【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる

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26. 公爵家の一員

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「お帰りなさいませ、旦那様。」



 ーーー朝とは違い、ヴェローチェを少し走らせながらイブレア鉱山を越え、ベルチェリ国へと入国した二人は、夕方暗くなる前にはフィオリーノの住む屋敷へと到着した。
途中、山の麓の景色のいい場所で食べた料理長のブラスから持たされた昼食は、懐かしくも格別に美味しく感じたアレッシア。アレッシアは、バンケッテ領から出た事もなかった為に、楽しい旅行気分であったーーー。




 皺のない黒い服を着た、白髪の老年の男性が玄関ホールで隙のない姿勢で立っており、先に入ったフィオリーノへと挨拶をする。ヴェローチェは、庭師なのか小間使いなのか外で掃除をしていた若い青年に預けていた。


(当たり前だけれど、うちとは比べ物にならないほど素敵だわ。でも、それでも思ったよりも大きな建物ではないのね。なんだか安心したわ。屋敷の中で迷っても困ってしまうものね。)


 アレッシアは、辿り着いた時からあまり失礼にならないよう気をつけながらも辺りを見回しながら、公爵家ってすごい、と感心していた。ごてごてし過ぎない、それでいて趣のある造りの建物や壁紙、装飾品であったからだ。


「それで…そちらの方は?」


 そう言われ、アレッシアは身を正す。フィオリーノは、背中に手を当てて支え、その男性に紹介をした。


「あぁ、ジュスト。今帰った。
こちらは、アレッシア=ペルティーニ。俺の妻となるべく、モンタルドーラ国でペルティーニ伯爵家のお嬢さんであったが来てもらったんだ。ジュスト、よろしく頼む。」


 ジュストと呼ばれた者は、アレッシアを見て一瞬目を見開くがすぐに元の表情に戻り、恭しくお辞儀をして挨拶を述べた。


「そうですか。我が主の元に嫁いでいただけるとは…!
アレッシア様、どうぞこれからよろしくお願いいたします。国が違う為に勝手が違うかもしれませんが、この執事のジュストへ何なりとお申し付け下さい。」

「アレッシア、ジュストは頼りになる。俺の留守中もこの公爵家の為に働いてくれているんだ。」

「そうなのですね。不束者ですが、こちらこそどうぞよろしくお願い致します。」

「頭をお上げ下さい!
アレッシア様が心安らげますよう、使用人一堂、尽力いたす所存です。
さぁ、立ち話もなんです。長旅お疲れでしょう、こちらへどうぞ。」


 そう言って、ジュストは二人を近くの応接室へと案内する。


「ささ、どうぞお座り下さい。今、アレッシア様の部屋をご準備させて頂きます。その間、ゆっくりと休憩されて下さい。今、飲み物をお持ちします。」

「ジュスト、俺の隣だぞ。」

「承知しております。ああ…!あの部屋主の隣の部屋が使われる事になるとは!このジュスト、至極恐悦!感激雨霰でございまする!!」


 うっうっ…とジュストは、腕を目に充て声をあげて泣いている。


「止めろ、ジュスト!
アレッシア、今日は急であるから今ある内装で許して欲しい。追々アレッシア好みに直していいから。済まないね。」

「そんな!こんな素敵なお屋敷だもの、直すなんて!」

「いいえ、アレッシア様。あなた様はこのライナルディ公爵家の夫人となられるお方でございますれば、遠慮なさらずにおっしゃって下さればよろしいのです。なんなら、屋敷ごと、建て直してほしいとでも言ってよろしいのですぞ!」

「そうか、そうだな。アレッシア、何でも言ってくれ。気づかずに済まなかった!
この屋敷は、古くからの王家の持ち物であったんだ。俺はここに越してきた当初は住めればどんなのでも良かったんだが、建て直すのであれば一緒に考えよう。」


 そう二人に言われ、アレッシアは本気で言われているのか冗談であるのか見分けがつかなかった。だが、フィオリーノは真面目な顔をしているので無難に返す。


「ええと、私まだお屋敷の中を案内されてもいないから、中がどんな感じなのか分からないわ。だから、今はこのフィオリーノが住んでいた屋敷に慣れてみたいと思うの。」

「そうか、そうだな!分かった。また何かあれば遠慮なく言うんだ、分かったね?」

「ええ、ありがとうフィオリーノ。」


(怖いわ…公爵家の財力であれば本当に建て直す事が出来そうだから余計に。私、ここで暮らしていくのよね。でも、ジュストさん…ジュストもいい人そうで良かった。)


 アレッシアはそのように一息つきながら思った。


 そして入って来た中年の侍女がお茶の準備をすると、ジュストは部屋を見てくると言って 出て行った。


「アレッシア、彼女はカテーナ。カテーナ、今日からアレッシアを頼む。彼女もしっかりとしているから、なんでも頼るといい。」


 フィオリーノが、お茶の準備をした侍女の紹介をする。アレッシアからすれば、母親と近い年齢に見えるカテーナを見て、なんとなくコンシリアを思い出した。


「アレッシア様。私はフィオリーノ様を赤子の頃よりお世話して参りました。そんなフィオリーノ様の元へ来て下さるなんて本当に有り難く思います。
アレッシア様、至らぬ点もあるかとは思いますが、何なりと申しつけ下さいね。心安らげますよう尽力いたします。」

「カテーナ、変な事は言うなよ。」

「変な事、でございますか?はて、私には何の事か分かりかねます。
幼き頃、六歳上のガブリエーレ様様に剣術で負け、それが悔しくて家出を試み、王宮内がとんでもない騒ぎになった事は、変な事でも全くございませんし、ねぇ…?」


 カテーナは首を傾げながら惚けたようにそう話すと、フィオリーノは慌て出す。アレッシアはそんなカテーナに好感が持てた。


「だから…!アレッシアの前では情けない奴にはなりたくないんだ!昔の話はするなよって言ってるんだ!」

「まぁ!フィオリーノ、それは情けなくなんてないわ、武勇伝です!」


アレッシアは、今からは想像もつなかい話をされ、そのように嬉しそうに言った。


「そうですそうです、武勇伝です!アレッシア様はよく分かっていらっしゃいます。
これからここでお過ごしになるアレッシア様には時間もたくさんありますから、これからゆっくりと、フィオリーノ様のお話をして差し上げますからね。」

「本当ですか?カテーナさん…カテーナ、ありがとう。」

「ええ、ええ。私の事はどうぞカテーナと。」


 フィオリーノそっちのけで、カテーナがアレッシアと話をまとめようとするので、フィオリーノは口を尖らせながら愚痴を言う。


「アレッシアの俺への気持ちが無くなってしまったらどうするんだ!」

「そんな事はありませんわ。フィオリーノはどんな時にでも、私にとって素敵な人に変わりはありませんもの。だから、私の知らないフィオリーノの小さな頃も、どんな風に過ごしてきたのか知ってみたいわ。」

「う…そ、そうか?ま、まぁ…アレッシアがそう言うなら……。でも、俺を幻滅させるような事を言うのは止めてくれよ、カテーナ。」

「承知しております。さぁ、冷めない内にお飲み下さい。」


 にっこりと笑ったカテーナは、生まれた頃から傍で世話しているフィオリーノが、本当に愛する人を見つけられて良かったと心から思っていた。
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