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八
ドキドキの温泉旅行 (1)
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数百メートル先で待ち構えるように聳える、カラフルに光る物体は――
「観覧車……」
幼い頃から憧れて止まない、でも乗ることが叶わなかった乗り物。
呆然と眺めていると、後ろから彼が私の肩をフワリと抱く。
「高所恐怖症が治ったら、観覧車に乗りたかったんだろ? 前回、屋上に行った時、君が割と平気そうだったから、観覧車に乗っても大丈夫だろうと思って」
「もしかして、観覧車から花火を眺めるってこと?」
湖を望むこの観覧車から眺める花火が、人気なのは知っている。
既に観覧車の前は、見るからに長蛇の列だ。
「実は……ゴンドラを一つ貸し切ったんだ」
「えっ?」
驚いて振り向くと、拍子に、彼が軽く私の頬にキスをする。
ドドーンと音が轟いて、花火が夜空に舞い上がった。
「始まった。急ごう」
人混みの中を、彼が私の手を引いて歩き出す。
貸切の観覧車、さりげなく公共の場でされたキス、次々に打ち上げられる花火……
頭が飽和して、フワフワしている。
「紫のゴンドラにどうぞ」
スタッフに誘導されるまま、私は彼と観覧車に乗り込んだ。
花火が見える側に私を座らせ、彼が隣に座る。
ゴンドラのドアが閉まると、花火の音がいくらか小さくなった。
地上がどんどん離れて行く。
「大丈夫か?」
身体を強張らせる私の肩を、彼が抱き寄せる。
スゥーっと私の身体から、余分な力が抜けた。
「夢を見ているみたい……」
華やかに夜空を彩る花火を眺めながら、ホッと息をつく。
こんなサプライズが用意されていたなんて。
先ほどの不安が、私の中から消えて行く。
これ以上ないくらい、私の胸が満たされていた。
「ありがとう。こんな素敵な夜をプレゼントしてくれて」
格別に美しく見える花火に見とれながら、私は言った。
「本当のプレゼントはこれからだ」
彼が囁く。
彼の声にどこか緊張を感じ、私は彼を見上げた。
ちょうどゴンドラが頂点に差し掛かったところだった。
彼が私に唇を重ねる。
完璧なタイミングでのロマンチックな甘いキスで、私をうっとりさせながら、彼が小さな箱を私に渡す。
「これは……?」
「紫のゴンドラに乗るカップルは永遠に結ばれる、というジンクスがあるんだ」
そう言うと、彼が私の額にキスをする。
永遠に結ばれる……
おとぎ話のような言葉を夢心地で聞きながら、綺麗に包装された箱を開けた。
中には黒いベルベットのケースが入っていた。
何も見当がつかなかった私は、ケースを開けて目を見張った。
中でダイヤモンドが輝いていた。
舞い上がる花火の光を反射し、きらきらと光っている。
何で……?
「充希」
彼に珍しく名前で呼ばれ、不意を突かれたように顔を上げる。
「結婚しよう」
彼の真剣な眼差しが、私の瞳を捉えた。
思いがけない彼のプロポーズに、私の頭が真っ白になる。
「君と見合いをした時から、念頭に置いていた。一生側にいてほしい」
ダイヤモンドが入ったケースを持つ私の両手を、彼が包み込むように握る。
派手な花火の音が鳴り響く中、私と彼はそのまま無言で見つめ合っていた。
答えようと口を開くのに、動転して声にならない。
「返事は今無理にしなくていい」
私が迷っていると取った彼が、手を放す。
「ちっ違うの」
私は慌ててその手を引き止めた。
私の返事は決まってる――イエスだ。
「驚くと、声を失う癖があって……」
はにかみながら言葉を探す私を、彼が辛抱強く待つ。
花火が突然止み、静寂に包まれる。
「一生、よろしくお願いします」
暗闇の中、ようやく浮かんだ言葉を言った瞬間、祝福するように盛大な花火が轟いた。
彼と結婚するんだ……
実感を噛みしめる間も無く、彼に抱きしめられる。
彼の心臓が、私にも伝わるほど大きな音を立てていた。
「……君に断られやしないかと、緊張しっぱなしだったんだ」
私の肩に頭を持たれた彼が、大きく息を吐く。
弱さをさらけ出す彼が珍しくて、私は思わず彼の髪を撫でた。
「……藤原さんでも緊張するんだ。全然しなさそうなのに」
キツく私を抱きしめていた、彼の腕が緩む。
「こんなに緊張したのは初めてだ。君のことになると、何も分からなくなるんだ。……旅行なのに無口で悪かった」
「あ、だから? 私の浴衣姿に何もコメントがなかったのも、このせいだったんだ」
思い悩んだことが馬鹿らしくなって、私は笑った。
彼がハッとしたように私を引き離し、
「綺麗だ」
と、初めて気づいたように私の浴衣姿を眺める。
私にアタフタする彼が、何だかとっても愛しい。
彼への想いが込みあげて、次の瞬間、知らずに大胆な行動に出ていた。
私は唇を彼の唇に重ねていた。
彼の唇は動かなかった。
反応の無さに唇を離そうとすると、彼が私の背に手を回し、即座にキスを深める。
私の唇に割って入ってくる彼の舌が熱い。
このまま彼とキスをしていたかったのに……
「浴衣が乱れる」
キスがヒートアップする前に、彼が私から離れた。
物足りなさに彼を見ると、彼が切なそうな眼差しで私を見ていた。
その背後に、地上が見える。
貸切だから降りなくていいけど、係員さんや列に並んでいる人達からは丸見えだ。
「……観覧車初体験なのに、自粛しないと」
くるりと彼に背を向け、浴衣を直す。
フッと笑うと、彼が後ろから抱き寄せる。
愛撫をするように、彼が私の髪に顔を埋めた。
何気ない彼のスキンシップに、胸をキュンキュンさせられる私。
紫のゴンドラはそんな私達を乗せ、何回も何回も周った。
「観覧車……」
幼い頃から憧れて止まない、でも乗ることが叶わなかった乗り物。
呆然と眺めていると、後ろから彼が私の肩をフワリと抱く。
「高所恐怖症が治ったら、観覧車に乗りたかったんだろ? 前回、屋上に行った時、君が割と平気そうだったから、観覧車に乗っても大丈夫だろうと思って」
「もしかして、観覧車から花火を眺めるってこと?」
湖を望むこの観覧車から眺める花火が、人気なのは知っている。
既に観覧車の前は、見るからに長蛇の列だ。
「実は……ゴンドラを一つ貸し切ったんだ」
「えっ?」
驚いて振り向くと、拍子に、彼が軽く私の頬にキスをする。
ドドーンと音が轟いて、花火が夜空に舞い上がった。
「始まった。急ごう」
人混みの中を、彼が私の手を引いて歩き出す。
貸切の観覧車、さりげなく公共の場でされたキス、次々に打ち上げられる花火……
頭が飽和して、フワフワしている。
「紫のゴンドラにどうぞ」
スタッフに誘導されるまま、私は彼と観覧車に乗り込んだ。
花火が見える側に私を座らせ、彼が隣に座る。
ゴンドラのドアが閉まると、花火の音がいくらか小さくなった。
地上がどんどん離れて行く。
「大丈夫か?」
身体を強張らせる私の肩を、彼が抱き寄せる。
スゥーっと私の身体から、余分な力が抜けた。
「夢を見ているみたい……」
華やかに夜空を彩る花火を眺めながら、ホッと息をつく。
こんなサプライズが用意されていたなんて。
先ほどの不安が、私の中から消えて行く。
これ以上ないくらい、私の胸が満たされていた。
「ありがとう。こんな素敵な夜をプレゼントしてくれて」
格別に美しく見える花火に見とれながら、私は言った。
「本当のプレゼントはこれからだ」
彼が囁く。
彼の声にどこか緊張を感じ、私は彼を見上げた。
ちょうどゴンドラが頂点に差し掛かったところだった。
彼が私に唇を重ねる。
完璧なタイミングでのロマンチックな甘いキスで、私をうっとりさせながら、彼が小さな箱を私に渡す。
「これは……?」
「紫のゴンドラに乗るカップルは永遠に結ばれる、というジンクスがあるんだ」
そう言うと、彼が私の額にキスをする。
永遠に結ばれる……
おとぎ話のような言葉を夢心地で聞きながら、綺麗に包装された箱を開けた。
中には黒いベルベットのケースが入っていた。
何も見当がつかなかった私は、ケースを開けて目を見張った。
中でダイヤモンドが輝いていた。
舞い上がる花火の光を反射し、きらきらと光っている。
何で……?
「充希」
彼に珍しく名前で呼ばれ、不意を突かれたように顔を上げる。
「結婚しよう」
彼の真剣な眼差しが、私の瞳を捉えた。
思いがけない彼のプロポーズに、私の頭が真っ白になる。
「君と見合いをした時から、念頭に置いていた。一生側にいてほしい」
ダイヤモンドが入ったケースを持つ私の両手を、彼が包み込むように握る。
派手な花火の音が鳴り響く中、私と彼はそのまま無言で見つめ合っていた。
答えようと口を開くのに、動転して声にならない。
「返事は今無理にしなくていい」
私が迷っていると取った彼が、手を放す。
「ちっ違うの」
私は慌ててその手を引き止めた。
私の返事は決まってる――イエスだ。
「驚くと、声を失う癖があって……」
はにかみながら言葉を探す私を、彼が辛抱強く待つ。
花火が突然止み、静寂に包まれる。
「一生、よろしくお願いします」
暗闇の中、ようやく浮かんだ言葉を言った瞬間、祝福するように盛大な花火が轟いた。
彼と結婚するんだ……
実感を噛みしめる間も無く、彼に抱きしめられる。
彼の心臓が、私にも伝わるほど大きな音を立てていた。
「……君に断られやしないかと、緊張しっぱなしだったんだ」
私の肩に頭を持たれた彼が、大きく息を吐く。
弱さをさらけ出す彼が珍しくて、私は思わず彼の髪を撫でた。
「……藤原さんでも緊張するんだ。全然しなさそうなのに」
キツく私を抱きしめていた、彼の腕が緩む。
「こんなに緊張したのは初めてだ。君のことになると、何も分からなくなるんだ。……旅行なのに無口で悪かった」
「あ、だから? 私の浴衣姿に何もコメントがなかったのも、このせいだったんだ」
思い悩んだことが馬鹿らしくなって、私は笑った。
彼がハッとしたように私を引き離し、
「綺麗だ」
と、初めて気づいたように私の浴衣姿を眺める。
私にアタフタする彼が、何だかとっても愛しい。
彼への想いが込みあげて、次の瞬間、知らずに大胆な行動に出ていた。
私は唇を彼の唇に重ねていた。
彼の唇は動かなかった。
反応の無さに唇を離そうとすると、彼が私の背に手を回し、即座にキスを深める。
私の唇に割って入ってくる彼の舌が熱い。
このまま彼とキスをしていたかったのに……
「浴衣が乱れる」
キスがヒートアップする前に、彼が私から離れた。
物足りなさに彼を見ると、彼が切なそうな眼差しで私を見ていた。
その背後に、地上が見える。
貸切だから降りなくていいけど、係員さんや列に並んでいる人達からは丸見えだ。
「……観覧車初体験なのに、自粛しないと」
くるりと彼に背を向け、浴衣を直す。
フッと笑うと、彼が後ろから抱き寄せる。
愛撫をするように、彼が私の髪に顔を埋めた。
何気ない彼のスキンシップに、胸をキュンキュンさせられる私。
紫のゴンドラはそんな私達を乗せ、何回も何回も周った。
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