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第1章 土佐の以蔵
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以蔵はそのまま半平太に彼の屋敷まで連れていかれた。ここ最近毎日見ている武市道場の門だったが、改めて正面から見ると何やら荘厳な空気が感じられる。
「さあ、ともかく入れ」
門の扉を開き、半平太は以蔵を庭の中へと促す。背中を押されながら、以蔵はそろそろと門をくぐっていった。
そこはあの光景だった。
生垣も、庭の木々も、小さな池も。
毎朝以蔵が外から覗いていた世界。
奥には半平太の住まいと思われる立派な屋敷。そしてその手前には住まいの半分くらいの大きさの建物が立っていた。その中からは人が叫んだり、時折堅いものがぶつかり合う音が聞こえてくる。
半平太は、さあ、というように笑顔で以蔵の肩を押した。しかし以蔵はまた避けられるのではないかという不安から前に進めない。半平太の方を振り返り、心配そうな瞳で彼を見つめた。
その時、道場の中から一人の少年が飛び出してきた。
歳は以蔵とそう変わらないように見える。
黄色がかった長い髪の毛は頭の上の方で束ねられている。活発そうなその少年は以蔵と半平太を捉え、目を輝かせた。
「先生、そいつ、誰? 新入り?」
「まだ決まったわけじゃないぞ、寅。今から私が力を試して合格したら、だ」
「へえ! 歳も近そうだし、入ってくれたら嬉しいな! 俺は吉村寅太郎。お前は?」
寅太郎は以蔵の髪を気にも留めず、ずいと右手を差し出す。
以蔵は戸惑って半平太の表情を横目でちらりと見ると、彼は笑顔で小さく頷いた。それに促されるように以蔵は寅太郎の手におずおずと触れる。、
「あ……。岡田、以蔵。よろしく……お願いします」
「うん! よろしく、以蔵! 俺の事は寅って呼んで!」
寅太郎はにいと歯を見せながら、以蔵の手をぶんぶん振った。
どうやら彼も半平太と同様に以蔵を恐れていないようだ。以蔵は驚くとともに今まで覚えたことのない安心感を覚える。温かいような、くすぐったいような感覚に、以蔵は思わず胸をぎゅっと抑えるのだった。
「さ、以蔵。道場に行くぞ。皆が練習中だが、まあ大丈夫だろう。それから簡単に木刀を振ってみてくれ、以蔵の剣を見てみたい」
「俺も! 連れて行ってあげる! …こっちだよ!」
そう言って寅次郎はこっちこっちと謳いながら道場の入り口に走っていく。
「ほら、寅も呼んでいる。行こう」
半平太は以蔵の手を取り彼を道場の中へと促した。されるまま、以蔵は道場の中へと入った。
「ようこそ、武市道場へ!」
寅太郎が笑顔で両手を広げる。
その声に気づいた道場の門下生性が、道場の入り口にいる半平太の方に一斉に目を向けた。
ざっと、十五人ほどだろうか。おそらくこの辺りに棲んでいる者たちなのだろうが一人として見たことがない。皆、人間の黒とは異なる髪色をしている。
それは彼らが妖怪混じりであることを示していた
「さあ、ともかく入れ」
門の扉を開き、半平太は以蔵を庭の中へと促す。背中を押されながら、以蔵はそろそろと門をくぐっていった。
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黄色がかった長い髪の毛は頭の上の方で束ねられている。活発そうなその少年は以蔵と半平太を捉え、目を輝かせた。
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「あ……。岡田、以蔵。よろしく……お願いします」
「うん! よろしく、以蔵! 俺の事は寅って呼んで!」
寅太郎はにいと歯を見せながら、以蔵の手をぶんぶん振った。
どうやら彼も半平太と同様に以蔵を恐れていないようだ。以蔵は驚くとともに今まで覚えたことのない安心感を覚える。温かいような、くすぐったいような感覚に、以蔵は思わず胸をぎゅっと抑えるのだった。
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