【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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23.切望

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 エーファが怪我を負って、一ヶ月が経った。

 エーファの体の痛みもだいぶ引いて、横腹の模造剣が当たった跡もほとんど分からなくなった。


 エーファは、その間図書館に行ったり、美術館や博物館に行ったりコリンナと会って近況を報告しあったりしていた。

 そのコリンナも一週間ほど前にバッヘム領へと帰って行った。だが一人でではなく、騎士隊の休みを取ったケヴィンと共に騎馬で向かったのだ。
 バッヘム辺境伯に、結婚の許しを得るためと、これからのことを話し合うためだ。これからのこととは、もし結婚の許可が得られたとして、どこで住むかである。

 ケヴィンは元々、バルヒェット侯爵家の次男であり、騎士隊に所属した今、長らく結婚はないだろうと思っていた。そのため、寮に住み続けるだろうと漠然と思っていた。寮は基本的に独身の者が使える。好きな人もおらず、色恋なんて考える暇もなく騎士隊に全力を注いできた。だから副司令官という立場を早い時期から得たともいえる。
 そんなケヴィンが、王都から馬車で幾日もかかる、辺境地の令嬢を好きになってしまったのだ。騎士隊を辞めずに王都の近くで暮らす事の許可を得れたらと言っていた。『お父さまが許してくれるといいけれど』とコリンナが酷く心配していたのを聞き、エーファもまた、それに驚き憂いていた。


(許してもらえないかも、なんて思ってもみなかったわ。私は、フォルクハルト様との事、お父様に認めてもらえて幸運だったのね。)


 エーファは、コリンナとケヴィンが認めてもらえますようにと毎日願っていた。



 フォルクハルトが、ロータルに許しを得るために屋敷にやってきた次の日も、見舞いと称して会いに来てくれた。
 けれど、玄関扉の前で見送る帰り際に『明日から三週間いや…四週間程、バッヘム領に行く事になったため、しばらく会えなくなる』と聞かされた時は胸が締め付けられる思いがしたエーファ。


「そうなのですね…淋しいですが、お仕事頑張って下さいね。」


 と、胸の痛みを抑えつつ告げれば、フォルクハルトは目を数秒瞑ってすぐ目を開けると、『私…いや、俺は毎日でもエーファ嬢に会いたいから昨日来たのにも関わらずまた今日も来てしまった。だから一ヶ月も会えないと考えるだけで恐ろしくなるんだ。でも、やらなければならない事がある。…少し、抱き締めてもいいだろうか?』と、最後は意外にも少し声を振るわせながら言った。


(フォルクハルト様も、私と同じお考えなのだわ。良かった…)


 と思いながら、エーファは、はい、と返事を返すと自分からゆっくりフォルクハルトへと進み寄った。


「ありがとう…帰ったら、連絡する。会いに来てもいいか?」

「もちろんです。連絡しなくても、来ていいのですよ?」

「それはさすがに…そうしたいけれどね。」

「うふふ。お待ちしております。」

「あぁ…ありがとう、エーファ嬢。」

「どうぞ、エーファと…」

「エーファ」

「はい」

「あぁ…行きたくないが、また来る」


 そう言って、去って行った。自室でなく玄関であったため、振り返ると執事のキルスとヘラが立っていて、見られていたのだと恥ずかしく思うが、二人は目を伏せて『…仕方ありません。』と言葉少なに呟いたのだった。




 ☆★

「まだ、かしら…」

「まだ、でしょうね」

「え?」


 エーファはいつの間にか独り言を呟いていたようで、部屋の隅で控えていたヘラが返事をした。


「司令官様の事ですよね?まだ、連絡は届いておりません。きっと、お仕事が長引いているのでしょう。」


 何を、と言わずともエーファの心を読んだかのように答えるヘラ。
 そう、この一ヶ月、エーファは寂しさを紛らわすように毎日何かをしていた。

 ヘラの返事に心の中で頷くと、図書館へ行こうと立ち上がった。



 ーー
 ー

 エーファは晴れて想いが通じ合ったものの、フォルクハルトとは会う事も出来なくなってしまったため、その想いが辛いと、次の日から部屋からも出ず物思いに耽っていた。
 部屋から出てこないエーファに、家族皆が心配し、年が近いからと代表でドーリスが部屋の扉を叩き、部屋に入ってエーファの傍に寄った。
 そこで聞かされたのは、エーファが素敵だと思う人物から想いを告げられ心通わせる事が出来、未来を見据えて交流をする事をロータルから許された事。しかし、その相手とはすぐに会えなくなってしまい心淋しく思っていた気持ち。相手が騎士隊に所属しているフォルクハルトだと知って、ドーリスは感極まって抱き締めてくれた。


「あぁ、エーファ!本当に自分でお相手を見つけてくるなんて…さすが自慢の妹ね!でも、そうなのね。それは淋しいわね…でもね、会えない時間が愛を育てるのよ。
 だから、会えた時には輝いた自分を見せるために自分磨きをしていましょうね!淋しいのはお相手もきっと一緒よ。だから、前回会った時よりももっと素敵な自分を、今度会う時に見せつけちゃいましょう?」


(会えない時間が愛を育てる…輝いた自分…)


 ドーリスに言われて少し心が落ち着いたエーファは、次の日からは精力的に自分磨きをする事とした。

 寂しい思いに蓋をして、気持ちを切り替えた。相手は騎士隊に所属しているため、このように遠征なんてものはつきものなのだと自分に言い聞かせた。


 図書館へ行って本を探してはそこで閉館になるまで読みふけたり、王都にある美術館や音楽館へ行き絵画や音楽に触れたりもした。


(王都には、図書館以外にもいろいろな建物があるのね!)




 そんなエーファを、ドーリスは自身の開くお茶会に誘ったりもした。


「いいこと?エーファ。ゲルトナー侯爵家の方と結婚のお話が出ているのなら、侯爵夫人になるわけよね?だったら、交友関係を広げるのも大切な夫人の仕事なのよ?」


 ドーリスは幼い頃より茶会をよく開催したり招待されたりしていたため、顔は広く、十九歳のドーリスと同じ年齢だけでなく年上や年下の友人や知人など、エーファと顔を繋いでおくに越したことはない人物を招待し、場を繋いでくれた。


 また、先週末にはドーリスの相手のドミニクが、ドーリスと共に被服の新作発表会に参加するために迎えに来た時に少し時間を作ってくれエーファに言葉を掛けてくれた。


「やぁ、エーファ嬢久し振りだね。
 ドーリスに似てずいぶん綺麗になった、かな?
でも残念ながら僕にとってはドーリスが一番だけれどね。」

「ふふ、お久し振りでございます、ドミニクお義兄様。」


 ドミニクはドーリスが好き過ぎるあまり、まだ結婚していないにも関わらず初めて婚約相手と紹介された日にエーファに『義兄様と呼んでいいから』と許可をくれたのだ。


「可愛い義妹のエーファ嬢よ、騎士隊の司令官とやらと結婚するんだって?」

「ドミニクさま、まだいつかは分かりませんのよ?未来のだんな様になるかも、っていう事でお願いしますね?」

「あぁ、そうだったね僕の愛するドーリス!
 エーファ嬢、彼は優秀だって聞いてる。だから、安心したまえ。僕が紹介するまでもなく自ら未来のだんなを見つけられるとは素晴らしいことだ。
 でもね、司令官はとても大変な仕事だ。国のため国民のために日々働き、エーファ嬢の元に帰ってこられない時もあるだろう。寂しい時は遠慮せず僕らに頼りたまえ、可愛い義妹よ。公爵家の名の元に、君を守る力は存分にあるのだから。」


 そう言ってニッコリと笑ったドミニクは、『君らの幸せを願っているよ、もちろん僕とドーリスの幸せ度のが上だがね。』と付け加え、出掛けていった。彼なりの激励であることは明白だった。



 ー
 ーー

 そして図書館からの帰り道。エーファは夕暮れに染まりつつある街並みを馬車の小窓から見ながら今日図書館で読んだ本は何冊だったか思い出していた。


(大衆小説が四冊と、専門書が二冊。専門書は、あまりよく分からなかったわねぇ…)


 エーファが選んだ大衆小説は、冒険物語が二冊と出世物語が二冊。そして専門書は、治療学の専門書と薬学の専門書であった。


(専門書は、やっぱり学院に行っていないと理解は難しいのかもしれないわ。でも、生活に役立つかもと思って手に取ってしまうのよね。)


 エーファは、恋愛小説は読まないようにわざと違う分野のを手にしていた。そして、違う本を二冊、借りてきていた。
 エーファが図書館で本を読んでいる間、ヘラも隣で読んでいる。そしてエーファが元気な時には馬車の中で本の話で盛り上がるのだが、最近…つまりフォルクハルトが帰ってきそうな時期になってからはエーファは考え込む時間となっていた。



「あれ?」


 屋敷が見えて来た頃、不意に御者が独り言を呟いていた。


「?」

「どうしたの?」


 エーファは御者台があるカーテンの閉められた小窓に顔を向け、ヘラもそれに気づき、小窓に近づいてカーテンと小窓を開けデニスに声を掛けた。


「あぁ、いえ…なんでもありません。」


 そう言ってデニスが答えると、ヘラは首を傾げながらもエーファへと視線を送る。エーファも、なにもないならいいかと、でもなんだったのかと首を傾げる。


「きっと、動物かなにかが目の前を横切ったのかもしれませんね。」


 ヘラが安心させるように言い、エーファもそれに頷いた。


 そうして屋敷の敷地内へと入って行き、馬車が止まり、ややもしてデニスが外側から鍵を開け、「開けますよ」と声を掛けてから扉を開けた。


「ありがとう、デニス。」


 そう言ってまずエーファが降り、ヘラも降りると玄関扉が開いており、中が見える状態であった。


「え?」


 エーファは思わず声を上げ、ヘラも何かあったのかと思わずエーファの行方を塞ぎ、自分が見てきますと言った。


「念のため、デニスといて下さい。
デニス!」


 屈んで車輪止めを外していたデニスが、声を掛けられ頭を上げると、ヘラがもう一度言った。


「玄関扉が開いてるのに誰も外にいないから、ちょっと見てくるわ。エーファ様と一緒にいてちょうだい!」

「ああそれならヘラ、大丈夫だと思います。」

「どうしてそう思うの?!」


 少し焦りながら言ったヘラに、だって…とデニスが言葉を繋ごうとして玄関から出てきた人物に遮られた。


「エーファ、ただいま。って、あれ?言い争い?」

「!!!」


 ヘラが振り返ると、玄関から出て来たのはフォルクハルトで、それを見たエーファは驚きで口を大きくあけ、それを両手で隠すように口元にあてたのだった。
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