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第7話 ダークエルフとの邂逅
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ノルティア王国の王都ラヴェリウムは、異世界アストリア屈指の繁栄を誇る大都市だ。
巨大な城壁に囲まれたその街は、様々な国からの訪問者で賑わっている。
市場は特に活気に満ち、動物の肉、色とりどりの野菜や果物、香辛料、そして魔力を宿した特異な食材まで、何でも揃っていた。
俺とイリスも、その市場で食材を吟味していた。
目的は、次のバトルキッチンに備えて最高の食材を手に入れることだ。
「お兄さん、魚はどうかな、新鮮だよ」
いろいろ見ながら歩いていると、魚を売っているおじいさんが声をかけてくる。
「魚かぁ。ここって海から離れてるけど……なのに新鮮ってどうしてるんだ?」
「それはもちろん、魔法で保冷して持って来てるんですよ」
やはり魔法。
なんでもありだな、魔法……。
鮮度が重要なものは魔法で保存して輸送しているようで、値段を見てみると割高になっていた。
「ごめん、おじいさん。ちょっと今、手持ちが少なくて……。また今度よろしく頼むよ」
さすがにイリスに高額なものをねだったりはできない。
「リク、これ見て! サラマンダーハーブがあるわ」
ほかの店を見ていたイリスが、興奮気味に赤いハーブを俺に差し出してきた。
「お、おう。そのハーブはそんなに珍しいものなのか?」
「サラマンダーハーブはね、炎の精霊サラマンダーの名を冠するハーブで、
火の魔法薬の材料として使われるものなの」
魔法薬……また新しい言葉が出てきた。
まあ、言葉通り、魔法を宿した薬なんだろうと自分を納得させる。
そして、イリスの話は続く。
「でね、料理に使うと独特の辛味と熱が加わるし、魔力も宿るの」
「ああ、深紅のトマトや妖精のニンジンみたいなものか」
「そう! なんだけど……希少価値が高くて、お値段も高いのよ……」
悲しそうな声で言うイリスだったが……。
「でも買っちゃうわ。こんなに珍しいもの、買わなかったら後悔しちゃいそうだもの」
俺はそのハーブをしっかりと見せてもらった。
持っているだけで熱が伝わってくる感覚がある……。
確かにただのハーブじゃないようだ。
この市場だけでも、元の世界では見たこともない食材で溢れている。
そんなことを考えていると、背中に冷たい視線を感じた。
俺は無意識に振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
肌は褐色で耳が長い。
漆黒の長髪が風に揺れ、黒いローブをまとった女性。
瞳は鋭く、俺を鋭利な刃物で突き刺すような視線でこちらを見つめていた。
「お前……料理人だな?」
冷たい声が響く。
俺は一瞬、言葉を失ったが、なんとか声を出した。
「そうだけど……」
「私はコーネリア・ナイトウィンド。料理魔法使いだ」
「料理魔法使い? 料理専門の魔法を使うってことか?」
俺が質問すると、彼女は鼻で笑った。
隣で見ていたイリスが代わりに答えてくれる。
「コーネリア・ナイトウィンド……魔法使いの中では有名人よ。魔法の技術が高く、料理にもその技術を活かす天才。料理の世界でも名を轟かせているダークエルフよ」
「それで“料理魔法使い”なのか」
俺の知ってるファンタジーものには出てこない言葉で驚いた。
「それで、お前は料理人なんだろ……? だが、お前からは魔力を感じない。料理人を名乗っておきながら魔力がない」
「だから何だって言うんだよ」
「……お前のような半端者は成敗する!」
彼女の言葉には、冷徹さと揺るぎない自信が込められていた。
「おい、いきなりなんだよ。たしかに魔法なんて使えない俺は、あんたから見たら半端者かもしれないけどさ……イリスさんも何か言ってください!」
イリスは困ったように言う。
「こちらの世界では普通、魔力をもった人が料理人になるのよ……」
「ええっ⁉ 知らなかったですよ、そんなこと!」
「だからね、練習してるのよ。でも大丈夫、セレスティアルに選ばれたあなたならね」
「いやいや、今、成敗するとか言ってますよ、あの人」
コーネリアがずんずんとこちらに近寄ってくる。
ただ、俺も言われっぱなしもシャクだから言い返してやった。
「料理は……ただの魔法や技術じゃない、心だって大切なんだ」
料理人をやってきた俺の大切にしていること。
おいしく食べてもらいたいと思う心。
こっ恥ずかしくて普段は言えないがいつもそう思っている。
俺が少し反論すると、コーネリアは目を細めた。
「心? フッ、甘いな。そんなことを言っているうちは、私には到底勝てない」
「私の目標は、自分の力を証明し、料理の世界で頂点に立つこと。料理皇帝ラズフォード・アルカディアさえ倒してな!」
「ラズフォードを倒す……⁉」
俺以外にもラズフォードを倒そうとする人がいるのか……!
仲間になれるかもと思う以上に、俺の中で静かな闘志が芽生えた。
彼女は確かに強そうだし、かなりの自信家のようだ。
でも、俺だって引き下がれない。
料理は俺の生き様そのものだ。
「バトルキッチンで勝負しよう」
俺は挑発するように言った。
その言葉にコーネリアは冷たく微笑んだ。
「そのつもりだ。私の料理とお前の料理、どちらが上かを決めよう」
俺の体は少し震えていた。
これが……初めての実戦になるのか……。
イリスが俺たちのやり取りを黙って聞いていたが、口を開いた。
「それなら、この近くにある食堂を借りましょう。私なら王国仕えの高位魔法使いという権限で交渉できるから」
そう言うと、イリスは市場の一角にある食堂に向かって歩き出した。
俺たちもそれに続く。
店に入ると、中年のおやじがカウンターの向こうにいて、客も数名入っていた。
おやじはイリスを見た途端、驚いて立ち上がった。
「おやおや、これはイリス様! 本日も実にお美しい……ではなくて、いったいどうなさいました?」
イリスは優雅に微笑み、事情を説明した。
「バトルキッチンをするために、この店をお借りしたいの。それと、あなたには審査員をお願いできるかしら?」
店主は少し困惑しながらも、すぐに快諾した。
「もちろんですとも! この店でそんな大一番が見られるなんて光栄です!」
――――――――――
俺たちはそれぞれ調理台に立った。
店内には審査をする店主と、数人の客が見守っている。
「今回テーマは『炎』だ」
コーネリアが言い放つ。
「炎を象徴する料理を作り、審査員の店主がどちらが優れているかを決める。それでいいな?」
「それでかまわない」
勝手にテーマを決めるなよ、とも思ったが、おもしろそうな提案なので乗ってしまった。
「そして、賭けるものはプライドだ」
コーネリアは続ける。
「私はこの勝負に負ければ、料理人としての名声を捨てる覚悟がある」
その言葉を聞いて、俺も覚悟を決めた。
これが俺にとって初めての本格的な戦い。
料理皇帝を倒さなきゃいけないんだ、こんなところで負けるわけにはいかない。
「俺も……プライドを賭ける。俺の料理が通用するか、ここで証明してみせる」
二人の間に火花が散り、いよいよバトルキッチンが始まる。
そして、イリスが開始の宣言をする。
「それでは、今回は『炎』がテーマの料理を一品ずつ作り、その出来栄えを店主が評価するという形になります」
「お互い賭けるものは“プライド”で、いいわね? バトルキッチン開始!」
コーネリアは手際よく食材を選び、羊肉に唐辛子をはじめとするスパイス、炎のように真っ赤な果実ミニトマトのようなものを使い始めた。
丁寧に肉を処理し一口大に切る。
潰した果実とスパイスと混ぜたものに漬け込む。
色鮮やかなスパイスと真紅の果実が、肉を染めていく様子は、まさに炎が宿っているかのようだった。
そして、漬け込んだ肉を串に刺していく。
あの串焼きは、アロスティチーニだったか、元の世界にも近い料理がある。
すると彼女は炎の魔法を駆使し、串に刺した羊肉を調理する。
肉が炙られ、炎が料理に命を吹き込むように舞う様子は圧巻だ。
魔法を使うことで中はじっくり、外は香ばしくなるように、繊細な焼き加減で仕上げていっている。
「凄いな……」
その光景に俺も目を奪われたが、気を引き締める。
負けられない。
俺のターンだ!
俺はシンプルにアラビアータを作ることにした。
ちょっと卑怯かもしれないが、イリスが見つけた魔法薬にも使われるという高級品、サラマンダーハーブを使うことに決めた。
市場にある食材なんだからセーフだろう。
そして、テーマは「炎」だが、俺が作るのは火力でなく、心に燃え上がる情熱を込めたパスタだ。
俺にとって炎は、ただ燃え盛るものじゃなく、料理に込める情熱そのものだ。
フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れ、刻んだ唐辛子を少なめに加えて強火にかける。
軽く火を入れると、油の中でにんにくがじわじわと黄金色に染まり、香りがふわっと立ち上がった。
そこに刻んだ玉ねぎを加えて炒めると、甘くて少し刺激的な香りになる。
潰したトマト(“深紅のトマト”ではない普通のもの)と刻んだサラマンダーハーブ入れて炒めていく。
鮮やかな赤いソースがフライパンの中で煮詰まり、まるでマグマのようになる。
あとは茹でたパスタと絡めて皿に盛り、上から削ったチーズ、刻んだパセリを散らせば完成!
シンプルがゆえに作り手の個性も出やすい。
俺の得意料理でもある。
何度も作ってきたものだからあえて普通のトマトを選び、味がぶれないようにした。
サラマンダーハーブの辛みと唐辛子の辛みのバランスがちょうど良くなったのは、「さすが俺」とほめてやりたいくらいだ。
――そして、両者の料理が完成した。
コーネリアの「羊肉の串焼き」は見た目も香りも圧倒的で、常連客たちもその料理に驚嘆している。
一方、俺の「アラビアータ」はサラマンダーハーブの香りこそ良いが、見た目は普通である。
店主は並べられた二つの料理を前にゴクリと喉を鳴らす。
そして、魔法で焼いたからなのか、輝いてさえ見える串焼きにまず手が伸びる。
「な、なんだこれは! 口の中で爆発するような刺激と旨味が広がる! これは羊の串焼きの常識を遥かに超えているぅ!」
店主の顔が驚きと喜びで輝くのが見て取れた。
コーネリアはニヤリとするが、我慢できずにそのまま大きく笑ってしまう。
「ふっ、ふははは、どうだ、私の料理魔法は! お前たちも食べてみろ!」
俺とイリスも一本ずつ手に取り食べる。
「すごいわ、噂通りの素晴らしい料理……羊の串焼きを食べて感動するなんて初めてだわ」
「うまい、それに辛みとも違う感覚で身体が温まる……魔力の流れってやつか……」
イリスさんの言うこともわかる。
噂になるほどの腕前とはこれほどのものなのか……。
しかも、彼女は魔力の宿った食材を使っていない……。
「これが“料理魔法使い”の力なのか……」
彼女の実力を身をもって感じた。
だが、俺だって負けられない。
俺のパスタだってこれまで培ってきた技術と、セレスティアルの力(使いこなせてはいない)と、サラマンダーハーブを俺の情熱でまとめ上げて作ったんだ!
満足顔の店長に俺のパスタを差し出す。
「俺のパスタも食べてみてくれ」
「おお、すまんすまん、忘れていたよ。ではさっそく、あーむっ……」
店主は一口食べると目を見開いた。
「じわじわと心に響くような温かさが広がる……。まるで内側から炎が灯るような感覚だ。これはソースの辛みだけではない……。彼の料理にかける情熱からくるものだ……!」
店主はそう呟き、一言だけ続けた。
「彼の勝ちだ」
勝負の判定だけをし、パスタを食べ続ける店主にコーネリアが文句を言う。
「待て! 私の料理の方が味も魔力量も圧倒的だろう! なんでこいつの勝ちなんだ!」
イリスが一歩前に出る。
「それは彼の料理を食べてから言うことね……」
コーネリアは差し出されたパスタを渋々口にする。
「………………」
味をしっかりと確かめるように噛みしめている。
2口目、3口目を食べたところでようやくコーネリアは声を発した。
「味は同等、魔力量は私の勝ちだ……。だが、この感覚……これがお前の情熱。さっき言っていた心というやつか……」
「そうだ、俺は今回のテーマである『炎』を情熱という形で表現した」
「なるほど、魔力量で劣っていても、魔力に込められた想いの力でカバーしている。お前の料理人としての力、確かなもののようだ……」
コーネリアはしばらく黙って俺を見つめていた。
悔しそうな表情を浮かべながらも、どこかに尊敬の色が滲んでいた。
「……私の負けだ。賭けたプライドをお前に預ける。しかし、次は絶対に勝って取り戻す」
彼女はそう言い残し、静かにその場を去っていった。
こうして俺の初めての実戦は勝利で終わった。
今までの人生で積み上げてきたものは、この世界でも活きることを確信できた。
巨大な城壁に囲まれたその街は、様々な国からの訪問者で賑わっている。
市場は特に活気に満ち、動物の肉、色とりどりの野菜や果物、香辛料、そして魔力を宿した特異な食材まで、何でも揃っていた。
俺とイリスも、その市場で食材を吟味していた。
目的は、次のバトルキッチンに備えて最高の食材を手に入れることだ。
「お兄さん、魚はどうかな、新鮮だよ」
いろいろ見ながら歩いていると、魚を売っているおじいさんが声をかけてくる。
「魚かぁ。ここって海から離れてるけど……なのに新鮮ってどうしてるんだ?」
「それはもちろん、魔法で保冷して持って来てるんですよ」
やはり魔法。
なんでもありだな、魔法……。
鮮度が重要なものは魔法で保存して輸送しているようで、値段を見てみると割高になっていた。
「ごめん、おじいさん。ちょっと今、手持ちが少なくて……。また今度よろしく頼むよ」
さすがにイリスに高額なものをねだったりはできない。
「リク、これ見て! サラマンダーハーブがあるわ」
ほかの店を見ていたイリスが、興奮気味に赤いハーブを俺に差し出してきた。
「お、おう。そのハーブはそんなに珍しいものなのか?」
「サラマンダーハーブはね、炎の精霊サラマンダーの名を冠するハーブで、
火の魔法薬の材料として使われるものなの」
魔法薬……また新しい言葉が出てきた。
まあ、言葉通り、魔法を宿した薬なんだろうと自分を納得させる。
そして、イリスの話は続く。
「でね、料理に使うと独特の辛味と熱が加わるし、魔力も宿るの」
「ああ、深紅のトマトや妖精のニンジンみたいなものか」
「そう! なんだけど……希少価値が高くて、お値段も高いのよ……」
悲しそうな声で言うイリスだったが……。
「でも買っちゃうわ。こんなに珍しいもの、買わなかったら後悔しちゃいそうだもの」
俺はそのハーブをしっかりと見せてもらった。
持っているだけで熱が伝わってくる感覚がある……。
確かにただのハーブじゃないようだ。
この市場だけでも、元の世界では見たこともない食材で溢れている。
そんなことを考えていると、背中に冷たい視線を感じた。
俺は無意識に振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
肌は褐色で耳が長い。
漆黒の長髪が風に揺れ、黒いローブをまとった女性。
瞳は鋭く、俺を鋭利な刃物で突き刺すような視線でこちらを見つめていた。
「お前……料理人だな?」
冷たい声が響く。
俺は一瞬、言葉を失ったが、なんとか声を出した。
「そうだけど……」
「私はコーネリア・ナイトウィンド。料理魔法使いだ」
「料理魔法使い? 料理専門の魔法を使うってことか?」
俺が質問すると、彼女は鼻で笑った。
隣で見ていたイリスが代わりに答えてくれる。
「コーネリア・ナイトウィンド……魔法使いの中では有名人よ。魔法の技術が高く、料理にもその技術を活かす天才。料理の世界でも名を轟かせているダークエルフよ」
「それで“料理魔法使い”なのか」
俺の知ってるファンタジーものには出てこない言葉で驚いた。
「それで、お前は料理人なんだろ……? だが、お前からは魔力を感じない。料理人を名乗っておきながら魔力がない」
「だから何だって言うんだよ」
「……お前のような半端者は成敗する!」
彼女の言葉には、冷徹さと揺るぎない自信が込められていた。
「おい、いきなりなんだよ。たしかに魔法なんて使えない俺は、あんたから見たら半端者かもしれないけどさ……イリスさんも何か言ってください!」
イリスは困ったように言う。
「こちらの世界では普通、魔力をもった人が料理人になるのよ……」
「ええっ⁉ 知らなかったですよ、そんなこと!」
「だからね、練習してるのよ。でも大丈夫、セレスティアルに選ばれたあなたならね」
「いやいや、今、成敗するとか言ってますよ、あの人」
コーネリアがずんずんとこちらに近寄ってくる。
ただ、俺も言われっぱなしもシャクだから言い返してやった。
「料理は……ただの魔法や技術じゃない、心だって大切なんだ」
料理人をやってきた俺の大切にしていること。
おいしく食べてもらいたいと思う心。
こっ恥ずかしくて普段は言えないがいつもそう思っている。
俺が少し反論すると、コーネリアは目を細めた。
「心? フッ、甘いな。そんなことを言っているうちは、私には到底勝てない」
「私の目標は、自分の力を証明し、料理の世界で頂点に立つこと。料理皇帝ラズフォード・アルカディアさえ倒してな!」
「ラズフォードを倒す……⁉」
俺以外にもラズフォードを倒そうとする人がいるのか……!
仲間になれるかもと思う以上に、俺の中で静かな闘志が芽生えた。
彼女は確かに強そうだし、かなりの自信家のようだ。
でも、俺だって引き下がれない。
料理は俺の生き様そのものだ。
「バトルキッチンで勝負しよう」
俺は挑発するように言った。
その言葉にコーネリアは冷たく微笑んだ。
「そのつもりだ。私の料理とお前の料理、どちらが上かを決めよう」
俺の体は少し震えていた。
これが……初めての実戦になるのか……。
イリスが俺たちのやり取りを黙って聞いていたが、口を開いた。
「それなら、この近くにある食堂を借りましょう。私なら王国仕えの高位魔法使いという権限で交渉できるから」
そう言うと、イリスは市場の一角にある食堂に向かって歩き出した。
俺たちもそれに続く。
店に入ると、中年のおやじがカウンターの向こうにいて、客も数名入っていた。
おやじはイリスを見た途端、驚いて立ち上がった。
「おやおや、これはイリス様! 本日も実にお美しい……ではなくて、いったいどうなさいました?」
イリスは優雅に微笑み、事情を説明した。
「バトルキッチンをするために、この店をお借りしたいの。それと、あなたには審査員をお願いできるかしら?」
店主は少し困惑しながらも、すぐに快諾した。
「もちろんですとも! この店でそんな大一番が見られるなんて光栄です!」
――――――――――
俺たちはそれぞれ調理台に立った。
店内には審査をする店主と、数人の客が見守っている。
「今回テーマは『炎』だ」
コーネリアが言い放つ。
「炎を象徴する料理を作り、審査員の店主がどちらが優れているかを決める。それでいいな?」
「それでかまわない」
勝手にテーマを決めるなよ、とも思ったが、おもしろそうな提案なので乗ってしまった。
「そして、賭けるものはプライドだ」
コーネリアは続ける。
「私はこの勝負に負ければ、料理人としての名声を捨てる覚悟がある」
その言葉を聞いて、俺も覚悟を決めた。
これが俺にとって初めての本格的な戦い。
料理皇帝を倒さなきゃいけないんだ、こんなところで負けるわけにはいかない。
「俺も……プライドを賭ける。俺の料理が通用するか、ここで証明してみせる」
二人の間に火花が散り、いよいよバトルキッチンが始まる。
そして、イリスが開始の宣言をする。
「それでは、今回は『炎』がテーマの料理を一品ずつ作り、その出来栄えを店主が評価するという形になります」
「お互い賭けるものは“プライド”で、いいわね? バトルキッチン開始!」
コーネリアは手際よく食材を選び、羊肉に唐辛子をはじめとするスパイス、炎のように真っ赤な果実ミニトマトのようなものを使い始めた。
丁寧に肉を処理し一口大に切る。
潰した果実とスパイスと混ぜたものに漬け込む。
色鮮やかなスパイスと真紅の果実が、肉を染めていく様子は、まさに炎が宿っているかのようだった。
そして、漬け込んだ肉を串に刺していく。
あの串焼きは、アロスティチーニだったか、元の世界にも近い料理がある。
すると彼女は炎の魔法を駆使し、串に刺した羊肉を調理する。
肉が炙られ、炎が料理に命を吹き込むように舞う様子は圧巻だ。
魔法を使うことで中はじっくり、外は香ばしくなるように、繊細な焼き加減で仕上げていっている。
「凄いな……」
その光景に俺も目を奪われたが、気を引き締める。
負けられない。
俺のターンだ!
俺はシンプルにアラビアータを作ることにした。
ちょっと卑怯かもしれないが、イリスが見つけた魔法薬にも使われるという高級品、サラマンダーハーブを使うことに決めた。
市場にある食材なんだからセーフだろう。
そして、テーマは「炎」だが、俺が作るのは火力でなく、心に燃え上がる情熱を込めたパスタだ。
俺にとって炎は、ただ燃え盛るものじゃなく、料理に込める情熱そのものだ。
フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れ、刻んだ唐辛子を少なめに加えて強火にかける。
軽く火を入れると、油の中でにんにくがじわじわと黄金色に染まり、香りがふわっと立ち上がった。
そこに刻んだ玉ねぎを加えて炒めると、甘くて少し刺激的な香りになる。
潰したトマト(“深紅のトマト”ではない普通のもの)と刻んだサラマンダーハーブ入れて炒めていく。
鮮やかな赤いソースがフライパンの中で煮詰まり、まるでマグマのようになる。
あとは茹でたパスタと絡めて皿に盛り、上から削ったチーズ、刻んだパセリを散らせば完成!
シンプルがゆえに作り手の個性も出やすい。
俺の得意料理でもある。
何度も作ってきたものだからあえて普通のトマトを選び、味がぶれないようにした。
サラマンダーハーブの辛みと唐辛子の辛みのバランスがちょうど良くなったのは、「さすが俺」とほめてやりたいくらいだ。
――そして、両者の料理が完成した。
コーネリアの「羊肉の串焼き」は見た目も香りも圧倒的で、常連客たちもその料理に驚嘆している。
一方、俺の「アラビアータ」はサラマンダーハーブの香りこそ良いが、見た目は普通である。
店主は並べられた二つの料理を前にゴクリと喉を鳴らす。
そして、魔法で焼いたからなのか、輝いてさえ見える串焼きにまず手が伸びる。
「な、なんだこれは! 口の中で爆発するような刺激と旨味が広がる! これは羊の串焼きの常識を遥かに超えているぅ!」
店主の顔が驚きと喜びで輝くのが見て取れた。
コーネリアはニヤリとするが、我慢できずにそのまま大きく笑ってしまう。
「ふっ、ふははは、どうだ、私の料理魔法は! お前たちも食べてみろ!」
俺とイリスも一本ずつ手に取り食べる。
「すごいわ、噂通りの素晴らしい料理……羊の串焼きを食べて感動するなんて初めてだわ」
「うまい、それに辛みとも違う感覚で身体が温まる……魔力の流れってやつか……」
イリスさんの言うこともわかる。
噂になるほどの腕前とはこれほどのものなのか……。
しかも、彼女は魔力の宿った食材を使っていない……。
「これが“料理魔法使い”の力なのか……」
彼女の実力を身をもって感じた。
だが、俺だって負けられない。
俺のパスタだってこれまで培ってきた技術と、セレスティアルの力(使いこなせてはいない)と、サラマンダーハーブを俺の情熱でまとめ上げて作ったんだ!
満足顔の店長に俺のパスタを差し出す。
「俺のパスタも食べてみてくれ」
「おお、すまんすまん、忘れていたよ。ではさっそく、あーむっ……」
店主は一口食べると目を見開いた。
「じわじわと心に響くような温かさが広がる……。まるで内側から炎が灯るような感覚だ。これはソースの辛みだけではない……。彼の料理にかける情熱からくるものだ……!」
店主はそう呟き、一言だけ続けた。
「彼の勝ちだ」
勝負の判定だけをし、パスタを食べ続ける店主にコーネリアが文句を言う。
「待て! 私の料理の方が味も魔力量も圧倒的だろう! なんでこいつの勝ちなんだ!」
イリスが一歩前に出る。
「それは彼の料理を食べてから言うことね……」
コーネリアは差し出されたパスタを渋々口にする。
「………………」
味をしっかりと確かめるように噛みしめている。
2口目、3口目を食べたところでようやくコーネリアは声を発した。
「味は同等、魔力量は私の勝ちだ……。だが、この感覚……これがお前の情熱。さっき言っていた心というやつか……」
「そうだ、俺は今回のテーマである『炎』を情熱という形で表現した」
「なるほど、魔力量で劣っていても、魔力に込められた想いの力でカバーしている。お前の料理人としての力、確かなもののようだ……」
コーネリアはしばらく黙って俺を見つめていた。
悔しそうな表情を浮かべながらも、どこかに尊敬の色が滲んでいた。
「……私の負けだ。賭けたプライドをお前に預ける。しかし、次は絶対に勝って取り戻す」
彼女はそう言い残し、静かにその場を去っていった。
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