【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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9. 見舞い

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「ん…?」


 エーファが目を開けると、見慣れない天井が広がっていた。疑問に思い顔を横にゆっくりと向けると、白衣を着た女性が椅子に座ってこちらを見ていた。


「あら、目覚めたのね?どう?体調は。」

「えっと…」


(体調?……あ!)


 そういえば自分は先ほどまで外にいて、オットマーと呼ばれる騎士と手合わせしていた事を思い出した。自分が今白いカーテンで囲われた空間にあるベッドに横になっていると気づいたエーファは、必死に思い出す。


(確か、私の勝ちって言われたからホッとしてコリンナ達の方へ戻ろうとして…あ!痛たたた…)


「痛みが…」

「痛いのね?どこが痛い?頭?」

「えっと、背中です。腰と、お尻も。あ、あと痛たた…」

「ああ!無理しないで?横になってればいいの。」


 体の後ろ側がジンジンと痛むなと思いながら、でも人と話しているんだったとはっとして体勢を起こそうとした時に、横腹が酷く痛む事に気づいた。
 すると、女性がそう返した時、カーテンの向こう側から男性の声が聞こえる。


「ロミー、目覚められたのか?」

「ええ、オーラフ。でも先生に言うのはちょっと待って。」


 と言うと、続けて目の前の女性はエーファに優しい口調で口を開く。


「私はロミー。この救護所の助手をしているわ。カーテンの外にいるのは同じく助手のオーラフ。

 あなたは気を失ってここに来たの。
 痛いところがあるという以外には、めまいとかもないならとりあえず先生を呼んでもいいかしら?ミヒャエル先生と言って、とても優秀な医師なのよ?」

「は、はい。」

「だって!オーラフ、聞こえた?先生に目覚められたって伝えてちょうだい!」

「分かった!」


 オーラフはすぐにミヒャエルを呼ぶためか扉を開ける音がし、少し話した後ぞろぞろと部屋の中に入ってくる音がエーファに聞こえた。


「ロミー、カーテンを開けてもいいかい?」


 ロミーはエーファの顔を見たので、エーファは一つ頷くと、ロミーも頷き返してくれた後、カーテンを開ける。

 と、ミヒャエルだろう同じく白衣を着た人物の後ろに、少し離れてケヴィンやコリンナと他にも知らない数人がいて少し驚き、やはり体勢を上げようとして痛みが走って顔を顰めた時にロミーとミヒャエルにそのままで!と言われるエーファ。


「あぁ、姿勢はそのままで。」
「そのままでいいのよ。」

「はい…済みません。」

「何も悪い事は無いよ、だってここは救護所なんだからね。

 …て、会話が出来るなら良かった!さぁ、今の心境は?」

「も、申し訳ないです…」

「え?
 …そんな事思わなくていいんだよ。何があったかは私は聞かないけど、体調はどうかな?と思ったんだ。」

「あ!…いろいろと、痛い箇所があります。」

「そうか、うん。さっき問診させてもらってね、打撲の箇所が複数あるもんね。
 他は、どうだい?」

「他ですか?特には…」

「ふむ。では少し、いいかな?」


 そう言って、ミヒャエルはエーファの顔をじっくりと見たり、目の動きを観察し、うんうんと頷くと、微笑みを浮かべて再度口を開いた。


「特に深刻な状況にはなってないね。これなら、きっと大丈夫。
 でも、さっきは上体を起こすのも辛そうだったね。もう少しゆっくりしていくといい。
 けど…そうだなぁ、24時間はこの敷地内に居てくれると何か急変した時に駆けつけられる。
 ただこの部屋は簡易的な部屋だからなぁ…。
 それとも、家に専属の医師でもいるなら帰った方がいいかい?」

「え?えっと…」


 確かに体を動かすには痛い。けれども全く動かないわけではないだろうと思うが、打ちつけたすぐだろうからミヒャエルが言うようにゆっくりしてからなら痛みが引くか、いや余計に増してくるか…とエーファは迷う。


「まぁ、夕方まではゆっくりしていって。そこで改めて聞くよ。
 それでいい?フォルクハルト司令官?」


 と、後ろにいる青い軍服を着た、がっしりとした体つきの男性に聞くミヒャエルは、あとはよろしくとばかりにエーファに背を向け、ちょっと休憩してくると言って部屋を出て行った。


(司令官!?青い騎士隊の制服を着ているしケヴィン兄様の上司の方、よね?)


「ええと…ケヴィンの妹殿。この度は本当に申し訳無い。もしよければ、もう少し近くに寄ってもいいだろうか。それとも、ここで話しても問題無いかな?」


 話を振られたフォルクハルトは部屋には入っているがカーテンの影になる所におり遠くからそのように声を掛けた。救護所を使う怪我人とはいえ、年頃の女性であるから姿を直接見る事は配慮したのだ。

 エーファからは顔がはっきり見えないし、目で捉えようとすれば首を思い切り上げたり引いたりと調節をしなければならず、少し迷ったが返答をする。


「あ、この姿勢で申し訳ありません。私はエーファと申します。
もちろん、こちらへ来て頂けたら助かります。」

「ありがとう。」


 そう言うと、フォルクハルトはロミーが座っている側とは逆のベッドサイドに寄り、エーファに顔が見えるように近づく。


「私はフォルクハルト=ゲルトナ-。騎士隊の司令官をしているんだが、あの場に居なくて止める事が出来ず、申し訳なかった。」


 と、頭を下げた。


「そ、そんな!顔を上げて下さい!
 私こそあの…訓練の邪魔をして申し訳ありませんでした。」


 そう言ったエーファに、フォルクハルトは姿勢を正すと首を左右に振った。


「いや…理由はどうあれ〝開かれた騎士隊〟ではあるから、邪魔をしてなんかいないから気にしないで欲しい。」


 閉鎖的で閉ざされた騎士隊では入隊者も集まり辛いからと、大々的に見学会を開催したり、見たいと希望があれば今回みたいに見学をする事が出来るようになっている。


「ありがとうございます。」

「それより、痛みがあるのだろう?うちの者が本当に申し訳なかった。」

「いえ…あ、痛みは確かにあります。けど、私の油断が招いた結果ですから。」


 と、苦々しく笑うエーファ。
『ふざけるな』という言葉がすぐ後ろ、つまり手合わせしていたオットマーから発せられてその後すぐに脇腹に痛みが走った事までは覚えていて、それを自分の痛い箇所と照らし合わせた所、オットマーに後ろから攻撃されたとエーファは答えを導き出したのだ。


「そんな事はない!
 エーファ嬢、君は騎士でもないし、ましてや女性だ。そんな君に、怒りに任せて後ろから手を出した奴が全面的に悪いんだ。そんな風に言わないでいいんだ。」

「あ…ありがとうございます。」


 エーファは自分が悪いと思っていた。だがそのように否定され、エーファは悪くないと言ってもらえて少し心が軽くなった。


「それで…先ほどミヒャエルが言っていた事だけど、どうする?
 確かに心配だから、何かあった時にミヒャエルを呼びつけられるよう敷地内にいた方がいいが、ここは入院施設ではないから、侵入しようと思えばどこからでも入って来られるんだ。警備体制は問題アリなんだよ。なぁ?」


 と、フォルクハルトはやや後方にいたケヴィンに声を掛ける。心配そうにこちらを見守っていたケヴィンは慌ててフォルクハルトの隣までくると、フォルクハルトを押しのける勢いでエーファの傍に寄り、涙をこぼした。


「はい!
 …エーファ、ごめんね、僕が許可しちゃったから…あの馬鹿野郎は、さっさと騎士隊を辞めさせておけばよかった!本当、ごめん!でも目覚めてくれて本当に良かったよぉ……!!」

「え、ケヴィン兄様…」


 エーファは、ケヴィンの涙なんて見たのは長兄ディーターがまだ学院に入学する随分前だったと驚きを隠せず、戸惑いの表情を浮かべる。


「ケヴィン…エーファ嬢が困ってるぞ。
 で、どうするんだ?家に帰すのか!?」

「ずみまぜん…えっと…帰る途中で何かあっても心配ですから、とりあえず24時間ってミヒャエル先生も言ってましたし、ここにいてもらいたいでずぅ…」


 鼻水を垂らしながら、そう言うケヴィンに苦笑しながら、頷き少し考えた後に再度口を開く。


「そうだな。では、ケヴィンの部屋にもう少ししたら移動させよう。それでいいか?」

「え゛!いいんですか…?」

「いいも何も、寮なら鍵が付いてるし、俺やケヴィンの部屋は一人で使ってるだろ?」


 騎士隊の寮は、基本的に四人部屋である。役職のついた者は、仕事量も多く朝早かったり夜遅かったりする為同室の者がいると気も遣うからと一人で使う事となっていた。


「あ゛りがどうございまず…!!
 エーファ、僕が看病するからね。何かあったらすぐ言うんだよ。」


 フォルクハルトにお礼を言ったあと、ゴシゴシと顔を腕で荒っぽく拭くとエーファにはそのように言った為エーファはふふっと笑ってから返事をする。


「はい、すみませんがお願いします。
 司令官様も、ありがとうございます。」

「いや…私はなにも。
 で、いいよな?フランツ?」

(フランツ??)


 フォルクハルトが、またも部屋の後方にいた人物へと振り返るようにして声を掛けたので、エーファは疑問に思う。


「うん、いいよ。
 僕が決めても良くないだろうから黙ってたけど、僕からもごめんねって伝えて。だって僕が参加するって言ったから、フォルクが迎えに来てくれたんだもんね。
 思ったより大丈夫そうで安心したよ。何かあったら相談して。
 フォルク、さすがに僕そろそろ戻らないと。」

「そうか、そうだな。なんか、済まん…。俺も行く。
 …じゃあエーファ嬢、ゆっくり休んでくれ。また来る。」


 と、そう言ってベッド際から離れようとするフォルクハルトに慌ててエーファも声を掛ける。フランツに至っては、顔が見えないがその名前と、会話の文面から読み取ったのだ。


「あ、はい。ありがとうございました。

 えっと、フランツ様?もしかして王太子殿下ですか?大変ご迷惑をお掛けしました。」

「あぁ、いいよ気にしないでー。ここは公の場でもないし。
お大事にねー。」


 と軽めに言う声と共に、フランツはフォルクハルトを連れて部屋を出て行った。


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