【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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10. 怪我人

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「エーファ…」


 フォルクハルトとフランツが出て行ったあと、遠慮がちに声が掛かった。


「コリンナ…?」


 横になっていて角度的に姿が見えないが声でそうだろうと、疑問形で返事をするエーファに、コリンナもまた震える声で言葉を繋ぐ。


「エーファ、ごめんなさい。あの…」

「コリンナ、こっちに来てもらってもいい?」

「行っていいの?もちろんよ!」


 そう言ってすぐベッド際に近寄ったコリンナは、ケヴィンが譲った事で今までケヴィンがいた側のエーファの顔の近くまで寄り跪いて手を掴み、呟く。
 それに気づき、オーラフが直ぐさま椅子を持って来てコリンナへと勧め、コリンナも頷いて座りながら話す。


「ごめんなさい…本当にごめんなさい、エーファ。
 あなたが目覚めて本当に良かったわ…!」


 潤んだ目で見つめるコリンナに、首を傾げるエーファ。


「どうしてコリンナが謝るの?私こそ心配掛けてごめんなさい。」

「だって!…だって、エーファは私やマルテの代わりに手合わせするって名乗りを上げてくれたんでしょう?」


 それに、苦笑しながら否定するエーファ。


「そんな格好いいものじゃなかったのよ。ただなんか…あの人の行動に腹が立っただけよ。」

「でも…」

「私、勝ったと思ったんだけどな。負けちゃったわ。」

「違うわ!エーファは格好よかったわよ!あの男が、卑怯にも無防備なエーファを後ろから襲ったんだわ!」

「ありがとう。やっぱりそうだったのね。」

「卑怯よ!騎士ってもっと、麗しく気高い存在な筈なのに!」

「コリンナ…」


 興奮するコリンナに、部屋の後方から遠慮がちに声が掛かる。


「コリンナ、とりあえず目が覚めて本当に良かったね。
 でも、エーファ嬢はきっと体を休めた方がいいから、今日は帰ろう。」

「だって…!」


 エーファの手を握りながら涙を流すコリンナに、ケヴィンが先ほど泣いていた人とは同一人物とは思えないほど優しく声を掛ける。


「お嬢さん、エーファの事を大切に思ってくれてありがとう。
僕がしっかりと様子を見ておくから。

 カール殿、ありがとうございました。いろいろとご迷惑お掛けしてすみませんでした。」


 そちらに視線を送り言葉を繋いだケヴィンに、カールはハハハと笑った後口を開く。


「普段見るケヴィン殿とは全く違う姿がいろいろと見られて、今日は収穫でした!

 けれど…もし私も妹のコリンナがあのような目に遭ったら確かに自分が自分では無くなってしまうかもと胃が鷲づかみにされたような気がしました。
 ケヴィン殿も気をしっかりと持ち、ゆっくり兄妹で休められて下され。」

「ありがとうございます…傷み入ります。」

「コリンナのお兄様…?あ、カール様ご迷惑をお掛けしました。」


 姿は見えないけれど、と声を上げるエーファ。


「あぁ、エーファ嬢気にしないで!寧ろ、コリンナと仲良くしてくれたようでありがとう。こんなだから友人が一人もいなくてね。これに懲りずに友人関係を続けてくれるとありがたいんだけれど。」

「懲りたりしてません!私も、仲良くしてくれて嬉しいのです。

 コリンナ、心配掛けてごめんなさい。」

「ううん、いいの。全然よ、エーファ謝らないで。」

「良かった良かった!
 じゃあこれで、お互い謝るのは終わりにしよう。
さ、コリンナ、行くよ。」

「はぁい…エーファ、また会ってくれる?」

「もちろんよ。」

「よかった!じゃあゆっくり休んでね。
 えっと、エーファのお兄様も、ゆっくり休んで下さいね!」

「うん。」
「!ももももちろん!
 コリンナ嬢も、うちの妹と仲良くしてくれてありがとう。またいつでもおいで!」


 コリンナは名残惜しそうにエーファの手を握っていた手を離すと、カールの方へと向かいながら言葉を二人に掛け、微笑むとカールと部屋を出て行った。


「では何かあったら呼んで下さいね。」


 今まで見守っていたロミーはエーファに何の体調の変化もないと確認すると立ち上がり、カーテンを閉めると仕事へと戻った。




 ☆★

 あれから三時間ほどたった夕方。

 ミヒャエル、ロミー、オーラフが一日の勤務を終えて救護所を去る間際。
 ミヒャエルが一度カーテンの中にいるエーファとケヴィンへ声を掛ける。


「入ってもいいかな?」

「…はい。」


 エーファが答え、ミヒャエルがカーテンを少し開けるとケヴィンがベッドの際に寄せた椅子に座りベッドに伏せて寝ていた。


「おや。ケヴィン副司令官はお疲れだね。

 エーファ嬢、体調は…うん、いいね。
 それでこのあとどうするんだっけ?」

「あ、はい。兄の部屋にお邪魔させてもらおうかと。」


 エーファはそう言いながら、未だ寝ているケヴィンを見て眉を下げてすみません、とミヒャエルに告げる。


「いいよいいよ。

 そうしたんだね、私も宮殿の方に部屋があるから、何かあれば気兼ねなく呼んで欲しい。
 って、ケヴィン副司令官!聞いてるー?」


 と、ミヒャエルがケヴィンの耳元で大きな声を出す。


「うん…は!
 す、すみませんミヒャエル先生!えっと…」


 それに驚いたのか体が少し飛び上がり、目を開けた先にミヒャエルがいたため慌てるケヴィン。


「はは!今のところエーファ嬢は痛み以外は何とも無いから、安心して眠くなったのは分かるけどね。

 そろそろ日勤は終わりの時間だから。ケヴィン副司令官は知ってると思うけど、宮殿の方に私の部屋があるから、何かあったら夜中でも呼びに来てくれていいよ。」

「は、はい!ありがとうございます!もちろんです!」


 そう言って頭を下げるケヴィンに、エーファも声を上げた。


「ミヒャエル先生、ありがとうございます。」


「いやいや。
 ところで、どうやってケヴィン副司令官の部屋まで行くの?」


 その言葉に、どうにかベッドから起き上がり歩いて行くしかないとエーファは答えようとしたその時。
 救護所の部屋の扉がガラリと開き、フォルクハルトが入って来た。


「ああ間に合った…ミヒャエル、今日はありがとう。済まなかったな。」

「おや、珍しい。司令官から労いの言葉が頂けるとは!」

「うるせーよ。
 エーファ嬢移動するんだろ、俺が連れて行くから。」

「フッ…私にそんな事宣言しなくても。残念ながら私に力が無いの知ってるでしょ?君たち体力を使ってる人達がいるのに私の出番じゃないってば。」


 と、ミヒャエルは鼻を鳴らし、じゃあお先にと言って部屋を出ていく。
 それを見届けたフォルクハルトは、救護所の部屋に入り声を掛けた。


「ケヴィン、寝起きな顔だな。良く眠れたか?」

「え!…エーファの寝顔を見てたら安心して寝ちゃったんです!」

「そうか。まぁいい。
 それより部屋を出よう。鍵を閉めないと、彼らも帰れないからな。」


 フォルクハルトはそう言って、ロミーとオーラフを見た。


「あ…ごめんなさい。…痛っ……」


 エーファは起き上がろうとして、脇腹や腰が酷く痛むと顔を顰めると、ケヴィンが身体を支えようと手を出そうとするがロミーがそれにすかさず声を掛ける。


「エーファさん防具も着けて無かったんですよね?全身打撲ですよ、辛いと思います。
歩けないですから、副司令官か、司令官が運んで下さいね!」

「え、いえそれは…」


 とエーファは慌てるが、


「甘えた方がいいよ、せっかく使がいるんだから。彼らは体を資本としている素晴らしき騎士の一員だからね。
 人を運ぶ事は訓練よりも容易いと思うよ。丸太や、岩を運ぶよりね!」


 と、黙っていたオーラフも応戦する。


「あぁ。気にしないでくれ。歩いて、体調が酷くなった方が良くないだろう。」


 と、フォルクハルトが近づいてくるがケヴィンがすかさず手を広げた。


「僕が運びます!
フォルクハルト司令官、大丈夫ですから!」

「そうか?ケヴィンより俺の方が安定するかと思ったが、まあそれならそれでいい。荷物はないか?早く行くぞ。」


 そう言って、フォルクハルトは皆を促した。

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