【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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7. 怪我

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 そこには副司令官のケヴィンがいて指示を出している。ケヴィンが騎士隊に所属している者達を端に並ばせ、逆の端には辺境伯軍が数人並んでいる。そして中央で騎士隊側から一人ずつ順に辺境伯軍と木製の模擬剣を使って手合わせを行っているようだった。


(ケヴィンお兄さまだわ!)


 エーファは、普段家で見る兄とは違う雰囲気のケヴィンを見つめた。


 とはいえ、辺境伯軍は精鋭の軍人であるためか、本気ではなく、向かってきた騎士の剣を右へ左へと軽くいなしているようだった。何度か騎士が攻めた後、辺境伯軍が騎士に向かって剣を顔や胴に当てるように振りかぶり当たるスレスレで止めるというのを繰り返している。合同練習とは名ばかりの、指導のようなものだった。


「あーくそ!もう少しだったのに!」


 けれども、列の最後だった騎士が手合わせをし、あと少しで当てる事が出来たはずだと地団駄を踏み本気で悔しがっていた。


「あんなんじゃ、当たるわけないじゃない…」


 コリンナが、ブツブツと呟いているのが聞こえ、エーファがそちらを向いた。
 コリンナの顔は鉄仮面を被っているため見えないが、真剣に手合わせを見ている様子で真っ直ぐに広場を見つめていた。


(コリンナも分かるのね。
 私もそう思うわ。あの騎士の人、無駄に大きく動き過ぎよ。)


 エーファも、ケヴィンが学院に通う前ではあるが経験がある。ケヴィンを真似して落ちている枝を持ちそれを剣に見立てて素振りをしたり、遊びでケヴィンと対戦をした事もある。
 もちろん年上であるケヴィンは手加減をしていたし、一度エーファが怪我をしてしまった事がありそれ以来エーファに怪我を負わせるのが怖くて付き合ってくれなくなったが、それでもケヴィンの動きを見ていたエーファは、入りたての騎士見習いであれば見劣りしない腕はある。


「うーん、あいつまだ自分が上手いと思ってんのか…
 ああ失礼。彼はオットマーと言うのですが、まだまだ精神は鍛えられてないようです。」


 と、案内役のライナーまでそんな声を出し、こちら見学者に、相手の技量を見極める事もせず、自分は実力があると錯覚していると溢す。


「あーくそ!!
 …あれ?そいつら、見学っすかー?」


 一番悔しがっていたオットマーが、列へ戻ろうとする途中こちらに気づき何故か大きな声を出す。


「だったらどうした?
 オットマー、あなたは集中して演習をやりなさい!」


 ライナーがそう声を上げると、オットマーは言い返してきた。


「だったら、おれが相手してやりますよ!」

「オットマー、勝手な事を言うな。彼らは今日は見学に来ただけだろう!」


 と、その場をまとめているケヴィンも言ったがそれに構わず尚も声を出す。


「せっかく来てくれたんすよー?体験もきっとしたいと思いますよ、ねぇ見学者君たち?
 大丈夫、手加減してから!」

「おい…」

「なにあれ!?行くわ!!」

「だ、駄目です!!では僕が行きます!」


 辺境伯軍の制服を着た、一番奥にいる背の高い銀髪の人物も思わず口を挟んだが、それに構わずコリンナが立ち上がる。しかしそれはさすがに止めないとと、マルテも立ち上がる。


「マルテは黙って!!
 …だってあいつ、うち辺境伯軍に負けたのが悔しいのよきっと!
 私たちなら勝てるって思って言ってきてるんだわ!」


 と、コリンナは小声でマルテに言う。


「だからって目立つ事をしたらカール様に叱られます!それにここはバッヘム領ではありません!」

「でも!」

「だから僕が行きますから!」

「狡いわ!
 それに、マルテはあんな長い剣苦手でしょ!?」

「確かに僕は接近戦のが得意ですが、今それは関係ありません!」


 小声ではあるが言い合っていると、オットマーから再度声が掛かる。


「おーい、誰からでもいいぞ!それとも、怖いか?ん?大丈夫だって!ほら、そこにある木の剣があるだろう?
 あーなんなら、三人一遍に来ていいぞ!」

「はぁ!?」
「ですから、コリンナ様抑えて!」


 それを横から見ていたエーファも、なんだかいたたまれなくなって立ち上がり二人に声を掛ける。


「私がいくわ。」

「え!?エーファ、大丈夫なの!?」
「えっと…何をするのかご存じですか?」


 コリンナもマルテも、エーファの冷静な言葉に目が点になり勢いも一気になくなる。
 それに一つ頷いたエーファは、距離があるが兄のケヴィンに向かって深く一礼すると、近くに落ちていた枝を拾って、オットマーの方へと歩きだす。
 エーファは、持った事もない模擬剣より、落ちている枝の方が自分にはしっくりくるだろうとそれを剣に見立てようとしたのだ。


(顔は見えていないからばれてはいないでしょうけど…ケヴィン兄さまごめんなさいね、お邪魔します。)


 いきなりの事で皆、ポカンと口を開けたままの者も多かったが、ケヴィンがはっと意識を取り戻すと、今までとは打って変わって優しく再び声を掛ける。


「見学に来てくれた偉大なる志を持った…仮面を被った君、うちの若いのが済まない。いいんだよ、本気にしなくて。」


 それに、首を横に緩く二回ほど振り、オットマーに近づいて向かい合うともう一度ペコリとお辞儀をするエーファ。


「へへん、そうこなくっちゃ!でもよ、そんなちっせー枝でいいのか?あ、模擬剣は重くて持てないってか?じゃあしょうがねぇよなぁ。」

「お前は喋るな!
 …ホントに体験するのか?じゃあ…オットマーは絶対に当てるなよ!今度問題起こしたら減給だけじゃ済まないからな?」


 再度ケヴィンは確認するが、オットマーは軽薄そうに頷き、中央へと位置をずれる。


「へーへー、それくらい分かってますって!ちゃんと手加減しますから!
 じゃあさっさとやろうぜ!」

「構えは…ん?意外にイイな。見学に来るって事はやはり独学でやっていたのかな?君はあいつに本気でやっていいよ。
 …よーい、はじめ!」


 ケヴィンも不安には思ったが、鉄仮面の見学者エーファが枝を片手で軽く構えたのを見て全くの初心者ではないのだろうと感じたために許可をだす。
 大々的に行う見学会の時にも軽く手合わせのような打ち合いはさせる為、まあいいだろうと声を掛ける。


 オットマーとエーファとの一戦が始まる。


 始めに、素振りのような感じで右に左にと振りかぶって切りつけるように見せつけるオットマーは、エーファを煽る。


「どおだ?すげーだろ?おれのこの剣や体に一瞬でも掠める事が出来たら勝ちにしてやるから、かかってこいよ、ほれ、ほれ!」


(模擬剣は重そうだものね。練習用だし、鋭くはないけど重くなければ意味ないもの。
 だけれどそれは私には不利だから、枝で充分。
 ちょっとこの鉄仮面も、見えづらいし動くと重いけど、掠ればいいって言ったし、やってみましょうか。)


 そう言うと、枝を真っ直ぐ正面に持ち両手で構えていた手に力を込める。相手が油断している今が絶好の機会だと素早く動いて終わらすことが妙案だとエーファは気合いを入れた。


「お、構えはまあまあだな!」


 とエーファに向かってオットマーはニヤニヤと嫌な顔を見せる。


(いくわよ!)


 すっとオットマーに進み寄るように動いたかと思えば、正面で構えていた手首をクルリと捻りオットマーの横腹に当たるギリギリでぴたりと止めた。

 勝負アリ、だ。


「すごいわ!」
「そんな…!」


 コリンナとマルテが呟いた。
 が、一瞬なにが起こったか分からないオットマーは、エーファが構えていた枝が見えなくなった事に驚き、枝が自身の横腹のすぐ脇にあるのに気づくと血相を変える。その隙に、こんな一瞬で決着がつくとは思わなかったケヴィンも慌てて口を開いた。


「しょ、勝者、見学の鉄仮面!」


 うおー!!
 パチパチパチパチ

 と響めきと共に拍手が起こった。
 エーファは構えを音もなく下ろし、ペコリと一つお辞儀をするとケヴィンが近づいてくることに恐れてすぐに踵を返し、コリンナとマルテの方へ戻ろうと動いた。
 二、三歩エーファが動いた時に、やっとオットマーが叫ぶ。


「…ざけんな!!」

「?」


 オットマーが、負けるはずないと高をくくっていた相手に皆の前で負かされ恥をかかされたと顔を真っ赤にして模擬剣をブンブンと上下左右にぐるぐると大きく振り回した。そのうちの一打がエーファの仮面にゴツンと当たったため、エーファは何事かと足を止めて振り向いた。
 が、何度もブンブンと辺り構わずオットマーが振り回す模擬剣が今度はエーファの横腹に当たり、エーファは勢いに乗って飛ばされてしまった。


「!!」


 ドサッ

 フワリと宙を舞ったエーファの体は地面に打ちつけられた。鉄仮面を被っていたため、オットマーが後ろで何をしているのかなんて見えなかったため、完全に不意打ちであった。


「え!エーファ!?ちょっと!」


 それを見たコリンナは一気にエーファへと駆け寄る。マルテも、コリンナを追い動く。


「エーファ、だと…?」

「おい、手当てを!」

 その名前にケヴィンがたじろぎ、辺境伯軍の一人がその代わりに声を上げる。


「何をやってる!!?」


 そこに、一際鋭い声が響く。
奥からやってきた同じく青の軍服を着た短い金髪の体格のがっしりとした男性。隣には、同じく金色の髪で少しだけ背の低い煌びやかなオーラを放った同じ年齢くらいの男性を連れている。


「ケヴィン、何があった?またアイツか?」

「あ、ああ…フォルクハルト司令官、すみませんまさか…」

「エーファ、エーファ?」


 エーファの鉄仮面が外れそうになっていたためコリンナはマルテと協力して素早く外し、顔の表情を見ると目を開けないエーファに涙ながらに何度も声を掛ける。

 それに近づいたのは、やって来た辺境伯軍の軍服を着た一際背の高い銀髪の男。
 鉄仮面を未だ被ったコリンナに近づき、大丈夫か?と声を掛けると、コリンナは泣きながら告げる。


「お兄さま、ごめんなさい!お叱りは後で受けるから、エーファを助けて!」

「え?やっぱりコリンナ!?」


 声が似ていると思った一際背の高い男のカールは、驚くと共になぜ妹が鉄仮面をかぶっていた女性といるのかと不思議がる。そしてその隣の顔が白っぽくて髪がボサボサの男が、マルテだと気づいてギョッとするが、手当てが先だと騎士隊の方へと声を掛ける。


「すみませんが、救護所はどちらですか?一旦この子を運びましょう。」


 カールがそう言うと、辺境伯軍の数人はこのような瞬時の判断には手慣れているのか逃げようとするオットマーを素早く動いて捕まえ、低い声で次々と告げる。


「貴様、素人に手をあげたな。」
「剣を志す騎士とは思えん。」
「お前の未来はないな。」
「剣を持つ資格など無い。」

「お、おれは悪くない!離せ、離せよ!
 おれは伯爵家の次男だぞ!?お前らみたいな辺境のど田舎の奴らなど、本来ならおれに触れるなんて許されないんだからな!!」

「オットマー=デーニッツ!!
 皆様、申し訳ありません。

 おい、地下牢に案内しろ!」

「え?司令官?地下牢って?嘘でしょ?」


 オットマーはすがるように叫ぶが、司令官と言われた男性は見向きもせず、未だ突っ立っているケヴィンに続けて声を掛ける。その間に、騎士隊員の数人が辺境伯軍とオットマーの方へ行き、地下牢へ連れて行くのか去って行く。


「おいケヴィン!らしくないな、どうした?救護所にとりあえず行くぞ。

 おい、あとのお前らはとりあえず三十分休憩!その後、各々自主練しておくように!
 ライナーはもう通常業務に戻っていい。

 申し訳ありません、カール殿。今来たばかりで状況が掴めませんがとりあえずこちらです。

 フランツ王太子殿下、せっかくお連れしたのに申し訳ありません。お帰りになりますか。」


 フォルクハルトは様子のおかしいケヴィンの肩を叩くと隊員達とライナーに指示を出す。そして隣に歩くフランツへと声をかけると、王太子殿下と呼ばれたフランツは首を振り、有無を言わせぬ雰囲気で微笑みながら言う。


「ああ、気にしないで。ついて行くよ。いいよね?フォルクハルト司令官?」

「はい、承知致しました。
 申し訳ありませんが、ではこちらへ。」


 状況が飲み込めないフォルクハルトであったが、瞬時に判断し、続いて倒れたエーファへと近づいたのだった。
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