身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美

文字の大きさ
22 / 30
第四章 過度に許しはしないけど、過度に仕返しもしません。

しおりを挟む
久々の斎凛国だわ。
今日は高校大学を過ごした斎凛国の建国祭に招かれていた。
しっかりと、恵麻の腰に腕を回して誰にもとられてなるものかっと敵意全開な夫は先ほどからそわそわとしている。
「どうなさったのですか?」
閻魔大王こと地獄の番人は何をそんなにモジモジしているのかしら?物事を冷静、迅速、的確に決め実行に移す彼がモジモジするなんて初めてだわ。
そう思いながら、過労と睡眠不足で欠伸をかみ殺すと龍迫に声をかける。
「トイレに恵麻を連れていきたい」
「そういったプレイはお断りしております。早く行ってきてください」
どうしたのかと尋ねれば、お手洗いなんて。
クスクス恵麻が笑ったのもつかぬ間。
「どんな人間も蹴散らかす自身はあるけれど。最愛の妻を一人にして、妻が誰かに奪われたらと思うと、心配でどうにかなってしまいそうだ」
「はいはい。この会話を聞かれる方が、恥ずかしくてどうにかなってしまうわ」
「へぇ。どうなるんだ?」
「どうなるんでしょうね。さっさと、行ってきてください。折角、我が家をより繁盛に導いてくれる人脈をお持ちの方が沢山、同じ空間にいらっしゃるのですよ?目の前の方々と人脈作りを始めたいわ」
「そうだね。なんて俺の恵麻は聡明なんだ。さすが俺の恵麻」
早く言ってと、恵麻は龍迫の背を押すと名残惜しそうに龍迫は歩き出し、ふぁーっと過労から欠伸をした時だった。

「君が身代わりの花嫁だね」

横を見ると35歳前後の男性が愛想よく話しかけて来た。
身なりからして、王子か力のある公爵家の人間。
確かに、昔は姉の身代わりの花嫁で初対面の折には。
”貴様と寝食を共にする気はない”
”俺が呼ばれるまでは、姿を見せるな。その声を聞かせるな”と言われたこともあったが、それは遠い過去。

”今の恵麻は望まれた花嫁であり、望まれた妻だ”
「最新データによると、望まれた花嫁です」
その自信があると、少しも恵麻の心は乱されない。
「へぇ。ハッキリしているね」
感心したように彼は言うと、品定めをするように恵麻を頭のてっぺんから足先まで眺める。
しかし、こんな視線にも恵麻は慣れっこだ。
モデルのアルバイトをしている時は、自分という人間の見かけが商品であり品定めをされることが多かったし。
能津家でも嫌がらせの一環として頭のてっぺんから、足先まで見られることが多かった。
「知り合いか?」
お手洗いから戻って来た龍迫は怪訝そうに尋ねる。
「そうだよ。僕は彼女の事をよく知っている」
男はそういうと、龍迫を面白そうに見る。
「君はもっと、彼女に気遣った方がいいよ」
「どういう意味だ」
龍迫には十分、気を使ってもらっているけれど?
恵麻もどういう意味だろうと男を見る。
「そのままの意味だよ。そうやって、常に敵意をむき出しにするのは良くない」
クスクスと笑うように彼は言うと、恵麻を見る。
「有栖川公爵を怒らせたら、面倒だし、僕は荒波を嫌うタイプなんだ。君、この番人を宥めてくれないかな?」
十分、荒波を立てているわよ。
意図が掴めないわね。
どうしようかしら?と恵麻はピリピリしだす龍迫に少し考えた時だった。
「有栖川公爵、公爵夫人。ごきげんよう」
今日は建国祭の夜会。
大勢の人が来ており、有栖川公爵夫妻に話しかけたい人は大勢いる。
話しかけて来た人物に恵麻は空気を変えられるかしらと、振り返るとにっこり微笑んだ。
「ごきげよう」
身なりからして、どこかの公爵だろうが顔も名前も分からない。
「桜川公爵でございます。最近、領地で桜シャンパンと言うものを作りまして。もっとも影響力のある有栖川公爵領で試飲会を開らかせていただけないかなとお願いしたく声を掛けたのです」
そう言って桜川は隣の執事から用意していたシャンパングラスを恵麻達に手渡す。
「可愛いピンク色ですね。それに、とっても美味しそうですね」
キラキラと細かい泡がシャンパンの中で立ち、色も風味も良い。
飲まなくとも美味しい事は分かる一品だった。
「疲労とお酒の相性は良い。僕は無類のシャンパン好きだし、代わりの飲んであげよう」
そういって、男は恵麻が受け取ったグラスを横からとると一気に飲み干した。
確かに今、仕事は大きなプロジェクトの大詰めを迎えており疲労はたまっているためか、眠気は強いが、恵麻にとってはまだまだ余力がある。

「妻は酒を好む。この程度で妻は酔わない」

「そういうところも良くないよ。好きだから、飲ませる。愛してるから、甘やかす。もっと彼女を観察して、行動しないと」
確かに、今の疲労と眠気でお酒を飲めば、気を抜けば倒れかねないが。
欠伸は噛み殺し、恵麻も無類のシャンパン好きで起きる根拠のない気合で乗り切る自信があった。
「じゃあね」
男は龍迫の機嫌が更に悪くなることを確認して、あっさり立ち去った。

***
夜会はお開きになり、帰路の車内で今日あった人の位、名前、容姿や受けた印象、話した内容を書き留めていくが・・・。
眠い。
「旦那様。あの男性なのだけど。ふわぁ~」
「眠っていいぞ。家に着いたら、ベッドまで運ぶ。あの男は俺の恵麻の事を良く知っていると言っていたが、恵麻はあの野郎が誰か知らないことくらい分かっている」
欠伸をする恵麻に龍迫は優しく言う。
「そう。・・・名前も。・・・顔も知らない」
「そうか。ほら、来い。車のドアなんかによりかかるんじゃない。恵麻に体を預けられたドアに嫉妬して、ドアの無い車になってしまうし。命じたところで、飯田も岬も効かない。あいつら、最近、俺の言う事を聞かないんだ」
「ドアのない車は困るわ。車が絶叫マシーンになってしまう」
龍迫はパソコンに入力を終え、相槌を打つ恵麻を抱き寄せた。
恵麻が使ったシーツ、タオルは洗濯せずに保管しろ。
古くなった歯ブラシをコレクションとして捨てるな等、恵麻の知らない所でも、龍迫は恵麻に対する愛を爆発させており。一瞬、飯田も岬も龍迫が一人の女性を愛したことに対して嬉しく、一瞬は協力をしようとしていたのだが。最近は駄目なものは駄目だとはっきり言い龍迫のコレクションは全て破棄され。
ご主人様は異常です。もはや、怖いです。
モノの善悪は判るでしょう?
最近は使用人達も強くなり、龍迫は止められてばかりだった。
「旦那・・・様」
「無理に話さなくていい。明日も明後日も時間は沢山、話をする時間はあるのだから。俺の可愛い恵麻」
そう。
旦那様の恵麻よ。
恵麻は心の中で頷くと同時に深い眠りについた。
「あの男を知らべろ」
「はい。ご主人様」
恵麻が寝たことを確認すると、龍迫は飯田に指示を出した。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多
恋愛
 クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。  両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。  おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。  でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!  そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

処理中です...