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第8話 放浪の錬金術師
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俺がベッドで寝ていると、甘くて心地よい香りが鼻をくすぐり、目を覚ます。
昨日のコーネリアとのバトルキッチンの疲れもあって、体が重く感じる。
それでも、大きく伸びをして起き上がる。
「リクさん、おはよう。昨日は頑張ったわね」
聞き慣れた柔らかな声が耳に入る。
横を見ると、イリスがいつもの穏やかな笑顔で俺を見つめていた。
その瞳にはどこか母性を感じさせるものがあり、彼女の存在はいつも心を落ち着かせてくれる。
「おはよう、イリスさん」
イリスの後ろからレイラが明るく笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「おはよう、リク!」
「レイラもいたのか、おはよう」
「今日もバトルキッチンするの? 昨日の勝負もおもしろかったみたいだし!」
彼女の無邪気な笑顔に、俺は思わず顔をほころばせた。
「今日はさすがに休ませてくれ……。昨日は初めての実戦だったし、本当にギリギリの戦いだったから」
「でも、楽しかったでしょ?」
レイラは目を輝かせながら訊ねてくる。
彼女のその元気さに、疲れも吹き飛んでしまうようだ。
「そうだな。確かに楽しかったけど、今日は穏やかに過ごしたい」
俺は苦笑いを浮かべながら、立ち上がる。
体を伸ばし、コーネリアとの勝負がどれほど激しかったかを思い出そうとした。
その時、突然ドアが開き、メイドが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「リク様、外に錬金術師を名乗る女性が訪ねていらっしゃっています。衛兵に通すように迫っておりまして……」
「錬金術師が俺に……?」
首を傾げる。
そんな知り合いは当然いない。
しかし、錬金術師か……料理魔法使いよりは聞き馴染みがある名称だ。
「誰かしら?」
イリスが興味深そうにつぶやく。
「分かったわ、リクに用があるなら通してちょうだい。私も会ってみたい」
レイラは指示を出し、メイドは急いで衛兵の元に向かった。
俺も準備して広間に向かう。
しばらくして広間の扉が開き、一人の女性が現れた。
背の高いイケメンだ。
髪はブロンドでウェーブがかかっていて、後ろで髪をまとめている。
彼女はたくさんのポケットや道具が装備されている旅行者のような服装で、錬金術で使うであろう道具がバックパックから顔を出していた。
「初めまして、リク・アマギさん」
彼女は堂々とした態度で俺に近づき、その中性的な声には強い自信が滲んでいる。
「ああ、初めまして……。それであなたは?」
俺は初めて会う錬金術師に興味がありつつも、しっかりと警戒していた。
「私はガーネット・オーラム、錬金術師だよ。今は旅の途中でね、ラヴェリウムで買い物をしていたときに、たまたま昨日のバトルキッチンを見させてもらった」
昨日のコーネリアとの戦いの場にいたのか。
「それでね、私には君の包丁に特別な力が宿っているように見えたんだ」
「包丁に? それはどういうことだ?」
俺もイリスもレイラも彼女の言葉に少し驚いたが、俺はその真意を知りたかった。
「ただの包丁ではないのだろう? 私はそれを手に入れたいと思ってる」
「そうか。でも、この包丁は俺の大切なものなんだ。だからダメだ」
この包丁が魔法を宿しているのはわかっているようだが、その中でも特別なセレスティアルだとは知らないみたいだ。
「そう言うと思っていた。だから私はこれを賭ける。バトルキッチンといこうじゃないか」
ガーネットはバックパックから、不思議な装飾のついた黄金色の鍋を取り出し、俺の前に差し出した。
「この“黄金の鍋”は、魔法が込められた調理器具で、煮込む時間を短縮できたり、料理の質を飛躍的に高めることができる。私の最高傑作さ」
「たしかに錬金術師の黄金の鍋というのは魅力的だが、俺の包丁は簡単には渡せない」
俺は即座に返答した。
ガーネットの挑戦を受けて、包丁を失うようなリスクを冒す必要はない。
「それなら、君が勝てば私自身もつける。君のその態度、余計に欲しくなってしまったよ」
ガーネットの表情には確固たる決意があるようにみえる。
「ちょっ、ちょっと! その、私自身もつけるってどういうことよっ?」
「それは、リクさんの女になるってことかしら?」
レイラとイリスが割って入る。
「ダメよ、リク。私たちがいるんだから、あんな女いらないでしょ⁉ だから断って!」
レイラは少し怒ったように言う。
彼女の目には強い意志がこもっている。
だが俺は……。
「分かった。その条件で勝負しよう」
「なんでよぉ⁉」
「あそこまでの覚悟を持って勝負しようとしてくるんだ。料理人として断ることはできない」
俺は覚悟を決め、ガーネットとのバトルキッチンに挑むことにした。
「リク……」
「リクさん……」
レイラとイリスは、一瞬驚いたように見つめ合い、その後、深い息をつく。
「わかったわ。リクさんが決めたことなら、私たちも応援する」
イリスの言葉には、俺を信じてくれている気持ちが込められているのがわかる。
「リクが本気でやるなら、私たちも全力でサポートするわ。ガーネット・オーラム、覚悟しておきなさいよ!」
レイラも決意を固めたようで、目を光らせて言う。
「ありがとう、二人とも」
俺は彼女たちに感謝の意を示しながら、バトルキッチンの準備を整えるために動き出す。
レイラの手配で、王城内にある厨房にて、すぐに準備が行われた。
「やっほー、リク! 準備して待ってたよ!」
「おう、ありがとう、フィーナ」
「あたしも見学させてもらうよ♪ がんばれーリク!」
フィーナも厨房の準備をしてくれていた。
応援もしてくれるみたいだ。
審査はレイラが務めることになった。
久しぶりに見る彼女の王女らしい姿がある。
そしてイリスがバトルキッチンのテーマの宣言をする。
「今回はガーネット・オーラムが錬金術師ということにちなんで、『黄金の料理』をテーマとします。よろしいですね?」
『黄金の料理』がテーマとは……レイラのこちらに肩入れしないという意思表示だろう。
問題なしと頷く俺とガーネット。
そしてイリスが開始の合図をする。
「今回は『黄金の料理』をテーマとして一品を作り、その出来栄えをレイラ王女が評価するという形になります」
「リク・アマギは包丁を、ガーネット・オーラムは鍋と自分自身を賭けることとします。それでは、バトルキッチン開始!」
宣言がされると、ガーネットは手際よく準備し始めた。
彼女の指先は魔力を発しながら、まずは普通の鍋にバターと米を炒め、香ばしい香りを立ち上らせる。
米を炒めているだけなのに、その姿には錬金術師としての熟練が感じられた。
黄金の鍋はというと、こちらではすでに鶏ガラからブイヨンを作っている。
この組み合わせはおそらくリゾットを作るのだろう。
対して、俺はゴールデンシーラを捌く。
『シーラ』は元の世界でいうシイラにあたる魚だ。
しかし、この『ゴールデンシーラ』は、この世界においてかなり高価なもので、黄金色のウロコが特徴であり、魔力まで保有している。
セレスティアルは大きめの魚だろうが、簡単に捌ける。
以前よりきれいな切り身にできたのは俺が上達から、と言いたいが、セレスティアルが俺を誘導してくれているような感覚もある。
次に白身魚に合うクリーミーなサフランソースを作っていく。
鍋でみじん切りにした玉ねぎをバターで炒める。
そこに生クリームを入れ、白ワインに浸しておいたサフランをそのまま入れ、塩とホワイトペッパーで味を整え、アルコールを飛ばしつつ少し煮る。
バターと生クリームの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
そこにサフランの鮮やかな黄金色が加わり、サフランのクリームソースが出来上がる。
するとフィーナの驚きの声が上がる。
「な、ななな、なんなの、あのチキンブイヨン!!!」
ガーネットが米を炒めている鍋にブイヨンを入れている。
しかし、彼女のブイヨンは本物の黄金のように輝き、周囲に魔力を放っていた。
フィーナが驚いて声を上げるのも無理はない。
その輝きは目を奪われるほどに美しかった。
「そんな、いくら黄金の鍋で作ったからと言っても、材料は普通のものだったはず……」
「このブイヨンは、ただ色が黄金なだけではないよ。これは“黄金の鍋”で作った最高に美味なブイヨンさ」
自慢げにガーネットが答えた。
「くっ……」
魔法の包丁を使っている以上、俺だって対等の立場にある。
しかし、それを使いこなせていないことが悔しい。
ダメだ、目の前のことに集中しろ……。
レイラにおいしい料理を作る。
今はそれだけでいい。
「よしっ!」
俺は気合を入れ直す。
そして、シーラの身がほどよく焼き上がり、盛り付けに移る。
まずはサフランクリームソースを皿に敷く。
そこにゴールデンシーラを丁寧にのせて、粗挽きの白コショウをふり、軽くレモンを絞る。
この盛り付けはもちろんゴールデンシーラの美しい皮目を活かすためだ。
余計なものは極力使わずに、ゴールデンシーラの味を引き出し、自然な美しさを最大限に活かすよう心がけた。
「ゴールデンシーラのサフランクリームソース添え」が完成だ。
彼女もリゾットの仕上げに入る。
黄金色に輝くリゾットに粗削りのチーズとバターで塩気を足す。
削っているチーズも輝いて見える。
おそらくチーズも変わったものを使っているのだろう。
余熱で溶けたら皿に盛りつけ、粗挽きの白コショウを振る。
本来なら黒コショウが定番だが、色味のため、あえての白コショウを使っている。
「黄金のリゾット」が出来上がった。
二人の料理がレイラ王女の前に並ぶ。
放たれる香りが、厨房全体に広がり、見ている人たちの期待感を高めていた。
「どちらも『黄金の料理』というテーマの通り、見た目は大変美しいです」
「では次に味をみてみましょう」
レイラはまずガーネットのリゾットを口に運ぶ。
すると、その緊張感のある表情から笑顔に変わった。
「うん、これは素晴らしいわ。チーズのクリーミーさも良く合い、お米一粒一粒に魔法の力が見事に融合しています」
レイラは感想を述べると次に、俺のシーラも口に運んだ。
「サフランの香り、シーラの柔らかさ、料理全体の調和がとれている。うん、おいしいです」
レイラは少しの間黙って味わい、真剣な表情になる。
食べ終わり、長く沈黙していたレイラの口を開く。
「この勝負、引き分けとします」
「「「ええっ!!」」」
一同から驚きの声が上がる。
当の本人であるガーネットは驚いていないようだった。
「ガーネットのリゾットは、香り高く、口に入れた瞬間に濃厚な味わいが広がる。一方、リクのシーラも、サフランソースの香りと魚の旨味が絶妙に絡み合っていました」
「どちらも同等に美しく、そしておいしかったです」
「味も、見た目も、魔力量も同等に感じました」
「不満がある人もいるかもしれません。しかしこれは審査を引き受けた王女レイラ・グレイシャルの決定です」
そこまで言われれば誰も文句は言えない。
「引き分けか……」
正直、黄金のブイヨンを見たときは、包丁がとられる覚悟もしていたので、安心した。
今回はゴールデンシーラとセレスティアルに助けられた。
そして俺は彼女にお願いをした。
「リゾット、食べさせてほしい!」
そう、あの黄金のブイヨン、めちゃくちゃうまそうだった!
「もちろんいいよ。代わりに君のシーラも食べさせてくれ」
二人で料理を分け合う。
イリスとフィーナもちゃっかり食べていた。
「ガーネット、今回は引き分けになったが、それでよかったのか?」
「うーん、私のリゾットも良かったけれど、君の料理からもまだ学ぶべきことが多いと感じたから……だから引き分けでも文句はないよ」
ガーネットは微笑みながら言った。
――――――――――
「じゃあ、私はそろそろ旅に戻るよ」
彼女は黄金の鍋をしまい、出発の準備をする。
「ありがとう、ガーネット。いい経験になったよ」
俺は感謝の気持ちを込めてガーネットと握手を交わした。
「頑張って腕を上げてくれ、リク君。そして次こそはこの鍋と、“私のこと”を勝ち取ってくれよ」
ガーネットはそう言い残し、広間を後にした。
「あ、え……?」
当然レイラとイリス、そしてフィーナも今の話を聞いていた。
「リク! なに赤くなってんの⁉」
「あらあら、これ以上は魔法を教えるのやめようかしら」
「次の勝負、私が審査員になったら絶対あの錬金術師を勝たせるんだから!」
――これからの戦いに向け、さらなる成長が必要だ。
料理の腕だけでなく、魔法の勉強もしてセレスティアルを使いこなしてみせる。
昨日のコーネリアとのバトルキッチンの疲れもあって、体が重く感じる。
それでも、大きく伸びをして起き上がる。
「リクさん、おはよう。昨日は頑張ったわね」
聞き慣れた柔らかな声が耳に入る。
横を見ると、イリスがいつもの穏やかな笑顔で俺を見つめていた。
その瞳にはどこか母性を感じさせるものがあり、彼女の存在はいつも心を落ち着かせてくれる。
「おはよう、イリスさん」
イリスの後ろからレイラが明るく笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「おはよう、リク!」
「レイラもいたのか、おはよう」
「今日もバトルキッチンするの? 昨日の勝負もおもしろかったみたいだし!」
彼女の無邪気な笑顔に、俺は思わず顔をほころばせた。
「今日はさすがに休ませてくれ……。昨日は初めての実戦だったし、本当にギリギリの戦いだったから」
「でも、楽しかったでしょ?」
レイラは目を輝かせながら訊ねてくる。
彼女のその元気さに、疲れも吹き飛んでしまうようだ。
「そうだな。確かに楽しかったけど、今日は穏やかに過ごしたい」
俺は苦笑いを浮かべながら、立ち上がる。
体を伸ばし、コーネリアとの勝負がどれほど激しかったかを思い出そうとした。
その時、突然ドアが開き、メイドが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「リク様、外に錬金術師を名乗る女性が訪ねていらっしゃっています。衛兵に通すように迫っておりまして……」
「錬金術師が俺に……?」
首を傾げる。
そんな知り合いは当然いない。
しかし、錬金術師か……料理魔法使いよりは聞き馴染みがある名称だ。
「誰かしら?」
イリスが興味深そうにつぶやく。
「分かったわ、リクに用があるなら通してちょうだい。私も会ってみたい」
レイラは指示を出し、メイドは急いで衛兵の元に向かった。
俺も準備して広間に向かう。
しばらくして広間の扉が開き、一人の女性が現れた。
背の高いイケメンだ。
髪はブロンドでウェーブがかかっていて、後ろで髪をまとめている。
彼女はたくさんのポケットや道具が装備されている旅行者のような服装で、錬金術で使うであろう道具がバックパックから顔を出していた。
「初めまして、リク・アマギさん」
彼女は堂々とした態度で俺に近づき、その中性的な声には強い自信が滲んでいる。
「ああ、初めまして……。それであなたは?」
俺は初めて会う錬金術師に興味がありつつも、しっかりと警戒していた。
「私はガーネット・オーラム、錬金術師だよ。今は旅の途中でね、ラヴェリウムで買い物をしていたときに、たまたま昨日のバトルキッチンを見させてもらった」
昨日のコーネリアとの戦いの場にいたのか。
「それでね、私には君の包丁に特別な力が宿っているように見えたんだ」
「包丁に? それはどういうことだ?」
俺もイリスもレイラも彼女の言葉に少し驚いたが、俺はその真意を知りたかった。
「ただの包丁ではないのだろう? 私はそれを手に入れたいと思ってる」
「そうか。でも、この包丁は俺の大切なものなんだ。だからダメだ」
この包丁が魔法を宿しているのはわかっているようだが、その中でも特別なセレスティアルだとは知らないみたいだ。
「そう言うと思っていた。だから私はこれを賭ける。バトルキッチンといこうじゃないか」
ガーネットはバックパックから、不思議な装飾のついた黄金色の鍋を取り出し、俺の前に差し出した。
「この“黄金の鍋”は、魔法が込められた調理器具で、煮込む時間を短縮できたり、料理の質を飛躍的に高めることができる。私の最高傑作さ」
「たしかに錬金術師の黄金の鍋というのは魅力的だが、俺の包丁は簡単には渡せない」
俺は即座に返答した。
ガーネットの挑戦を受けて、包丁を失うようなリスクを冒す必要はない。
「それなら、君が勝てば私自身もつける。君のその態度、余計に欲しくなってしまったよ」
ガーネットの表情には確固たる決意があるようにみえる。
「ちょっ、ちょっと! その、私自身もつけるってどういうことよっ?」
「それは、リクさんの女になるってことかしら?」
レイラとイリスが割って入る。
「ダメよ、リク。私たちがいるんだから、あんな女いらないでしょ⁉ だから断って!」
レイラは少し怒ったように言う。
彼女の目には強い意志がこもっている。
だが俺は……。
「分かった。その条件で勝負しよう」
「なんでよぉ⁉」
「あそこまでの覚悟を持って勝負しようとしてくるんだ。料理人として断ることはできない」
俺は覚悟を決め、ガーネットとのバトルキッチンに挑むことにした。
「リク……」
「リクさん……」
レイラとイリスは、一瞬驚いたように見つめ合い、その後、深い息をつく。
「わかったわ。リクさんが決めたことなら、私たちも応援する」
イリスの言葉には、俺を信じてくれている気持ちが込められているのがわかる。
「リクが本気でやるなら、私たちも全力でサポートするわ。ガーネット・オーラム、覚悟しておきなさいよ!」
レイラも決意を固めたようで、目を光らせて言う。
「ありがとう、二人とも」
俺は彼女たちに感謝の意を示しながら、バトルキッチンの準備を整えるために動き出す。
レイラの手配で、王城内にある厨房にて、すぐに準備が行われた。
「やっほー、リク! 準備して待ってたよ!」
「おう、ありがとう、フィーナ」
「あたしも見学させてもらうよ♪ がんばれーリク!」
フィーナも厨房の準備をしてくれていた。
応援もしてくれるみたいだ。
審査はレイラが務めることになった。
久しぶりに見る彼女の王女らしい姿がある。
そしてイリスがバトルキッチンのテーマの宣言をする。
「今回はガーネット・オーラムが錬金術師ということにちなんで、『黄金の料理』をテーマとします。よろしいですね?」
『黄金の料理』がテーマとは……レイラのこちらに肩入れしないという意思表示だろう。
問題なしと頷く俺とガーネット。
そしてイリスが開始の合図をする。
「今回は『黄金の料理』をテーマとして一品を作り、その出来栄えをレイラ王女が評価するという形になります」
「リク・アマギは包丁を、ガーネット・オーラムは鍋と自分自身を賭けることとします。それでは、バトルキッチン開始!」
宣言がされると、ガーネットは手際よく準備し始めた。
彼女の指先は魔力を発しながら、まずは普通の鍋にバターと米を炒め、香ばしい香りを立ち上らせる。
米を炒めているだけなのに、その姿には錬金術師としての熟練が感じられた。
黄金の鍋はというと、こちらではすでに鶏ガラからブイヨンを作っている。
この組み合わせはおそらくリゾットを作るのだろう。
対して、俺はゴールデンシーラを捌く。
『シーラ』は元の世界でいうシイラにあたる魚だ。
しかし、この『ゴールデンシーラ』は、この世界においてかなり高価なもので、黄金色のウロコが特徴であり、魔力まで保有している。
セレスティアルは大きめの魚だろうが、簡単に捌ける。
以前よりきれいな切り身にできたのは俺が上達から、と言いたいが、セレスティアルが俺を誘導してくれているような感覚もある。
次に白身魚に合うクリーミーなサフランソースを作っていく。
鍋でみじん切りにした玉ねぎをバターで炒める。
そこに生クリームを入れ、白ワインに浸しておいたサフランをそのまま入れ、塩とホワイトペッパーで味を整え、アルコールを飛ばしつつ少し煮る。
バターと生クリームの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
そこにサフランの鮮やかな黄金色が加わり、サフランのクリームソースが出来上がる。
するとフィーナの驚きの声が上がる。
「な、ななな、なんなの、あのチキンブイヨン!!!」
ガーネットが米を炒めている鍋にブイヨンを入れている。
しかし、彼女のブイヨンは本物の黄金のように輝き、周囲に魔力を放っていた。
フィーナが驚いて声を上げるのも無理はない。
その輝きは目を奪われるほどに美しかった。
「そんな、いくら黄金の鍋で作ったからと言っても、材料は普通のものだったはず……」
「このブイヨンは、ただ色が黄金なだけではないよ。これは“黄金の鍋”で作った最高に美味なブイヨンさ」
自慢げにガーネットが答えた。
「くっ……」
魔法の包丁を使っている以上、俺だって対等の立場にある。
しかし、それを使いこなせていないことが悔しい。
ダメだ、目の前のことに集中しろ……。
レイラにおいしい料理を作る。
今はそれだけでいい。
「よしっ!」
俺は気合を入れ直す。
そして、シーラの身がほどよく焼き上がり、盛り付けに移る。
まずはサフランクリームソースを皿に敷く。
そこにゴールデンシーラを丁寧にのせて、粗挽きの白コショウをふり、軽くレモンを絞る。
この盛り付けはもちろんゴールデンシーラの美しい皮目を活かすためだ。
余計なものは極力使わずに、ゴールデンシーラの味を引き出し、自然な美しさを最大限に活かすよう心がけた。
「ゴールデンシーラのサフランクリームソース添え」が完成だ。
彼女もリゾットの仕上げに入る。
黄金色に輝くリゾットに粗削りのチーズとバターで塩気を足す。
削っているチーズも輝いて見える。
おそらくチーズも変わったものを使っているのだろう。
余熱で溶けたら皿に盛りつけ、粗挽きの白コショウを振る。
本来なら黒コショウが定番だが、色味のため、あえての白コショウを使っている。
「黄金のリゾット」が出来上がった。
二人の料理がレイラ王女の前に並ぶ。
放たれる香りが、厨房全体に広がり、見ている人たちの期待感を高めていた。
「どちらも『黄金の料理』というテーマの通り、見た目は大変美しいです」
「では次に味をみてみましょう」
レイラはまずガーネットのリゾットを口に運ぶ。
すると、その緊張感のある表情から笑顔に変わった。
「うん、これは素晴らしいわ。チーズのクリーミーさも良く合い、お米一粒一粒に魔法の力が見事に融合しています」
レイラは感想を述べると次に、俺のシーラも口に運んだ。
「サフランの香り、シーラの柔らかさ、料理全体の調和がとれている。うん、おいしいです」
レイラは少しの間黙って味わい、真剣な表情になる。
食べ終わり、長く沈黙していたレイラの口を開く。
「この勝負、引き分けとします」
「「「ええっ!!」」」
一同から驚きの声が上がる。
当の本人であるガーネットは驚いていないようだった。
「ガーネットのリゾットは、香り高く、口に入れた瞬間に濃厚な味わいが広がる。一方、リクのシーラも、サフランソースの香りと魚の旨味が絶妙に絡み合っていました」
「どちらも同等に美しく、そしておいしかったです」
「味も、見た目も、魔力量も同等に感じました」
「不満がある人もいるかもしれません。しかしこれは審査を引き受けた王女レイラ・グレイシャルの決定です」
そこまで言われれば誰も文句は言えない。
「引き分けか……」
正直、黄金のブイヨンを見たときは、包丁がとられる覚悟もしていたので、安心した。
今回はゴールデンシーラとセレスティアルに助けられた。
そして俺は彼女にお願いをした。
「リゾット、食べさせてほしい!」
そう、あの黄金のブイヨン、めちゃくちゃうまそうだった!
「もちろんいいよ。代わりに君のシーラも食べさせてくれ」
二人で料理を分け合う。
イリスとフィーナもちゃっかり食べていた。
「ガーネット、今回は引き分けになったが、それでよかったのか?」
「うーん、私のリゾットも良かったけれど、君の料理からもまだ学ぶべきことが多いと感じたから……だから引き分けでも文句はないよ」
ガーネットは微笑みながら言った。
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「じゃあ、私はそろそろ旅に戻るよ」
彼女は黄金の鍋をしまい、出発の準備をする。
「ありがとう、ガーネット。いい経験になったよ」
俺は感謝の気持ちを込めてガーネットと握手を交わした。
「頑張って腕を上げてくれ、リク君。そして次こそはこの鍋と、“私のこと”を勝ち取ってくれよ」
ガーネットはそう言い残し、広間を後にした。
「あ、え……?」
当然レイラとイリス、そしてフィーナも今の話を聞いていた。
「リク! なに赤くなってんの⁉」
「あらあら、これ以上は魔法を教えるのやめようかしら」
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