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5. いつもの舞踏会、だと思ったのに
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(はぁ…舞踏会、早く終わらないかしら。)
アルフォンシーナは、いつもと変わらず壁の花となっていた。
始まってすぐは友人達と話しができるので楽しいのだが、ダンスが始まると、友人達は一人、また一人と誘われてダンスホールへと行ってしまう。それが少し寂しいと思っていたアルフォンシーナであった。
(はー…男性と手を取り合って目を見つめ合ってにこやかに笑い合い、踊る事の何が楽しいのかしら。)
アルフォンシーナは、踊る事が出来ない。いや、踊るだけなら完璧に努めあげるが、相手と会話を楽しんだり、見つめ合う事が出来ないのだ。微笑むなんてもっての他。だから、アルフォンシーナは、ダンスを断っているのだ。
(相手だって、そんな事もしない私と踊るのは嫌でしょうし。…私の笑顔なんて、ひどいものなのでしょうから。)
両親と一緒に来ている為、舞踏会が終わるまでは会場にいないといけない為、先に帰る事も出来ないのだ。
気分が悪くなった人用に、部屋が用意してある。そこへ下がってもいいのだが、自分は体調が悪くなったわけでもない為、わざわざそこを使おうとも思わなかった。それに、本当に体調が悪い人も使うのはもちろんであるが、体調が悪くない男女で部屋に向かうのを見掛ける事もある。邪推されるのも良くないとベルティーナには言われていた。
「もし、部屋を使わせていただくなら絶対に王宮に仕えている給仕を伴いなさい。一人で行ってはなりませんよ!」
女性が一人で部屋に行くと、男性が押し入って来る事もあると恐ろしい話を聞いたアルフォンシーナは、絶対にそうするものかと思っていたのだった。十六歳のアルフォンシーナは、男性の力には適わないと理解していたのだ。
(そうだわ!庭園にいきましょう。)
庭へと繋がるテラスから外へ出て、アルフォンシーナは、庭園に向かう。地面はほの暗いが照らされているので、見えない事はない。
けれども、近くは男女のペアの先客がいた為に、噴水を越えた奥の生け垣の方へ行こうと思った。
庭園では、会場を抜け出し、二人だけの世界で愛を語らう男女もいるのだ。
(私には、縁の無い光景だわ。)
それを見ないようにして、奥へと進む。
夜なので色は分からないが、たくさんの種類の花が咲いているから綺麗に見えるのだ。
(昼とは違うけれど夜も、淡い光に当たって綺麗だわ。)
庭園には、制服を着た国防軍の警備隊員が遠巻きではあるが見回りをしている。だから、安心だと思って中に入って行った。
(あまり離れ過ぎると、帰りが面倒だわ。)
それでもアルフォンシーナは、噴水の音が聞こえる範囲の生け垣の影のベンチに座り、少しだけ目を瞑る。
ダンスを踊る為に流れている演奏の音楽は会場にいた時よりも小さめに聞こえ、虫の音がよく聞こえた。
(え?)
アルフォンシーナが、目を瞑り、虫の音に耳を傾けていると、そこへ近づいてくる足音と、話し声が聞こえた。
「なんだよ!本当に気色悪い!許可なく触れるんじゃねぇっつーの!……あ。」
「!」
その人物は、いつもにこやかに微笑みを絶やさないと有名な、ヴァルフレード=アンドレイニ侯爵令息だった。
短く切り揃えられた赤茶色の髪は清潔感があり、そのような野蛮な言葉には似つかわしいとアルフォンシーナは思った。
(え?聞き違い?ずいぶんと言葉遣いが荒々しく聞こえたけれど…)
ヴァルフレードは、体つきががっしりとしていて背もかなり高い。顔が小さいアルフォンシーナよりも頭三つ分以上ある。
アンドレイニ侯爵家は国の治安維持管理をする国防軍に代々所属している。ヴァルフレードの父ボニートも、現役の国防軍長官だった。
しかし、ヴァルフレードはなぜだかその見た目とは裏腹にいつも微笑んでいる為に令嬢からの人気が高かった。
背が高いのと、体つきが大きい為に微笑んでいなければ女性からは怖くて恐れられていたはずだ。
「え!?アルフォンシーナ!?」
そう呼ばれたアルフォンシーナは、相手も自分の事を知っているのだと思った。だが、年齢も五歳離れている為に公式の場で挨拶をした事があったかしらと思い返していると、向こうが咳払いをし、再度口を開いた。
「す、済まない…いや、ごめん。驚かせたよな?
アルフォンシーナ。よければ、隣に座ってもいいかな?」
そう言われたアルフォンシーナは、意外だと驚き、でもまぁここ辺りまで入ってくる人はそうそういないだろうと了承する。きっと、彼も人混みに疲れ、座れるところを探していたのだろうと思ったのだ。
「どうぞ。」
ぶっきらぼうにそう言うと、悪く思う風でもなくヴァルフレードはにこりと笑って、アルフォンシーナとは目いっぱい距離を空けてベンチの端に座った。
それを見たアルフォンシーナは、意外にも配慮が出来る人なのだと見直した。
遠巻きに、社交界で聞こえてくる噂とは違う人物なのだと思ったのだ。
(ヘラヘラと笑顔を浮かべているだけの人ではないのね。こういう時、女性の近くにくっつくようにわざと座る男性もいるらしいもの。)
「ありがとう。アルフォンシーナ。相変わらず優しいね。」
「?私の事、ご存じですの?」
「え?あぁ…昔二度ほど会っただろう?なんだ…覚えていないか…。じゃあ挨拶からした方がいいか。
ヴァルフレード=アンドレイニと申します。アルフォンシーナ=ソルディーニ姫様、以後、お見知りおきを。」
ヴァルフレードはそう恭しく言って、ベンチから立ち上がるとアルフォンシーナの前に跪き、そう挨拶をした。
「あ、や…止めて下さい!ヴァルフレード様!私もお名前は存じております!朗らかに良く笑うヴァルフレード様と!お立ちになって?お願いします!」
アルフォンシーナはそんな丁寧な挨拶をされた事がなかったので慌てて立ち上がり、早口でそう言った。
(あら…?でもこんな事、前にもどこかで…?)
アルフォンシーナは、このように丁寧に挨拶をされた事が以前にもあった様な気がして、首を捻る。
「あぁ……そうだね。そして変な事を聞かれてしまって、俺は心底恥じているよ。じゃあ座ろうか。」
ヴァルフレードは、アルフォンシーナが首を傾げたのには気づかずそう言って、座るように促した。
「あの…」
「ん?」
「昔、ヴァルフレード様とお会いしたのですか?」
「あぁ…俺の父と、君のお父さんが知り合いだったのだよ。それで君たち三姉妹が遊びに来ていたね。」
「そうでしたか…私覚えておらずすみません。」
「あぁ、いいよ。小さかったからね。それに…いつの間にか来なくなって…」
「え?」
「あ、いや。いいんだ。アルフォンシーナは…って昔のように呼んでしまったけれど、だめだったかな?」
「い、いえ…大丈夫です。」
アルフォンシーナは、ヴァルフレードがなぜだか酷く淋し気で、悲しそうに言った言葉の最後が聞き取れず聞き返したが、はぐらかされてしまった。
アルフォンシーナは、ヴァルフレードが座った時に爽やかな香りがふわりと鼻を抜けていった気がした。それを嗅いだからなのか、なんだかヴァルフレードの傍にいると懐かしいような、なんとも言えない気持ちになって、自分が自分では無いみたいに思え、下を向いてしまう。
「良かった…アルフォンシーナも、人混みに酔ったのか?」
「え、ええ…。」
「そうか。俺もあまり舞踏会の空気は合わなくてな。逃げて来たんだ。」
「ヴァルフレード様でも合わない、なんてあるんですね。」
いつも微笑みを絶やさないヴァルフレードもそんな事があるの?と不思議に思い、アルフォンシーナは視線を上げて聞く。
「あるさ。というか…俺の事を大して知っているわけでもないのに寄ってきて、腕を絡めてくるなんて…男がそんな事したら軍隊が捕まえにくる案件だと思わないか?あー…アルフォンシーナには刺激が強すぎたかな、ごめん。」
「い、いえ…。ヴァルフレード様がそのように考えられているとは思いませんでした。いつもにこにこと微笑みを浮かべていらっしゃるので、怒りを知らないのかと…。」
「はは!そう思われてたか!まぁ、俺だって貴族だからね。本音を隠して社交をしているのさ。でも、アルフォンシーナには本音が言えてしまうよ。懐かしいからかな。」
「そんな…。」
「それに、母に言われたんだ。『お前は厳ついから、朗らかにしていないと令嬢が怖くて近づけないよ!』とね。
でも今思えば、別に近寄ってこなくても良かったんじゃないかと思うよ。勝手に腕を絡めようとする輩なんかは特にね!」
「そうだったのですね。お母様は、ヴァルフレード様の事を想ってご忠告されたのですね。」
「うーん、まぁそうだね。
…あ、そろそろお開きかな、曲が終わったようだ。残念だけど、行こう。そろそろ、ご両親の所へ行かないといけないだろう?」
「本当だわ…はい、ありがとうございました。お話出来て、意外な一面を知られて嬉しかったですわ。」
「うん、俺も楽しい時間をありがとう。また、話が出来る事を楽しみにしているよ。」
二人は、名残り惜しいとお互いに思ったが急いで会場へと戻った。
アルフォンシーナは、いつもと変わらず壁の花となっていた。
始まってすぐは友人達と話しができるので楽しいのだが、ダンスが始まると、友人達は一人、また一人と誘われてダンスホールへと行ってしまう。それが少し寂しいと思っていたアルフォンシーナであった。
(はー…男性と手を取り合って目を見つめ合ってにこやかに笑い合い、踊る事の何が楽しいのかしら。)
アルフォンシーナは、踊る事が出来ない。いや、踊るだけなら完璧に努めあげるが、相手と会話を楽しんだり、見つめ合う事が出来ないのだ。微笑むなんてもっての他。だから、アルフォンシーナは、ダンスを断っているのだ。
(相手だって、そんな事もしない私と踊るのは嫌でしょうし。…私の笑顔なんて、ひどいものなのでしょうから。)
両親と一緒に来ている為、舞踏会が終わるまでは会場にいないといけない為、先に帰る事も出来ないのだ。
気分が悪くなった人用に、部屋が用意してある。そこへ下がってもいいのだが、自分は体調が悪くなったわけでもない為、わざわざそこを使おうとも思わなかった。それに、本当に体調が悪い人も使うのはもちろんであるが、体調が悪くない男女で部屋に向かうのを見掛ける事もある。邪推されるのも良くないとベルティーナには言われていた。
「もし、部屋を使わせていただくなら絶対に王宮に仕えている給仕を伴いなさい。一人で行ってはなりませんよ!」
女性が一人で部屋に行くと、男性が押し入って来る事もあると恐ろしい話を聞いたアルフォンシーナは、絶対にそうするものかと思っていたのだった。十六歳のアルフォンシーナは、男性の力には適わないと理解していたのだ。
(そうだわ!庭園にいきましょう。)
庭へと繋がるテラスから外へ出て、アルフォンシーナは、庭園に向かう。地面はほの暗いが照らされているので、見えない事はない。
けれども、近くは男女のペアの先客がいた為に、噴水を越えた奥の生け垣の方へ行こうと思った。
庭園では、会場を抜け出し、二人だけの世界で愛を語らう男女もいるのだ。
(私には、縁の無い光景だわ。)
それを見ないようにして、奥へと進む。
夜なので色は分からないが、たくさんの種類の花が咲いているから綺麗に見えるのだ。
(昼とは違うけれど夜も、淡い光に当たって綺麗だわ。)
庭園には、制服を着た国防軍の警備隊員が遠巻きではあるが見回りをしている。だから、安心だと思って中に入って行った。
(あまり離れ過ぎると、帰りが面倒だわ。)
それでもアルフォンシーナは、噴水の音が聞こえる範囲の生け垣の影のベンチに座り、少しだけ目を瞑る。
ダンスを踊る為に流れている演奏の音楽は会場にいた時よりも小さめに聞こえ、虫の音がよく聞こえた。
(え?)
アルフォンシーナが、目を瞑り、虫の音に耳を傾けていると、そこへ近づいてくる足音と、話し声が聞こえた。
「なんだよ!本当に気色悪い!許可なく触れるんじゃねぇっつーの!……あ。」
「!」
その人物は、いつもにこやかに微笑みを絶やさないと有名な、ヴァルフレード=アンドレイニ侯爵令息だった。
短く切り揃えられた赤茶色の髪は清潔感があり、そのような野蛮な言葉には似つかわしいとアルフォンシーナは思った。
(え?聞き違い?ずいぶんと言葉遣いが荒々しく聞こえたけれど…)
ヴァルフレードは、体つきががっしりとしていて背もかなり高い。顔が小さいアルフォンシーナよりも頭三つ分以上ある。
アンドレイニ侯爵家は国の治安維持管理をする国防軍に代々所属している。ヴァルフレードの父ボニートも、現役の国防軍長官だった。
しかし、ヴァルフレードはなぜだかその見た目とは裏腹にいつも微笑んでいる為に令嬢からの人気が高かった。
背が高いのと、体つきが大きい為に微笑んでいなければ女性からは怖くて恐れられていたはずだ。
「え!?アルフォンシーナ!?」
そう呼ばれたアルフォンシーナは、相手も自分の事を知っているのだと思った。だが、年齢も五歳離れている為に公式の場で挨拶をした事があったかしらと思い返していると、向こうが咳払いをし、再度口を開いた。
「す、済まない…いや、ごめん。驚かせたよな?
アルフォンシーナ。よければ、隣に座ってもいいかな?」
そう言われたアルフォンシーナは、意外だと驚き、でもまぁここ辺りまで入ってくる人はそうそういないだろうと了承する。きっと、彼も人混みに疲れ、座れるところを探していたのだろうと思ったのだ。
「どうぞ。」
ぶっきらぼうにそう言うと、悪く思う風でもなくヴァルフレードはにこりと笑って、アルフォンシーナとは目いっぱい距離を空けてベンチの端に座った。
それを見たアルフォンシーナは、意外にも配慮が出来る人なのだと見直した。
遠巻きに、社交界で聞こえてくる噂とは違う人物なのだと思ったのだ。
(ヘラヘラと笑顔を浮かべているだけの人ではないのね。こういう時、女性の近くにくっつくようにわざと座る男性もいるらしいもの。)
「ありがとう。アルフォンシーナ。相変わらず優しいね。」
「?私の事、ご存じですの?」
「え?あぁ…昔二度ほど会っただろう?なんだ…覚えていないか…。じゃあ挨拶からした方がいいか。
ヴァルフレード=アンドレイニと申します。アルフォンシーナ=ソルディーニ姫様、以後、お見知りおきを。」
ヴァルフレードはそう恭しく言って、ベンチから立ち上がるとアルフォンシーナの前に跪き、そう挨拶をした。
「あ、や…止めて下さい!ヴァルフレード様!私もお名前は存じております!朗らかに良く笑うヴァルフレード様と!お立ちになって?お願いします!」
アルフォンシーナはそんな丁寧な挨拶をされた事がなかったので慌てて立ち上がり、早口でそう言った。
(あら…?でもこんな事、前にもどこかで…?)
アルフォンシーナは、このように丁寧に挨拶をされた事が以前にもあった様な気がして、首を捻る。
「あぁ……そうだね。そして変な事を聞かれてしまって、俺は心底恥じているよ。じゃあ座ろうか。」
ヴァルフレードは、アルフォンシーナが首を傾げたのには気づかずそう言って、座るように促した。
「あの…」
「ん?」
「昔、ヴァルフレード様とお会いしたのですか?」
「あぁ…俺の父と、君のお父さんが知り合いだったのだよ。それで君たち三姉妹が遊びに来ていたね。」
「そうでしたか…私覚えておらずすみません。」
「あぁ、いいよ。小さかったからね。それに…いつの間にか来なくなって…」
「え?」
「あ、いや。いいんだ。アルフォンシーナは…って昔のように呼んでしまったけれど、だめだったかな?」
「い、いえ…大丈夫です。」
アルフォンシーナは、ヴァルフレードがなぜだか酷く淋し気で、悲しそうに言った言葉の最後が聞き取れず聞き返したが、はぐらかされてしまった。
アルフォンシーナは、ヴァルフレードが座った時に爽やかな香りがふわりと鼻を抜けていった気がした。それを嗅いだからなのか、なんだかヴァルフレードの傍にいると懐かしいような、なんとも言えない気持ちになって、自分が自分では無いみたいに思え、下を向いてしまう。
「良かった…アルフォンシーナも、人混みに酔ったのか?」
「え、ええ…。」
「そうか。俺もあまり舞踏会の空気は合わなくてな。逃げて来たんだ。」
「ヴァルフレード様でも合わない、なんてあるんですね。」
いつも微笑みを絶やさないヴァルフレードもそんな事があるの?と不思議に思い、アルフォンシーナは視線を上げて聞く。
「あるさ。というか…俺の事を大して知っているわけでもないのに寄ってきて、腕を絡めてくるなんて…男がそんな事したら軍隊が捕まえにくる案件だと思わないか?あー…アルフォンシーナには刺激が強すぎたかな、ごめん。」
「い、いえ…。ヴァルフレード様がそのように考えられているとは思いませんでした。いつもにこにこと微笑みを浮かべていらっしゃるので、怒りを知らないのかと…。」
「はは!そう思われてたか!まぁ、俺だって貴族だからね。本音を隠して社交をしているのさ。でも、アルフォンシーナには本音が言えてしまうよ。懐かしいからかな。」
「そんな…。」
「それに、母に言われたんだ。『お前は厳ついから、朗らかにしていないと令嬢が怖くて近づけないよ!』とね。
でも今思えば、別に近寄ってこなくても良かったんじゃないかと思うよ。勝手に腕を絡めようとする輩なんかは特にね!」
「そうだったのですね。お母様は、ヴァルフレード様の事を想ってご忠告されたのですね。」
「うーん、まぁそうだね。
…あ、そろそろお開きかな、曲が終わったようだ。残念だけど、行こう。そろそろ、ご両親の所へ行かないといけないだろう?」
「本当だわ…はい、ありがとうございました。お話出来て、意外な一面を知られて嬉しかったですわ。」
「うん、俺も楽しい時間をありがとう。また、話が出来る事を楽しみにしているよ。」
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