そしてこちらが弟のボルイと申します。
どうぞおかけ下さい。」
スティーグがそう言いボルイもペコリとお辞儀をすると、ランナルもまたお辞儀を返してから座った。
「お兄様、来てくれてありがとう。」
一度寮へと帰ったのに、また来てくれた事に対してお礼を述べるアウロラに、スティーグは真面目な顔をして返す。
「アウロラの相手が決まったと聞き、しかも屋敷に来てくれると聞いて帰って来ないわけないよ。
しかしランナル様、アウロラで良かったのですか?」
「勿論です。アウロラ嬢でなければ結婚なんて考えませんでした。
スティーグ殿、いえ義兄上。
私からもお会い出来た事、感謝申し上げます。」
「あ、兄上だなんて!ランナル様のが年上なのですから!」
「いえ、アウロラ嬢の兄上なのですから。」
「お、お止め下さい!緊張します!」
普段の兄とは違う一面を見て、アウロラはプッと吹き出すとスティーグにすぐ睨まれた。
それを見たランナルはフッと息を吐くと、ではこうしましょう、と妥協案を出した。
「私の事も、様と付けないで頂けるのであれば、恐れ多くもスティーグ殿、と呼ばせて頂いても宜しいですか?」
「あ…ありがとう御座います。承知しました。
ではランナル殿、と呼ばせて頂いても…?」
「勿論です。
それから…お許し頂けるのであれば、親族となるわけですからもう少し砕けてお話頂けると幸いです。」
「え!ゆ、許すもなにも…アウロラが決めたんだよな?」
スティーグはそう言われ、アウロラへと視線を向け確認する。
昨日受け取った二通の手紙には、『私(シーグルド)の昔の学友からの打診で王都で顔合わせしたんだが、その人物とは違う、ランナル=ステンホルム侯爵とアウロラが結婚する事となった』『半年後に結婚する。その前にフランソン領に来たいそうだ。スティーグも帰って来れるのであれば、帰って来て欲しい』と簡潔に書かれていた。そして昨日の馬車の中で、シーグルドから大体の経緯を聞いた。
顔合わせをする為に王都に来ていたのも知らなかったし、結婚に興味も無さそうだった妹がいきなり半年後に結婚をすると知りスティーグは強引に話が進んだのかと気を揉んでいたが、今日のアウロラとランナルの姿を見てどうやら違うとは思うが、と確認をしたかったのだ。
「ええ、勿論よ。
あ、お兄様…そういえばランナルは、あの弓当て会に参加されていたのよ。」
「え?…ええ!?」
あの弓当て会、と言えばフランソン家では言わずもがな八年前の弓当て会の事だ。それは、スティーグにとってもアウロラになったという恥ずかしい思い出なので、仰け反るほどに驚いた。
「はい。実は、あの時から隣にいたアウロラ嬢が気になっていまして…」
「…隣?」
「私の隣で、出場されていたのよ。」
「あぁ…え、ではアウロラのありのままを?そういえばさっきも、馬の駆けてくる音が聞こえていたな。
…良かったな。」
あの馬の走り方は、馬車のそれではないとスティーグは思い返した。
アウロラの嗜みは多岐に渡る。馬に乗る事や馬の世話だってそうだし、昔は弓だってそうだ。
一般的な貴族の子女であれば刺繍や縫い物が趣味だと言うだろうし、お洒落にだって気を遣うだろうが、アウロラはそれらより、楽しいものがあると言っていた。だからこそ、学友に妹を紹介しろ、と言われても紹介する気にもならなかった。
アウロラが嗜む事に付き合い、しかも慈しむような目でアウロラを見ている。それだけで上辺だけの結婚ではないという事がまざまざと見せつけられたのだ。兄としては複雑ではあるが、妹が幸せになれるなら、と祝福の言葉を述べた。
「ええ、アウロラ嬢は馬の扱いがさすが巧いですね。私も楽しかったです。」
と、ランナルは優しい視線をアウロラに向けている。
「姉上、良かったですね。お幸せに、なって下さい。」
「ふふ。ありがとう。ボルイも。」
アウロラもまた、とても嬉しそうな笑顔をしているので、スティーグもボルイも姉の幸せがいつまでも続くようにと願った。
☆★
「あーんもう少しで僕が勝てたのにー!」
「ランナル、すごい!
ボルイも頑張ったわね。」
「ありがとう。
ボルイ、さっきの手だが、ここに置くんじゃなくて、こちらに置いていたら勝敗は変わっていたかもしれない。」
「えーそうだった?」
「はは!ボルイ、惜しかったな。」
「僕の仇討ち、兄上してくれるんでしょ?」
「え、僕?いやぁ、さすがに勝てないだろ…」
「あら、初めから負ける気なの?お兄様。」
「そうだよ!勝てるかもしれないよ!」
「だ、そうだ。スティーグ殿、お手柔らかにお願いしたい。」
「それはこっちの台詞です!」
ーーー
ーー
自己紹介が終わり雑談をしていた四人だったが、そこから応接室の一角に置かれたボードゲームをする事となり、四人は昼食の時間になるまで競い合い、打ち解けていったのだった。
「アウロラ、とても上手だったね。
さすが名馬を量産しているフランソン領で育っただけの事はあるな。いや、アウロラの努力の賜物か。」
「ふふ、ありがとう!一緒に走ってくれて、とっても楽しかったわ。」
ランナルは、アウロラが走る間一定の距離をきちんと取ってくれていた。隣で並んで走る時もあれば、アウロラが速さを上げると、一定の距離を開けて離れないようについて来てくれていた。きっと、本当はアウロラよりもかなり巧いのだろうと、アウロラは感じていた。
アウロラは大きくなり、一人で領地を走る事が多かった為、誰かと一緒に走る事がこんなに楽しいのだと改めて知ったのだった。
視線の先にはアウロラの生まれ育った屋敷があり、カポカポとそこからはゆったり馬を歩かせながら隣に並んで進んで行く。周りには、広大な草原とその周囲には木で柵が作られ馬が放されていた。
「ここが、アウロラの生まれ育った場所なんだね。」
「ええ。あれが、うちよ。」
乗ってきた二頭の馬を屋敷の敷地内の厩に預け、屋敷へと入り、ランナルを応接室へと案内した。すると程なくして屋敷にいたボルイと、昨日シーグルドと共に帰ってきたスティーグが入ってきた。シーグルドはすでに仕事へと、王宮に行ったのだと思われた。
それを見て、ランナルは立ち上がり口を開いた。
「いきなり訪ねてきてしまったのに、挨拶をする機会を与えてくれてありがとう。
私はランナル=ステンホルム。この度アウロラ嬢と結婚をさせて頂く事となり、お邪魔させて頂きました。」
ランナルよりも年下である二人に、きちんと挨拶をしてくれたとアウロラはなんだか心が温かくなりつつ、見守っている。
「いいえ!こちらこそ、我が領地までご足労頂き、感謝申し上げます。
私はアウロラの兄、スティーグ、そしてこちらが弟のボルイと申します。
どうぞおかけ下さい。」
スティーグがそう言いボルイもペコリとお辞儀をすると、ランナルもまたお辞儀を返してから座った。
「お兄様、来てくれてありがとう。」
一度寮へと帰ったのに、また来てくれた事に対してお礼を述べるアウロラに、スティーグは真面目な顔をして返す。
「アウロラの相手が決まったと聞き、しかも屋敷に来てくれると聞いて帰って来ないわけないよ。
しかしランナル様、アウロラで良かったのですか?」
「勿論です。アウロラ嬢でなければ結婚なんて考えませんでした。
スティーグ殿、いえ義兄上。
私からもお会い出来た事、感謝申し上げます。」
「あ、兄上だなんて!ランナル様のが年上なのですから!」
「いえ、アウロラ嬢の兄上なのですから。」
「お、お止め下さい!緊張します!」
普段の兄とは違う一面を見て、アウロラはプッと吹き出すとスティーグにすぐ睨まれた。
それを見たランナルはフッと息を吐くと、ではこうしましょう、と妥協案を出した。
「私の事も、様と付けないで頂けるのであれば、恐れ多くもスティーグ殿、と呼ばせて頂いても宜しいですか?」
「あ…ありがとう御座います。承知しました。
ではランナル殿、と呼ばせて頂いても…?」
「勿論です。
それから…お許し頂けるのであれば、親族となるわけですからもう少し砕けてお話頂けると幸いです。」
「え!ゆ、許すもなにも…アウロラが決めたんだよな?」
スティーグはそう言われ、アウロラへと視線を向け確認する。
昨日受け取った二通の手紙には、『私(シーグルド)の昔の学友からの打診で王都で顔合わせしたんだが、その人物とは違う、ランナル=ステンホルム侯爵とアウロラが結婚する事となった』『半年後に結婚する。その前にフランソン領に来たいそうだ。スティーグも帰って来れるのであれば、帰って来て欲しい』と簡潔に書かれていた。そして昨日の馬車の中で、シーグルドから大体の経緯を聞いた。
顔合わせをする為に王都に来ていたのも知らなかったし、結婚に興味も無さそうだった妹がいきなり半年後に結婚をすると知りスティーグは強引に話が進んだのかと気を揉んでいたが、今日のアウロラとランナルの姿を見てどうやら違うとは思うが、と確認をしたかったのだ。
「ええ、勿論よ。
あ、お兄様…そういえばランナルは、あの弓当て会に参加されていたのよ。」
「え?…ええ!?」
あの弓当て会、と言えばフランソン家では言わずもがな八年前の弓当て会の事だ。それは、スティーグにとってもアウロラになったという恥ずかしい思い出なので、仰け反るほどに驚いた。
「はい。実は、あの時から隣にいたアウロラ嬢が気になっていまして…」
「…隣?」
「私の隣で、出場されていたのよ。」
「あぁ…え、ではアウロラのありのままを?そういえばさっきも、馬の駆けてくる音が聞こえていたな。
…良かったな。」
あの馬の走り方は、馬車のそれではないとスティーグは思い返した。
アウロラの嗜みは多岐に渡る。馬に乗る事や馬の世話だってそうだし、昔は弓だってそうだ。
一般的な貴族の子女であれば刺繍や縫い物が趣味だと言うだろうし、お洒落にだって気を遣うだろうが、アウロラはそれらより、楽しいものがあると言っていた。だからこそ、学友に妹を紹介しろ、と言われても紹介する気にもならなかった。
アウロラが嗜む事に付き合い、しかも慈しむような目でアウロラを見ている。それだけで上辺だけの結婚ではないという事がまざまざと見せつけられたのだ。兄としては複雑ではあるが、妹が幸せになれるなら、と祝福の言葉を述べた。
「ええ、アウロラ嬢は馬の扱いがさすが巧いですね。私も楽しかったです。」
と、ランナルは優しい視線をアウロラに向けている。
「姉上、良かったですね。お幸せに、なって下さい。」
「ふふ。ありがとう。ボルイも。」
アウロラもまた、とても嬉しそうな笑顔をしているので、スティーグもボルイも姉の幸せがいつまでも続くようにと願った。
☆★
「あーんもう少しで僕が勝てたのにー!」
「ランナル、すごい!
ボルイも頑張ったわね。」
「ありがとう。
ボルイ、さっきの手だが、ここに置くんじゃなくて、こちらに置いていたら勝敗は変わっていたかもしれない。」
「えーそうだった?」
「はは!ボルイ、惜しかったな。」
「僕の仇討ち、兄上してくれるんでしょ?」
「え、僕?いやぁ、さすがに勝てないだろ…」
「あら、初めから負ける気なの?お兄様。」
「そうだよ!勝てるかもしれないよ!」
「だ、そうだ。スティーグ殿、お手柔らかにお願いしたい。」
「それはこっちの台詞です!」
ーーー
ーー
自己紹介が終わり雑談をしていた四人だったが、そこから応接室の一角に置かれたボードゲームをする事となり、四人は昼食の時間になるまで競い合い、打ち解けていったのだった。
210
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました
ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」
王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。
誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。
「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」
笑い声が響く。
取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。
胸が痛んだ。
けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる