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第6話 獣人族の料理助手
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俺は今日も厨房で、包丁セレスティアルを見つめていた。
手に馴染むその感触と、どこか重厚な輝きを放つ刃先。
セレスティアルはただの包丁ではない。
イリスやレイラが言うように、魔力で力を引き出す特別な道具だ。
しかし、その力を俺はまだ使いこなせない。
「もっと俺自身が成長しないと、セレスティアルの力を引き出せないんだろうな……」
そう考えながら、じゃがいもの皮をむいていた。
厨房に「じゃがいもの皮をむくように」と書いてある紙を見つけてしまったからだ。
勝手で悪いと思ったが、レストランで働いていたときの習慣で、どうしてもやりたくなってしまう。
「ピーラーで効率よくやりたいところだけど、こっちにはないみたいだし……。まあ、包丁の練習になっていいな」
セレスティアルの切れ味はかなりいい。
それでも、何かが足りないような気がするのはわかる。
何か根本的な要素を見逃しているのだろう。
「リク、何してるの? なんでじゃがいもの皮むいてるの? あなたの仕事じゃないでしょ」
突然、レイラが厨房に現れ、俺に声をかけてきた。
「いや、練習になっていいかなって」
「そうかもしれないけど、そういうのは料理助手の仕事だから……」
「料理助手……?」
「そうそう、そういうのはコック長の助手をしている人たちの仕事なのよ」
そういえば、この厨房を使わせてもらっているが、一度も他の調理師たちと顔を合わせたことがない。
「じゃあ、今度あいさつのついでに手伝えることがないか聞いてみるか」
「私はリクにはバトルキッチンの練習をしてもらいたいんだけどなあ」
「う~ん、俺はセレスティアルの練習になれば何でもいいんだ。この包丁の力を理解するために経験を積みたいんだよ」
レイラは優しく微笑み、俺の言葉を受け止めたあと、少し考え込むように目を細めた。
そして突然、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ、リク! デザート勝負しない?」
「デザート勝負?」
「ええ、バトルキッチンはメイン料理だけじゃないわ。デザートも重要な要素よ。次はデザートで競いましょう」
デザートか……確かに、異世界の食文化を理解するには、甘いものも無視できない。
俺の腕を試す絶好の機会かもしれない。
「分かった、やろう。こっちの食材に慣れるためにもデザート勝負はいい練習になりそうだ!」
レイラは満足そうに頷き、続けた。
「よかった。じゃあその勝負、相手はフィーナに任せましょう!」
「フィーナ?」
すると、背後から軽やかな足音が近づいてきた。
振り返ると、元気いっぱいの少女がブラウンのショートヘアをなびかせながら、こちらに駆け寄ってくる。
「やっほー、リク! あたしはフィーナ・ローランだよ! よろしくね!」
フィーナと名乗る少女はキラキラした目で俺を見つめながら、満面の笑顔を見せた。
彼女の耳は犬のようにピンと立ち、しっぽが小刻みに揺れている。
「犬耳に、犬しっぽ⁉」
彼女の容姿に驚くと同時にそのテンションの高さにも驚く。
「あなたがリクだね? レイラ様から聞いてるよ! すご腕の料理人なんでしょ? あたしもあなたみたいな料理上手になりたいんだ!」
「そうか、ははは……」
彼女のエネルギーに圧倒されながらも、俺は笑みを浮かべた。
「あーっ! じゃがいも! 私の仕事、手伝ってくれるの?」
「お、おう、手が空いてたからな」
「ありがとー!!」
「ちょっとフィーナ、落ち着きなさい」
「あう……」
レイラがフィーナを制して、彼女を紹介してくれる。
「彼女がさっき話してたフィーナ。ここの料理助手のひとりで、獣人族なの」
「獣人族……初めて見た」
こちらの世界に飛ばされたとき、街中でも見なかったような気がする。
珍しい人種なんだろう。
ようやく落ち着いたフィーナと俺は向き合った。
「よろしく、フィーナ。俺はリク。俺もまだまだ修行中だけど、お互い頑張ろう」
俺は軽く笑いながら言った。
フィーナは目を輝かせて、楽しそうに頷いた。
「もちろん! それで、今日はあたしとバトルキッチンするんでしょ?」
「えっ、聞いてたのか?」
「うんっ!」
フィーナはにこにこしながら頷いた。
「だってレイラ様と見たことない人が話してたから、つい聞き耳立てちゃった」
そう言って可愛い犬耳をピコピコと動かしてみせる。
「へへん、デザート勝負楽しみだなぁ」
「フィーナは料理助手だけど、腕はなかなかのものよ。デザートの基礎はしっかりできてるから、フィーナとの勝負はリクでも苦戦するかも!」
レイラはフィーナの実力を認めている。
彼女の言葉に、俺もこの勝負が一筋縄ではいかないことを感じる。
なるほど、デザート勝負の相手として不足ないということか。
「よし、こっちでのデザート作りも試せるし、燃えてきた」
「やったー! じゃあ、早速始めよう!」
フィーナの明るい声に引き込まれ、俺たちはすぐに調理台に向き合った。
レイラが今回のバトルキッチンの立会人だ。
「では、今回のバトルキッチンのテーマはデザートで、作るのは『フルーツを使ったタルト』にします」
「タルトか……」
「タルト! タルトはあたし得意!」
最初はフィーナを勝たせるために得意なものを選んだのかとも思った。
しかし、異世界の果物を使ってタルトを作るのは、俺にとっていい練習になると判断したのだろう。
そしてレイラは声高らかに開始の合図をする。
「それでは、今回はタルトを作り、その出来栄えを3人で評価するという形になります」
「お互い賭けるものはなし。バトルキッチン開始!」
フィーナは手際よく、タルト生地を作り始める。
彼女の動きは、軽やかで素早い。
まるで獣の敏捷さを活かしているかのようだった。
俺も負けじと、タルト生地をこねていく。
そして、できたタルト生地をふたりとも“氷冷箱”にいれる。
氷冷箱、これは氷の魔法で冷やす冷蔵庫のようなものである。
生地を寝かせている間にフィリングの準備をする。
「リク、あたしはね、この『サファイアベリー』を使うんだ!」
フィーナが取り出したのは、いちごくらいの大きさの青く輝く美しいベリーだ。
見たこともない果物だが、彼女が自信満々に使うのを見ると、その味にも期待できそうだ。
「確かに、いい色してるな。じゃあ俺は、この『クリムゾンアップル』を使わせてもらおう」
俺は赤く輝くリンゴを取り出した。
さっき果物を選んでいるときにレイラに教えてもらったものである。
元の世界でもリンゴを使ったタルトはよく作っていたし、この世界でもリンゴは存在しているようだ。
だが、このクリムゾンアップルは、少し魔力を帯びているらしく、味も普通のリンゴよりも甘さと酸味の両方が強いらしい。
「違う果物を使うんだね! 楽しみだなぁ、どっちが美味しくなるかな!」
フィーナは嬉しそうに笑いながら、手を動かす。
彼女はクリームチーズを出してきて砂糖、生クリーム、レモン汁と混ぜ始めた。
そしてふやかした粉ゼラチンを入れる。
「なっ、こっちの世界にもレアチーズタルトがあるのか。というか粉ゼラチンまであるなんて……っ」
「ふふーん! ここは王城の厨房だよ。魔法のゼラチンだけじゃなくて、ほしい食材はなんでも手に入るんだ」
魔法のゼラチン?
粉ゼラチンのことか……なんでもありだな、魔法!
一方俺はクリムゾンアップルをスライスし、鍋にバターを溶かし、砂糖、レモン汁、赤ワインで煮る。
鍋から甘い香りが立ち上り、キッチン全体に広がる。
クリムゾンアップルの赤がワインの色と混じり合い、美しいルビーのような色彩を作り出す。
煮ている間にアーモンドプードルでフィリングも作っておく。
ふたりとも寝かせていたタルト生地を伸ばし、型に生地を敷く。
フィーナはフォークで底面に穴あけをし、オーブンに入れる。
俺は生地を敷き、穴あけをしてフィリングを流す。
クリムゾンアップルの赤い皮が綺麗に見えるようフィリングの上に並べる。
「よし、あとは焼くだけ」
横からフィーナがのぞき込む。
「へぇー、真っ赤なお花みたいだね♪」
「クリムゾンアップルと赤ワインを合わせてみた」
「いいね、いいね!」
時間が経つにつれて、キッチンに甘い香りが広がっていく。
フィーナは焼きあがったタルトを氷冷箱で冷ます。
冷めたタルトにレアチーズのフィリングを流し込み、そして、固めるため、また氷冷箱に入れる。
固まったらサファイアベリーのフィリングを上に流し、さらにサファイアベリーを並べて、また冷やし固める。
俺のリンゴのタルトが焼き上がり、フィーナのタルトも冷やし固まった。
ふたりのタルトが出来上がる。
「できたよ! 試食しよう!」
フィーナのサファイアベリータルトは鮮やかな青い果実が美しく輝いている。
一方、俺のクリムゾンアップルタルトもほんのり赤い黄金色に焼きあがり、甘い香りが漂っていた。
フィーナは自信満々に自分のタルトをカットし、俺とレイラに差し出してきた。
俺も自分のアップルタルトを慎重に切り分ける。
その瞬間、バターとリンゴの香りが一気に広がり、焼き上げたアーモンドフィリングの甘さが、鼻孔をくすぐった。
そしてふたりの前に出す。
レイラはふたつのタルトが並ぶ様に満面の笑顔になった。
「では、実食!」
レイラはそう言うと真っ先に食べ始めた。
続いて俺とフィーナも試食する。
フィーナのタルトは、レアチーズの滑らかな舌触りと、サファイアベリーのフレッシュな酸味が広がり、甘さとのバランスが絶妙だ。
そしてもうひとつ俺は驚いたことがある。
こちらの世界のレアチーズタルトも元の世界との出来に大きな差はないことだ。
クリームチーズもゼラチンも元の世界と同じように使って大丈夫そうでよかった。
それでも、このサファイアベリーの美しさと味、そしてフィーナの腕前は侮れないものがある。
俺はフィーナに率直な感想を述べた。
「うん、美味しいよ。酸味が効いていてさっぱりしてるし、出来上がりもキレイで驚いた」
「ありがとう! でもね、リクのタルトの方がおいしいよ! クリムゾンアップルの甘さがすごいし! でも全然くどくない!」
フィーナは俺のアップルタルトをすでに食べ終えていた。
「いや、俺は正直この勝負、引き分けくらいだと思ってる」
「そんなことない……だってあたしのタルトはサファイアベリーに頼ってるから……リクはクリムゾンアップルの良さを引き出すように作ってある」
「俺は素材の良さを活かすのも技術があってこそだと思うけどな」
「そ、そうかな……リクにそう言ってもらえるとうれしい」
フィーナはえへへと照れている。
しっぽがピコピコと動く姿が可愛らしい。
「うんうん、リクもフィーナもやっぱりすごい!」
レイラも笑顔でタルトを頬張りながら、俺たちを称賛した。
「フィーナ、これからもバトルキッチンの練習相手をしてくれよな!」
「うん、いいよ、リク! 一緒に頑張ろっ!」
こうして、新たな練習相手ができた。
セレスティアルの力を探りながら、俺は異世界での料理修行を続けていく。
――――――――――
「こらっ、フィーナ! じゃがいもの皮むきしてねぇじゃねーか!」
コック長にどやされながら二人で皮むきをした。
手に馴染むその感触と、どこか重厚な輝きを放つ刃先。
セレスティアルはただの包丁ではない。
イリスやレイラが言うように、魔力で力を引き出す特別な道具だ。
しかし、その力を俺はまだ使いこなせない。
「もっと俺自身が成長しないと、セレスティアルの力を引き出せないんだろうな……」
そう考えながら、じゃがいもの皮をむいていた。
厨房に「じゃがいもの皮をむくように」と書いてある紙を見つけてしまったからだ。
勝手で悪いと思ったが、レストランで働いていたときの習慣で、どうしてもやりたくなってしまう。
「ピーラーで効率よくやりたいところだけど、こっちにはないみたいだし……。まあ、包丁の練習になっていいな」
セレスティアルの切れ味はかなりいい。
それでも、何かが足りないような気がするのはわかる。
何か根本的な要素を見逃しているのだろう。
「リク、何してるの? なんでじゃがいもの皮むいてるの? あなたの仕事じゃないでしょ」
突然、レイラが厨房に現れ、俺に声をかけてきた。
「いや、練習になっていいかなって」
「そうかもしれないけど、そういうのは料理助手の仕事だから……」
「料理助手……?」
「そうそう、そういうのはコック長の助手をしている人たちの仕事なのよ」
そういえば、この厨房を使わせてもらっているが、一度も他の調理師たちと顔を合わせたことがない。
「じゃあ、今度あいさつのついでに手伝えることがないか聞いてみるか」
「私はリクにはバトルキッチンの練習をしてもらいたいんだけどなあ」
「う~ん、俺はセレスティアルの練習になれば何でもいいんだ。この包丁の力を理解するために経験を積みたいんだよ」
レイラは優しく微笑み、俺の言葉を受け止めたあと、少し考え込むように目を細めた。
そして突然、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ、リク! デザート勝負しない?」
「デザート勝負?」
「ええ、バトルキッチンはメイン料理だけじゃないわ。デザートも重要な要素よ。次はデザートで競いましょう」
デザートか……確かに、異世界の食文化を理解するには、甘いものも無視できない。
俺の腕を試す絶好の機会かもしれない。
「分かった、やろう。こっちの食材に慣れるためにもデザート勝負はいい練習になりそうだ!」
レイラは満足そうに頷き、続けた。
「よかった。じゃあその勝負、相手はフィーナに任せましょう!」
「フィーナ?」
すると、背後から軽やかな足音が近づいてきた。
振り返ると、元気いっぱいの少女がブラウンのショートヘアをなびかせながら、こちらに駆け寄ってくる。
「やっほー、リク! あたしはフィーナ・ローランだよ! よろしくね!」
フィーナと名乗る少女はキラキラした目で俺を見つめながら、満面の笑顔を見せた。
彼女の耳は犬のようにピンと立ち、しっぽが小刻みに揺れている。
「犬耳に、犬しっぽ⁉」
彼女の容姿に驚くと同時にそのテンションの高さにも驚く。
「あなたがリクだね? レイラ様から聞いてるよ! すご腕の料理人なんでしょ? あたしもあなたみたいな料理上手になりたいんだ!」
「そうか、ははは……」
彼女のエネルギーに圧倒されながらも、俺は笑みを浮かべた。
「あーっ! じゃがいも! 私の仕事、手伝ってくれるの?」
「お、おう、手が空いてたからな」
「ありがとー!!」
「ちょっとフィーナ、落ち着きなさい」
「あう……」
レイラがフィーナを制して、彼女を紹介してくれる。
「彼女がさっき話してたフィーナ。ここの料理助手のひとりで、獣人族なの」
「獣人族……初めて見た」
こちらの世界に飛ばされたとき、街中でも見なかったような気がする。
珍しい人種なんだろう。
ようやく落ち着いたフィーナと俺は向き合った。
「よろしく、フィーナ。俺はリク。俺もまだまだ修行中だけど、お互い頑張ろう」
俺は軽く笑いながら言った。
フィーナは目を輝かせて、楽しそうに頷いた。
「もちろん! それで、今日はあたしとバトルキッチンするんでしょ?」
「えっ、聞いてたのか?」
「うんっ!」
フィーナはにこにこしながら頷いた。
「だってレイラ様と見たことない人が話してたから、つい聞き耳立てちゃった」
そう言って可愛い犬耳をピコピコと動かしてみせる。
「へへん、デザート勝負楽しみだなぁ」
「フィーナは料理助手だけど、腕はなかなかのものよ。デザートの基礎はしっかりできてるから、フィーナとの勝負はリクでも苦戦するかも!」
レイラはフィーナの実力を認めている。
彼女の言葉に、俺もこの勝負が一筋縄ではいかないことを感じる。
なるほど、デザート勝負の相手として不足ないということか。
「よし、こっちでのデザート作りも試せるし、燃えてきた」
「やったー! じゃあ、早速始めよう!」
フィーナの明るい声に引き込まれ、俺たちはすぐに調理台に向き合った。
レイラが今回のバトルキッチンの立会人だ。
「では、今回のバトルキッチンのテーマはデザートで、作るのは『フルーツを使ったタルト』にします」
「タルトか……」
「タルト! タルトはあたし得意!」
最初はフィーナを勝たせるために得意なものを選んだのかとも思った。
しかし、異世界の果物を使ってタルトを作るのは、俺にとっていい練習になると判断したのだろう。
そしてレイラは声高らかに開始の合図をする。
「それでは、今回はタルトを作り、その出来栄えを3人で評価するという形になります」
「お互い賭けるものはなし。バトルキッチン開始!」
フィーナは手際よく、タルト生地を作り始める。
彼女の動きは、軽やかで素早い。
まるで獣の敏捷さを活かしているかのようだった。
俺も負けじと、タルト生地をこねていく。
そして、できたタルト生地をふたりとも“氷冷箱”にいれる。
氷冷箱、これは氷の魔法で冷やす冷蔵庫のようなものである。
生地を寝かせている間にフィリングの準備をする。
「リク、あたしはね、この『サファイアベリー』を使うんだ!」
フィーナが取り出したのは、いちごくらいの大きさの青く輝く美しいベリーだ。
見たこともない果物だが、彼女が自信満々に使うのを見ると、その味にも期待できそうだ。
「確かに、いい色してるな。じゃあ俺は、この『クリムゾンアップル』を使わせてもらおう」
俺は赤く輝くリンゴを取り出した。
さっき果物を選んでいるときにレイラに教えてもらったものである。
元の世界でもリンゴを使ったタルトはよく作っていたし、この世界でもリンゴは存在しているようだ。
だが、このクリムゾンアップルは、少し魔力を帯びているらしく、味も普通のリンゴよりも甘さと酸味の両方が強いらしい。
「違う果物を使うんだね! 楽しみだなぁ、どっちが美味しくなるかな!」
フィーナは嬉しそうに笑いながら、手を動かす。
彼女はクリームチーズを出してきて砂糖、生クリーム、レモン汁と混ぜ始めた。
そしてふやかした粉ゼラチンを入れる。
「なっ、こっちの世界にもレアチーズタルトがあるのか。というか粉ゼラチンまであるなんて……っ」
「ふふーん! ここは王城の厨房だよ。魔法のゼラチンだけじゃなくて、ほしい食材はなんでも手に入るんだ」
魔法のゼラチン?
粉ゼラチンのことか……なんでもありだな、魔法!
一方俺はクリムゾンアップルをスライスし、鍋にバターを溶かし、砂糖、レモン汁、赤ワインで煮る。
鍋から甘い香りが立ち上り、キッチン全体に広がる。
クリムゾンアップルの赤がワインの色と混じり合い、美しいルビーのような色彩を作り出す。
煮ている間にアーモンドプードルでフィリングも作っておく。
ふたりとも寝かせていたタルト生地を伸ばし、型に生地を敷く。
フィーナはフォークで底面に穴あけをし、オーブンに入れる。
俺は生地を敷き、穴あけをしてフィリングを流す。
クリムゾンアップルの赤い皮が綺麗に見えるようフィリングの上に並べる。
「よし、あとは焼くだけ」
横からフィーナがのぞき込む。
「へぇー、真っ赤なお花みたいだね♪」
「クリムゾンアップルと赤ワインを合わせてみた」
「いいね、いいね!」
時間が経つにつれて、キッチンに甘い香りが広がっていく。
フィーナは焼きあがったタルトを氷冷箱で冷ます。
冷めたタルトにレアチーズのフィリングを流し込み、そして、固めるため、また氷冷箱に入れる。
固まったらサファイアベリーのフィリングを上に流し、さらにサファイアベリーを並べて、また冷やし固める。
俺のリンゴのタルトが焼き上がり、フィーナのタルトも冷やし固まった。
ふたりのタルトが出来上がる。
「できたよ! 試食しよう!」
フィーナのサファイアベリータルトは鮮やかな青い果実が美しく輝いている。
一方、俺のクリムゾンアップルタルトもほんのり赤い黄金色に焼きあがり、甘い香りが漂っていた。
フィーナは自信満々に自分のタルトをカットし、俺とレイラに差し出してきた。
俺も自分のアップルタルトを慎重に切り分ける。
その瞬間、バターとリンゴの香りが一気に広がり、焼き上げたアーモンドフィリングの甘さが、鼻孔をくすぐった。
そしてふたりの前に出す。
レイラはふたつのタルトが並ぶ様に満面の笑顔になった。
「では、実食!」
レイラはそう言うと真っ先に食べ始めた。
続いて俺とフィーナも試食する。
フィーナのタルトは、レアチーズの滑らかな舌触りと、サファイアベリーのフレッシュな酸味が広がり、甘さとのバランスが絶妙だ。
そしてもうひとつ俺は驚いたことがある。
こちらの世界のレアチーズタルトも元の世界との出来に大きな差はないことだ。
クリームチーズもゼラチンも元の世界と同じように使って大丈夫そうでよかった。
それでも、このサファイアベリーの美しさと味、そしてフィーナの腕前は侮れないものがある。
俺はフィーナに率直な感想を述べた。
「うん、美味しいよ。酸味が効いていてさっぱりしてるし、出来上がりもキレイで驚いた」
「ありがとう! でもね、リクのタルトの方がおいしいよ! クリムゾンアップルの甘さがすごいし! でも全然くどくない!」
フィーナは俺のアップルタルトをすでに食べ終えていた。
「いや、俺は正直この勝負、引き分けくらいだと思ってる」
「そんなことない……だってあたしのタルトはサファイアベリーに頼ってるから……リクはクリムゾンアップルの良さを引き出すように作ってある」
「俺は素材の良さを活かすのも技術があってこそだと思うけどな」
「そ、そうかな……リクにそう言ってもらえるとうれしい」
フィーナはえへへと照れている。
しっぽがピコピコと動く姿が可愛らしい。
「うんうん、リクもフィーナもやっぱりすごい!」
レイラも笑顔でタルトを頬張りながら、俺たちを称賛した。
「フィーナ、これからもバトルキッチンの練習相手をしてくれよな!」
「うん、いいよ、リク! 一緒に頑張ろっ!」
こうして、新たな練習相手ができた。
セレスティアルの力を探りながら、俺は異世界での料理修行を続けていく。
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「こらっ、フィーナ! じゃがいもの皮むきしてねぇじゃねーか!」
コック長にどやされながら二人で皮むきをした。
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