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第1章 魔犬
23.恋の兆し
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任務を終えたユウトはまた暗闇の中に戻ってきた。
光る道が現れるのかとも思ったがそんな事もなく、いつものようにフクロウの鳴く声も聞こえない。
「おぉい、ユウト!ここじゃ~」
上を見上げると手に白いランタンを持った西の魔女が右へ左へとユラユラ揺られながら降りてくる。
「よし、到着と」
ユウトの脇に降り立った魔女はいつものようにしわくちゃな顔をクシャっとさせて笑った。
「僕はまた魔女さんに呼ばれて来たの?」
「いやいや、違う。これはユウトの夢の中じゃ、その証拠にほら」
魔女が持っていた白いランタンをユウトの前に差し出すと、ランタンは「ホーホー」と鳴き声をあげた。
よく見るとランタンだと思っていたものは光る白フクロウだったようである。
「夢先案内人じゃよ…いや、夢先案内フクロウ」
白フクロウは顔を180℃回して魔女を威嚇すると、ユウトの方に顔を戻し「ホーホー」と鳴いた。
「失礼。まぁ、こやつもワシもやはり心配でこうやって夢の中まで聞きにきたわけじゃ」
「そうなんだ、有り難う」
「リオルドを止めれたか?」
「うん、止めれたよ。僕の力では無かったけど…」
魔女と白フクロウは同時に首を傾げた。角度からタイミング全てがピッタリである。
「ユウト、どうした?何があったか魔女に言ってみい」
「うん…」
「ワシは誰にも言わんぞ。何てった隠された存在じゃ。口が軽くちゃやっていけない商売だからな」
「ふふっ魔女は商売なの?」
ユウトは思いきって魔女に話してみようと思った。
最近はずっともやもやしていた。人に…いや、魔女に話せば胸のもやもやも取れるかもしれないし、こんなことメイにすら上手く相談できそうにない。
「リオルドはね、皆へのペナルティ?罰?を軽くしてくれたよ」
「そうか、そうか」
魔女はほっとすると目配せをして、横に突如として現れたベンチに座ろうと誘う
夢ってなんて便利なんだと思いながらユウトは腰を下ろした。
「でも、それって僕が頼んだからじゃないんだ」
「へぇ」
「お願いしても全然聞き入れて貰えなくて...妃らしくしろって言われた」
「ふむ」
「妃らしくってクリスみたいにって事でしょ?明るくて頭が良くて可愛くて…だから、あぁそうかって」
「そうかとは?」
「身代わり妃のお願いなんて聞いてくれないよね。じゃあクリスに頼むって言ったら、もういいって。罰は軽くしてやるからって…」
ーーーこれは困ったことになったぞ。リオルドがクリスに甘言を囁くのをユウトは見とるからなぁ、そうとってしまったか。
リオルドはクリスの名前を出したから許したわけでは無いだろう。だが、ユウトがそう捉えてしまう流れがあったのは間違いない。
「うーん。魔女は詳しくはわからんがタイミングとかあったんじゃないか?」
「わかんない。でも、もういいんだ」
ホーと白フクロウが悲しそうに鳴いた。
「だがなぁ…」魔女もどう慰めたらいいのか考えあぐねている。
「もう逆らわないって誓ってしまったし、リオルドの言うことに従って大人しくするよ」
「ユウト、悲しそうな目でそんなことを言わんでくれ。ほら!そんな事簡単に言ったらリオルドにすぐに襲われてしまうぞ!」
いつものユウトなら“嫌だよ、そんなの”と魔女に助けを求めてくるところだ。魔女も当然そうなると予想していたからこそ冗談交じりに言ったのだ。
「べつに、それでもいいよ」
ユウトは諦めたように言った。
「い、いいのか?」
「僕ね、多分リオルドの事を好ましく思い始めてるんだと思う」
「え!そうなんか?」
「うん、最初は怖いし嫌だったけど。何だかんだ助けてくれるし…」
「お、おぉ、そうか」
ーーーユウトがリオルドを!?あんな目にあわされてきたのに?
「なんで、そう思った?」
「うん、こっちに来て最初にクリスから手紙が来た時、嬉しくてすぐ開けたんだ。そうしたらリオルドの事が沢山書いてあって…今日も一緒にご飯を食べたとか、毎日冗談みたいに口説いてきて困るからユウト早く城に戻ってきてよ…とか」
「あぁ、クリス…なぁ」
「ふふっ、冗談で口説いてる訳じゃないのにね。二通目もそんな内容で手紙を見るのが嫌になっちゃって、次からは開けなくなった。ドルナー邸での暮らしは楽しいけど、リオルドは全然戻らないし…なんか、僕って邪魔だから追いやられたんだなって」
「ユウト…でも、ほらユウトのピンチに助けに来たぞ」
「あぁ、うん、感謝してる。でも、それで気づいたんだ。クリスの名前を出したらすぐ引いてくれて…良かったけどすごいショックだった。で、あぁ、僕ってリオルドを好きなのかもって…」
「どうじゃ、それをリオルドに言ってみたら」
ユウトは小さく首を振り、自嘲気味に微笑んだ
「無理だよ。リオルドは昔からクリスだけを愛してるんだ。身代わりとして弟を妃にするくらいに。」
「まぁ、うーん。確かに子供の時からクリスを追いかけてたけど…」
「それに、僕はリオルドといる時の自分が嫌いだ。卑屈になったり、焼きもちを焼いたり...これ以上惨めにもなりたくないよ」
それが恋と言うものなんじゃとユウトに伝えたいが、言ってしまったらユウトはもう魔女に恋の相談をしてくれない気がした。
想像以上にリオルドとユウトの縁は絡まりあい、面倒くさいことになっている
「気持ちは忘れるように努めるよ。まだ、好きかも?ってくらいだし」
「ユウト、一人で悩んじゃいかん。そうじゃ、ワシと話したい時はカラスに言うんじゃ。そうしたら魔女が夢に現れる」
「カラス…?魔女さんに会えるの?有り難う」
「話を聞くしか出来ない魔女だけどな…すまん」
ユウトは嬉しくなりぎゅっと魔女を抱き締めた
魔女はとても小さくて、男性としては小柄なユウトでもすっぽりと腕に入れることができる
「ううん。僕はいつも魔女さんに助けられてるよ」
「そ、そうか?ならいいんじゃが!」
抱き締められて真っ赤になっている魔女から体を離すと、今度は白フクロウの頭を撫でてみた
「僕も君みたいに自由に飛んでいけたらいいのに」
白フクロウは目を閉じて気持ち良さそうにユウトの手に身を任せていた。
ーーー魔女さんに話せて少しスッキリした。まだ好きになったと決まった訳じゃない。
これ以上リオルドに気持ちを寄せても自分が辛くなるだけだ、忘れるように努めよう。
ユウトは初めて芽吹いた恋心に蓋をした。
身代わりなんて引き受けなければ良かったと、この夜初めて後悔した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リオルドは別邸の通路にある外壁にもたれかかり、庭園で休んでいるユウトと甲斐甲斐しく世話を焼くメイを見ていた。
テーブルにはユウトの好きな紅茶や甘いクッキーが並べられ、二人は楽しそうに談笑している。
経過は順調だと思う。
魔法での治療を開始して三日で起き上がれるようになったし、補助があれば問題無く歩行も出来るようになった。
昨日は治療が終わった後、二階の寝室に居場所を移すと話をしたが、嫌がるそぶりも無くメイと一緒に移動してきた。
いまのところ、ユウトは怪我から順調に回復し、俺に対して従順で逆らおうともしない。
ーーーでも。
あの日以来、俺への態度が別人のように変わってしまったことには納得がいかない。
自分が俺に全て従うから皆を許してくれという約束を守っているのだろうが、そもそもそんな事は求めていない。
あの日の事は自分でも少しは反省している。
頭に血が上ったからといって、まだ少女であるメイドに対して死刑はあり得ない。
だけど、仮にも王族であるこの俺が、一度宣言したことを妃の願いで取り消したんだ。水に流してくれてもいいだろう。
「お疲れ様、今度クリス様がこちらに遊びに来るんだって?」
「クリスが一人でくるわけじゃない。王妃とレイルも一緒だ」
「ふーん、よく許可したな。ユウト様にあんな事言わせといて」
あの日以来態度が変わったやつはもう一人いる。
今俺に突っかかって来ているクロードだ。
「仕方がないだろう。そもそも、ユウトがクリスに手紙なぞ書くから、心配した王妃達が見舞いに来ると言い出したんだ。俺が呼んだ訳じゃない」
「それで、クリス様が来たらユウト様の前で甘い言葉を囁くわけか」
我慢していたが、とうとう腹に据えかねて壁沿いに隣に立ったクロードを睨み付けた。
「クロード、お前最近の態度はなんだ?言いたい事があるならハッキリ言え」
クロードにとって俺は王子であり、上官にあたる。
しかし、その前に俺達は昔からの親友だ。
今まで何度もクロードに無理難題を頼んできたが、呆れたような顔をしつつもいつも任務を遂行してくれた。
俺に軽口を叩く部下もクロードだけだし、俺はそれだって気に入っている。
「気に入らないことなんてないさ。クリス様達はいつ来られるんだ?兵士達に話をしなきゃならない」
「明日の昼前だ」
「明日?急な話だな、わかった」
そういうと、クロードはその場を離れ詰所の方へ歩いていってしまった。
ーーー何だっていうんだ。クロードだけじゃないメイもおかしい。前と変わらないのはジョルジュだけじゃないか。
胸を燻らせながらユウトに視線を戻すと、部屋に引き上げるようでメイがテーブルの上のお茶を片付け始めた。
リオルドは一歩一歩踏みしめながら前に進みユウトの元へといく。
「部屋に戻るのか?」
椅子に座っているユウトはその黒く深い瞳をリオルドに向けることなく返事をした。
「はい」
メイは何も話さずカップや食器を次々とワゴンに乗せていく。
ユウトはその作業をじっと見ていた。
「本屋に行きたがっていただろう?今日なら俺は時間があるから一緒に行くか?」
俺の言葉にユウトの瞳が僅かに揺れ興味を示したのがわかった
「その後何か買ってこよう。服や装飾品なんでもある。メイやイリスも連れていけば喜ぶだろう?」
メイは食器を片付ける手を止め、不安そうにユウトの様子を伺っている。
ユウトはリオルドの方を向こうともせず答えた。
「いえ、本はもういいんです。明日はクリス達が来ますから、疲れないように今日は自室に帰ります」
ーーー本はもういらないだと?抜け出してまで買いに行こうとしたくせに!
明日クリス達が来る前に、何とかユウトとの関係性を改善したかったリオルドは苛ついた。
これでは明日のための話し合いも出来ないではないかと。
「ユウト、俺を見ろ」
ユウトは言われるがままに顔を上げ、黒く潤んだ瞳をリオルドに向けた。
庭園の中で、リオルドはユウトに口づけをした。
メイは勿論の事、庭師や、洗濯物を持って歩くメイド達、休憩に入る兵士達の目の前で唇を合わせた。
ユウトは拒むことは無かったが、受け入れているわけでも無く、意思の無い人形のようにただされるがままにしていた。
ーーー以前なら人前でなんて絶対に嫌だと反抗しただろう。キスをする行為自体もぎゃあぎゃあと騒ぎ立てたに違いない。
今ならきっと体を重ねることも容易いだろう
だが、それは自分が求めていたユウトでは無い
「じゃあ、僕はこれで。メイ、行こう?」
「は、はい」
口づけが終わるとユウトはメイを連れて邸内に戻っていってしまった、何事も無かったように。
光る道が現れるのかとも思ったがそんな事もなく、いつものようにフクロウの鳴く声も聞こえない。
「おぉい、ユウト!ここじゃ~」
上を見上げると手に白いランタンを持った西の魔女が右へ左へとユラユラ揺られながら降りてくる。
「よし、到着と」
ユウトの脇に降り立った魔女はいつものようにしわくちゃな顔をクシャっとさせて笑った。
「僕はまた魔女さんに呼ばれて来たの?」
「いやいや、違う。これはユウトの夢の中じゃ、その証拠にほら」
魔女が持っていた白いランタンをユウトの前に差し出すと、ランタンは「ホーホー」と鳴き声をあげた。
よく見るとランタンだと思っていたものは光る白フクロウだったようである。
「夢先案内人じゃよ…いや、夢先案内フクロウ」
白フクロウは顔を180℃回して魔女を威嚇すると、ユウトの方に顔を戻し「ホーホー」と鳴いた。
「失礼。まぁ、こやつもワシもやはり心配でこうやって夢の中まで聞きにきたわけじゃ」
「そうなんだ、有り難う」
「リオルドを止めれたか?」
「うん、止めれたよ。僕の力では無かったけど…」
魔女と白フクロウは同時に首を傾げた。角度からタイミング全てがピッタリである。
「ユウト、どうした?何があったか魔女に言ってみい」
「うん…」
「ワシは誰にも言わんぞ。何てった隠された存在じゃ。口が軽くちゃやっていけない商売だからな」
「ふふっ魔女は商売なの?」
ユウトは思いきって魔女に話してみようと思った。
最近はずっともやもやしていた。人に…いや、魔女に話せば胸のもやもやも取れるかもしれないし、こんなことメイにすら上手く相談できそうにない。
「リオルドはね、皆へのペナルティ?罰?を軽くしてくれたよ」
「そうか、そうか」
魔女はほっとすると目配せをして、横に突如として現れたベンチに座ろうと誘う
夢ってなんて便利なんだと思いながらユウトは腰を下ろした。
「でも、それって僕が頼んだからじゃないんだ」
「へぇ」
「お願いしても全然聞き入れて貰えなくて...妃らしくしろって言われた」
「ふむ」
「妃らしくってクリスみたいにって事でしょ?明るくて頭が良くて可愛くて…だから、あぁそうかって」
「そうかとは?」
「身代わり妃のお願いなんて聞いてくれないよね。じゃあクリスに頼むって言ったら、もういいって。罰は軽くしてやるからって…」
ーーーこれは困ったことになったぞ。リオルドがクリスに甘言を囁くのをユウトは見とるからなぁ、そうとってしまったか。
リオルドはクリスの名前を出したから許したわけでは無いだろう。だが、ユウトがそう捉えてしまう流れがあったのは間違いない。
「うーん。魔女は詳しくはわからんがタイミングとかあったんじゃないか?」
「わかんない。でも、もういいんだ」
ホーと白フクロウが悲しそうに鳴いた。
「だがなぁ…」魔女もどう慰めたらいいのか考えあぐねている。
「もう逆らわないって誓ってしまったし、リオルドの言うことに従って大人しくするよ」
「ユウト、悲しそうな目でそんなことを言わんでくれ。ほら!そんな事簡単に言ったらリオルドにすぐに襲われてしまうぞ!」
いつものユウトなら“嫌だよ、そんなの”と魔女に助けを求めてくるところだ。魔女も当然そうなると予想していたからこそ冗談交じりに言ったのだ。
「べつに、それでもいいよ」
ユウトは諦めたように言った。
「い、いいのか?」
「僕ね、多分リオルドの事を好ましく思い始めてるんだと思う」
「え!そうなんか?」
「うん、最初は怖いし嫌だったけど。何だかんだ助けてくれるし…」
「お、おぉ、そうか」
ーーーユウトがリオルドを!?あんな目にあわされてきたのに?
「なんで、そう思った?」
「うん、こっちに来て最初にクリスから手紙が来た時、嬉しくてすぐ開けたんだ。そうしたらリオルドの事が沢山書いてあって…今日も一緒にご飯を食べたとか、毎日冗談みたいに口説いてきて困るからユウト早く城に戻ってきてよ…とか」
「あぁ、クリス…なぁ」
「ふふっ、冗談で口説いてる訳じゃないのにね。二通目もそんな内容で手紙を見るのが嫌になっちゃって、次からは開けなくなった。ドルナー邸での暮らしは楽しいけど、リオルドは全然戻らないし…なんか、僕って邪魔だから追いやられたんだなって」
「ユウト…でも、ほらユウトのピンチに助けに来たぞ」
「あぁ、うん、感謝してる。でも、それで気づいたんだ。クリスの名前を出したらすぐ引いてくれて…良かったけどすごいショックだった。で、あぁ、僕ってリオルドを好きなのかもって…」
「どうじゃ、それをリオルドに言ってみたら」
ユウトは小さく首を振り、自嘲気味に微笑んだ
「無理だよ。リオルドは昔からクリスだけを愛してるんだ。身代わりとして弟を妃にするくらいに。」
「まぁ、うーん。確かに子供の時からクリスを追いかけてたけど…」
「それに、僕はリオルドといる時の自分が嫌いだ。卑屈になったり、焼きもちを焼いたり...これ以上惨めにもなりたくないよ」
それが恋と言うものなんじゃとユウトに伝えたいが、言ってしまったらユウトはもう魔女に恋の相談をしてくれない気がした。
想像以上にリオルドとユウトの縁は絡まりあい、面倒くさいことになっている
「気持ちは忘れるように努めるよ。まだ、好きかも?ってくらいだし」
「ユウト、一人で悩んじゃいかん。そうじゃ、ワシと話したい時はカラスに言うんじゃ。そうしたら魔女が夢に現れる」
「カラス…?魔女さんに会えるの?有り難う」
「話を聞くしか出来ない魔女だけどな…すまん」
ユウトは嬉しくなりぎゅっと魔女を抱き締めた
魔女はとても小さくて、男性としては小柄なユウトでもすっぽりと腕に入れることができる
「ううん。僕はいつも魔女さんに助けられてるよ」
「そ、そうか?ならいいんじゃが!」
抱き締められて真っ赤になっている魔女から体を離すと、今度は白フクロウの頭を撫でてみた
「僕も君みたいに自由に飛んでいけたらいいのに」
白フクロウは目を閉じて気持ち良さそうにユウトの手に身を任せていた。
ーーー魔女さんに話せて少しスッキリした。まだ好きになったと決まった訳じゃない。
これ以上リオルドに気持ちを寄せても自分が辛くなるだけだ、忘れるように努めよう。
ユウトは初めて芽吹いた恋心に蓋をした。
身代わりなんて引き受けなければ良かったと、この夜初めて後悔した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リオルドは別邸の通路にある外壁にもたれかかり、庭園で休んでいるユウトと甲斐甲斐しく世話を焼くメイを見ていた。
テーブルにはユウトの好きな紅茶や甘いクッキーが並べられ、二人は楽しそうに談笑している。
経過は順調だと思う。
魔法での治療を開始して三日で起き上がれるようになったし、補助があれば問題無く歩行も出来るようになった。
昨日は治療が終わった後、二階の寝室に居場所を移すと話をしたが、嫌がるそぶりも無くメイと一緒に移動してきた。
いまのところ、ユウトは怪我から順調に回復し、俺に対して従順で逆らおうともしない。
ーーーでも。
あの日以来、俺への態度が別人のように変わってしまったことには納得がいかない。
自分が俺に全て従うから皆を許してくれという約束を守っているのだろうが、そもそもそんな事は求めていない。
あの日の事は自分でも少しは反省している。
頭に血が上ったからといって、まだ少女であるメイドに対して死刑はあり得ない。
だけど、仮にも王族であるこの俺が、一度宣言したことを妃の願いで取り消したんだ。水に流してくれてもいいだろう。
「お疲れ様、今度クリス様がこちらに遊びに来るんだって?」
「クリスが一人でくるわけじゃない。王妃とレイルも一緒だ」
「ふーん、よく許可したな。ユウト様にあんな事言わせといて」
あの日以来態度が変わったやつはもう一人いる。
今俺に突っかかって来ているクロードだ。
「仕方がないだろう。そもそも、ユウトがクリスに手紙なぞ書くから、心配した王妃達が見舞いに来ると言い出したんだ。俺が呼んだ訳じゃない」
「それで、クリス様が来たらユウト様の前で甘い言葉を囁くわけか」
我慢していたが、とうとう腹に据えかねて壁沿いに隣に立ったクロードを睨み付けた。
「クロード、お前最近の態度はなんだ?言いたい事があるならハッキリ言え」
クロードにとって俺は王子であり、上官にあたる。
しかし、その前に俺達は昔からの親友だ。
今まで何度もクロードに無理難題を頼んできたが、呆れたような顔をしつつもいつも任務を遂行してくれた。
俺に軽口を叩く部下もクロードだけだし、俺はそれだって気に入っている。
「気に入らないことなんてないさ。クリス様達はいつ来られるんだ?兵士達に話をしなきゃならない」
「明日の昼前だ」
「明日?急な話だな、わかった」
そういうと、クロードはその場を離れ詰所の方へ歩いていってしまった。
ーーー何だっていうんだ。クロードだけじゃないメイもおかしい。前と変わらないのはジョルジュだけじゃないか。
胸を燻らせながらユウトに視線を戻すと、部屋に引き上げるようでメイがテーブルの上のお茶を片付け始めた。
リオルドは一歩一歩踏みしめながら前に進みユウトの元へといく。
「部屋に戻るのか?」
椅子に座っているユウトはその黒く深い瞳をリオルドに向けることなく返事をした。
「はい」
メイは何も話さずカップや食器を次々とワゴンに乗せていく。
ユウトはその作業をじっと見ていた。
「本屋に行きたがっていただろう?今日なら俺は時間があるから一緒に行くか?」
俺の言葉にユウトの瞳が僅かに揺れ興味を示したのがわかった
「その後何か買ってこよう。服や装飾品なんでもある。メイやイリスも連れていけば喜ぶだろう?」
メイは食器を片付ける手を止め、不安そうにユウトの様子を伺っている。
ユウトはリオルドの方を向こうともせず答えた。
「いえ、本はもういいんです。明日はクリス達が来ますから、疲れないように今日は自室に帰ります」
ーーー本はもういらないだと?抜け出してまで買いに行こうとしたくせに!
明日クリス達が来る前に、何とかユウトとの関係性を改善したかったリオルドは苛ついた。
これでは明日のための話し合いも出来ないではないかと。
「ユウト、俺を見ろ」
ユウトは言われるがままに顔を上げ、黒く潤んだ瞳をリオルドに向けた。
庭園の中で、リオルドはユウトに口づけをした。
メイは勿論の事、庭師や、洗濯物を持って歩くメイド達、休憩に入る兵士達の目の前で唇を合わせた。
ユウトは拒むことは無かったが、受け入れているわけでも無く、意思の無い人形のようにただされるがままにしていた。
ーーー以前なら人前でなんて絶対に嫌だと反抗しただろう。キスをする行為自体もぎゃあぎゃあと騒ぎ立てたに違いない。
今ならきっと体を重ねることも容易いだろう
だが、それは自分が求めていたユウトでは無い
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