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27. 訪ねて来た人
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「アレッシア様、急いでお着替えを致しましょう。」
アレッシアは昨日、フィオリーノが住むこのライナルディ公爵家にやって来た。
そして、通された部屋は二階にあるフィオリーノの隣の部屋で、日当たりもとてもいい部屋なのだと言われる。
内装も、壁紙は小さな花が草原に咲き誇っているようなもので、家具も最低限の物が置いてあるだけのとても心落ち着く部屋であった。
ベッドはさすが公爵家であるのかふかふかで、夜はベッドに寝転がったと同時に意識を失ってしまったかのようにアレッシアは良く眠れたのだった。
そして、少しゆっくりと起きたアレッシアを待っていたフィオリーノは、鉱山での生活の時と同じようにまた朝食を摂り、その後屋敷の案内を一通りゆっくりと会話をしながらされ、一度部屋へと戻ったアレッシアにカテーナがそのように言った。
「着替え?」
今着ている服は、急遽衣裳屋から取り寄せた既製品で、動き易いようにゆったりとした造りのくるぶしまであるワンピースではあるが高級品である。それなのに着替えとは、屋敷を案内された時にどこかで汚してしまったのかと思い、体を左右に動かして足元の後ろを見た。庭にも行った為、土でもついているのかと思ったのだ。
「あ、いえ、汚れているわけではありませんよ。お客様が到着されたようですので。」
「え?」
「ささ、こちらへ。」
アレッシアが細かく聞く前に、カテーナは急いで支度を整え始めた。
☆★
「やぁ、済まないね。いらっしゃい!」
キラキラと、その周りだけ輝いているのではないかと勘違いするようなほど、神々しいオーラを放ちつつ、長い足を組んで座っているその人物は、優雅に飲んでいた紅茶のカップを置いてからアレッシアに話掛ける。
その男性は、フィオリーノを少しだけ年齢を重ねさせたようだと気づいたアレッシアは、部屋へ入るなり緊張し、足を止めてしまった。
(フィオリーノに似てるわ。いえ、この場合、フィオリーノが似ているのね。って事は、お兄様の国王様って事よね…?)
隣には、これまた美しい女性と、両耳より上の頭の位置で髪を縛った小さな女の子が女性の隣に座っている。
「兄上!いらっしゃいってここは俺の家です!アレッシアが戸惑うではないですか!
アレッシア、大丈夫だよ、こっちへおいで。」
向かいに座っていたフィオリーノが優しい表情でアレッシアに手招きをする。アレッシアはそれをされ、やっとフィオリーノの隣へと腰を下ろした。
「アレッシア、済まない。呼んでもいないのにやって来た俺の兄のガブリエーレ国王だよ。それに、奥さんのクラリッサ王妃と、四歳になる二人の娘のコンソラータだよ。」
「どうも。君が、僕の可愛い弟のハートを射止めたアレッシアだね。よろしく。」
「ごめんなさいね、アレッシアさん。ガブリエーレが顔を見たいとどうしても言うものだから、それならって私と娘も一緒にご挨拶をさせてもらおうと思って着いてきてしまったの。」
「こんにちは!
アレッシアさん、とってもかわいい!おひめさまみたい!」
国王と王妃に続き、王女にまで声を掛けられ緊張しつつもアレッシアは失礼のないように言葉を繋ぐ。
「い、いえ!
もったいないお言葉、ありがとうございます。コンソラータ様こそ、とても素敵なお姫様ですね。」
「え!やだぁ!アレッシアさん、とってもいいひと!」
そう言って、コンソラータはソファから下り母親であるクラリッサの膝に抱きついて喜んでいる。それに良かったわね、と声を掛けるクラリッサは、コンソラータの頭をゆっくりと撫でている。
(本当に可愛いらしい…お人形みたいだわ。)
それを見ていたアレッシアは、少し緊張がほぐれ始めた。
「それで?来て下さったのは有り難いんですがね、俺が報告に上がるはずではなかったのですか?」
「フィオリーノが報告に来てくれるのは有り難いが、アレッシアまで連れて来るかは分からなかったからな。だから、僕が来た方がアレッシアに挨拶が出来ると思ってね。
アレッシア、フィオリーノは王族として生まれたせいでいろいろと大変な想いを抱えてこれまで生きてきたと思うのだよ。だから、フィオリーノを幸せにしてやってくれるかい?」
「兄上!俺がアレッシアを幸せにするのです!」
「何を言ってるんだ?
僕が兄で、フィオリーノが弟として生まれてしまった事で、お前がいろいろと僕に遠慮していたのは気づいているよ。
余計な火種を生まない為に、王宮から離れ、この国境近くに住むことにしたのもそうだろう?不憫とまでは言わないが、僕は申し訳なく思っているんだ。だから、フィオリーノからの進捗度の報告を兼ねた手紙に、結婚相手が見つかったと書かれていた時には驚きもあったが心底嬉しく思ったのだよ。」
「それはお互い様です。兄上も、王太子として大変な日々を過ごしておられたでしょう?そして、クラリッサ様とのご結婚を機に国王就任されたのも、若かった故それはもう気苦労が絶えなかったでしょう。それを傍で支えられず、申し訳なく思ってましたから。
でも、それとこれとは違います!
アレッシアという愛する人を見つけ、幸せにはなります。なりますが、決してアレッシアに幸せにしてもらうのでは無いのです!」
「分かった、分かった!
アレッシア、こんな弟ではあるが、よろしく頼むよ。」
「はい。共に幸せになります。」
お互いを想い合っていて、表立っては親しくなかったのかもしれないが、素敵な兄弟だと思ったアレッシアは、笑顔を向けて答える。
「アレッシア…!」
「いい返事だ。
…なんだその顔。フィオリーノのそんな腑抜けな顔が見られるなんてな!いい、いいぞ。このまま、早く子供が出来るといいな。コンソラータも遊び相手が欲しい頃であるし、なぁクラリッサ?」
「うふふふ。それは私からは何とも。
でもお二人の関係を見ていれば、すぐにでも家族が増えそうですわね。
アレッシアさん、子育てって大変だけれど、同時にとても幸せな気分にさせてくれるのよ。だからね、楽しみね!」
「ええっ!?」
今まで、フィオリーノとガブリエーレの話を聞いていたのだが、クラリッサから急にそのように振られ、赤面するアレッシア。
「クラリッサ様までアレッシアを揶揄わないで下さい。アレッシアはまだ十六歳で、初々しいのですから。」
「あら、揶揄ってなどいないわ。本当の事を言ったまでよ。
でも、そうなの…アレッシアさん十六歳なのね。アレッシアさんからしたら、フィオリーノ様は六歳も年上だけれど良かったのかしら?」
「クラリッサ様!いやだとここで言われたら俺はもう生きていけませんから!」
「え?今まで言ってなかったという事!?
アレッシアさん、フィオリーノ様に騙されてはいけませんわよ?大丈夫ですの?今ならまだ、無かった事に出来ますわよ?」
「な、無かった事!?」
そう言われ、フィオリーノは目を見開くほど驚き、悲痛にも似た声を出した。 アレッシアは、意外にもフィオリーノは揶揄われる事が多いのかもしれないとクスリと微笑みを浮かベながら答える。
「クラリッサ様、教えてくださりありがとうございます。でも、年上だとは思っておりましたし、大丈夫です!
でも、フィオリーノは私の年齢を知っていたのね。私、話していたかしら?」
アレッシアのその気持ちを聞き、フィオリーノは心から安堵しながら、体裁を整えつつアレッシアの目を見つめる。
「アレッシアの事は、大抵は知っていたよ。でも、これから傍でいろいろと知っていきたい。」
フィオリーノは、いろいろと調べていた事は口に出せずそのように言った。
どうせ、フィオリーノが調べ挙げたのだろうと思ったガブリエーレはニヤリと薄い笑みを浮かべながらフィオリーノを見遣っている。
クラリッサも、それをなんとなく気づきながらもアレッシアにその疑問にわざわざ答える事をしなかった。知らなくていい事も、これから増えていくだろうと自分に重ね合わせながら、未来あるアレッシアを微笑ましく見遣った。
「それでだが、フィオリーノ。すぐにでも婚姻が結ばれる事が出来るよう書類は持ってきたよ。」
「え、え?よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕を誰だと思っているんだ?国王だぞ?
もし、アレッシアに迷いがあるのであれば、書類を書いて僕の印鑑も押して、後は手続きをするだけの形にも出来るがね。」
「私ですか?迷い…?ありません。」
アレッシアはそう聞かれ、しばし考えたがやはりフィオリーノと過ごしてきた事を無かった事になんて出来ないと、そう言い切った。
「そうか。ではもう後戻りは出来ない。アレッシアは今日からフィオリーノの妻だ。共に支え合い、共に幸せになりなさい。」
ガブリエーレは先ほど、フィオリーノにあれだけ啖呵を切られた為にそのように言った。さながら結婚式のように。
「兄上…ありがとうございます。アレッシア、ありがとう。幸せになろう。」
「はい!」
アレッシアの元気の良い返事に、ガブリエーレは納得するように頷く。
「いい返事だ。では、書類は後ほどだな。
忘れる前に、イブレア鉱山の報告をしてくれるか。」
「あぁ…まあ、目立った悪さをしている奴は居なかった。さすがですね、兄上が推し進めた鉱山という事はありました。だが、やはりもう少し働いている作業員の人権をある程度向上させた方がいいと思います。」
「ほう…?」
「不慮の事故が起こった際や体調を崩した際、医師が少ないのです。ベルチェリ国側からの一人しかおらず、モンタルドーラ国側の医師がおりませんでした。その辺りは、モンタルドーラ国側の管轄と言われればそうかもしれませんが、鉱山の中は広く、一人では大変です。」
「なるほどな。まぁ、モンタルドーラ国は我が国ほど潤っていないからな。その辺りは我が国から輩出した方が何かと良さそうだ。」
「はい。
あと、事故に遭った際、見捨てられるのがほとんどです。鉱山労働者とは、そのように危険と隣り合わせと言われればそうなのかもしれませんが、中には助けられる命がある場合もあります。」
「ふむ…。」
「それから、来る者拒まずで、あとは知らぬ存ぜぬという感じです。働きたいと来た人はろくに誰かと確認する事も無く採用するようで、だから事故に遭ったとしてもそのままなのかもしれません。」
「なに?そうか…面接をし、名簿を作ってもいいかもしれんな。犯罪者の隠れ蓑にされても適わん。」
「それから…」
「その辺りは、今日しないといけない話かしら?」
「ん?なんだクラリッサ。」
ガブリエーレに聞かれフィオリーノが答えていたのだが、だんだんと飽きてきたコンソラータを見かねて、クラリッサはそのように口を挟んだ。
「そのような政治の話、私達には退屈ですもの。せっかく来たのに、コンソラータなんてぐずりだしてるのよ?」
「す、済まん!気づいてやれなかった!コンソラータ、外に出ようか。」
「えー、おとうさまもいっしょ?じかんあるの?」
「お、おう!もちろんだとも!
という事で、続きは後にしようかフィオリーノ。」
「は、はい。」
「婚姻書類も作成を忘れてはダメよ?」
「そうだな。…今日、泊まってもいいか?」
コンソラータは、ガブリエーレの元へ行き膝に掴まると、大きな手で頭を撫でられ、ニコニコとしている。
「え!それは…俺はいいですが、政務は大丈夫なのですか?」
「…明朝帰ればな。」
「もう!ガブリエーレはコンソラータに甘いんだから。」
「そうじゃない。僕だってたまにはクラリッサとコンソラータと共にゆっくりしたいんだ!」
「まぁ…!それじゃあ仕方ないわね。明日はそれを見越して、急ぎの仕事は入れてないのでしょう?」
「あぁ。だからフィオリーノ、ゆっくりさせてくれ。アレッシア、済まないがよろしく頼む。」
大袈裟にため息を漏らしながらフィオリーノは返事をする。対してアレッシアはニッコリとした表情で返事をした。
「…分かりましたよ。」
「はい、こちらこそ。」
「はやく、いこー?アレッシアさんもね!」
コンソラータはすでにソファの周りを走り回っている。アレッシアは、子供って無邪気で可愛いなと思いながら、先ほど言われた、家族がすぐ増えそうだという言葉を思い返していた。フィオリーノとの子供はどんな子なのだろうと未だ見ぬ未来を思い描き、楽しみになっていたのだった。
アレッシアは、鉱山へ働きに行く為に町を出たが、そこで愛する人を見つけ国まで出て、隣国へとやって来た。そして、フィオリーノという愛する人と共に幸せを手にし、今日も心が温かい気持ちで過ごしていく。
アレッシアの新たな生活は始まったばかりである。
☆★☆★
これで、終わりです。
お気に入り登録してくれた方、しおりを挟んでくれた方、感想をくれた方、ありがとうございました。とても励みになりました!
アレッシアは昨日、フィオリーノが住むこのライナルディ公爵家にやって来た。
そして、通された部屋は二階にあるフィオリーノの隣の部屋で、日当たりもとてもいい部屋なのだと言われる。
内装も、壁紙は小さな花が草原に咲き誇っているようなもので、家具も最低限の物が置いてあるだけのとても心落ち着く部屋であった。
ベッドはさすが公爵家であるのかふかふかで、夜はベッドに寝転がったと同時に意識を失ってしまったかのようにアレッシアは良く眠れたのだった。
そして、少しゆっくりと起きたアレッシアを待っていたフィオリーノは、鉱山での生活の時と同じようにまた朝食を摂り、その後屋敷の案内を一通りゆっくりと会話をしながらされ、一度部屋へと戻ったアレッシアにカテーナがそのように言った。
「着替え?」
今着ている服は、急遽衣裳屋から取り寄せた既製品で、動き易いようにゆったりとした造りのくるぶしまであるワンピースではあるが高級品である。それなのに着替えとは、屋敷を案内された時にどこかで汚してしまったのかと思い、体を左右に動かして足元の後ろを見た。庭にも行った為、土でもついているのかと思ったのだ。
「あ、いえ、汚れているわけではありませんよ。お客様が到着されたようですので。」
「え?」
「ささ、こちらへ。」
アレッシアが細かく聞く前に、カテーナは急いで支度を整え始めた。
☆★
「やぁ、済まないね。いらっしゃい!」
キラキラと、その周りだけ輝いているのではないかと勘違いするようなほど、神々しいオーラを放ちつつ、長い足を組んで座っているその人物は、優雅に飲んでいた紅茶のカップを置いてからアレッシアに話掛ける。
その男性は、フィオリーノを少しだけ年齢を重ねさせたようだと気づいたアレッシアは、部屋へ入るなり緊張し、足を止めてしまった。
(フィオリーノに似てるわ。いえ、この場合、フィオリーノが似ているのね。って事は、お兄様の国王様って事よね…?)
隣には、これまた美しい女性と、両耳より上の頭の位置で髪を縛った小さな女の子が女性の隣に座っている。
「兄上!いらっしゃいってここは俺の家です!アレッシアが戸惑うではないですか!
アレッシア、大丈夫だよ、こっちへおいで。」
向かいに座っていたフィオリーノが優しい表情でアレッシアに手招きをする。アレッシアはそれをされ、やっとフィオリーノの隣へと腰を下ろした。
「アレッシア、済まない。呼んでもいないのにやって来た俺の兄のガブリエーレ国王だよ。それに、奥さんのクラリッサ王妃と、四歳になる二人の娘のコンソラータだよ。」
「どうも。君が、僕の可愛い弟のハートを射止めたアレッシアだね。よろしく。」
「ごめんなさいね、アレッシアさん。ガブリエーレが顔を見たいとどうしても言うものだから、それならって私と娘も一緒にご挨拶をさせてもらおうと思って着いてきてしまったの。」
「こんにちは!
アレッシアさん、とってもかわいい!おひめさまみたい!」
国王と王妃に続き、王女にまで声を掛けられ緊張しつつもアレッシアは失礼のないように言葉を繋ぐ。
「い、いえ!
もったいないお言葉、ありがとうございます。コンソラータ様こそ、とても素敵なお姫様ですね。」
「え!やだぁ!アレッシアさん、とってもいいひと!」
そう言って、コンソラータはソファから下り母親であるクラリッサの膝に抱きついて喜んでいる。それに良かったわね、と声を掛けるクラリッサは、コンソラータの頭をゆっくりと撫でている。
(本当に可愛いらしい…お人形みたいだわ。)
それを見ていたアレッシアは、少し緊張がほぐれ始めた。
「それで?来て下さったのは有り難いんですがね、俺が報告に上がるはずではなかったのですか?」
「フィオリーノが報告に来てくれるのは有り難いが、アレッシアまで連れて来るかは分からなかったからな。だから、僕が来た方がアレッシアに挨拶が出来ると思ってね。
アレッシア、フィオリーノは王族として生まれたせいでいろいろと大変な想いを抱えてこれまで生きてきたと思うのだよ。だから、フィオリーノを幸せにしてやってくれるかい?」
「兄上!俺がアレッシアを幸せにするのです!」
「何を言ってるんだ?
僕が兄で、フィオリーノが弟として生まれてしまった事で、お前がいろいろと僕に遠慮していたのは気づいているよ。
余計な火種を生まない為に、王宮から離れ、この国境近くに住むことにしたのもそうだろう?不憫とまでは言わないが、僕は申し訳なく思っているんだ。だから、フィオリーノからの進捗度の報告を兼ねた手紙に、結婚相手が見つかったと書かれていた時には驚きもあったが心底嬉しく思ったのだよ。」
「それはお互い様です。兄上も、王太子として大変な日々を過ごしておられたでしょう?そして、クラリッサ様とのご結婚を機に国王就任されたのも、若かった故それはもう気苦労が絶えなかったでしょう。それを傍で支えられず、申し訳なく思ってましたから。
でも、それとこれとは違います!
アレッシアという愛する人を見つけ、幸せにはなります。なりますが、決してアレッシアに幸せにしてもらうのでは無いのです!」
「分かった、分かった!
アレッシア、こんな弟ではあるが、よろしく頼むよ。」
「はい。共に幸せになります。」
お互いを想い合っていて、表立っては親しくなかったのかもしれないが、素敵な兄弟だと思ったアレッシアは、笑顔を向けて答える。
「アレッシア…!」
「いい返事だ。
…なんだその顔。フィオリーノのそんな腑抜けな顔が見られるなんてな!いい、いいぞ。このまま、早く子供が出来るといいな。コンソラータも遊び相手が欲しい頃であるし、なぁクラリッサ?」
「うふふふ。それは私からは何とも。
でもお二人の関係を見ていれば、すぐにでも家族が増えそうですわね。
アレッシアさん、子育てって大変だけれど、同時にとても幸せな気分にさせてくれるのよ。だからね、楽しみね!」
「ええっ!?」
今まで、フィオリーノとガブリエーレの話を聞いていたのだが、クラリッサから急にそのように振られ、赤面するアレッシア。
「クラリッサ様までアレッシアを揶揄わないで下さい。アレッシアはまだ十六歳で、初々しいのですから。」
「あら、揶揄ってなどいないわ。本当の事を言ったまでよ。
でも、そうなの…アレッシアさん十六歳なのね。アレッシアさんからしたら、フィオリーノ様は六歳も年上だけれど良かったのかしら?」
「クラリッサ様!いやだとここで言われたら俺はもう生きていけませんから!」
「え?今まで言ってなかったという事!?
アレッシアさん、フィオリーノ様に騙されてはいけませんわよ?大丈夫ですの?今ならまだ、無かった事に出来ますわよ?」
「な、無かった事!?」
そう言われ、フィオリーノは目を見開くほど驚き、悲痛にも似た声を出した。 アレッシアは、意外にもフィオリーノは揶揄われる事が多いのかもしれないとクスリと微笑みを浮かベながら答える。
「クラリッサ様、教えてくださりありがとうございます。でも、年上だとは思っておりましたし、大丈夫です!
でも、フィオリーノは私の年齢を知っていたのね。私、話していたかしら?」
アレッシアのその気持ちを聞き、フィオリーノは心から安堵しながら、体裁を整えつつアレッシアの目を見つめる。
「アレッシアの事は、大抵は知っていたよ。でも、これから傍でいろいろと知っていきたい。」
フィオリーノは、いろいろと調べていた事は口に出せずそのように言った。
どうせ、フィオリーノが調べ挙げたのだろうと思ったガブリエーレはニヤリと薄い笑みを浮かべながらフィオリーノを見遣っている。
クラリッサも、それをなんとなく気づきながらもアレッシアにその疑問にわざわざ答える事をしなかった。知らなくていい事も、これから増えていくだろうと自分に重ね合わせながら、未来あるアレッシアを微笑ましく見遣った。
「それでだが、フィオリーノ。すぐにでも婚姻が結ばれる事が出来るよう書類は持ってきたよ。」
「え、え?よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕を誰だと思っているんだ?国王だぞ?
もし、アレッシアに迷いがあるのであれば、書類を書いて僕の印鑑も押して、後は手続きをするだけの形にも出来るがね。」
「私ですか?迷い…?ありません。」
アレッシアはそう聞かれ、しばし考えたがやはりフィオリーノと過ごしてきた事を無かった事になんて出来ないと、そう言い切った。
「そうか。ではもう後戻りは出来ない。アレッシアは今日からフィオリーノの妻だ。共に支え合い、共に幸せになりなさい。」
ガブリエーレは先ほど、フィオリーノにあれだけ啖呵を切られた為にそのように言った。さながら結婚式のように。
「兄上…ありがとうございます。アレッシア、ありがとう。幸せになろう。」
「はい!」
アレッシアの元気の良い返事に、ガブリエーレは納得するように頷く。
「いい返事だ。では、書類は後ほどだな。
忘れる前に、イブレア鉱山の報告をしてくれるか。」
「あぁ…まあ、目立った悪さをしている奴は居なかった。さすがですね、兄上が推し進めた鉱山という事はありました。だが、やはりもう少し働いている作業員の人権をある程度向上させた方がいいと思います。」
「ほう…?」
「不慮の事故が起こった際や体調を崩した際、医師が少ないのです。ベルチェリ国側からの一人しかおらず、モンタルドーラ国側の医師がおりませんでした。その辺りは、モンタルドーラ国側の管轄と言われればそうかもしれませんが、鉱山の中は広く、一人では大変です。」
「なるほどな。まぁ、モンタルドーラ国は我が国ほど潤っていないからな。その辺りは我が国から輩出した方が何かと良さそうだ。」
「はい。
あと、事故に遭った際、見捨てられるのがほとんどです。鉱山労働者とは、そのように危険と隣り合わせと言われればそうなのかもしれませんが、中には助けられる命がある場合もあります。」
「ふむ…。」
「それから、来る者拒まずで、あとは知らぬ存ぜぬという感じです。働きたいと来た人はろくに誰かと確認する事も無く採用するようで、だから事故に遭ったとしてもそのままなのかもしれません。」
「なに?そうか…面接をし、名簿を作ってもいいかもしれんな。犯罪者の隠れ蓑にされても適わん。」
「それから…」
「その辺りは、今日しないといけない話かしら?」
「ん?なんだクラリッサ。」
ガブリエーレに聞かれフィオリーノが答えていたのだが、だんだんと飽きてきたコンソラータを見かねて、クラリッサはそのように口を挟んだ。
「そのような政治の話、私達には退屈ですもの。せっかく来たのに、コンソラータなんてぐずりだしてるのよ?」
「す、済まん!気づいてやれなかった!コンソラータ、外に出ようか。」
「えー、おとうさまもいっしょ?じかんあるの?」
「お、おう!もちろんだとも!
という事で、続きは後にしようかフィオリーノ。」
「は、はい。」
「婚姻書類も作成を忘れてはダメよ?」
「そうだな。…今日、泊まってもいいか?」
コンソラータは、ガブリエーレの元へ行き膝に掴まると、大きな手で頭を撫でられ、ニコニコとしている。
「え!それは…俺はいいですが、政務は大丈夫なのですか?」
「…明朝帰ればな。」
「もう!ガブリエーレはコンソラータに甘いんだから。」
「そうじゃない。僕だってたまにはクラリッサとコンソラータと共にゆっくりしたいんだ!」
「まぁ…!それじゃあ仕方ないわね。明日はそれを見越して、急ぎの仕事は入れてないのでしょう?」
「あぁ。だからフィオリーノ、ゆっくりさせてくれ。アレッシア、済まないがよろしく頼む。」
大袈裟にため息を漏らしながらフィオリーノは返事をする。対してアレッシアはニッコリとした表情で返事をした。
「…分かりましたよ。」
「はい、こちらこそ。」
「はやく、いこー?アレッシアさんもね!」
コンソラータはすでにソファの周りを走り回っている。アレッシアは、子供って無邪気で可愛いなと思いながら、先ほど言われた、家族がすぐ増えそうだという言葉を思い返していた。フィオリーノとの子供はどんな子なのだろうと未だ見ぬ未来を思い描き、楽しみになっていたのだった。
アレッシアは、鉱山へ働きに行く為に町を出たが、そこで愛する人を見つけ国まで出て、隣国へとやって来た。そして、フィオリーノという愛する人と共に幸せを手にし、今日も心が温かい気持ちで過ごしていく。
アレッシアの新たな生活は始まったばかりである。
☆★☆★
これで、終わりです。
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お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。
ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。
妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。
ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。
ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。
「だいすきって気持ちは、
きっと一番すてきなまほうなの──!」
風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。
これは、リリアナの庭で育つ、
小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。
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まりぃべるさんらしい可愛い話でほっこりしました。
細かいところは気になりましたが、誰も傷付かない温かみのあるとこが貴女の持ち味だと思っています。
アルファポリスは、時々開いて気に入った作者さんを一気に読み込む使い方をしているのでまた読みに来ます。
にゃにゃん様、ありがとうございます。
そうですね(^^;)私めの作品は細かいところまで突っ込まれると矛盾など多々あると思いますが、それでも手に取り読んで下さいましてとても嬉しいです!
そして、温かいお言葉まで…!感無量です。゚・(>﹏<)・゚。o(*´︶`*)o
また見かけた際、読んでいただけると幸いです(●^ー^●)
dragon.9様、いつもありがとうございます!
やはりそう思われちゃいましたねぇ〜(^_^;)悪い人ではないのですが、そう感じてしまいますよね(´д`)
はい、主人公はどうにか(^ω^)
手に取り読んで下さいまして、ありがとうございますo(*´︶`*)o