ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。

紫月あみり

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心変わり (1)

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 審査が通ったと大家さんから連絡が来たのは、三日後だった。
 その間、彼とは全く顔を合わさず、電話もない。
 彼の私への思いが冷めたんだと、疑わざるを得なかった。

「七瀬、再就職活動はどうなってる?」

 私の先を歩いていた巧が、ふと振り返って聞く。

「買い物中に、そんな重い話題はやめようよ」
 
 もちろん、再就職活動も上手く行っていない。
 買い物カゴに豆腐を入れた私に、巧がゲッと顔を顰める。
 今夜はマダムから送られてきたチーズフォンデュで、引っ越しの前祝いでもしよう、という誘いに乗って、巧とスーパーマーケットに材料の買い出しにきていた。
 こんなことをするから、藤原晃成との関係にもヒビが入るのだろうな、と思う。
 分かってはいるけど、巧との関係は居心地が良くてやめられない。
 それに巧がいなかったら、私には友達が一人もいなくなってしまう。

「実は、うちの会社に一般事務の枠で空きができそうなんだ。七瀬を推してやってもいいと思ってさ」

 巧がウィンナーを選びながら言う。

「この話、乗る?」

 巧に聞かれ、私はブンブンと首を縦に降った。
 就職活動って辛い。
 何が辛いって、十○もの面接を受けては拒絶され、その度にまるで私の人生、人格が否定されたようなショックを受ける。もう○十という履歴書を送り無視された私は、世間に需要がないという烙印で、精神的に押し潰されそうだった。
 失業保険が続く間は、正社員を目指して頑張るつもりだったけど、そろそろ妥協して、非正規も考慮しようかと、弱気になっていた。

「でも、私をコネで入れて、巧は平気なの?」

 私はコネでも何でもしがみ付きたい状況だけど、巧は家族のコネでここまでの地位に上れたという、後ろめたさを抱えているのを知っている。

「七瀬がまともな人間で、仕事はキチンとこなすってのは知っているから、未知の他人をひき入れるよりは安心だ。お前の彼氏はますますいい顔は、しないだろうけど」

「……どうかな。藤原さんは私のことなんて、もう気にかけてないのかもしれない」

 私はため息をついた。

「それだけどさ、七瀬の勘違いじゃないか? 会えないのは、本当に単に仕事が忙しいからかもしれないだろ?」

 巧が適当にスナック類を、ポンポンとカゴに投げ入れる。

「……勘違いではないと思う。タイミング的に思い当たる節があって……」

「へえ、どんな?」

 巧のメガネがキラリと光る。
 恋愛相談は面倒くさがるのに、面白そうな恋愛ネタは聞きたがる。

「笑いのネタにされそうだから、やめておく」

 下ネタだし、と心の中で付け加えた。
 親友だけど、やっぱり男友達だから、セックスに関することは言いにくい。

「あっそ」

 つまらなさそうに、巧があっさり引き下がる。
 買い物カゴを持って、レジに向かった。
 買いすぎた感のあるスーパーの袋をそれぞれ二つずつ抱え、夜道を歩く。
 大通りから離れた公園に差し掛かると、街の騒音が静かになり、夏の虫の声が聞こえていた。

「あのさ……」

 巧が何か言いかけ、口を噤む。
 お菓子がたくさん入った袋が歩くたびに膝に当たり、ガサガサ音を立てた。

「何?」

 待てども次の言葉を言わない巧に、私は聞き返した。

「いや……後でいいや」

 珍しく巧が遠慮がちに言う。

「え、何? 余計気になる」 

「あー、やっぱ後にしよう」 

 暗くてよく分からないけど、そう言う巧の横顔が緊張しているような……
 私の観察から逃れるように、巧が足を早め、私の先を行こうとする。
 私も足を早め、横に並んだ。

「もしかして、カミングアウト?」

「違う」

 早歩き競争に疲れたのか、公園の出口で巧が足を止める。
 私と巧はお互い息を切らし、スーパーの袋を持ったまま向き合った。

「今まで言おうか言うまいか、迷ってたんだ」

 巧が慎重に前置きをする。
 蒸し暑さを紛らわすような涼しい夜風が、どこからともなく花の香りを運んでいた。

「だけど、アイツと上手く行ってないなら……」

 いつもと違って見える巧に、私は胸騒ぎを覚えた。
 そして、巧の次の言葉で私の胸騒ぎは的中する。

「俺と恋人にならないか」
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