【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる

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24.再会

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「ただいま、エーファ」

「フォルクハルトさま…!」


 エーファはあまりの事に理解が追いつかないようで、しばし固まっていたがそれを優しく見守るフォルクハルト。
 ややもして、もう一度ただいまと告げたフォルクハルトにエーファはやっと動き出し一歩二歩と歩み寄るかと思えば駆け出してフォルクハルトの体に勢いよく抱きついた。


「おっと!…怪我は良くなったみたいだね。」


 フォルクハルトはエーファの体を労るように、右手は頭を優しく撫で左手は腰に触れるか触れないかの位置で添えた。


「お帰りなさい…」


 消え入るような、それでいてはっきりとフォルクハルトの耳に聞こえたエーファの声は、疲れた体を癒すほど。しかし、はっと思い出したようにフォルクハルトは口を開く。


「ああただいま。
 …あ、ごめん。急いで帰ってきたから埃っぽいな。」


 そういって、ゆっくりエーファを引き離そうとするがエーファは頭を左右に振り嫌がった。


「ううん、大丈夫です。
 …ご無事で……」


 エーファは声を震わせ、それでも何とか言葉を繋げようとする。それに、フッと口角を上げたフォルクハルトは語りかけるように話す。


「こんなに喜んでくれて、急いで帰ってきた甲斐があったよ。エーファに会いたくて、一目でも見たくて先触れを出す前に寄ってしまったけれど、その気持ちは俺だけじゃなかったみたいだ。」

「毎日、会いたかったです。でも、輝いた私を見てもらいたくて…」

「うん?もうそれ以上輝いてしまったら、他の男に取られてしまわないか心配だな。
 でも、俺も毎日エーファの事を考えていたよ。」

「フォルクハルトさま…」


 そうしていると、中から咳払いが聞こえてきた。


「エヘン、エヘン!
 …気持ちは分からないでもないが、中に入ったらどうだい?」


 と、ディーターが言葉を告げる。
 兄がいたのだと、ヘラやデニスもいたのだとエーファは慌てて手を離しフォルクハルトから距離を取る。


「ディーター、すまなかった。先触れも出さずに訪ねてしまって。侯爵にも、伝えておいてくれ。」


 フォルクハルトは何事も無かったかのようにディーターに声を返す。


「いや。エーファのためだからね。エーファは毎日淋しそうに、でも懸命に毎日過ごしていたからね。」


 ディーターは笑いながらそう言い、未だ顔を赤くして俯いているエーファを見遣りながら微笑む。


「ありがとう。
 じゃあ俺、帰るよ。」

「え、もう?」

「あぁ、顔を見れたらと思って寄っただけで、実はまだこれから仕事なんだ。」


 と、困ったように笑うフォルクハルトに、ディーターは続いた。


「お勤めお疲れさん!
 エーファ、また日を改めて会えばいいだろう。」

「あぁ。近いうちに必ず。
ディーターも、久々に話せて良かったよ。」

「本当ですか?もっと早く帰ってきてれば…」

「あぁ、エーファそんな風に思わなくていい。俺はこうやって顔を見て会話出来ただけでとても癒やされたんだ。少しの時間でも会えてよかった。」

「そうだね。そんな大して変わらないよ、少し前にフォルクも到着したくらいだ。」

「…はい。また、お会い出来るのを楽しみにしてます。」


 フォルクハルトは、帰って行った。




 □■□■

 フォルクハルトは、夜の帳が降りきる前に王宮へと帰ってきた。まだ着替えもしないその足で、フランツの執務室へと向かった。本来であれば王太子などの王族に会う時には、一度身を清めてから会うのが慣わしではあるが、フランツの場合そのような慣習に囚われたくないと考えている。情報こそ早くなければいけない。だからこそ、旧知の間柄の場合は特に、遠慮はいらないと言われていた。


 トントントン


「フォルクハルトです。」

「あぁ、お帰り。入って。」


 いつものように侍従に扉を開けられると、フランツは机に向かって書類を整理している。


「お疲れ、フォルク。早く休みたいよね、ごめんね。」

「いや、大丈夫だ。それよりも報告が先かと思ってね。
 それよりフランツ、どうした?」


 暫く見ない間に弱気になっていそうだと感じたフォルクハルトは、思わず口にする。


「え?…あぁ、次はカサンドラを片付けないとなと思ってね。」

「まぁ、身内だもんな。」

「だからって甘やかしていい理由にはならないけどね。
 あー、僕のことよりも先はフォルクね!とりあえずそっち、座ってて。」


 そう言って、二、三分ほどしてフランツもすぐにフォルクハルトが座っている対面に座った。


「すぐ来てくれてありがとう。本当は僕も一緒に行きたかったんだけど。」

「長くここ王宮を空ける事になるから仕方ないさ。」

「まぁねー」

「ちゃんと引き渡してきたぞ。大層喜んでおられた。これが書簡だ。」


 そう言って、懐から封蝋でしっかりととめられた書簡を取り出した。


「これ、俺の部下に持たせてもよかったんだけど。」

「いや、それでいい。」


 フォルクハルトは、オットマー=デーニッツをフレンズブルック国の国王の元まで送り届ける任務を課せられたのだ。

 フォルクハルト含め四人の精鋭部隊での極秘任務だ。

 出発前、四人はフランツ直々にこの部屋で任務の説明を受けた。その際、『帰りはフォルクには別任務があるから、別行動すると思うけど、他の三人は帰ってきたら必ずすぐに僕に報告に来るように』と言ったのだ。その説明を受けた時、フォルクハルトは聞いていなかったため他にもあるのかと驚いた。
 が、『その別任務の説明を引き続きするから、フォルクだけ残って。あとの三人は先に準備にうつっていい。よろしく頼む』といい、三人が出て行ったあと言われたのだ。
『ごめんね、知り合ってすぐに引き離す事になって。あの怪我した、ケヴィンの妹のこと気になってるんでしょ?帰りに会いに行ってきなよ』と。フォルクハルトはいきなりのことに言葉を返せなかったが、フランツは王太子として早くからさまざまな教育を受けてきたため人の機微には敏い。『違うの?別に違うならいいんだけど。僕がいただいてもいいし。』『!!?』『ハハハ、なんてね。大丈夫だよ。親友の想い人に手を出すほど落ちぶれてはいないよ。じゃ、そういう事で。僕も行きたかったけど、ごめんね。よろしくー。』と話は打ち切られた。
 他の三人の方が王宮への帰りが早いため、フレンズブルック国の国王から【素晴らしいを確かに受け取った。これからも良き友好関係を築くことを約束する】というような内容の書かれた書簡を持たせようかとも思ったが、結局フォルクハルトがフランツへと渡す事にしたのだ。


「あいつ、大丈夫そうだった?声が出なくなる薬飲ませた方がよかったんじゃない?」


 フランツはたまに、冗談とも本気とも受け取りづらい言葉を発する。それが、王族なのだろうとフォルクハルトは納得し、自分が制御するべきなのだろうと言葉を返す。


「いや、一応五体満足で受け渡した方がいいと思ってな。
 さすがに、鞍に背もたれをつけて紐で身動き取れないほどにくくりつけられた時には、おとなしくなったよ。」

「そっか。特注で作ったのが役に立ったね。」


 馬車で移送は、かなり時間が掛かるとフォルクハルトは考え、自分たち護衛は騎馬で行けるようにしたかった。だから、オットマーも馬車ではなく、騎馬にさせたのだ。けれども、自分で操作させては逃げてしまっても困るため、二人乗りをする事としたのだ。だが護送されている、という事を分からせるため、鞍に背もたれと前には手を持つところを付けた特注品を即席で作らせた。


「あちらの国王陛下、急だったのにも関わらず会って下さりそれはもうお喜びですぐオットマーは連れて行かれたよ。」

「それは良かった。
 …ん、書簡の内容も悪くない。この件は一件落着かな。
 あ、一応現場を指揮する上官としてフォルクとケヴィン、来月の給与から十パーセント減給しとくね、。減給された十パーセントは、手渡しするよ。」

「いや、減給はそのまましておけばいい。戒めとして。
 フランツは必要ないからな?」

「え?ばれた?一ヶ月、夕食を半分にするって伝えようと思ったんだけど。」

「やめろよ、フランツはいい。むしろもっと食べろって。」

「はは、考えておくよ。
 …でさ、カサンドラの事なんだけど。」

「あぁ。結論、出たか?」

「まぁね。カールにも嫌味を言われたし、やっぱりはっきりしないとと思ってね。」

「カール?ああ…」


 辺境伯軍が帰る前日、フランツもさすがに次いつ会えるか分からないと簡単な夕食会を開いた時のことだ。
その日は見学会が終わった日で、フォルクハルトもエーファの家に行ったあと、親睦会も兼ねた気安い会にしたいからとフランツからも言われて参加をしたのだ。

 会は順調で、お互い敬称無しで呼び合う事も決め、お互い立場がありなかなか会う事も出来ないが、交換交流のような形で辺境伯軍と騎士隊の短期派遣のような事もする事も話し、その内容も含め手紙を送り合う話にまとまった。緊張していたカールもずいぶん打ち解けたように見えた。

 しかし部屋を出る最後に、『そうそう、フランツ。うちの妹があなたの妹君にずいぶんとお世話になったようで。何かお礼をした方がよろしいかと思いましたが、田舎風情の私めの品なぞ、礼にも及ばない可能性も考え、。それではまた。』と言われたとき、やはり辺境伯の血は侮れないとフランツは思ったのだ。『出来の悪い妹が申し訳ない!僕は君のそういうところが全て気に入ったんだ。教えてくれてありがとう。本当にすまなかった。』とフランツは素直に謝り、カールも『恐縮です』とだけ言って、帰って行った。


「それで、カサンドラについてだけどもう一人きたら話そと思う。それまで風呂に入ってくる?」

「もう一人?」


 トントントン


 そう話していたところで、扉が叩かれ侍従が確認するとヴィリーだった。


「あぁ、もう来たの?
 ごめんフォルク、揃ったみたいだ。」


 そう言って、ヴィリーを部屋の中に招き入れた。
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