【完結】周りの友人達が結婚すると言って町を去って行く中、鉱山へ働くために町を出た令嬢は幸せを掴む

まりぃべる

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24. 出発の朝に

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(忘れてた…完全に忘れてたわ。いえ、考えを放棄していただけかもしれない…。)



 翌日。

 アレッシアは、フィオリーノと朝食を摂りながら話している時に、そのように焦りだした。


(フィオリーノが、上司に報告があるからここを去る、と言ったのよね。私、ついていくって事は、本当の本当にそういう結婚する事なのよね。)


 アレッシアは今しがた、フィオリーノから『昨日あれから考えたのだが、結婚するのだから、アレッシアのご家族に挨拶をしないといけないよな。兄上への報告はあとにして、アレッシアのご家族に挨拶をしにいこうか。』と言われたのだ。アレッシアは結婚という言葉に驚き、危うく口の中に入れた一口サイズのパンを噛まずに飲み込むところであった。

 アレッシアはフィオリーノといると心がほんのり温かくなったり、居なくなると聞くや心が萎んだように苦しくなったりしていたので、まだフィオリーノと一緒にいられると思うとふわふわと宙に浮いているような、嬉しい感情しかなかった。だが、フィオリーノから結婚という言葉を聞き、なんだか現実に引き戻されたようだった。


(フィオリーノは国王様がお兄さんと言っていたわ。だから公爵様なのよね、きっと。私が公爵夫人となるって…出来るのかしら。)


「アレッシア…?どうした?なんだか顔色が良くないけれど、体調でも悪い?」

「あ!いいえ、そうじゃなくて…私、フィオリーノと結婚すると思ったら、大丈夫かと不安になってしまったの。」

「あぁ、なんだそういう事か。全くもって問題などないよ。アレッシアからすればベルチェリ国は異国だから気になるかもしれないが、モンタルドーラ国と大して変わらないさ。
うちは公爵家であるから、その辺りを少しは学んでもらう必要もあるが俺はあまり社交を積極的にはしないから、基本的な事さえ理解してくれていれば大丈夫、あまり気負わないで欲しい。」

「そ、そう…?」

「あぁ。アレッシアは俺の傍に居てくれるだけでいい。
まぁ、公爵家だからこそ出席しないといけない催しなどもあるが、基本的には争いの種となってもいけないからね、欠席出来るものは進んで欠席しているんだ。」


 そう言うとフィオリーノはアレッシアを安心させるように優しく微笑んだ。







☆★

 朝食を終えたアレッシアは、部屋に戻り荷物を簡単に纏めると、迎えに来たフィオリーノと共に鉱山を去る。
出口に向かう際、後ろから駆け付けて来たのは、ガスパレであった。


「フィオリーノ様、今回はお疲れさまでございました。ご不便も多々あったかとは思いますが、また来られる際は是非ともお待ちしております!」

「いや、ご苦労であった。これからもよろしく頼む。」

「はい、フィオリーノ様。このガスパレにお任せ下さいませ!
それから新入り…じゃなかった!アレッシア、慣れない中でよく頑張ってくれた。ではな。」

「はい、ありがとうございました。」


 ガスパレは、フィオリーノが去る際にアレッシアも共に鉱山を出る事を伝えられていた。その為、あまり無下にも出来ずにそのように無難に言ったのだ。
今回ベルチェリ国の所有権を持つ国王の弟が、このイブレア鉱山に来たのは監査かもしれないとビクビクしながらも応対していたのだ。なのに、帰ると言ったその日に共に去るのがまだ勤務期間も短い新入りだと聞き驚いたのだ。だが、異を唱えれば不敬を買うかもしれないと理由も碌に聞かずに二つ返事で対応したのだ。


 フィオリーノはぺこぺこと腰を低くしながら見送ってくれているガスパレに労いの言葉を伝えると、振り向きもせずに進んで行った。



「さて、と。アレッシア、ちょっと待ってくれるか。」


 久し振りの太陽が眩しいと感じながら進んで鉱山への入り口見えなくなった頃、フィオリーノはそう言うと、手を口に添えて指笛を吹く。


ピューィ、ピューピューィ


ヒヒーン


 すると、指笛に反応するようにどこからか嘶きが聞こえ、馬が走ってくる音が聞こえた。


「まぁ!」


 アレッシアは遠くから近づいてくる馬をみて驚く。


「おぉヴェローチェ、ずいぶんと待たせたな。この辺りの草はどうだったか?旨かったか?」


 近づいてきた黒い毛の馬にそう話しながら馬の首元を撫でるフィオリーノ。
それを見たアレッシアは、もしかしたらここに来た時に助けた馬ではないかと思い、馬の目を見つめる。すると、ヴェローチェと言われた馬がアレッシアへと視線を向けると鼻を鳴らした。


「どうした?あぁ、ヴェローチェ、アレッシアだよ。俺の大事な女性だ。これからよろしくな。
アレッシア、こいつは俺がベルチェリ国から乗ってきた馬だよ。」

「そうだったのね。ヴェローチェ、よろしくね。傷は大丈夫?」


ブフフフー


 アレッシアの声に返事をするようにヴェローチェは鼻を鳴らす。


「お、ヴェローチェが初対面でこんな慣れるなんて…ん?傷?…あ。」

「私がここに来た日に、この子罠に掛かっていたのよ。」

「何!?こんな所に罠があったとは…アレッシアが助けてくれたのか?ありがとう。
ヴェローチェ、そうとは知らず済まなかったな。」


 フィオリーノは、ヴェローチェの脚元を見てから、ポンポンと腹を優しく叩く。


「元気そうで良かった!」


 そう言ったアレッシアに、顔を近づけるヴェローチェはアレッシアの顔に自身の鼻を擦るように近づける。


「ふふ、ありがとう。仲良くしてくれると嬉しいわ。」

「…アレッシアを認めてくれるのは嬉しいが、それくらいにしてくれるかヴェローチェ。
アレッシア、ヴェローチェは雄だ。あまり仲良くし過ぎるなよ。」

「え?」

「さぁ、ヴェローチェに乗って行こう。アレッシアは馬に乗った事あるか?」


 そう早口で言ったフィオリーノは、手持ちの鞄から手綱を取り出すと素早く取り付け、アレッシアを軽々と担ぎ上げてヴェローチェに乗せ、自身はアレッシアの後ろに乗り、後ろから抱き込むようにして手綱を持ちゆっくり歩き始めた。





☆★

 フィオリーノがアレッシアへと道を確認すると、馬に乗る事に慣れていないアレッシアに無理をさせないようにややゆっくりと歩みを進め、歩く速度と変わらないくらいの時間を掛けてアレッシアの生まれ育ったペルティーニ伯爵家へと辿り着いた。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、こちらへ。
アレッシア様、よくぞお帰り下さいました!お疲れさまでございました。キアーラ、あとはよろしく頼む。」


 玄関では、ボリバルが出迎えに出ていた。そして、キアーラを呼ぶとボリバルはヴェローチェを預かると世話をする為に手綱を持って厩の方へ向かった。
ペルティーニ伯爵家にも、もうほとんど使っていない馬車用に老馬となってしまった馬がいるのだ。


「フィオリーノ様、ようこそお越しくださいました。アレッシア様、お疲れさまでございました。
ではご案内致します、どうぞこちらへ。」


 今ではほとんど訪ねて来る者も居ない為あまり使われてはいなかった、それでも丁寧に掃除されている応接室へとキアーラは案内したのだった。


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