6 / 31
6. あれは、淡い初恋だった気がするのに
アルフォンシーナの顔の表情が姉二人と違って動かなくなったのには理由があった。
まだ、学校にも通っておらず、庭を駆け回っていても微笑ましいと皆から言ってもらえる年齢で。
その時までは姉二人と同じくアルフォンシーナも表情がクルクルとよく変わる、三姉妹の中で一番天真爛漫で、末娘でもあったからか、良く笑う人懐っこい性格であった。
あれは、いつだったか。
アルフォンシーナにとって忘れたい過去であったからかもう、相手の顔なんて覚えていないし、どこで言われたかも覚えていない。
だが、確かに、素敵だと思っていた男の子に言われたのだった。
それまで楽しく遊んでいた、もしくは一緒にいたとアルフォンシーナは朧気ながら記憶している。だが、突然、その男の子が、
「笑うなよ。その笑顔は、見せないで。」
とアルフォンシーナへ言い放ったのだ。
アルフォンシーナは幼心にも、男の子と一緒にいて楽しいと思っていたし、淡い初恋だったと思っている。
どこかの、生け垣か何かが綺麗に整えられている庭園のような、綺麗な場所だったはずだ。
そこに行けばいつも、とても心落ち着くいい香りがしていた。
誰かの家に招待されたのか、その男の子の家だったのか。
けれどもそれ以降、その男の子に会っていない。もう、顔なんて覚えていないし、何処のだれかなんて事も分からない。
だが、アルフォンシーナは、それを言われた事で、笑う事が出来なくなった。
「笑うなよ」
それ以外にも何か言われた気がするが、笑うなと言われた事で、思考が停止した。
自分の笑顔は、人を不快にしてしまったのだと誤解をしたままーーー。
今までと打って変わったアルフォンシーナに、家族はとても心配した。それ以来、アルフォンシーナは現実から逃げるように自分の部屋で屋敷の書斎にある本をひたすら読むようになる。
王宮内にある図書館にも行きたいと、父にお願いをする事もあった。
そのせいで目が見えにくくなり、遠くのものは目を細めると少し見やすくなるのでどうしてもそれをする癖が抜けなくなる。
部屋にいるか、図書館へ出掛けるかしかしなかったアルフォンシーナに、両親は他の事も勧めるが、他の事にはアルフォンシーナは、首を縦に動かさなかった。
家族は、学校に通えば変わるかと思っていたが一向に良くならない。お友達に誘われお茶会などには行くのだが、顔の表情は大して変わらないままに卒業してしまった。
それならばと貴族の嗜みとされる事に誘い、家族で楽しい時間を過ごそうと何度も誘ってみる。
「アルフォンシーナ。すぐ近くの文化ホールに行かないかしら?オペラを見に行ってみましょう?」
「…オペラ、ですか?」
「ええ。バージリオと行くのだけれどね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?だから、楽しめるかと思って。」
「お父様と行かれるのでしたら、楽しんできて下さいませ。そもそも、子供は行ってはいけないのではないですか?」
「あら。それは一般席での話よ。
教養を身につける為に、見に行く子もいるらしいわ。それにソルディーニ家はボックス席だし、アルフォンシーナにはきっと楽しめると思うわ。」
「そうでしたか。でもやはり私にはまだ早いと思います。お母様、申し訳ありませんが、お二人で楽しんできて下さいませ。」
「……」
「アルフォンシーナ、絵画展に行きましょう?」
「お母様。絵画展ですか?」
「そうよ。アルフォンシーナ、あまり外に出掛けないでしょう?風景の絵画展があるらしいのよ。きっと旅行に行った気分になれるわ。行ってみましょうよ。」
「お母様…私には絵画の良し悪しが分かりませんわ。お父様と行って来て下さいませ。」
「そんな事言わないで?ほら。行きましょう?」
「お母様。楽しいと思う人が行かなければ、飾られている絵画にも失礼ですわ。行ってらっしゃいませ。」
「………」
「アルフォンシーナ、本を買いに行かないかしら?」
「ブルニルタお姉様、どうしたのですか?急に。」
「いえね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?お薦めの本を買おうかと思って。」
「それでしたら、お父様の書斎にありますわ。ご案内します。
それに、私が面白いと思ってもブルニルタお姉様が面白いと思うかは分かりませんわよ。」
「そ、そうね。あ、そうだわ。じゃあ最近リニューアルした雑貨屋があるらしいの。サムエレが街へ出た時に教えてくれたのよ。一緒に行きましょう?」
「雑貨屋…それでしたら、サムエレ義兄様とお出かけになられたらどうですか。サムエレ義兄様も喜びますわよ。」
「……」
なかなかにアルフォンシーナは一筋縄ではいかなかったのである。
まだ、学校にも通っておらず、庭を駆け回っていても微笑ましいと皆から言ってもらえる年齢で。
その時までは姉二人と同じくアルフォンシーナも表情がクルクルとよく変わる、三姉妹の中で一番天真爛漫で、末娘でもあったからか、良く笑う人懐っこい性格であった。
あれは、いつだったか。
アルフォンシーナにとって忘れたい過去であったからかもう、相手の顔なんて覚えていないし、どこで言われたかも覚えていない。
だが、確かに、素敵だと思っていた男の子に言われたのだった。
それまで楽しく遊んでいた、もしくは一緒にいたとアルフォンシーナは朧気ながら記憶している。だが、突然、その男の子が、
「笑うなよ。その笑顔は、見せないで。」
とアルフォンシーナへ言い放ったのだ。
アルフォンシーナは幼心にも、男の子と一緒にいて楽しいと思っていたし、淡い初恋だったと思っている。
どこかの、生け垣か何かが綺麗に整えられている庭園のような、綺麗な場所だったはずだ。
そこに行けばいつも、とても心落ち着くいい香りがしていた。
誰かの家に招待されたのか、その男の子の家だったのか。
けれどもそれ以降、その男の子に会っていない。もう、顔なんて覚えていないし、何処のだれかなんて事も分からない。
だが、アルフォンシーナは、それを言われた事で、笑う事が出来なくなった。
「笑うなよ」
それ以外にも何か言われた気がするが、笑うなと言われた事で、思考が停止した。
自分の笑顔は、人を不快にしてしまったのだと誤解をしたままーーー。
今までと打って変わったアルフォンシーナに、家族はとても心配した。それ以来、アルフォンシーナは現実から逃げるように自分の部屋で屋敷の書斎にある本をひたすら読むようになる。
王宮内にある図書館にも行きたいと、父にお願いをする事もあった。
そのせいで目が見えにくくなり、遠くのものは目を細めると少し見やすくなるのでどうしてもそれをする癖が抜けなくなる。
部屋にいるか、図書館へ出掛けるかしかしなかったアルフォンシーナに、両親は他の事も勧めるが、他の事にはアルフォンシーナは、首を縦に動かさなかった。
家族は、学校に通えば変わるかと思っていたが一向に良くならない。お友達に誘われお茶会などには行くのだが、顔の表情は大して変わらないままに卒業してしまった。
それならばと貴族の嗜みとされる事に誘い、家族で楽しい時間を過ごそうと何度も誘ってみる。
「アルフォンシーナ。すぐ近くの文化ホールに行かないかしら?オペラを見に行ってみましょう?」
「…オペラ、ですか?」
「ええ。バージリオと行くのだけれどね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?だから、楽しめるかと思って。」
「お父様と行かれるのでしたら、楽しんできて下さいませ。そもそも、子供は行ってはいけないのではないですか?」
「あら。それは一般席での話よ。
教養を身につける為に、見に行く子もいるらしいわ。それにソルディーニ家はボックス席だし、アルフォンシーナにはきっと楽しめると思うわ。」
「そうでしたか。でもやはり私にはまだ早いと思います。お母様、申し訳ありませんが、お二人で楽しんできて下さいませ。」
「……」
「アルフォンシーナ、絵画展に行きましょう?」
「お母様。絵画展ですか?」
「そうよ。アルフォンシーナ、あまり外に出掛けないでしょう?風景の絵画展があるらしいのよ。きっと旅行に行った気分になれるわ。行ってみましょうよ。」
「お母様…私には絵画の良し悪しが分かりませんわ。お父様と行って来て下さいませ。」
「そんな事言わないで?ほら。行きましょう?」
「お母様。楽しいと思う人が行かなければ、飾られている絵画にも失礼ですわ。行ってらっしゃいませ。」
「………」
「アルフォンシーナ、本を買いに行かないかしら?」
「ブルニルタお姉様、どうしたのですか?急に。」
「いえね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?お薦めの本を買おうかと思って。」
「それでしたら、お父様の書斎にありますわ。ご案内します。
それに、私が面白いと思ってもブルニルタお姉様が面白いと思うかは分かりませんわよ。」
「そ、そうね。あ、そうだわ。じゃあ最近リニューアルした雑貨屋があるらしいの。サムエレが街へ出た時に教えてくれたのよ。一緒に行きましょう?」
「雑貨屋…それでしたら、サムエレ義兄様とお出かけになられたらどうですか。サムエレ義兄様も喜びますわよ。」
「……」
なかなかにアルフォンシーナは一筋縄ではいかなかったのである。
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
捨てられた私は遠くで幸せになります
高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。
父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。
そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。
本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない!
これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。
8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。