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第1章 土佐の以蔵
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その手が温かく、以蔵は目を大きく見開いた。
家族以外の、全くの他人の手が、温もりに満ちている。
以蔵にとって、それは信じられないものだった。
背中に刺さる冷たい視線。触れるどころか、近寄ろうともしない者たち。以蔵の周りの他人といえばそういう人々ばかりだったから、人肌が温かいなんて頭では理解できていてもどうしても信じることができないでいたのだ。
温かい。
温かくて、。優しい
自分の右手を包む半平太を、以蔵は戸惑いながら見上げる。
「あんた……。わしが、怖くないんか……? …その、こんな髪じゃし……」
「……? 何が怖いんだ? 私も妖怪混じりであるし、多少ではあるが妖力も使える。それに、お前くらいの髪色の者なら私の知り合いに数人いるからな」
半平太は首をかしげ、何を言っているのかわからないというような瞳で不思議そうに以蔵を見る。そして何か思いついたかのようにぱぁっと顔が明るくなった。
「そうだ! 以蔵。今から時間はあるか?」
「え……。…ああ。時間はあるけんど……」
半平太は何が何だかわからない様子の以蔵に、なら、と以蔵の手を引いて竹林の外へ歩いていく。
突然の半平太の行動に以蔵は戸惑いながらも身を任せた。竹の葉をかき分け、だんだんと外の強い日差しの世界へ戻ってゆく。
「はあ、やはり、外は暑いな」
半平太は、はあ、と息を整えるようにゆっくり息を吐きだした。
急ぎ足だったせいか。それとも涼しかった場所から一気に暑い外に出ていったせいか。竹林の中にいた時は動いていてもあまり感じなかった暑さが一気に押し寄せてきた。
太陽の下に戻り半平太と二人で立ち止まった瞬間、以蔵は体中の穴から汗がぶわっと吹き出してくるのを感じた。
「あつい……」
以蔵は半平太につかまれていない方の手で日よけを作り、半平太を見上げる。
彼は自分をどうしようとしているのだろう。何処に連れて行こうとしているんだろう。
疑問がいくつも以蔵の頭の中でぐるぐる回る。そんな以蔵の様子に気づいたのか半平太は彼の方を見て、どうしたの、とでも問うように顔を覗き込んだ。
「具合でも悪いのかい? 少し休もうか?」
半平太は中腰になって以蔵の顔を見つめたが、以蔵は肩をびくんと震わせ固まってしまった。
以蔵は混乱していた。
あこがれていた剣士に声を掛けられ、あだ名ではなく名前を呼ばれ、触れられて。すべてが初めて。たったこの数分間の事なのに、すべてがきらきら輝いている。
そんな夢のような状況に以蔵の頭は理解が追いついていなかった。具合が悪いわけではなかったのだが、それをどう伝えればよいのかさえ忘れるほどに、以蔵の中は戸惑っていた。
家族以外の、全くの他人の手が、温もりに満ちている。
以蔵にとって、それは信じられないものだった。
背中に刺さる冷たい視線。触れるどころか、近寄ろうともしない者たち。以蔵の周りの他人といえばそういう人々ばかりだったから、人肌が温かいなんて頭では理解できていてもどうしても信じることができないでいたのだ。
温かい。
温かくて、。優しい
自分の右手を包む半平太を、以蔵は戸惑いながら見上げる。
「あんた……。わしが、怖くないんか……? …その、こんな髪じゃし……」
「……? 何が怖いんだ? 私も妖怪混じりであるし、多少ではあるが妖力も使える。それに、お前くらいの髪色の者なら私の知り合いに数人いるからな」
半平太は首をかしげ、何を言っているのかわからないというような瞳で不思議そうに以蔵を見る。そして何か思いついたかのようにぱぁっと顔が明るくなった。
「そうだ! 以蔵。今から時間はあるか?」
「え……。…ああ。時間はあるけんど……」
半平太は何が何だかわからない様子の以蔵に、なら、と以蔵の手を引いて竹林の外へ歩いていく。
突然の半平太の行動に以蔵は戸惑いながらも身を任せた。竹の葉をかき分け、だんだんと外の強い日差しの世界へ戻ってゆく。
「はあ、やはり、外は暑いな」
半平太は、はあ、と息を整えるようにゆっくり息を吐きだした。
急ぎ足だったせいか。それとも涼しかった場所から一気に暑い外に出ていったせいか。竹林の中にいた時は動いていてもあまり感じなかった暑さが一気に押し寄せてきた。
太陽の下に戻り半平太と二人で立ち止まった瞬間、以蔵は体中の穴から汗がぶわっと吹き出してくるのを感じた。
「あつい……」
以蔵は半平太につかまれていない方の手で日よけを作り、半平太を見上げる。
彼は自分をどうしようとしているのだろう。何処に連れて行こうとしているんだろう。
疑問がいくつも以蔵の頭の中でぐるぐる回る。そんな以蔵の様子に気づいたのか半平太は彼の方を見て、どうしたの、とでも問うように顔を覗き込んだ。
「具合でも悪いのかい? 少し休もうか?」
半平太は中腰になって以蔵の顔を見つめたが、以蔵は肩をびくんと震わせ固まってしまった。
以蔵は混乱していた。
あこがれていた剣士に声を掛けられ、あだ名ではなく名前を呼ばれ、触れられて。すべてが初めて。たったこの数分間の事なのに、すべてがきらきら輝いている。
そんな夢のような状況に以蔵の頭は理解が追いついていなかった。具合が悪いわけではなかったのだが、それをどう伝えればよいのかさえ忘れるほどに、以蔵の中は戸惑っていた。
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