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22. 誘い文句
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「あ!でも…そうよ私ここで働く為の前金を頂いたのよ。だからやっぱり…」
昼食を食べ終えたアレッシアは、フィオリーノへと申し訳なさそうに眉を下げて思い出した事を語りかける。
しかしフィオリーノは、それも想定済みだとばかりに手のひらを前に差し出してアレッシアの話す言葉を止め、フィオリーノが口を開いた。
「アレッシア。君は真面目でいつも全力だ。だから先に言わないといけなかったね、済まない。
アレッシア、心配しなくてもいい。アレッシアはこれから先の鉱山で働く人達の有り方を俺に教えてくれた。それはとても素晴らしく、鉱山で働く人達にとってとても有難い話となるだろう。
そんなアレッシアがここを辞めても、誰にも文句は言わせないよ。」
「え?でも…」
フィオリーノにそのように言われても、アレッシアには意味が分からなかった。自分はそんな大層な事はしていないし、ただ普通に生活していただけだと思っていた。むしろ、熱を出してしまったり、掘った穴に落ちてしまったりでしっかり働けていたのだろうかと疑問に思うほどだった。
「アレッシアには分からないかもしれないね。でもそれでいいんだ。俺に教えてくれたというだけで。
愛する人が危険の多い鉱山で働くという事は、残された人は胸が張り裂けそうになるほどの思いを胸にしているという事をね。」
「あい…え、それって……」
「そう。俺にとったらアレッシアがそうだよ。愛するアレッシア。君が危険のある場所で働いていて、命が助かったのはきっと奇跡なんだよ。そして俺はそれを大切にしたいんだ。」
フィオリーノに見つめられ、アレッシアは顔に熱が一気に集まるのを感じる。
「まぁ、だからアレッシアが辞めても、俺がここの為に働きかけるのだから大丈夫さ。」
「フィオリーノさんがそう言うのなら、大丈夫かもしれないけれど…でもフィオリーノさんってそもそも何者なの?」
アレッシアは、今まで思っていた疑問をフィオリーノへとぶつけた。鉱山長さえも気を遣っていたからそれなりに地位がある人なのかもしれないとなんとなく思っていたが、ついて行くとなれば聞いてみてもいいのではないかと思ったのだ。
「あーまぁそうなるよな。
俺は、ここの経営者の身内。ベルチェリ国側のね。」
(ベルチェリ国の人だったの!道理で博識なのね。ベルチェリ国はモンタルドーラ国よりも大国であるもの。え、でも経営者の身内?このイブレア鉱山の経営って確か……)
経営者とは国営だったのではなかろうか、と思い至った時、アレッシアは驚くと同時に全てにおいて納得がいった。
(まさか王族だったなんて…。私、そんな人について行って大丈夫かしら。
だからいろいろと博識であるし、威厳もあるのね。)
「それを知って、引かないで欲しい。アレッシアには、個人として接していたからね、一人の人として。
俺といれば確かにどうあっても地位は付いてきてしまうけれど、俺はできるだけ素のままでいたいし、アレッシアの力にもなる。だからそんなものに負けじと俺に付いてきてくれない?」
(フィオリーノさんはフィオリーノさんなりに大変なのかもしれないわね。確かに私といた時には、王族だとは思わなかったわ。王族ってもっと、威張っているものだと思ったもの。)
そのように考えたアレッシアは一つ頷くと、言葉を足した。
「フィオリーノさん、でも私、王族の仲間入りなんて出来るのかしら。」
そう言ったアレッシアに、フィオリーノはニヤリと笑いながら答える。
「あぁ、それは大丈夫。兄は俺が選んだ人ならって言ってくれているし。それに、兄とは余計な火種を生まない為に俺は宮殿から遠く離れた場所に住んでいるんだ。公爵の位はどうしても付いてくるけど、自然が多い地域だから気に入ってくれるといいな。宮殿には住めないけど…いい?そっちのが良かったか?」
「いいえ、宮殿なんて気後れしちゃうわ。」
「そう?それなら良かった。」
そう答えたアレッシアに、フィオリーノは心から嬉しいというような、ホッとした顔をする。
「それで、アレッシアは午後からはどうするの?なんとなく、午後からも作業場へ行く、と言い出しそうなんだけど。」
「ええと、私それよりもまず、落ちた場所の掃除をしないと行けないと思ってるの。作業場の人達へ挨拶もしたいけれど。」
「挨拶?」
「ええ。数日だけれど、今日までお世話になった場所だもの。パウロさんや、他の作業員の人達にご挨拶をと思って。」
「なるほどね。アレッシアらしいな。掃除は時間が掛かるだろうし、作業に入ると散り散りになるだろうから、挨拶を先にしてからにしようか。」
「あ、はい!え、フィオリーノさんも行ってくれるの?」
「あぁ。それから…そろそろフィオリーノと呼んでくれないかな。」
フィオリーノは、鼻の先を指先でポリポリと掻きながらアレッシアから目を少し逸らしてそう言った。
「あ…うん。フィオリーノ…?」
「…!ありがとう!」
フィオリーノは、アレッシアから視線を外していたが目を向け直すととても眩しい笑顔で礼を言った。
(!そ、そんなに嬉しいのかしら。でも、フィオリーノさん、いえフィオリーノが笑ってくれると私も嬉しく感じるわ。もっと見たいって思えてくるもの。でも、ちょっと恥ずかしいかも。)
アレッシアはそう心の中で思うと、そろそろ向かおうと椅子から立ち上がった。
☆★
昼食の片づけをしたアレッシアとフィオリーノは、アレッシアの作業場へと向かった。
そこでは、まだ作業が始まる音が鳴っていなかった為、皆が道具の置いてある広くなった場所で集まっていた。パウロも、近くの作業員と談笑している。
「お!新人!大丈夫だったのか?」
アレッシアに気づいた者達が次々に話し掛けてくる。それに、アレッシアは一人ずつお礼を述べると、皆に向かって挨拶をした。
「ご心配おかけしました。あの、私…訳あって今日でここを離れます。少しの間でしたけれどありがとうございました。」
ペコリと、腰を曲げたアレッシアに皆は口々に返す。
「随分と早いな、まぁ人生いろいろだもんな。ま、頑張れ!」
「新人!気をつけろよ。」
「はい!ありがとうございました!
パウロさんも、ありがとうございました。」
近くにいたパウロにも、視線を合わせてそのように挨拶をした。
「ああ、いろんな新人を見てきたからな、お前さんは特に頑張り屋だったよ。」
そのように言ったパウロは、今までの新人にしてきたように頭をグリグリとしようとしたが、フィオリーノが射抜くような鋭い目で見ているのを目の片隅で捉え、慌てて手を引っ込めた。
それからすぐに作業の始まる音が鳴った為に、邪魔にならないようにアレッシアとフィオリーノはその場を離れる事とし、アレッシアが落ちた場所へと向かった。
昼食を食べ終えたアレッシアは、フィオリーノへと申し訳なさそうに眉を下げて思い出した事を語りかける。
しかしフィオリーノは、それも想定済みだとばかりに手のひらを前に差し出してアレッシアの話す言葉を止め、フィオリーノが口を開いた。
「アレッシア。君は真面目でいつも全力だ。だから先に言わないといけなかったね、済まない。
アレッシア、心配しなくてもいい。アレッシアはこれから先の鉱山で働く人達の有り方を俺に教えてくれた。それはとても素晴らしく、鉱山で働く人達にとってとても有難い話となるだろう。
そんなアレッシアがここを辞めても、誰にも文句は言わせないよ。」
「え?でも…」
フィオリーノにそのように言われても、アレッシアには意味が分からなかった。自分はそんな大層な事はしていないし、ただ普通に生活していただけだと思っていた。むしろ、熱を出してしまったり、掘った穴に落ちてしまったりでしっかり働けていたのだろうかと疑問に思うほどだった。
「アレッシアには分からないかもしれないね。でもそれでいいんだ。俺に教えてくれたというだけで。
愛する人が危険の多い鉱山で働くという事は、残された人は胸が張り裂けそうになるほどの思いを胸にしているという事をね。」
「あい…え、それって……」
「そう。俺にとったらアレッシアがそうだよ。愛するアレッシア。君が危険のある場所で働いていて、命が助かったのはきっと奇跡なんだよ。そして俺はそれを大切にしたいんだ。」
フィオリーノに見つめられ、アレッシアは顔に熱が一気に集まるのを感じる。
「まぁ、だからアレッシアが辞めても、俺がここの為に働きかけるのだから大丈夫さ。」
「フィオリーノさんがそう言うのなら、大丈夫かもしれないけれど…でもフィオリーノさんってそもそも何者なの?」
アレッシアは、今まで思っていた疑問をフィオリーノへとぶつけた。鉱山長さえも気を遣っていたからそれなりに地位がある人なのかもしれないとなんとなく思っていたが、ついて行くとなれば聞いてみてもいいのではないかと思ったのだ。
「あーまぁそうなるよな。
俺は、ここの経営者の身内。ベルチェリ国側のね。」
(ベルチェリ国の人だったの!道理で博識なのね。ベルチェリ国はモンタルドーラ国よりも大国であるもの。え、でも経営者の身内?このイブレア鉱山の経営って確か……)
経営者とは国営だったのではなかろうか、と思い至った時、アレッシアは驚くと同時に全てにおいて納得がいった。
(まさか王族だったなんて…。私、そんな人について行って大丈夫かしら。
だからいろいろと博識であるし、威厳もあるのね。)
「それを知って、引かないで欲しい。アレッシアには、個人として接していたからね、一人の人として。
俺といれば確かにどうあっても地位は付いてきてしまうけれど、俺はできるだけ素のままでいたいし、アレッシアの力にもなる。だからそんなものに負けじと俺に付いてきてくれない?」
(フィオリーノさんはフィオリーノさんなりに大変なのかもしれないわね。確かに私といた時には、王族だとは思わなかったわ。王族ってもっと、威張っているものだと思ったもの。)
そのように考えたアレッシアは一つ頷くと、言葉を足した。
「フィオリーノさん、でも私、王族の仲間入りなんて出来るのかしら。」
そう言ったアレッシアに、フィオリーノはニヤリと笑いながら答える。
「あぁ、それは大丈夫。兄は俺が選んだ人ならって言ってくれているし。それに、兄とは余計な火種を生まない為に俺は宮殿から遠く離れた場所に住んでいるんだ。公爵の位はどうしても付いてくるけど、自然が多い地域だから気に入ってくれるといいな。宮殿には住めないけど…いい?そっちのが良かったか?」
「いいえ、宮殿なんて気後れしちゃうわ。」
「そう?それなら良かった。」
そう答えたアレッシアに、フィオリーノは心から嬉しいというような、ホッとした顔をする。
「それで、アレッシアは午後からはどうするの?なんとなく、午後からも作業場へ行く、と言い出しそうなんだけど。」
「ええと、私それよりもまず、落ちた場所の掃除をしないと行けないと思ってるの。作業場の人達へ挨拶もしたいけれど。」
「挨拶?」
「ええ。数日だけれど、今日までお世話になった場所だもの。パウロさんや、他の作業員の人達にご挨拶をと思って。」
「なるほどね。アレッシアらしいな。掃除は時間が掛かるだろうし、作業に入ると散り散りになるだろうから、挨拶を先にしてからにしようか。」
「あ、はい!え、フィオリーノさんも行ってくれるの?」
「あぁ。それから…そろそろフィオリーノと呼んでくれないかな。」
フィオリーノは、鼻の先を指先でポリポリと掻きながらアレッシアから目を少し逸らしてそう言った。
「あ…うん。フィオリーノ…?」
「…!ありがとう!」
フィオリーノは、アレッシアから視線を外していたが目を向け直すととても眩しい笑顔で礼を言った。
(!そ、そんなに嬉しいのかしら。でも、フィオリーノさん、いえフィオリーノが笑ってくれると私も嬉しく感じるわ。もっと見たいって思えてくるもの。でも、ちょっと恥ずかしいかも。)
アレッシアはそう心の中で思うと、そろそろ向かおうと椅子から立ち上がった。
☆★
昼食の片づけをしたアレッシアとフィオリーノは、アレッシアの作業場へと向かった。
そこでは、まだ作業が始まる音が鳴っていなかった為、皆が道具の置いてある広くなった場所で集まっていた。パウロも、近くの作業員と談笑している。
「お!新人!大丈夫だったのか?」
アレッシアに気づいた者達が次々に話し掛けてくる。それに、アレッシアは一人ずつお礼を述べると、皆に向かって挨拶をした。
「ご心配おかけしました。あの、私…訳あって今日でここを離れます。少しの間でしたけれどありがとうございました。」
ペコリと、腰を曲げたアレッシアに皆は口々に返す。
「随分と早いな、まぁ人生いろいろだもんな。ま、頑張れ!」
「新人!気をつけろよ。」
「はい!ありがとうございました!
パウロさんも、ありがとうございました。」
近くにいたパウロにも、視線を合わせてそのように挨拶をした。
「ああ、いろんな新人を見てきたからな、お前さんは特に頑張り屋だったよ。」
そのように言ったパウロは、今までの新人にしてきたように頭をグリグリとしようとしたが、フィオリーノが射抜くような鋭い目で見ているのを目の片隅で捉え、慌てて手を引っ込めた。
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