【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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16.睡眠前

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 フォルクハルトがケヴィンの部屋を出て行ってから、ケヴィンとエーファとヘラで話し合い、結局ヘラは二時間ほど仮眠を取る事となった。夜中ずっと起きているためである。
 そのためベッドをもう一つ持って来ようとしたケヴィンに、


「椅子で寝られますから!」


 とヘラは告げた。
 それを聞いたエーファは体が伸ばせなくて辛いだろう、と心を痛めて口を開くが、仮眠を取れるだけありがたいです、と言ったのだった。


「本当に、いいの?」

「もちろんです!そのために参ったのですからね。
 さぁ、足元をお借りして申し訳ありませんが、早速寝かせてもらいますよ。」


 とヘラは言い、エーファのベッドの上部頭側にあった椅子を、足元へと移動させベッドにうつ伏せになるようにして仮眠を取り始めた。


「エーファも寝るかい?」

「寝るにはちょっと早いのよね、救護所で
 少し休んだのもあるし。」

「そうか。だったら本でも読む?」

「何か、あるの?」


 ケヴィンはこの寮の廊下にある、本棚が置かれたところには様々な種類の本が数は少ないがあるのだと言った。
 娯楽用に、ボードゲームやカードゲームも置いてあるが騒ぐのはヘラが寝ているし良くないだろうとも言った。


「エーファが好みそうなのは…大衆小説や、異国の本もあるからちょっと見繕ってこようか?
 ヘラも、起きているのに必要だろうし。」

「そうなのね。うん、お願いします。」


 それを聞き、ケヴィンは音を立てないように気をつけながら部屋を出て行った。


(それにしてもまさか、ケヴィン兄さまの部屋に泊まる事になるとは思わなかったわ。)


 エーファは、ケヴィンの部屋を出て行く後ろ姿を見ながらそう思った。

 今日見学していた風景を思い出したエーファは、ここが兄の職場なのだと今さらながら感心した。ケヴィンの騎士隊の服は見慣れてはいるが、広場で皆に指示していた姿はいつも家で見るケヴィンとは違う人のようにしっかりと、毅然としていたのだ。空気が張り詰めるというか、近寄り難いようなそんな感じであった。

 けれども救護所では、広場での時とは対照的に学院に入る前の昔のケヴィンのようで、なんだか雰囲気が全く違うようであった。


(それでも…騎士隊を辞めると言った時はどうしようかと思ったわ。)


 自分一人では踏みとどまらせる事が出来たかは分からなかった。フォルクハルトも加勢してくれた事で、明日も仕事に行くと言ってくれたので安心したものだ。


(フォルクハルト様…司令官の地位にいらっしゃるからかしら。とても頼りになるわ。)


 やや細身のケヴィンとは違い体つきもしっかりしていてがっしりとした体型だからか一見すると近寄り難い雰囲気だが、今日の短い時間ではあったがいろいろと気にかけてくれエーファは信頼に足る人物だと思った。


(普段ならお会いする事はあまりない、コリンナのお兄様のカール様や、フランツ王太子殿下にもお会いしてしまったわ。)


 他にも、救護所にいた医師や助手もいた。今日だけで様々な人と会い会話も少しだけしたが、フォルクハルトが仕事が終わった後にまでわざわざ救護所に来てくれた事には驚いた。


(きっと、とても責任感がお強いのだわ。だからケヴィン兄さまが騎士隊を辞めると言った時も優しく受け止めて話を聞いて下さっていたのね。)


 フランツが自ら人材を選んでケヴィンに副司令官の地位を与えていた、とは初めて知り、だからこそ長くその仕事を続けてほしいとエーファは願った。



 ☆★

 少しして、ケヴィンが数冊の本を持って戻ってきた。


「何がいいのか分からなかったんだけど、いろいろ持ってきたよ。」


 そう言ってエーファのベッド近くの机に音を立てないように気をつけながら置いた。


「興味があるかは分からないけど、どうだろう。
 僕、そろそろ風呂の時間だから入って来てもいい?短時間だから、エーファの身に何かあっても急いでくるから安心して。
それとも、ヘラが起きた後に行った方がいいかな。」

「ありがとう。
 ええ、普段通りで大丈夫よ。ゆっくり行ってきて。」


 風呂は一階にあり、使える時間が決まっていると言うのでエーファも快く頷いた。
 それを見て、ケヴィンは着替えを持ち再び部屋を出て行った。

 机には、男心をくすぐるのか冒険譚の大衆小説本が三冊、体のつくりをわかりやすく書かれた医学書のような本、天候や気候について書かれた本、他愛もないジョークやなぞなぞが集められた本、旅行記のような本が二冊置かれている。


(本当にいろんな種類の本を持って来てくれたのね。)


 ケヴィンの心遣いに微笑むと、どれを読もうか一冊ずつ手に取ってパラパラとめくり、じっくり選び始めた。




 ☆★


 ケヴィンが風呂から帰ってきたのは、エーファが持ってきた本を一つずつ確かめ、その中からやっとこれに決めたと手に取り読もうとページをめくった時だった。


「お、どうだい?読んでる?」

「まだよ。それぞれ面白そうだなと思ったから、どれから読もうか迷ってたの。」

「そうだったのか。
 僕も久し振りに、この本が読みたくなってね。これ、結構面白いんだよ。」


 と言って、ケヴィンは医学書のような本を手に取った。体のつくりや、体調が悪くなる時の症状まで書いてある本だ。


「まぁ!ケヴィン兄さま、意外だわ。」

「そう?勉強はそれほど好きではなかったけど、意外とためになってね。
 ヘラと交代するまで、少し読もうかな。」

「ふふ、確かにためになりそう。」


 そう言ってそれぞれ、少しの間読書時間に宛てることとした。



 そして二時間ほどがあっという間に過ぎ、ヘラを起こすとケヴィンは『エーファにもし何かあったら遠慮無く起こして。ミヒャエル先生を呼びに行くから。それくらい、明日の仕事には響かないから。』と言って、ケヴィンがベッドの中に本を持って入った。もう少し、読んでから寝るのだそうだ。


「承知しました。お休みなさいませ。」

「おやすみ、ケヴィンお兄さま。」

「あぁ。また明日。
 ヘラ、好きに読んでいいからね。」

「はい。ありがとうございます。
 エーファ様は、寝られますか?」

「んー私も、もう少し起きてるわ。これ、読み終えたいもの。
 うちの書庫に置いてある本とは種類が違うから楽しいのよ。

 ヘラ、遅くまでごめんね、寝ていいのよ?」

「何を言われますか!
 仮眠を取らせていただいたので、大丈夫ですよ!

 確かに、面白いですね。ジョーク集なんてありませんし、なぞなぞも意外と難しいんです。」

「フフ。じゃあ今度私にもなぞなぞを出してちょうだい。」

「あら、いいですね!それではしっかり覚えないといけませんね。」


 そう言って、二人とも楽しく本を読み進めるのだった。


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