【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる

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20. さっぱりしたあとに

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 アレッシアは体中が痛くはあったが、皆が心配する程は怪我も無く、自分の足で動けた為に風呂へと案内された。
この時間はまだ誰も風呂を使ってはいないので気兼ねなく入ればいいと料理長のカジョと料理人のチュイに言われた。


「念のために僕とカジョが見張っているから。ジャンパオロは戻って片付けをさせておいて。
あ、そうでした。着替え用の服を持って来ますね。」


 そう言うと、チュイは走って服を取りに行った。


「えーお前ら大丈夫なのか?アレッシア、こいつらと知り合いなんだろ?信頼出来るのかよ。」

「信頼…?」


 アレッシアはそう言われ、間接的には知っているが信頼しているかと聞かれたので首を傾げる。そもそも、なぜ風呂に入るだけなのに信頼してないといけないのかと疑問に思ったのだ。


「ジャンパオロ。いいから行って下さい。アレッシア様が風呂に入れません。
アレッシア様はどうぞ行って下さい。あ、よく体や髪を洗ってから湯船に入るのですよ。」

「分かりました。ジャンパオロさん、ありがとう。ごめんなさい、私が汚したのに。あとで私も行きますからそれまで片付けをお願いします。」


 ジャンパオロがなかなかそこから動かないので、アレッシアもそう言うとやっと、ジャンパオロは足を動かしブツブツと文句を言いながらも元来た道を戻って行った。




☆★

 アレッシアは、全身泥を被ったような状態になっていた。だから脱衣所で服を脱がずにそのまま風呂場へと直行し、そこで服を脱いで服や靴なども洗う事にした。


(乾いてきてるわ。早く洗わないと。)


 自身の顔や髪に付いた泥が乾いてきて張り付き始めており、取るのにも少し手間取ったがどうにか取れ、やっと解放された気がしたアレッシアは、ゆっくりと湯船に浸かる。


(あー気持ちいい!床が抜けた時にはどうなる事かと思ったけれど、どうにか怪我も無くて良かったわ。)


 アレッシアはそう思いながら口元まで湯船に浸かり、二十ほど数えると風呂を出る為に立ち上がった。


(ゆっくりしたいけれどまだ仕事の時間ではあるものね。そろそろ上がらないと。)




ーー


 服を洗っている時に、衝立の向こう側で『着替えを置いておきます!』とチュイの声が聞こえていた。

 脱衣所に入ると真ん中程に着替えが置いてあったので、布で体を拭いてからそれに素早く着替えると、汚れて下洗いをした服などと布を、濡れた洗い物を入れる籠へと入れ、衝立の向こう側へと急いだ。




「お待たせしました!」


 アレッシアがそう言ってカジョとチュイの方へ行くと、では行きましょうと歩き出した。


「そろそろ、昼食の準備があります。もうあらかた準備は終えていて、あとは盛るだけなので他の者にやらせてもいいのですが、指示をする為に私達は一度職場へ戻らねばなりません。」

「なのでアレッシア様、部屋まで送りましょう。」

「ありがとう。でも…私も仕事中だから…」


 そう言って歩いているとかなり遠くからではあるが、言い争っているような声が聞こえた。


「ーーー!!」

「ーーーーー!!」


「おや、喧嘩ですかね。」

「止めに入るか?それとも参戦するか?」

「何言ってるんだ、チュイ。でもまぁ、ちょっと様子を見てみるか。」


 そう言って三人は声のする方へと足を向けると、辿り着いたのは食堂であった。


「だから!俺が行けば早いだろう!!いかせろよ!」

「いけません!ここはモンタルドーラ国側です。フィオリーノ様に何かありましたら、ベルチェリ国が黙ってはいませんでしょう。戦争になってしまいます!!」

「俺は内密で来ている。は知らないからその辺りは気にするな!」

「いえ、気にするなと言われましても見過ごせません!内密に行動されていたとしても、ベルチェリ国の国王であるガブリエーレ様はお気づきであられるでしょうし、弟君と連絡が付かなくなれば捜索されるはずです。隠し通せるはずもありません!
フィオリーノ様はどうかここでお待ち下さい!どうにかして対策を考えますから!」

「だったらその対策とやらを言ってみろ!ここで話している間にアレッシアが……いや、考えたくも無い!とにかく、一刻を争うのだ!」


 机を囲んではいるが座ってはおらず、うろうろと動いてはそのように怒鳴るフィオリーノと、向かいにいるガスパレがそのように話し、いや、怒鳴り声を上げ合っていた。
それをどうすればいいかと、二人を交互に見ながらオドオドとしているチーロが、ガスパレの隣に立っていた。


(フィオリーノ様のあんな剣幕、初めてみたわ。怖い…ん?今、私の名前が出てきた?)


 カジョもチュイも食堂へと来たが、そのように言い争っている為に近づいていいものか迷い、入り口で立ち止まった。その後ろにアレッシアは立っていたが、彼らより背が低い為にフィオリーノ達からはアレッシアの姿は陰に隠れて見えなかった。


 チーロが、ガスパレとフィオリーノよりも早く入り口に人がいる事を気づき、これ幸いだと声を上げた。


「あんれ料理長と、料理人でねぇの。どーしたんだべ?」


 それに気を取られガスパレとフィオリーノも入り口に目を向ける。


「あ…いえ、向こうまで声が聞こえましたからどうされたのかと。」

「そうかぁ。あれ?でもそろそろ昼食の準備の時間でねぇの?まさか、厨房まで声が聞こえたんか?そりゃあ大変だ!他の作業員達もびっくりするといけねぇし、は、もう少し落ち着いてやってもいいべ。な?」


 チーロはわざとそう言って、フィオリーノに落ち着いてもらえないかと提案する。


「あ、いいえ。厨房まで聞こえたわけでは…実はちょっといろいろとありまして。風呂を使っていた次第です。
昼食には影響ありませんから。」


 と、カジョはそう簡単に述べた。


「いろいろ?なにか問題が?」


 ガスパレも、その言葉に目ざとく反応しカジョに投げかける。


「あ、いえ問題といいますか…上から人が降ってきまして、まぁ、その…」


 カジョも、鉱山長に直々に聞かれた為にもし事の全てを話した事で、アレッシアにお咎めがいったらいけないと言葉を濁した。カジョにとったらアレッシアは自分の住んでいる領主の娘である為に、護るべき存在であるのだ。その領主の娘に何かあってはいけないと、無意識にアレッシアを隠そうと後ろに手を回す。

 その動きを逃さず見たフィオリーノは、その入り口に立つ男達の後ろに誰かが立っているように思え、先ほどまでの怒気を少し抑えて声を掛ける。


「誰かそこに居るのか。」

「いえ…」


 その問答にアレッシアは、なぜカジョが自分を隠そうとするのかが分からなかったし、先ほどまでは怖い声で言い争っていたフィオリーノがどうして今まで自分に見せていたような雰囲気とは全く違うのか、気にもなった。その為、アレッシアは体を横にずれてカジョの体からはみ出した形で、フィオリーノを見た。


「どうし…アレッシア!?」


 フィオリーノは、ひょっこりと顔を出したのがアレッシアだと分かると、一気に入り口へと駆け出した。
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