【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる

文字の大きさ
9 / 27

9. 鉱山での入浴

しおりを挟む
「ここに、着替えがあるので各自持って行くのです。」



 グイドにそう言われ、食堂の隣にある小部屋を覗くと、そこは様々な大きさの作業着や男物の下着、布団カバーやシーツ、毛布などが整頓されて木で造られた棚に置かれていた。


「アレッシアは…これくらいか?」

「そうですね。ジャンパオロと同じくらいでしょうか。」

「おれを小さいように言うな!もう一年もすりゃ、グイドを抜かしてやるからな!」


 グイドよりも頭一つ小さなジャンパオロが、またもそう叫ぶ。アレッシアとジャンパオロとは背の高さが同じほどであるので、男心としては早く背が高くなりたいようで悔しそうな顔をしている。


「ふふ。ありがとう。」


 少し大きめのその新しい作業着をアレッシアが持つと、グイドはジャンパオロを横目に見てあしらいつつ更に説明をする。


「着替えは汚れたらいつでもここから持っていって大丈夫です。汚れた服は、この籠に入れて下さい。洗濯する人がやってくれるみたいです。」


 そう言って、腰くらいの高さまである、人がゆうに入れる大きさの籠をグイドは指差す。


「その点は楽だよなー。服も支給されるし、食事だって付いてる。洗濯もしなくて済むからな。」

「そうですね。あ、でも下着は人が穿いたのが嫌な人は、自分が持ってきたものを穿き続ける人もいますね。その場合は、この籠に入れずに自分で洗わないとですが。」

「!」


(そうなのね。そういえばここには、男物の下着しかないわ。私、自分のを持ってきてよかった!)


「じゃあついでに風呂へ行こうぜ。」

「…アレッシア、一度部屋に戻りますか?」

「なんでだよ、面倒じゃねぇか!」

「あ…えっと……一度戻りたい。場所を教えてくれれば、私一人で行くわ。」

「ジャンパオロ、慣れた僕らとは違うのですよ。アレッシアに気を遣わせないように!
大丈夫ですよ、アレッシア。一度部屋へ戻りましょう。」


 そう言って、グイドはニコリと笑ってジャンパオロの頭を軽くこついた。





☆★

 部屋に戻ったアレッシアは、自分の下着を持ち、部屋の外で待ってくれていたジャンパオロとグイドと共に風呂へと向かう。



 食堂から伸びる通路を奥へと歩いた先に、大きな衝立が正面に置かれたところにたどり着いた。衝立の奥ではもくもくと湯けむりが立ち上っている。
 衝立を横から回り込むと、木製で出来た棚に籠が等間隔に置かれている。籠が無い棚には、手を広げた大きさの布が綺麗に畳まれて入っていて、その前には床にこれまた大きな濡れた布がたくさん入った籠が置かれている。脱衣所、だ。

 その奥にはまた衝立が置かれ仕切られていて、湯がコポコポと沸くような音がしている。


「体を拭く布はここにありますからね、使い終わったらこの下にある籠に入れます。
この棚の籠には、着替えを入れます。」

「おい!アレッシア、悪いがお前は最後な!待ってろよ。
おれとグイドが先に入ってくるから、お前はその椅子にでも座って待っててくれ!」

「済みません。ジャンパオロは恥ずかしがり屋で人に裸を見られたくないのです。それなのに僕に背中を洗って欲しいなんてカワイイ奴でしょう?」

「うるせぇなぁ!時間が無くなる!早く入るぞ!
おい、アレッシア!向こう向いて座れよ!おれの体、見るんじゃねぇぞ!」

「え、見ないよ!」


 アレッシアは今まで遠慮していたがさすがに、そのように言い返してしまう。だがジャンパオロは気にもせずに口笛を吹きながら着替え始めたので、アレッシアは慌てて近くにあった木で出来た丸い椅子に座りジャンパオロとグイドから背を向けた。


「ひゃっほーい!」

「やめ、やめなさい!ほら、座って!」


 パタパタと風呂場へと向かったのだろう、すぐに衝立の向こうから声が聞こえる。ジャンパオロがはしゃぎ、グイドが体を洗おうとしているのかと想像が出来、アレッシアはクスリと笑ってしまう。


(なんだか、小さかった頃のカストの事を思い出しちゃうわ。真面目で、しっかり者のカスト。まだお別れして一日と経っていないのね…元気でいてね。)


 今は十二歳になった、弟のカストは父の跡を継ぐべく十歳の頃から学問だけでなく少しずついろんな経営についてを学んでいった。その為、少し年齢よりも大人びた口調をする時が増え、アレッシアも反抗されたり負かされる事も増えてきたのだ。
そんなカストも、幼い頃はアレッシアの近くで絵を描いたり、後を追いかけてきて共に遊んだ事もあった。


『おねぇたま』


 とそう言って、まだ上手く発音出来ない頃から、アレッシアの後を必死についてくる姿は、なんともあどけなく、とても愛おしく思ったものだった。



 長く、想いを巡らせていたようだ。
 アレッシアは不意に、ザバーと言う大きな水音と、ジャンパオロの声が聞こえた。


「はー良い湯だった!今日も疲れが吹っ飛んだ!なぁ、グイド!!」

「そうですね、さっぱりしました。」


 アレッシアはジャンパオロとグイドを見ないように、体を逸らすと膝に置いた手を握りグッと力を入れる。意識をしないようにしているのだ。
 ややもすると、着替え終わったようで二人がアレッシアの傍に来て声を掛けた。


「次はアレッシアな!」

「お待たせしました。僕らは衝立の外に居ますから。」


 そう言ってさっさと衝立の外にあるベンチに座りに行った。


(…良かった。一緒に入る事になったら、どうしようかと思ったわ!)


 アレッシアは早速、服を脱いで風呂場へと向かった。


「わぁ…!」


 アレッシアは、裕福ではなかったとはいえ伯爵の家であるから風呂は家にあり、使っていた。
だが、それとは全く別物だと思うほどの湯量である。


 三段ほど段差があり、そこを下へ降りると正面に湯船と、右側には洗い場がある。湯船は広く、何十人が一緒に入れるだろうか。さながら地底湖、のようである。
湯は、何箇所かある壁の割れ目から湯船へと常に流れ出ていて、湯は溢れている。洗い場の方にも、壁から湯が流れ出ている箇所が五箇所あり、それを桶に溜めて体を洗えるようになっている。

 アレッシアは早速、体を洗い、下着も丁寧に洗ってから桶に置いて、湯船へと入った。


(はー……本当に生き返るわぁ……!)


 アレッシアは、買い出しに町まで出掛けていたとはいえ、体力がずば抜けてあるわけではない。そこらの屋敷で引き篭もっている令嬢よりは体が動かせるだけだ。だから、今日半日ではあったが、スコップで体中を使って掘る事はとてつもなく大変であった。周りの者達に比べると、何度も休憩を挟みながらやったが、腕や腰などそこら中が痛くなった。
それでもアレッシアが掘った箇所は柔らか目の土であったらしく、離れた箇所で掘っていた人はミノととんかちでカンカンと高い音を鳴らしながら掘り進めている人達もいた。


(今日から、かぁ…そういえば、いつまでここで働けばいいのかしら。なんだ、あれよあれよという間に働く事になって、誰も詳しく教えてくれてないのだもの。)


 アレッシアは足をバタバタとさせた後に目を瞑り、今日一日あった事を思い返していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました。

まりぃべる
恋愛
アンネッタは、この国では珍しい桃色の髪をしている。 幼い頃母親に待っててねと言われたがいつまでたっても姿を現さず、泣いているところを拾われ、町の食堂につれていかれる。そして、その食堂を営む大将と女将と生活する事になり、そこの常連客達にもよくしてもらい、町の皆にアンネッタは育てられたようなものだった。 境遇も相まってか、幼い頃より周りの人達にとても可愛がられていた。 少し成長すると、偶然にも貴族の目に留まり養子に入る事となった。 平民だった時からは考えられないほどの裕福な生活を送る事で、アンネッタはだんだんと贅沢を覚えていく。 しかしあるとき、問題に巻き込まれてしまう。 責任を取らされる事となったアンネッタは、追放という形で国の端にある、廃れた場所でその後の生涯を送る事となる。 そんなお話。 ☆『王道』ではなく、まりぃべるの世界観です。それを楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界と似ている名前、地名、などがありますが、関係ありません。 また、現実世界と似たような単語や言葉があっても、若干言い回しや意味が違う場合があります。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

義妹がやらかして申し訳ありません!

荒瀬ヤヒロ
恋愛
公爵令息エリオットはある日、男爵家の義姉妹の会話を耳にする。 何かを企んでいるらしい義妹。義妹をたしなめる義姉。 何をやらかすつもりか知らないが、泳がせてみて楽しもうと考えるが、男爵家の義妹は誰も予想できなかった行動に出て――― 義妹の脅迫!義姉の土下座!そして冴え渡るタックル! 果たしてエリオットは王太子とその婚約者、そして義妹を諫めようとする男爵令嬢を守ることができるのか?

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea
恋愛
──私の事を嫌いだと最初に言ったのはあなたなのに! 婚約者の王子からある日突然、婚約破棄をされてしまった、 侯爵令嬢のオリヴィア。 次の嫁ぎ先なんて絶対に見つからないと思っていたのに、何故かすぐに婚約の話が舞い込んで来て、 あれよあれよとそのまま結婚する事に…… しかし、なんとその結婚相手は、ある日を境に突然冷たくされ、そのまま疎遠になっていた不仲な幼馴染の侯爵令息ヒューズだった。 「俺はお前を愛してなどいない!」 「そんな事は昔から知っているわ!」 しかし、初夜でそう宣言したはずのヒューズの様子は何故かどんどんおかしくなっていく…… そして、婚約者だった王子の様子も……?

【完結】花に祈る少女

まりぃべる
恋愛
花祈り。それは、ある特別な血筋の者が、(異国ではいわゆる花言葉と言われる)想いに適した花を持って祈ると、その花の力を増幅させる事が出来ると言われている。 そんな花祈りが出来る、ウプサラ国の、ある花祈りの幼い頃から、結婚するまでのお話。 ☆現実世界にも似たような名前、地域、単語、言葉などがありますが関係がありません。 ☆花言葉が書かれていますが、調べた資料によって若干違っていました。なので、少し表現を変えてあるものもあります。 また、花束が出てきますが、その花は現実世界で使わない・合わないものもあるかもしれません。 違うと思われた場合は、現実世界とは違うまりぃべるの世界と思ってお楽しみ下さい。 ☆まりぃべるの世界観です。ちょっと変わった、一般的ではないまりぃべるの世界観を楽しんでいただけると幸いです。 その為、設定や世界観が緩い、変わっているとは思いますが、まったりと楽しんでいただける事を願っています。 ☆話は完結出来ていますので、随時更新していきます。全41話です。 ★エールを送って下さった方、ありがとうございます!!お礼が言えないのでこちらにて失礼します、とても嬉しいです。

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

処理中です...