希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

文字の大きさ
12 / 29
第1章 土佐の以蔵

1-12

しおりを挟む
しかしじっと半平太に見られているのもなんだかむずむずしてきて耐えられない。以蔵は何か話さなければと頭の中から無理やり話題を引っ張り出した。


「ほんで……なんでわしがあの竹林の中におるとわかったんじゃ?」
「ああ…。それは私の妖怪混じりとしての力だな。わたしはかまいたちを起源に持つらしく、風を操ったり風を読んだりするのが得意だったそうだ。私も妖力は低いがそのような能力を持っているのでな。風の動きと大気に響く音で誰かいるとわかったのだ」
「かまいたち……」


 風を鎌のように操り、害をなすものに攻撃する動物妖怪、かまいたち。彼らは多くの仲間を持ち、日本各地にその子孫がいると聞いたことがある。風使いの子孫ならば、気配を読んだり音が生み出す大気のわずかな振動に敏感なのも納得がいく。


「お前こそ以蔵、お前は妖怪なのか? それとも妖怪混じりか?」
「わしも妖怪混じりじゃ。祖先は鬼ときいとる。わしの両親や弟は全くと言っていい程妖力がない。人間と変わらない見た目をしとるがじゃ。けんど、なんでかわしだけこんな白っぽい髪で生まれてきて。しかも妖力の使い方もわからん。町の者には避けられるばかりじゃ……」
「なるほど…。それでお前は私の鍛錬の様子もひとりで見ていたり、ひとりで刀の練習をしたりしていたのだな」


 以蔵はこくりと頷いて、再び恥ずかしそうに下を向く。


「みんなわしの事を揶揄うばっかりじゃき。あんたみたいの、初めてじゃ。……ありがと…ございます」


 半平太はそんな以蔵を見ながらにっこり笑うと、空いた方の手で以蔵の頭をわしゃわしゃ撫でた。


「お前はまだ世を知らないのさ。お前ほどの妖力の妖怪混じりならうちの道場にも数人いる。見たところ、以蔵、お前はやる気がありそうだし、うちの道場にぜひとも連れて行ってみたいんだ」


 にやりと笑った半平太の顔に、以蔵はしばらくぽかんとしていたが、その言葉の意味を理解して瞳を輝かせた。


「えっ!! わしを道場にいれてくれるがか!?」


 半平太は笑顔で再び以蔵の手を引き歩き出した。
 以蔵の胸は高まっていた。
 普通の人なら嘘かもしれない、と思っていた。


でもきっと彼は違う。
きっと、その行く先は以蔵の想像した場所と同じであるはずだ。
半平太が嘘をつく様な者とは思えなかった。
だって、こんなにも温かい手をしているのだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...