きもちいいあな

松田カエン

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群青騎士団入団編

20.俺の嫁がすごく頑固<ユストゥス視点>

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 激昂を隠したまま、毛布に包まったのクンツの下半身を脱がす。いつもなら、しつこいぐらいねっとりゆっくり愛撫してやるんだが、震える子熊をそうしつこく弄り回す気は、さらさらなかった。本当は素っ裸にして身体の様子を確認したいが、本人が毛布を手放さないことと、あの男がクンツの身体に証拠を残しているか、はなはだ疑問だったからだ。エリーアスの魔法練度は高く、本人がその気なら、ささくれ程度だって治してしまう。
 クンツによく見えるように自分の指を2本立てて唾液で濡らしてから、尻を割り開いて指をあてがった。

「ひいっ!」

 クンツは俺の肩に爪を立てて、はふはふと呼吸を乱す。昨日まではいつもの通りで、俺がすぐに挿入しないことに、始終喘ぎながら文句を言っていた。それが今じゃこうだ。
 トラウマがこれ以上ひどくならないうちに、さっさと入れちまうのが良いだろう。時間が経った後の方が、揺り戻しのようにフラッシュバックがひどくなる。

 ゆっくりと挿入すると、いつものようにソコはたやすく綻び、俺の指をしゃぶり始めた。だというのに、クンツの身体はがっちがちに強張っている。本人の意志とは関係なく、雄を咥え込みたがる穴に、か細い悲鳴を漏らしていた。

「こっ、こども、こども、ゃだ!いやっ!」

 ああ、声を出すことが出来たら、慰めながら抱いてやれんのに。
 すっかりパニックを起こしている。俺では子が出来ないと知っているはずなのに、さっきもそう教えたはずなのに、単なる指ですら怯えている。

 子熊が本気で暴れたら、俺には抑え込む自信がなかった。器用ではないクンツが使えるのは、土魔法と身体強化魔法だ。その破壊力でミノタウロスを切り捨て、オークを骨ごと潰したと聞いている。魔法が使えない俺など、クンツが手加減しなければ、骨ぐらい軽く握りつぶされるに違いない。
 ナカを指でかき回して、腸液の分泌を促しながら、俺はクンツの後頭部を掴んだ。普段は眠たげな瞳が見開かれ、俺を映す。

 そうだ。俺を見ろ。

 開いた口に舌を潜り込ませ、ぐうっと喉奥に舌先を押し込む。クンツは目を細めて涙を溢れさせながら、上手に俺の舌を締め付けた。息苦しさと混乱から視線があちこちを彷徨い、顎に力が籠もるのを感じる。食いちぎられるかもしれない。そう思ったが、俺はあえてそのままいつものように、喉を舌で犯した。
 するとどうだろう。クンツは目を閉じて、更に喉を犯されやすいように、大きく口を開いたのだ。少しずつパニックが収まったのか、とろんとした瞳で俺を捉えている。手は俺の首に周り、ゆるく抱きついてきた。

 酸欠で力が抜けた身体から、俺は指を引き抜くと、そのまま抱き上げてベッドに下ろす。少しでも身体が離れると、それを嫌がって、腕に力が籠もった。
 だから俺は口づけを続けたまま、ズボンの前をくつろげる。そして取り出した自分自身の陰茎の切っ先を、柔らかく綻ぶ後孔に押し当てた。ほんっと嫁がレイプ後だっつうのに、節操なく勃つちんこだな!感傷に浸る様子もない、自分の分身に呆れてしまう。

 クンツは性器を押し当てられたことで、またもや身を固くしてしまった。するりと俺の首に絡みついていた手がほどかれ、ベッドに投げ出される。唇を離すと、酸欠の肺に大きく酸素を取り込むように、深く息を吸い込んだ。そのタイミングを見計らって、俺は腰を推し進める。

「ひィあっ、あっ、おちんぽっ、こ、こわいっ」

 一度顔を手で覆ったものの、見えないのも怖いのか、指の隙間から怯えた眼差しを、繋がった下肢に向けている。足は開いたままで、抵抗の意志はない。自分でも必要だという意識はあるのだ。さっきよりも抵抗が薄い。目を閉じたいのに閉じられない。そんな葛藤も見て取れる。
 俺は細心の注意を払ってクンツの様子を伺う。痛みは感じている様子はない。元々痛みを感じないように、身体が作り変えられているらしいが、一定数幻痛のような痛みを訴える魔肛持ちもいた。クンツもそんな状態になりはしないかと、ひやひやしてしまう。だというのに。

「なが……っおっきいっ……、そんなに、おくっ、おくまで、入れないでっ」

 アナルからの刺激で、身体は熱くなっているようだが、それでも怯えがみえる。うねる肉膣とは違い、相反する身体の震えは止まらない。なのに。……あーくそ、これはまた。

「っひっ、コツコツ、だめっ!……ユストゥス、っおまえのせぃえきは、ぁんっ、ほんとに、孕まない、ん、だなっ?」

 ああそうだよ孕まねえよくそ!孕ませてえなあもう!煽んじゃねえよ!

 この俺が、突き上げるのをこうも我慢することになるとは思わなかった。なるべく手早く精液を出して、抜いてやるのが一番いいのはわかる。わかるが。
 普段がそれはもう、人の顔を見るなり「お腹すいた。おまんこして」だの、愛撫を避けて即座にハメようとしてくる、情緒も色気もまったくない嫁が、こんな、高等な煽りしてくるとは思わなかった。

 本人は本気で嫌がってるのもわかる。でもな、精液欲しがるえっろい穴は、いつもと変わらず締め付けてくるし、普段あんあん喘ぐしかない口から、おおきいとか、コツコツ駄目とか言われたら、雄ならぜってえ孕ませてえってなんだろが!!
 ふーっふーっと肩で呼吸をする俺に、嫁は濡れた瞳のまま見てくる。だから、俺は口の動きだけで『孕まない』と答えてやった。この暗さで見えるかは知らん。顔を覆っていた手を引き剥がし、それぞれ指と指を絡ませるかたちで手を繋ぎ、ベッドに押し付ける。

 くっそまじでちんこが勃ち過ぎて、めちゃくちゃいてえ。

「ゆすとぅす……?っあっ、あっだめ、だめ、っおちんぽやだっ!」

 おそるおそる名前を呼ばれた時点で、ぷつっと我慢の糸が切れてしまった。まだ俺のちんこで妊娠するかもと、不安で怯えてる子熊を、激しく突き上げて追い込む。角度が悪いせいで奥まで上手く入らないでいると、ナカがぐちゅぐちゅっと勝手に動いて、襞が奥まで誘い込んできた。
 奥の結腸入り口が、俺のちんこの先にちゅっと吸い付いてザーメンをねだっている。蠕動に追いすがって、俺のちんこを堪能してる。

「ひぃっ、あっ!あっ!だめ、あかちゃん、むりっ、にんしん、いや、やっ、ぁああっ!!」

 首を振りながら、どうにか逃げようとする幼妻を抑え込んで、びくんびくんと跳ねる身体に、精液をぢゅっ……と吸う最奥に、俺はたっぷりと精液を注いだ。俺の腹に擦り付けられていたペニスからも、白濁がとろりと溢れる。

「っ……っ……!」

 中イキと前イキの両方を一度に味わったせいで、絶頂が長く続いているのだろう子熊は、言葉も出ないようだった。痙攣している中の気持ちよさは、もう1ラウンド誘っているようで名残惜しいが、ゆっくりと引き抜く。
 くぽっと俺が抜けた穴は、未練を滲ませてくぱくぱ動いていたが、そのまま触れずにいると諦めたように、徐々に本来の姿を取り戻していった。

 頬でも撫でて抱きしめてやりたいが、おそらくそんなことでもすれば、より絶頂が長引くのは経験で知ってる。俺のエロい嫁は一度上がったら長いんだ。
 そこをあえて長引かせてやるのも、普段なら良いんだが。

 身体を起こして、べったべたになった服を脱ぎ捨てる。ベッドを降りて水差しからコップではなく、吸いのみにぎりぎりまで注ぐと、部屋の明かりを付けた。急に眩しくなった視界に、子熊は目を瞬いている。
 だいぶ落ち着いたのがわかって、俺はベッドのヘッドボードに置いてあった、洗浄用の魔具でクンツの身体を清めてやると、吸いのみを口元に差し出した。うっすらと開いた唇を湿らせてやると、ぱくんと食いつく。

 ああほら、ゆっくり飲め、垂れてんぞ。

 枕で位置を調整してやって吸いのみを傾けてやれば、一気に飲み干してしまった。まだ物足りない表情を浮かべているのを見て、もう一度同じ動作を繰り返す。

「ありがとうユストゥス……はら、あつくない」

 魔力が入ってない、と嬉しそうな表情で自分の下腹を撫でるクンツに、俺は目眩を覚えた。なんで、普段はその色気が出ないんだ?いや、まあ弱ってる、普段と全く違う様子を見せる今だからこそ、なおさら欲情してしまうというのが、俺も業が深い。
 また半勃ちになってしまった自分自身に戸惑う。ちらりと様子を伺えば、俺の下半身を見た子熊にも当惑の色が見えた。

「おまんこ、したいか?」

 眉尻を下げて困った様子を見せる幼妻に、ペニスの角度が徐々に上に上がっちまって……ああ最悪。手を取って口づけを落とし、敢えて『入れてほしいか』と手に書いて尋ねる。

「……今は、いい」

 なんと。勃起したイチモツがあれば、すぐさま突っ込みたがる俺の子熊が、初めて断った。ある意味快挙だが、それの原因を思えば素直に喜べねえ。
 身体の熱が収まって、ぶるりと震わせたクンツを抱き上げて膝の上に乗せる。足は開かせたが、挿入はせず俺の胴を挟むように抱きしめてやれば、こわごわと抱きついてきた。
 尻の下にある俺のちんこが気になるのか、もぞもぞ腰を揺らしている。あんま揺らすな、入れるぞ。

 俺の思惑をよそに、上着を着たままだったことに気づいたクンツは、ぷちぷちとボタンを外し、服を脱ぎ始めた。素肌になると、ほう、と息を吐いて俺の胸に頬を寄せる。

 なあお嫁さまよ。俺もう完全に勃起してんだけど。……ったくよぉ、普段から!こういう!甘えた様子を!出せってんだよ!!俺の努力が足んねえんだなすいませんね!!

 色々と自分の不甲斐なさを痛感しながら、俺はクンツの手を取り、その手のひらに文字を書く。『誰にされたか』を問いかけると、その文字を目で追っていた子熊は、ぷいっと反対側に顔を背けた。
 なんだその態度。お前自分が、望まない性行為されたって自覚あんのか。仕方がないので、もう片方側の手にそのままずばり『エリーアスだろ』と書けば、今度はまた逆側に顔を反らした。

 こいつ……!

 言葉を変え品を変え、俺は何度も問いかけたが、その全てに、子熊は沈黙で答えた。なんでレイプ野郎をかばってるのかと問いかけても、困ったように見上げてくるだけで、俺とは違って話す自由がある口を開かない。

 勃ちっぱになったまんまの、行き場のない性欲が渦巻くのも相まって、俺は深く息を吐いた。俺がもぞりと動くと、子熊は目を潤ませる。尻の間で挟む形になってるから、気になるんだろう。そう思っていると、クンツは少し背伸びをして、俺の耳に顔を寄せてきた。

「ユストゥス。あの、おまんこに入れて、動かないやつ、してくれ」

 ……ああん?お前あれ嫌いだろ?その疑問をそのままぶつけると、頷かれた。なんなんだ。

「嫌いだ。でも、そういう、私の嫌いなことをしてくるのは、ユストゥスだけだから。他の人じゃないと、わかるから」

 なるほど。俺だとわかって抱かれてたい、と。そういうことか?喜んでいいか悲しんでいいか、微妙じゃねえのかこれ。それでも「頼む」と言われてしまうと弱い。
 俺は座位の姿勢のまま、ずっぽりとクンツのアナルに陰茎を突っ込んだ。眉間にシワを寄せ、俺の肩に少し爪を立てるが、それでもクンツは嫌がらず、そのまま受け入れる。でもこれのオプション、覚えてんだろ?

「ふ、っうぅ、んんっ」

 抱きしめたまま、全身をゆっくり感度を上げていくために撫で回して、その頑固な口を自分の口で塞ぐ。優しく舌を絡めて吸い、甘噛みしてやると、鼻にかかった声が漏れた。
 でもこれ実は、俺もキツイんだよなあ。ガンガン突き上げたくなる。ちゅっぱちゅっぱ吸い付いてくる媚肉を蹂躙したくなる。だが、それを堪えて、俺は幼妻にせっせと愛撫を与えることに集中した。我慢すればその分、最後にえっろい穴がびくびく震えて、普段と違う動きを味わえるのだ。

 番が気持ちよくなるために、身体の感度を上げてやるのも夫の努めだしな。
 そうして時間をかけて愛してやったあと、俺の嫁は白濁を絞りながら、失神に近い形で絶頂を迎えた。




 翌朝もクンツを問い詰めたが、これがまた少しも答えない。なので俺は最終兵器を使うことにした。朝食を終え、各自ばらばらと散っていく中、俺はクンツの手を引いて、バルタザールがいる寮監室に向かう。
 エリーアスは俺をめちゃくちゃ見てきたが、一度も視線を合わせず、ガン無視してやった。マインラートが不思議そうにしてたから、後であいつにもバラしてやろう。

「どうしてお前まで付いて来るんだ」

 子熊は嫌そうに顔をしかめる。
 そうだな、お前はこの時間はベッカーと一緒に、手話の練習だもんな。つかベッカーの野郎、もうほとんど手話習得してんのに、俺の嫁と触れ合いたいがために、ずっと最後の試験で不合格取るの、どうかと思うぜ。
 一足先に着いていたベッカーとバルタザールの前で、俺は手を動かす。

<ベッカー。お前の大好きな俺の嫁が、たぶんなんだけどエリーアスに強姦されたっぽいんだが、口を割らねえんだよ。お前それの言質を取ってくんねえか>
<おま……なん、エリーアスが?>
「えっそうなのクンツくん!」
「な、何の話だ?」

 ちょっと複雑な手話をすると、全然目が追いつかないらしいクンツは、バルタザールに詰め寄られて目を白黒させる。バルタザールには、人差し指を自分の口に押し当てることで黙らせ、クンツの背を押してベッカーへと向かわせた。

<嬢ちゃん、今日も可愛いな。ほらこっちで絵本読もう>
「えほん……絵本か。そうだな、読もう」

 ベッカーは心底複雑そうな顔をしていたが、ひとまず俺に頷いて、クンツの頭を撫でると、2人で寮監室のソファーに座り、一文字ずつ目で追いながら、手を動かして絵本を読み始めた。絵本で手話の練習するのは、本当に初期も初期なんだが、クンツの手話の覚えが悪いせいで全然進まない。それどころか5冊しかなかったはずの絵本が、倍は増えてる。まあバルタザールも何も言わないし、いいんだろうな。
 2人が勉強を始めたのを確認したところで、俺とバルタザールは寮監室を出た。バルタザールはポケットから粉を取り出して指先に付け、魔力を通して2つほど魔法陣を浮かべる。

「防音と目眩まし。まあ騎士には魔法の行使がわかるだろうけど、僕の魔力だってわかるから覗き見も聞き耳もしてこないよ」

 言われて周囲を見るが、別段変わったようには見えない。ただ傍をハイラムとエイデンが通り過ぎたが、こちらには見向きもしなかった。

「それで、さっきの話本当かい?」
子熊が、昨日の夜、俺との性行為を嫌がって、子供はいやだとか、精液出されても孕まないか確認してきたんだ。今日はルヴィかハイラムあたりに抱くように声をかけてみるが、下手すると抵抗するかもしれねえ>
「あー……そう、そうだね。騎士でそんなことするとしたら、クンツくんにご執心の、エリーアスくんぐらいだもんね。どおりでさっき、君のことガン見してたんだぁ。クンツくんも珍しく、エリーアスくんとは遠い席に座ってたし」

 バルタザールはメガネを外して、ポケットから取り出した柔らかい布で拭き出す。これはバルタザールの動揺したときに落ち着かせようとする際の癖だ。拭き終わって掛け直すと、バルタザールは大きくため息を付いた。

「ペナルティは考えておくよ。……クンツくんなんだけどさあ。実は四聖寮しせいりょうが引き取りたいって言ってきてんだよねえ。ずっと」
<四聖寮?なんでまた。あそこはもう10人いるんじゃなかったか?>
 上限が10人のはずの群青魔導騎士団の小部隊で、それ以上増やそうとすることに首を傾げる。

って言うんだよね~。群青騎士の現役は50歳までだし、あそこの寮の年齢で、退団年齢に近い人いないんだけどさあ。大怪我したって話も聞かないし。ああそうそう、あそこにリンデンベルガーの騎士が2人いるらしくて、そういう意味では、クンツくんもあっちのほうがいいっかなーって、思ったときもあったんだけど」

<クンツが異動するなら、俺も付いていくからな。俺はあいつの専属奴隷だ>
 小隊長であるエリーアスの立場を鑑みれば、非常に口惜しいことだが、入寮したばかりのクンツを動かしたほうが合理的だ。バルタザールがそう判断すれば、上層部に掛け合って、それが実現する可能性がある。俺が付いていけるかは……五分五分かもしれない。
 迂闊だった。そんな話があるなら、バルタザールには言わずに、こっちで勝手に動いたものを。心のなかで盛大に舌打ちするが、そんなことは気づかず、バルタザールは神経質そうに足で貧乏ゆすりし始めた。

「いや、うちだって人数少ないんだし、どういうまつりごとがあったのかわかんないけど、せっかくクンツくんが来たのに、横から掻っ攫われるのは癪だからそれはないよ。クンツくんが一輪寮いちりんりょうが嫌って言うなら、ともかくとして。それに、どうも四聖寮はきな臭い」
 バルタザールがこうもあからさまに、他寮を嫌うのを聞くのは初めてだった。しばらく黙って考えていたバルタザールは、不意に顔を上げると、「この話内緒にしてね」と先程俺がしたように指を口に当てる。

「調べてみようと思うんだよね。ずっと潜入捜査してるオリヴァーくん、ちょっと時間あるっぽいから頼もうと思って」
<おい。あんた下級貴族だろ?あんまりヤバい橋渡るなよ>

 バルタザールは寮監という立場を持っているが、本人自身はそれほど権力を持っているわけではないと聞いてる。自分の裁量で、勝手に群青騎士を動かしていいとは思えなかった。

「大丈夫大丈夫。僕心当たりあるから、別方面から攻めるし。それじゃ早速行ってくるから」

 へらり、と気の抜けた笑みを浮かべると、魔法を消したバルタザールは、いそいそと寮を出ていった。明らかに中間管理職といった、バルタザールの心当たりがなんなのか気になるが、それを俺が気にしてもしょうがないだろう。
 エリーアスの件も、ひとまずは本人にクンツを近づけさせないようにしておくしかない。ベッカーもエリーアスより、クンツのことを優先するはずだ。
 しばらくその場で留まっていると、1時間ほどしてドアが開き、クンツが顔を覗かせた。

「うわ。……なぜ、まだいる」

 俺がいるとは思っていなかったのか、子熊は驚いた上で顔をしかめやがるから、思わず俺も苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。じりじりと俺をあからさまに警戒してドアから出てきた俺の幼妻は、そのままある程度距離を広げると脱兎のごとく走り出して、あっという間に姿を消してしまった。おい、昨日の可愛らしさはどこ行った。
 次いで出てきたベッカーが、それを目撃したのか笑っている。

<どうせ俺は嫌われてるよ>
 あんまり愚痴っぽいことを言いたくはないが、つい漏れた本音に、ベッカーはにんまりと笑みの種類を変えて、手を動かした。

<いや、俺が思ってたより、お前さん愛されてたわ>
<は?それってどういうことだよ>
<そこは俺と嬢ちゃんの、2人きりの秘密の約束だから言えねえ>

 優越感を滲み出しながら、ベッカーはぬけぬけと言い放った。俺、こいつのこういうとこ嫌い。俺の嫁と勝手に秘密作ってんじゃねえよ。でもまあ今は俺のことより、あいつのことが先だ。

<んだよそれ。で、首尾は?>
 話が聞けてなかったら、こんな態度は取れないだろうと催促すると、ベッカーは肩をすくめて首を横に振った。
<だから、全部ひっくるめて、秘密だって。嬢ちゃんが俺だからって教えてくれたんだぜ?>
<はっ……はぁああああ?!ふざけてんじゃねえよ言えよ!重要なことだろうが!!>

 こいつくそほどにも役に立たねえな!バラせよ俺に!

 イライラと睨みつけても、上機嫌な獅子は歯牙にもかけない。
<どうせお前、どういう答えでも、嬢ちゃんをエリーアスには近づけさせないつもりなんだろ?ならそれでいいじゃねえか>
<そりゃそうだが……>
 子熊が違うと否定したとしても、他の騎士や、侵入者をあげたとしても、俺はエリーアスが犯人だと思ってるから、この寮じゃ絶対近づけさせない。
 獣人の嗅覚なめんなよ。魔法でどうにかされると困るが、そこまで向こうが強硬手段に出てくれば、こっちも考えがある。

<協力はするさ。まあ頑張れよ旦那様>

 意味深な表情を浮かべたベッカーは、俺の肩を叩くとその場を去ってしまう。残された俺は上手くいかない状況に、苦々しくため息をついた。


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