【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる

文字の大きさ
21 / 27

21. 心配、とは

しおりを挟む
「アレッシア!大丈夫だったのか!心配したんだ…」


 そう言うと、アレッシアの傍まで来たフィオリーノは、アレッシアの前に優しく手を差し出し、アレッシアを引き寄せる。


「何処も怪我は無いか?ん?痛いところは?」


 アレッシアの両肩から両腕へと確認するように握りながら身を屈め、目線を合わせたフィオリーノは、今まで大きな声を張り上げ怒号を飛ばしていた事が嘘のように優しく問う。
そのフィオリーノに、アレッシアは戸惑いながらも視線を合わせながら答えた。


「えぇ、多分。
泥だらけになったから、お風呂に入ってきたの。」

「そうか…良かった……。今日休めと言ったじゃないか。体調が万全でないから、無理がたたったんじゃないか?」

「ごめんなさい。だって…もうすっかり良くなったのだもの。前金は頂いているのだから、しっかり働かないと、と思ったの。」

「そうか…アレッシアはしっかり者だったな。でもな、無理はしなくていいんだ。こういう重労働なところでは特にね。判断力が鈍ってもいけないからだよ。」

「そうなのね。」

「アレッシア…でも良かった。本当に良かった……」


 そう言うとフィオリーノは立ち上がり、アレッシアを自身に引き寄せると両手をアレッシアの背中に回してしっかりと包み込んだ。


「え!?」

「あぁ、良かった…アレッシア……」


 驚いたアレッシアだったが、そのように微かに聞こえる程の声で呟いたフィオリーノの声は震えているようで、アレッシアはされるがままになっていた。




 それを見た一同は、顔を見合わせて頷くとガスパレとチーロはこれ幸いだと傍を離れた。
 カジョとチュイもなんだか良く分からないが、先ほどまで怒りを露わにしていたフィオリーノと呼ばれる人物はアレッシアをとても心配していたのだと分かり、それなら託していいかと頷き合って厨房へと戻って行った。





「あの…フィオリーノさん。」

「ん?」


 ずいぶんと経ち、午前の作業が終わりだと告げる音が鳴り始めるとアレッシアは声を上げる。


「そろそろ、お昼ご飯の時間だと思うの。皆がここへ来るわ。」

「もうそんな時間か。アレッシア、食事摂れそうか?」


 フィオリーノは名残り惜しそうにゆっくりと腕の力を緩めると、アレッシアを離し目線を合わせてそう言った。


「ええ。食べたいわ。フィオリーノさんも一緒に食べましょう?」

「そうだな、そうしよう。」


 アレッシアは良く分からないが、フィオリーノが自分の事をとても心配してくれたのだと分かり胸がじんわりと温かく感じたのだ。そして、フィオリーノに抱き締められていた手を緩められた時になぜたが少し寂しさを覚えたアレッシアは、もう少し一緒にいたいと昼食を誘ったのだった。





☆★

 アレッシアは、食堂でフィオリーノと向かい合って座り、食事を摂っている。


 今日の昼食は白身魚のミルクスープとパンであった。
食事を作ってくれているのが、自分が今までコンシリアと共に買い物に行っていた店の息子だったのだと知り、アレッシアはなんだかくすぐったさを覚えた。


(バンケッテ領の人がここの料理を作っているなんて。皆がとても食事を楽しみにしているわ。なんだか誇らしい気分ね。)


 自分の事ではないのに、バンケッテ領が褒められたようでなんだかアレッシアまで嬉しい気持ちになったのだった。



「あのね、アレッシア。」

「え?」


 顔を上げたアレッシアは、フィオリーノがいつになく真剣にアレッシアを見つめているのに気がついた。


「俺、今回の事で胸が締め付けられるような思いをしたんだ。」


 アレッシアはフィオリーノの目を見つめながら一つ頷く。


「実は、俺はここに仕事で来ているんだが、一度に報告する事が出来たんだ。だから、明日ここを出発するよ。」

「!」


 ここを出発すると聞いたアレッシアは、たった今フィオリーノも言っていたが今度は自分が胸が締め付けられるような思いを抱いた。


(私がフィオリーノさんを見かけたのはたいてい食堂で、作業の時間中なのにそこでよく座っていたわ。だから、掘る仕事ではないとは思っていたけれど…そうなのね。ここを離れるって聞いて、ちょっと淋しいかも。)


 それを聞き、これまでは温かい気持ちで胸がいっぱいだったアレッシアだったが、途端に胸が苦しくなってしまい、俯き、食べかけの食事を見つめた。


「それでね、アレッシア。…聞いてる?アレッシア。」


 声に出す事が咄嗟に出来ず、俯きながら頷くアレッシアに、今まで視線を合わせてくれていたのにどうしたのかと思いながらも、柄にも無く緊張していたフィオリーノはふぅと深呼吸をしてから、また口を開いた。


「アレッシアを置いていくには心臓が幾つあっても足りなくてね。知っているとはいえやはり鉱山の仕事は危険がつきものだから。
…だから、アレッシア。君も俺について一緒に来てくれないかな。」

「!!」


 俯きながらもどうにか話だけは聞かないとと耳を傾けていたアレッシアは、最後の言葉に耳を疑い、顔を上げフィオリーノの方を見つめた。


「どうかな?俺、アレッシアと離れたくないんだ。」


 緊張していたフィオリーノは少し、声も震えていた。だが、アレッシアはそれには気が付かなかった。
アレッシアは、もう一度そのように言ったフィオリーノの目をジッと見つめ、息を吐くように呟いた。


「ほんとに?」

「もちろん!俺がアレッシアに嘘を付くなんてあり得ない。アレッシアが居なくなるなんて考えたくないんだ。だから、お願いだ。一緒に来てくれないか。」

「…!」


 ここへ来てアレッシアは、バンケッテ領での友人達が言っていた、男性から言われてついて行くと言っていた気持ちがなんとなく理解出来るような気がした。
 けれどもアレッシアは、嬉しい言葉を言われたから肯定の意を示したいのでは無い。たった数日ではあるが、フィオリーノという一人の男性と過ごして感じた想いがあったからこそ、嬉しい言葉を掛けられて気持ちが舞い上がる程に胸が熱くなったのだ。


 アレッシアは、口元を手で押さえ、叫び出しそうな声を抑えながらフィオリーノを尚も見つめる。すると、ジワジワと目頭までもが熱くなってきた。


「アレッシア?こんな、人気のある場所ではあるけれど、返事を聞かせて欲しい。声を聞かせてくれないか?」

「…うん。」


 アレッシアはそう促され、どうにか喉に力を込めて返事をするが、周りの喧騒にかき消されそうなほどの大きさの声だった。それでも、フィオリーノには充分過ぎるほどの返事だった。


「良かった…!
さ、とりあえず残りの食事をいただこう。続きの話はそれからだな!」


 フィオリーノは晴れやかな顔でそう言うと、カップに残っていた紅茶を飲み切ってから再びアレッシアを優しい眼差しで見つめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

無能扱いされ、パーティーを追放されたOL、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。 

さら
恋愛
かつて王都で働いていたOL・ミナ。 冒険者パーティーの後方支援として、管理と戦略を担当していた彼女は、仲間たちから「役立たず」「無能」と罵られ、あっけなく追放されてしまう。 居場所を失ったミナが辿り着いたのは、辺境の小さな村・フェルネ。 「もう、働かない」と決めた彼女は、静かな村で“何もしない暮らし”を始める。 けれど、彼女がほんの気まぐれに整理した倉庫が村の流通を変え、 適当に育てたハーブが市場で大人気になり、 「無能」だったはずのスキルが、いつの間にか村を豊かにしていく。 そんなある日、かつての仲間が訪ねてくる。 「戻ってきてくれ」――今さら何を言われても、もう遅い。 ミナは笑顔で答える。 「私はもう、ここで幸せなんです」

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

私を追い出したらこの店は潰れますが、本当に良いんですね?

真理亜
恋愛
私を追い出す? この店を取り仕切っているのは私ですが、私が居なくなったらこの店潰れますよ? 本気いや正気ですか? そうですか。それじゃあお望み通り出て行ってあげます。後で後悔しても知りませんよ?

従姉の子を義母から守るために婚約しました。

しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。 しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。 再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。 シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。 ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。 当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって… 歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

処理中です...