異世界バトルキッチン:最強料理人への道~美少女たちを添えて~

雪見クレープ

文字の大きさ
13 / 24

第13話 錬金術師、再び

しおりを挟む
 異世界アストリアに来てから、もうどれくらいの日々が過ぎただろう。

 こちらの世界の食材や魔法に関していろいろと詳しくなってきた。

 王都から出て農園や牧場を見てまわったり、厨房にこもって調理の研究をしている。

 平和でいいことなんだが、料理皇帝ラズフォード・アルカディアに関する報告もない。

 今日も王城での一日は静かに過ぎるはずだった。

 しかし、そんな穏やかな時間も長くは続かない。

「リク、お客さんだよ! すぐに来て!」

 フィーナの声に呼ばれ、少し戸惑いながらも廊下に出る。

 王城に招かれる客は珍しいわけではないが、俺に会いに来る者となると限られている。

 それが誰なのか、思いを巡らせながら広間に向かった。

 ――――――――

「久しぶりだな、リク君」

 俺に会いに来たというのは、錬金術師、ガーネット・オーラムだった。

 ガーネットは以前戦った相手だ。

 錬金術と料理を組み合わせた彼女の独特なスタイルに、俺も苦しめられたのを覚えている。

 しかし、こんなに早く再会することになるとは思わなかった。

「ガーネット……旅に出てそんなに経ってないんじゃないか、なぜここに?」

 彼女はにやりと微笑み、肩をすくめる。

「噂を聞いたんだ。君があの料理皇帝ラズフォードの配下の料理人と戦ったって話をね」

 彼女の目が鋭く光る。

「その話を聞いて、いてもたってもいられなくなった。リク君、私ともう一度戦ってくれないかい?」

 どうやらそれがガーネットの闘志を再び呼び起こしたらしい。

「まさかこんなに早く再戦する日が来るとは……」

「ふふ、君も分かっているだろう? 私たちの前回の戦いは決着がついていない。君は戦いを経て、あの時よりさらに技術を磨いているはず。今ならもっといい勝負ができる」

 ガーネットはそう言いながら、真剣なまなざしで俺を見つめる。

 その挑戦的な視線に、俺も自然と気持ちが高ぶってきた。

 さらに成長した自分を彼女に見せたいという気持ちもある。

「いいだろう。もう一度勝負しよう、ガーネット」

 俺がそう答えると、彼女の表情が少し緩み、微笑みが浮かんだ。

「嬉しいよ、リク君」

 ――――――――――

 前回同様、バトルキッチンは王城の厨房を使って行われることになった。

 審査員にレイラ王女、イリスとフィーナも観戦に駆けつけてくれた。

 セレスティアルの力を少しずつ使いこなせるようになってきた。

 技術も食材の知識もあの時の比ではない。

「今の俺なら勝てる!」

 気合いも十分入れたところで、ガーネットに賭けるものを聞く。

「賭けるものは前回と一緒でいいのか?」

「あ、そういえば忘れていたよ。強くなった君の実力を試すことしか頭になかった」

「おいおい……」

「まあ、前回と一緒でいいよ。私が勝ったら君の不思議な包丁をもらう。君が勝ったら、“黄金の鍋”と私を差し出そう」

 レイラ王女は一瞬、ムッとした表情を見せたが、すぐに真剣な表情に戻り、テーマを発表する。

「テーマは『融合』。魔法と料理、食材と食材、どういった組み合わせでも構いません。あなたたちふたりの料理が私たちの想像の上をいくことを期待しています」

 融合か……。

 難しいテーマだが、日本人に愛される「昆布とかつおの合わせだし」もうまみの融合と言えるだろう。

 あれを意識して考えてみることにした。

 そしてイリスが開始の合図をする。

「今回は『融合』をテーマとして一品を作り、その出来栄えをレイラ王女が評価するという形になります」

「リク・アマギは包丁を、ガーネット・オーラムは鍋と自分自身を賭けることとします。それでは、バトルキッチン開始!」

 イリスが高らかに声をあげ、俺たちはそれぞれ調理台に向かう。

 今回のテーマは『融合』。

 ガーネットがどんな料理を作ってくるのか、俺も期待と同時に緊張感が走った。

 まずガーネットは、以前にフィーナが使っていた“魔法のゼラチン”を少量の水でふやかす。

 次に、黄金の鍋に、輝く赤いベリーと砂糖を入れ、潰しながら弱火にかける。

 ベリーが潰れる瞬間、果汁が鍋の中でじわりと広がり、鍋底から立ち上る蒸気がたなびいた。

 ゆっくりと混ぜながら、砂糖が溶けて甘く濃厚な香りが広がる。

 火を止めて、牛乳、魔法のゼラチンを入れ、ゼラチンがしっかり溶けるように混ぜる。

 ボウルに移し、6分立てにした生クリームと混ぜ合わせる。

「ムースを作っているのか……」

 俺がそうつぶやくと、ガーネットが赤いベリーを手に取り俺に説明してくれる。

「この鮮やかなルビーのような赤い色の『ルビーナベリー』。口に含むと甘みと酸味が絶妙に広がり、かすかに辛味と熱が感じられるんだ」

 そう説明しながら、次は青いベリーを使い、同じ工程でムースを作り始める。

「こっちの冷たく透き通るような青い色のベリーは『ネビュラベリー』と言って、食べるとひんやりとした清涼感が広がり、甘さの中にミントのような爽やかさがある」

「そう、このふたつのベリーのムースは口の中で一瞬のうちに溶け、温かさが爆発するような『炎のムース』と、冷たい清涼感を感じさせる『氷のムース』が合わさるわけさ」

 彼女の手元で、透明の器にふたつのとろみがついたムースが芸術品のように流れていく。

 魔法を駆使して流し込み、前の世界ではありえない美しい模様を描いている。

 そして氷冷箱にいれて冷やし固める。

「さあ、リク君。君の『融合』をみせてくれ」

「おう、任せとけ!」

 まずは今回の味の決め手である昆布としいたけを使う。

 こちらの世界では生の昆布は普通の海藻類と同じように食べられているが、俺はアタアクアの町長に乾燥させたものを送ってもらっていた。

 しいたけも出汁の研究用に以前から乾燥させておいたものを使う。

 このふたつから出汁を取っておく。

 そして、アタアクアの特産品「ジャイアント・デッドクロー」の大きなハサミを取り出す。

 これもアタアクアの町長に送ってもらったものだ。

 堅い殻だろうが、セレスティアルなら問題なく切ることができる。

 殻から中の白い身を取り出す。

 その身はぷりぷりで、海の恵みを凝縮したような弾力だ。

 次は根菜の「テラフォンド」。

 テラフォンドは、アルティナの豊かな栄養を含んだ地下で育つ、黄金色こがねいろの大きな根菜。

 一度下茹でをしておく。

 こうすることで、えぐみがなくなり、食感も柔らかく仕上がる。

 別の鍋に出汁を温め、塩、白ワイン、しょうが汁を入れ、テラフォンドを煮る。

 テラフォンドが柔らかくなったら、ジャイアント・デッドクローの身を入れ、軽く煮る。

 本当は醤油を入れたいところだがそんなものはない。

 それでも、白ワインと特別なカニのおかげで十分強めの風味を感じられる。

 そこに水溶き片栗粉をまわし入れる。

 こちらの世界での片栗粉は、元の世界での「カタクリ」とは違うユリ科の根茎から採れる。

 だから正確には「カタクリコ」ではないのだが、用途は同じで便宜上そう呼んでいる(勝手に翻訳されている)。

 そして、器に盛る。

 煮込んだカニの身とテラフォンドがトロリとしたあんで包み込まれる。

 料理全体がきらめきを帯びたように輝き、視覚的にも華やかな一品となった。

 これで、「根菜のカニあんかけ」の完成だ。

 ガーネットも冷やし固めたムースに生クリームを軽く絞り、ルビーナベリーとネビュラベリー、ミントを飾る。

 赤と青が混ざり合いながらも、どこか対立しているかのような不思議で美しい模様をしている。

 ガーネットの「デュオムース ~炎と氷の共演~」の完成。

 ふたりの料理が、審査員であるレイラ王女の前に運ばれ、審査が始まる。

 レイラ王女が俺の料理から口をつける。

「なんて優しい味……テラフォンドの風味が口の中で広がり、次に海の旨味がじんわりと追いかけてくる。まるで、大地と海が一つになったかのような調和です」

 レイラはもう一口、あんをしっかり味わう。

「このあんもまた、大地と海の融合なのですね。昆布にこのような使い方があるのは知りませんでした。全体のバランスが完璧です。リク、あなたは自然の味わいを見事に融合させたわ」

 レイラが喜んでくれてよかった。

 和風の出汁もちゃんとわかってくれたようだ。

 次にレイラ王女がガーネットのムースを口に運ぶ。

「これは……温かくて、辛味が広がる。でも……不思議なことに、次第に冷たいムースが来て、辛さがすぐに和らいで全く別の味が生まれる! 後味のミントのような爽やかさが心地よい……」

 レイラの表情は驚きに満ちている。

 熱さ、冷たさ、対立するはずの二つの要素が見事に融合していることに感動した。

「まさに錬金術の妙技。味の変化がこんなにも楽しいとは……」

 彼女は笑顔でガーネットに賛辞を送った。

 そして、勝敗の結果が言い渡される。

 レイラ王女は深く考え込んだ後、ゆっくりと立ち上がった。

「どちらも素晴らしい料理だったわ。ガーネット、あなたのムースは味の変化が驚くべきもので、錬金術の技が存分に発揮されていた」

 彼女はガーネットを見て微笑んだ。

「しかし、リクの煮物は……味の融合だけでなく、山と海、自然の恵みを最大限に活かしていた。僅差ではありますが、勝者はリク・アマギです!」

 俺はほっと息をつき、ガーネットに向き合う。

「いい勝負だった、ガーネット」

 ガーネットは一瞬迷うような表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべ、「黄金の鍋」を差し出してくれた。

「リク君、君の腕前は確かに本物だ。約束通り、この鍋は君のものだよ」

 彼女が差し出した、輝く「黄金の鍋」。

 彼女の最高傑作だというその鍋を俺はしっかりと受け取り、感謝の気持ちがこみ上げてくる。

「ありがとう、ガーネット。この鍋は存分に活用させてもらうよ」

 だが、その瞬間、ガーネットがにやりと笑みを浮かべて、少しからかうような口調で言ってきた。

「さて、もうひとつ、私自身も君のものになったわけだが、私のことも存分に活用してくれるのかな?」

「えっあっ、その……っ」

 頬が一気に熱くなるのを感じた。

 ガーネットの瞳が俺を見つめて、彼女の微笑みには余裕すら感じられる。

 冗談だと分かっていても、心臓が早鐘のように打ち始める。

 だが、その余韻に浸る暇もなく、突然、遠くから聞こえてきた声が俺の耳を突き抜けた。

「「「リクぅ(さん)ーーーーっ!!!」」」

 3つの声が重なって、俺の名を呼んでいる。

 振り返ると、レイラ、フィーナ、そしてイリスが、全速力でこちらに向かってくる。

 目を輝かせながら駆け寄る姿が、まるで嵐のようだ。

「ど、どうしよう、ガーネット」

 俺は完全に混乱してしまい、鍋を抱えながらガーネットに助けを求めた。

 しかし彼女は、楽しそうに微笑んでいたのだった。

 バトルキッチンは終わり、俺は黄金の鍋を手に入れ、ガーネットと共に新たなステップへと進む。

 この錬金術師のお姉さんがさらなる高みへ導いてくれることを予感しながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

処理中です...