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25. ペルティーニ伯爵家の人々
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応接室へと入ると、すでにブリツィオとベアータ、カストは座っていた。アレッシアは、来る事が分かっていたのかと不思議に思った。
「ようこそお越しくださいました。初めまして、私はペルティーニ伯爵家の当主でアレッシアの父の、ブリツィオと申します。こちらが妻のベアータ、息子のカストでございます。この度は…」
フィオリーノとアレッシアがソファに座ると、早速ブリツィオがそのように挨拶を述べた。
「そう固くならないで頂きたい。俺…いえ、私は隣国から参りました、フィオリーノと申します。今は、王宮から離れ公爵の地位を賜り領地を治めています。」
「まぁ!なんて事!!本当だったのね。まるで物語のようだわ。さすが私の娘ね、玉の輿じゃないの!!」
「ベアータ、黙っていなさい。」
フィオリーノは、畏まっていたアレッシアの家族にそのように述べる。今日は、一人の男として、アレッシアの家族に挨拶に来た為にそのように緊張をほぐして欲しいと願い出たのだ。
しかしフィオリーノが挨拶をすれば、先に手紙が届いた事でブリツィオがベアータとカストに伝えていた半信半疑だった言葉が本当だったのだとベアータは浮き足だった。だが、それを言葉にしてしまったベアータに、隣に座っていたブリツィオは体をこついて諫める。
「ははっ!良いのです。全くその通りですから。ベアータ夫人、これからもよろしくお願い致します。」
自分よりも高位の者から頭を下げられてしまい、手を口元で隠しながらきゃあきゃあとはしゃいでいるベアータに、少し汗を掻きながらブリツィオは謝罪を述べる。
「申し訳ありません、言葉が過ぎまして…。」
「いえ、気になさらないで下さい。
急ぎとはいえ昨夜に先触れを出してしまいこちらこそ申し訳ありませんでした。非常識をお許し下さい。」
「滅相もない!確かに、つい先日アレッシアの働く前金だと届けてくれたチーロという採掘長が再び来て、フィオリーノ様からの手紙を届けてくれたのには驚きましたが…それで…話とは……?」
昨日、フィオリーノは夕食でアレッシアと話した後、やはり連れて行く前にアレッシアの家族にも挨拶をした方が善策だと考えたのだ。結婚を申し込まないで、隣とはいえ国を出てしまうのは愛する人の家族に対して不義理ではないかと思ったのだ。思い立ったらすぐに行動するフィオリーノは、夕食が終わってすぐに明日アレッシアと共に訪問するという内容の手紙を書き、暗くなってはいたがすぐに採掘長のチーロへと必ず届けるようにと頼んだのだ。
フィオリーノは、アレッシアがこの近くに住むペルティーニ伯爵家の娘だと気づいていたのだ。
「ええ、それは他でもありません。私はアレッシアと数日ですが共に過ごし、アレッシアが私にとってかけがえのない愛しい人となってしまったのです。ですから、アレッシアを私の妻とする事のお許しを頂けないでしょうか。」
「まぁ…!」
「ええっ!?」
より深く、再び頭を下げたフィオリーノに、ベアータは歓喜の声を上げる。その隣には苦虫をかみ潰したような顔をした今まで黙っていたカストが堪らず声を上げた。
「…ええと、それは本当ですか?アレッシアが?」
アレッシアはつい先日、イブレア鉱山で働く為に家を出て行ったはずであった。それが、数日の内に結婚相手を連れて来たとあって、家族皆が大層驚いたのである。
「もちろんです。私の人生を共に過ごす妻にはアレッシアしか考えられません。」
誠実に、ブリツィオの目を見て話すフィオリーノの言葉を隣に座って聞いていたアレッシアはだんだんと恥ずかしくなり、顔に熱を帯びてくるのを感じ、息を吐くように名前を呟く。
「フィオリーノ…!」
その小さな声をブリツィオは聞き取り、そして愛する娘の顔を見つめ、アレッシアの気持ちはなんとなく感じ取ったが敢えて言葉に出し、アレッシアにも確認を取る。
「アレッシアも、同じ気持ちなのかい?」
「お父様…はい、フィオリーノ様について行きたいと思っております。」
「そうか…。では私から一つだけ。
アレッシアは今まで、私達ペルティーニ伯爵家の為、家族の為、バンケッテ領の為に身を粉にして動いてくれていました。ですので、私ではしてあげる事が出来なかったのですが、その分幸せにしていただけますか。」
ブリツィオは、不敬を承知で父親らしくフィオリーノへと力を込めた目で見つめると、フィオリーノも身を正し、力強く頷いた。
「はい、元よりそのつもりです。」
それを見て、ブリツィオは一つ頷くとアレッシアへと優しい目をして微笑みなから言う。
「アレッシア、良かったな。幸せになりなさい。」
「はい…!」
アレッシアも感極まって目に涙を浮かべ、声を震わしながら返事をする。
が。
それよりも拳を握り締めてワナワナとそれを震わしながら立ち上がり、叫び声を上げたのはカストである。
「ちょっと待った!!
こっちは前金もらってんだよ、僕の学校の費用に充てるつもりだったんだ!どうすんだよ、姉上が帰ってきたんなら今さら返すのかよ!」
ブリツィオは、その口の悪さに、しかもフィオリーノを睨みつけながら吐くその言葉に目玉が飛び出そうな程に驚いた。
「や、止めなさい、カスト!」
辛うじてそのように諫めるが、それ以上言葉が出ないブリツィオ。
「いいや、止めないよ!父上、姉上が結婚するって言ってんだよ、いいの!?
おい!僕が学校を卒業し、バンケッテ領を豊かにしてから姉上を迎えに行くはずだったのに、計算が狂ったじゃないか!他国の偉い人だかなんだろうと、好き勝手に事を運ぶんじゃねぇよ!」
カストはブリツィオへ顔を向けた後、今度はフィオリーノへと顔を向けて唾を飛ばす勢いで不敬を承知でそう叫ぶ。いや、怒りで礼儀もなにも考えるのを放棄してしまったのだろう。
「まぁ!そんな事を考えていたの?カスト、入学もしていないのに志が大きくて素晴らしいわ!」
しかし能天気なベアータはそのようにカストへと身体毎視線を向けて述べる。ブリツィオは頭を抱えながら、フィオリーノへと謝罪を述べた。
「申し訳ありません…せっかくの門出を素直に喜べない愚息をどうか、寛大なお心でお許し願いたい。まだ学校にも通っていない子供の戯言として聞き流して頂けないでしょうか。」
「父上!こんな奴に姉上を渡していいの!?ベルチェリ国なんていくら何でも遠いではないですか!姉上が苦労するに決まってる!!」
「止めんか、カスト!」
すでにダラダラと額から冷や汗が滝のように流れ出ているブリツィオは、何度目かの諫める言葉を告げる。
しかしそれを何も言わず見ていたフィオリーノは一つ頷くと、努めて冷静に言葉を返した。
「義弟殿の言う事も一理あるか。確かに俺が説明不足だったのだな。順序が悪かったか。
ブリツィオ殿、いえ義父上とお呼びしてもよろしいか?」
「あ、は、はい…。」
ブリツィオは、何を言われるのかと恐れながらも頭を下げながらフィオリーノへと言葉を辛うじて返す。
「義父上、アレッシアが鉱山で働くという前金はチーロから受け取ったのでしたね?そしてそれは本来であれば最低でも三カ月働くという約束でもある金だそうだ。
だが、アレッシアは今後イブレア鉱山で働く者達の為になる事を、所有者の血縁である俺に気づかせてくれたのです。
今まで、来る者は拒まずでどんな身分のものも作業員などとして雇われていましたが、これからはきちんと戸籍のようなものを作り、怪我をしてしまったり亡くなってしまった者達の後の事までしっかりとさせるようにします。
そのような働きもある為、アレッシアは三カ月と働かずとも、たった数日働いただけで私と一緒に鉱山をあとにする事を鉱山長からも許されているのです。もちろん、返金も必要ありません。ですから、その点は安心して欲しい。」
そう、フィオリーノは最後カストへと視線を向けて諭すように告げる。
確かに、アレッシアが掘り進めていた部分に出来た穴へと落ちた時、フィオリーノは怪我を負ったのではないか、もしくは命を落としたのではないかと最悪な事まで心配した。
そんな思いもしたからこそフィオリーノは、作業員達の事は使い捨ての駒のように切り捨てるのではなく、大切にし、もし万が一不慮の事故が起こったとしてもその者の家族には伝えられるように改善しようと、国王である兄に伝える事を決めたのだ。
しかしそれに対してガスパレは、新人のアレッシアがどのような功績を残したかなどで判断したのではなく、フィオリーノが共に過ごし気に掛けているアレッシアを連れて行くと言った為に、それに対して反論する気など持ち合わせているはずもなく、二つ返事で肯定の言葉を述べただけであった。それだけを見れば、確かに好き勝手に事を運んでいると見えなくもなかった。
「うぐっ…!」
カストは、ついに反論する言葉も見つからず、苦い顔で睨みつけるしかなかった。
「カスト、私は大それた事をした覚えはないのだけど、それでいいって言って下さったの。だからそれに従うわ。でも、フィオリーノと一緒にベルチェリ国へ行っても、自分が出来る事を精一杯しようと思っているの。あなたにとって、あまりいい姉では無かったのかもしれないけれど、認めてはくれないかしら。」
アレッシアも、何故こうまでしてカストが反対の異を唱えるのかが分からなかった。最近では良く突っかかってくる為、今回も自分の事が気に入らないから、難癖付けて結婚させないようにしたいのかと、思ったのだ。
「あ、姉上…違います!そうではなく…!
……はい、姉上、お幸せに。」
それに対しカストは、酷く哀しそうな顔をアレッシアへと向け、目が合うと下を向いてから唇を噛み締めるようにそう言うと、まるで力の抜けたようにストンと椅子に座った。
それを見て、フィオリーノは思うところはあったが自分が語る事ではないかと、『ではそろそろ帰ろうか』とアレッシアへと言葉を掛ける。
アレッシアは、弟が見るからに先ほどの勢いはどこへやら、魂の抜けた抜け殻のようになっているのを気にはしたが、一つ頷くと家族に別れの挨拶をする。
席を立ったアレッシアに、『荷物はどうする?日常使うものは全て、あちらで準備するが、特別に持っていくものはある?』と聞いたフィオリーノに、少し考えると首を振った。
「用意してくれるのなら、無いわ。でも、みんなに挨拶してもいい?」
「もちろんだよ。先にヴェローチェの所に行っているから、ゆっくりしておいで。」
フィオリーノはそう言い、再びアレッシアの両親の方へと会釈するとブリツィオとベアータも立ち上がり、未だ抜け殻のようなカストは座ったままに、共に部屋を出た。
「ようこそお越しくださいました。初めまして、私はペルティーニ伯爵家の当主でアレッシアの父の、ブリツィオと申します。こちらが妻のベアータ、息子のカストでございます。この度は…」
フィオリーノとアレッシアがソファに座ると、早速ブリツィオがそのように挨拶を述べた。
「そう固くならないで頂きたい。俺…いえ、私は隣国から参りました、フィオリーノと申します。今は、王宮から離れ公爵の地位を賜り領地を治めています。」
「まぁ!なんて事!!本当だったのね。まるで物語のようだわ。さすが私の娘ね、玉の輿じゃないの!!」
「ベアータ、黙っていなさい。」
フィオリーノは、畏まっていたアレッシアの家族にそのように述べる。今日は、一人の男として、アレッシアの家族に挨拶に来た為にそのように緊張をほぐして欲しいと願い出たのだ。
しかしフィオリーノが挨拶をすれば、先に手紙が届いた事でブリツィオがベアータとカストに伝えていた半信半疑だった言葉が本当だったのだとベアータは浮き足だった。だが、それを言葉にしてしまったベアータに、隣に座っていたブリツィオは体をこついて諫める。
「ははっ!良いのです。全くその通りですから。ベアータ夫人、これからもよろしくお願い致します。」
自分よりも高位の者から頭を下げられてしまい、手を口元で隠しながらきゃあきゃあとはしゃいでいるベアータに、少し汗を掻きながらブリツィオは謝罪を述べる。
「申し訳ありません、言葉が過ぎまして…。」
「いえ、気になさらないで下さい。
急ぎとはいえ昨夜に先触れを出してしまいこちらこそ申し訳ありませんでした。非常識をお許し下さい。」
「滅相もない!確かに、つい先日アレッシアの働く前金だと届けてくれたチーロという採掘長が再び来て、フィオリーノ様からの手紙を届けてくれたのには驚きましたが…それで…話とは……?」
昨日、フィオリーノは夕食でアレッシアと話した後、やはり連れて行く前にアレッシアの家族にも挨拶をした方が善策だと考えたのだ。結婚を申し込まないで、隣とはいえ国を出てしまうのは愛する人の家族に対して不義理ではないかと思ったのだ。思い立ったらすぐに行動するフィオリーノは、夕食が終わってすぐに明日アレッシアと共に訪問するという内容の手紙を書き、暗くなってはいたがすぐに採掘長のチーロへと必ず届けるようにと頼んだのだ。
フィオリーノは、アレッシアがこの近くに住むペルティーニ伯爵家の娘だと気づいていたのだ。
「ええ、それは他でもありません。私はアレッシアと数日ですが共に過ごし、アレッシアが私にとってかけがえのない愛しい人となってしまったのです。ですから、アレッシアを私の妻とする事のお許しを頂けないでしょうか。」
「まぁ…!」
「ええっ!?」
より深く、再び頭を下げたフィオリーノに、ベアータは歓喜の声を上げる。その隣には苦虫をかみ潰したような顔をした今まで黙っていたカストが堪らず声を上げた。
「…ええと、それは本当ですか?アレッシアが?」
アレッシアはつい先日、イブレア鉱山で働く為に家を出て行ったはずであった。それが、数日の内に結婚相手を連れて来たとあって、家族皆が大層驚いたのである。
「もちろんです。私の人生を共に過ごす妻にはアレッシアしか考えられません。」
誠実に、ブリツィオの目を見て話すフィオリーノの言葉を隣に座って聞いていたアレッシアはだんだんと恥ずかしくなり、顔に熱を帯びてくるのを感じ、息を吐くように名前を呟く。
「フィオリーノ…!」
その小さな声をブリツィオは聞き取り、そして愛する娘の顔を見つめ、アレッシアの気持ちはなんとなく感じ取ったが敢えて言葉に出し、アレッシアにも確認を取る。
「アレッシアも、同じ気持ちなのかい?」
「お父様…はい、フィオリーノ様について行きたいと思っております。」
「そうか…。では私から一つだけ。
アレッシアは今まで、私達ペルティーニ伯爵家の為、家族の為、バンケッテ領の為に身を粉にして動いてくれていました。ですので、私ではしてあげる事が出来なかったのですが、その分幸せにしていただけますか。」
ブリツィオは、不敬を承知で父親らしくフィオリーノへと力を込めた目で見つめると、フィオリーノも身を正し、力強く頷いた。
「はい、元よりそのつもりです。」
それを見て、ブリツィオは一つ頷くとアレッシアへと優しい目をして微笑みなから言う。
「アレッシア、良かったな。幸せになりなさい。」
「はい…!」
アレッシアも感極まって目に涙を浮かべ、声を震わしながら返事をする。
が。
それよりも拳を握り締めてワナワナとそれを震わしながら立ち上がり、叫び声を上げたのはカストである。
「ちょっと待った!!
こっちは前金もらってんだよ、僕の学校の費用に充てるつもりだったんだ!どうすんだよ、姉上が帰ってきたんなら今さら返すのかよ!」
ブリツィオは、その口の悪さに、しかもフィオリーノを睨みつけながら吐くその言葉に目玉が飛び出そうな程に驚いた。
「や、止めなさい、カスト!」
辛うじてそのように諫めるが、それ以上言葉が出ないブリツィオ。
「いいや、止めないよ!父上、姉上が結婚するって言ってんだよ、いいの!?
おい!僕が学校を卒業し、バンケッテ領を豊かにしてから姉上を迎えに行くはずだったのに、計算が狂ったじゃないか!他国の偉い人だかなんだろうと、好き勝手に事を運ぶんじゃねぇよ!」
カストはブリツィオへ顔を向けた後、今度はフィオリーノへと顔を向けて唾を飛ばす勢いで不敬を承知でそう叫ぶ。いや、怒りで礼儀もなにも考えるのを放棄してしまったのだろう。
「まぁ!そんな事を考えていたの?カスト、入学もしていないのに志が大きくて素晴らしいわ!」
しかし能天気なベアータはそのようにカストへと身体毎視線を向けて述べる。ブリツィオは頭を抱えながら、フィオリーノへと謝罪を述べた。
「申し訳ありません…せっかくの門出を素直に喜べない愚息をどうか、寛大なお心でお許し願いたい。まだ学校にも通っていない子供の戯言として聞き流して頂けないでしょうか。」
「父上!こんな奴に姉上を渡していいの!?ベルチェリ国なんていくら何でも遠いではないですか!姉上が苦労するに決まってる!!」
「止めんか、カスト!」
すでにダラダラと額から冷や汗が滝のように流れ出ているブリツィオは、何度目かの諫める言葉を告げる。
しかしそれを何も言わず見ていたフィオリーノは一つ頷くと、努めて冷静に言葉を返した。
「義弟殿の言う事も一理あるか。確かに俺が説明不足だったのだな。順序が悪かったか。
ブリツィオ殿、いえ義父上とお呼びしてもよろしいか?」
「あ、は、はい…。」
ブリツィオは、何を言われるのかと恐れながらも頭を下げながらフィオリーノへと言葉を辛うじて返す。
「義父上、アレッシアが鉱山で働くという前金はチーロから受け取ったのでしたね?そしてそれは本来であれば最低でも三カ月働くという約束でもある金だそうだ。
だが、アレッシアは今後イブレア鉱山で働く者達の為になる事を、所有者の血縁である俺に気づかせてくれたのです。
今まで、来る者は拒まずでどんな身分のものも作業員などとして雇われていましたが、これからはきちんと戸籍のようなものを作り、怪我をしてしまったり亡くなってしまった者達の後の事までしっかりとさせるようにします。
そのような働きもある為、アレッシアは三カ月と働かずとも、たった数日働いただけで私と一緒に鉱山をあとにする事を鉱山長からも許されているのです。もちろん、返金も必要ありません。ですから、その点は安心して欲しい。」
そう、フィオリーノは最後カストへと視線を向けて諭すように告げる。
確かに、アレッシアが掘り進めていた部分に出来た穴へと落ちた時、フィオリーノは怪我を負ったのではないか、もしくは命を落としたのではないかと最悪な事まで心配した。
そんな思いもしたからこそフィオリーノは、作業員達の事は使い捨ての駒のように切り捨てるのではなく、大切にし、もし万が一不慮の事故が起こったとしてもその者の家族には伝えられるように改善しようと、国王である兄に伝える事を決めたのだ。
しかしそれに対してガスパレは、新人のアレッシアがどのような功績を残したかなどで判断したのではなく、フィオリーノが共に過ごし気に掛けているアレッシアを連れて行くと言った為に、それに対して反論する気など持ち合わせているはずもなく、二つ返事で肯定の言葉を述べただけであった。それだけを見れば、確かに好き勝手に事を運んでいると見えなくもなかった。
「うぐっ…!」
カストは、ついに反論する言葉も見つからず、苦い顔で睨みつけるしかなかった。
「カスト、私は大それた事をした覚えはないのだけど、それでいいって言って下さったの。だからそれに従うわ。でも、フィオリーノと一緒にベルチェリ国へ行っても、自分が出来る事を精一杯しようと思っているの。あなたにとって、あまりいい姉では無かったのかもしれないけれど、認めてはくれないかしら。」
アレッシアも、何故こうまでしてカストが反対の異を唱えるのかが分からなかった。最近では良く突っかかってくる為、今回も自分の事が気に入らないから、難癖付けて結婚させないようにしたいのかと、思ったのだ。
「あ、姉上…違います!そうではなく…!
……はい、姉上、お幸せに。」
それに対しカストは、酷く哀しそうな顔をアレッシアへと向け、目が合うと下を向いてから唇を噛み締めるようにそう言うと、まるで力の抜けたようにストンと椅子に座った。
それを見て、フィオリーノは思うところはあったが自分が語る事ではないかと、『ではそろそろ帰ろうか』とアレッシアへと言葉を掛ける。
アレッシアは、弟が見るからに先ほどの勢いはどこへやら、魂の抜けた抜け殻のようになっているのを気にはしたが、一つ頷くと家族に別れの挨拶をする。
席を立ったアレッシアに、『荷物はどうする?日常使うものは全て、あちらで準備するが、特別に持っていくものはある?』と聞いたフィオリーノに、少し考えると首を振った。
「用意してくれるのなら、無いわ。でも、みんなに挨拶してもいい?」
「もちろんだよ。先にヴェローチェの所に行っているから、ゆっくりしておいで。」
フィオリーノはそう言い、再びアレッシアの両親の方へと会釈するとブリツィオとベアータも立ち上がり、未だ抜け殻のようなカストは座ったままに、共に部屋を出た。
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