冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

文字の大きさ
42 / 51
第2章 取り込まれる者

16,リオルドの回想

しおりを挟む
 庭園では枢機卿とユウトが一生懸命花を選んでいた。
 籠の中には黄色やオレンジなどのいかにも元気印のメイに似合いそうな花が沢山入れられているが、まだ選び足りないようで二人で花を見ながらうろうろしている。


 朝、目が覚めたらユウトはもう起きていて、着替えまで済ませていた。

「早く食堂にご飯を食べに行って、メイのお見舞いに行こう?」

 俺が起きるのを待っていたようで、急かすように寝ている体を揺さぶってくる。

 ーーーこいつ、昨日の夜の事を忘れたのか?
 無かった事にされたように感じて腹が立ち、手を引き寄せてキスをしたらユウトは顔を赤くして黙った。
 忘れたわけでは無いらしい。


 その後に行った食堂の空気は重かった。
 使用人が毒を盛られて倒れ、まだ犯人も捕まっていない。
 一人を狙ったものなのか、無差別的な犯行なのか、それすらもこれから調査が始まる段階なのだ。
 明るく食事など出来る筈が無い。

「ジブリールとキーンを巻き込んでしまってすまない。二人を疑っている訳ではないことを理解して欲しい」

 王は二人が城にしばらく滞在することになったことを詫びた。
 毒を盛られた時間を加味して、その日城に宿泊していた来客は帰宅することが許されず、城に留まることを命じられた。
 他にも子爵家の夫婦が2組宿泊していたのだが、幼なじみだというその2組はちょうどその時間に仲良く城下街に出掛けており、疑いは晴れ帰宅を許された。
 犯人が来客の2人の内の1人に決まった訳ではない。
 使用人、出入り行者…枢機卿、王族もまた、可能性としては毒を混入する事が可能だ。

重苦しい朝食を終え、やっと今ユウトと庭園に来たところだ。


 ーーージブリールと、キーンか。ルーツの子が城に揃ったな。


 ユウトの存在を知ったのは偶然だった。

 幼い時より自分は“ルーツの子”と結婚するのだと言い聞かされて育ってきた。
 それが王族として生まれた者の義務であるのだと。

 幼心に自分の相手はクリスがいいと決めていた。
 クリスはよく城に遊びに来ていたし、兄と自分とクリスの3人で過ごすことが多かった。
 クリスは可愛くて明るくてひまわりのような存在だった。
 クリスとなら一緒に国を支えていけると思っていた。

 兄の結婚話が出た時、お相手として同じ年のクリスが選ばれた。
 俺は焦り、何度も何度も王や王妃に嘆願した。
 周りに使用人がいようが、貴族がいようがお構いなしに王に願った。
 クリスは俺の結婚相手にこそ相応しいと。
 結局、根負けした王がクリスの意思に任せようと言い、俺は喜んだが、選ばれたのは兄のアーノルドだった。
この時のことを人々はよく覚えていて、俺がまだクリスに片想いをしていると勘違いされ続けている。

 二人が結婚して2年も経つとクリスへの気持ちは自然と消えていた。
 俺も別に国を翻弄したい訳ではない。
 アーノルドとクリスに後継者が出来れば、俺は一生未婚のままでもいいのだ。
 溜まる性欲は、話のわかる未亡人と解消すればお互いに良いだろうと逢瀬を重ね楽しんでいた。

 ただ、このくらいから城内に不穏な空気が見受けられた。
 最初は傍観していたものの、見過ごすことも難しくなったリオルドは王に相談した。
 王や王妃を巻き込んで手を尽くしたが、善処することは出来ず最終的にはリオルドが結婚するのが一番の解決策だと決まった。
 俺はこの時19歳、王族が結婚する平均年齢18歳から、もう1年も過ぎていた。

 話は分かる。
 俺が結婚するのが最善だろう。
 だが、どうしても踏み切れない。

 ルーツの子は、もうキーンしか残っていないのだ。
 俺はキーンが昔から苦手だ。
 学院での同級生ではあるが、強いものに媚びへつらい、弱いものにはあたりが強く、俺を見ては腰を揺らして近づいてくる。
 これが妃というのも問題がある。
 せめてジブリールならと思ったが、彼はとっくに結婚し女との間に子を成していた。

 転機が訪れたのは、ある子爵家のパーティに呼ばれた時だった。
 俺はもう1年近く、王や王妃からの結婚を急ぐ声から逃げ回っていた。
 子爵家の令嬢はふくよかではあるが人の良さそうな娘で、婚約者と楽しそうに話している。
 それを見て、“やはり、内面も大事だよな”と俺は再確認していた。

「リオルド!偶然だね、会えて嬉しい」
「あぁ、キーンも来ていたのか」

 キーンの姿を確認すると俺はゲンナリした。また、あれが始まるぞと。
 キーンはリオルドに近づくと小さな声で耳打ちを始めた。

「ねぇ、子爵家の娘見てよ…クスクス」
「幸せそうじゃないか」
「でも、あのでぶっちょだよ。クスクス…恥ずかしくないのかな?」

 コイツは本当に妃教育を受けたのだろうか?
 発言も思考も品というものが一切ない。
 国の為だと分かっていても、キーンと結婚することはどうにも無理だ。

「男の価値は連れ合いで決まるよ。あんなでぶっちょじゃさ…クスクス」
「…少し、言いすぎじゃないか?」
「あ、そんなつもりじゃないよぅ。ねぇ、リオルド僕を見てよ」

 自分に自信があるのだろう。キーンは見た目はとても美しい。

「僕ならリオルドに恥はかかせないよ?っていうか、早く婚約しようよ。結婚できるルーツの子は僕しかいないんだからさ!」
「…そうか?」

 何でコイツしかいないんだ。
 贅沢は言わない、もっとまともなら何でもいい。

「そうかって…マグドー家は駄目だよ!もうクリスが嫁入りしてるんだから!」
「え?」
「だから、クリスの弟はだめ!一公爵家から1人の決まりでしょ?」
「クリスに弟が…いるのか?」

 キーンはしまったという顔をした。
 リオルドがクリスの弟の存在を知らないとは思いもしなかったのだ。

「変わり者だよ!それか体が相当病弱だね。見た目はクリスに似てるなんて噂だけど…どうだか。学院にも来ないで家庭教師を付けてるらしいし、社交界にも一切顔を出さないよ」
「悪い、俺は先に帰る」
「ちょっと待ってよ!リオルド!」

 ーーークリスに弟がいる?そんな話は聞いた事がない。
 アーノルド達の婚姻式にも来なかったじゃないか。

 俺は子爵家のパーティを抜け出し城へと馬を走らせた。
 キーンじゃない相手がいる!それだけで胸は踊った。
 別に白い結婚でいいんだ。
 ひとまず俺が結婚すれば、今の城を渦巻く問題は一旦解消される。
 アーノルド達に子供が出来たら、速やかに結婚を解消してやれば良い。

 城につき息を切らせ階段を駆け上がり、王の部屋へと急ぐ途中でクリスに会った。

「やあ、リオルド。急いでどうしたの?」
「クリスの弟はどうして婚姻式に来なかったんだ?」

 一瞬でクリスの顔は固まった。

「あぁ…。体が...弱い子なんだ」
「そうか、俺は義兄弟なのに名前も年齢も知らなかったよ。年はいくつなんだ?」
「…14かな、ちょっと忘れた」

 ーーー忘れた?弟の年齢を?もしかして、わざと俺から隠していたのか?

「14か、まだ幼いな?」
「あぁ…うん」

 クリスの顔は最後まで固まったままだった。

 王の部屋に入り、クリスの弟の話をすると二人は驚いた顔をした。

「ああ、クリスには弟がいる。今年17になったか、時期マグドー公爵だ」
「俺は知らなかった」
「そうだったかな…」

 明らかにおかしい。だが、気にはしていられない。

「17なら、来週20になる俺と丁度いい。俺はその弟と結婚する」
「そういうと思っていたから隠していたんだ。リオルドがキーンを好いてないのは分かっていたから…」

 王と王妃は項垂れ何とか俺を説得しようとしたが、俺は頑として受け付けなかった。
 最終的には“白い結婚”にすることを約束させられた。

 こちらは元よりそのつもりだ。
 その弟には身代わり妃という体で王族に入って貰い、離婚の際には良い縁談とそれなりの謝礼をやろう。


「ね、リオルド様聞いてます?」

 ユウトの大きな黒い瞳が俺を覗き込む。
 瞳はいつも濡れたように潤っていて、見ていると吸い込まれてしまいそうだ。

「悪い、なんだ?」
「メイの花、オレンジを主にしてるんだけど…白もいれてみた方が綺麗だよね?」
「あぁ、そうだな」

 ーーーそんな事で悩んでいたのか。何もかもが可愛いな。


 白い結婚にしようという気持ちは、初めての顔合わせで消え去った。
 遅れて入った部屋でソファーに座るユウトを見た時、一瞬で心を全て奪われた。
 クリスの時とは違う、もっと強烈で強い気持ちだ。
 俺はユウトに一目惚れした。
 そして絶対に手に入れてやると誓った。
 初夜をあのような形にするつもりは無かったが、どこかの段階で体を奪おうとは考えていた。
 “白い結婚”になどさせるつもりは無かったのだ。

「だよね、やっぱり白も入れよう。メイが喜ぶといいな」

 ユウトが俺を見て笑う。
 俺のことを好きだと言う。
 こんな幸せな未来があるとは思いもしなかった。
 これから立ち向かう敵は思った以上に強大で、把握できていない部分が多い。
 何としてもこの戦いは負けるわけには行かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

処理中です...