20 / 33
20.診察
しおりを挟む
私はすぐに別荘から連れ出された。ラナン家お抱えの診察所に向かうらしい。
馬車にはシャーラ様も一緒に乗り込んでいた。
「火の神の元神官の医者がいるの。他国で何年も医学を学んだ名医よ。その人に診てもらいましょう」
「シャ、シャーラ様……私一人で大丈夫ですので……」
「真っ青な顔のあなたを放っておけると思う? 喋るとお腹に響くと思うから黙ってなさい」
私の体に何が起きているのだろう。こんな痛みは初めてで、痛くて苦しいという気持ちだけじゃなくて、恐怖も感じていた。子供を作りにくい体質かもしれないと、前に言われたことがあるけれど……。
何かに縋りつきたくて、無意識のうちにシャーラ様の手を強く握り締めてしまった。慌てて離そうとするけれど、笑顔のシャーラ様に握り返される。
「大丈夫だからね。何も怖くない。花の神と火の神があなたを守護してくれているわ」
二柱の神様が守護してくれるなら、シャーラ様の言う通り大丈夫かも。自分に何度もそう言い聞かせているうちに、診療所に到着した。シャーラ様と馬車の御者に支えられながら中に入ると、白衣を着た老齢の女性が迎えてくれた。この人がシャーラ様の仰っていた元神官の医者みたい。
「こんにちは、シャーラ神官長。……そちらのお嬢さんは?」
「私のメイドよ。急にお腹の下辺りが痛くなったそうなの。診てあげてちょうだい」
「ええ。今はちょうど他に患者もいませんので、すぐに診察できます。さあ、こちらへどうぞ」
穏やかな声に促されながら診察室に向かう。シャーラ様と御者はここまで。
先生は診察用の寝台でぐったりと横たわる私に聴診器を当てたり、下腹部に手を当てて何かを確かめているようだった。それから瞼の裏の色を確かめたり、注射で血を抜いていた。
そのあと、「これで少しは楽になるはずです」と何かの薬液を点滴される。すると先生の言っていた通り、天敵が終わる頃には痛みも大分楽になっていた。
ほお……と安堵の溜め息が漏れる。ぼんやりと外を眺めていると、シャーラ様が診察室に入って来た。
「アンリエッタ、まだ痛む?」
「いえ……先生のおかげで楽になりました」
私がそう答えると、シャーラ様は嬉しそうに笑った。けれどすぐに表情を曇らせて、先生へ視線を向けた。
「すぐに処置ができたってことは、痛みの原因を突き止められたのよね?」
「はい……アンリエッタ様のような症状に苦しむ患者を何人も見てきましたから」
先生は私を見下ろすと、心配そうに目を伏せた。
もしかしたら私は重い病気に罹っている……? 恐怖がぶり返していると、先生は私を安心させるように「心配しないでください。投薬治療でよくなりますからね」と言ってくれた。
さっき血を抜いたのは検査のため。その結果が分かるのは一週間後ということで、また来て欲しいと言われた。子宮に問題があったようだけれど、その原因を調べるためらしい。
それまでの間に服用する薬も渡された。代金は私の給金から引いて欲しいと言ったものの、シャーラ様に「このくらいうちで払うに決まってるでしょ」と断られてしまった。
先生にお礼を言ってから診療所を出る。来た時と違って、一人で歩けるようになっていた。
「さあ、早く帰りましょう。ミリルたちとっても心配していたから」
「は……」
はい、と返事をしようとした時だった。
「アンリエッタか……?」
聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。
まさかと思って振り向くと、視線の先にいたのはセレスタンだった。
そして彼の隣には見覚えのあるネックレスを着けた女性がいた。
馬車にはシャーラ様も一緒に乗り込んでいた。
「火の神の元神官の医者がいるの。他国で何年も医学を学んだ名医よ。その人に診てもらいましょう」
「シャ、シャーラ様……私一人で大丈夫ですので……」
「真っ青な顔のあなたを放っておけると思う? 喋るとお腹に響くと思うから黙ってなさい」
私の体に何が起きているのだろう。こんな痛みは初めてで、痛くて苦しいという気持ちだけじゃなくて、恐怖も感じていた。子供を作りにくい体質かもしれないと、前に言われたことがあるけれど……。
何かに縋りつきたくて、無意識のうちにシャーラ様の手を強く握り締めてしまった。慌てて離そうとするけれど、笑顔のシャーラ様に握り返される。
「大丈夫だからね。何も怖くない。花の神と火の神があなたを守護してくれているわ」
二柱の神様が守護してくれるなら、シャーラ様の言う通り大丈夫かも。自分に何度もそう言い聞かせているうちに、診療所に到着した。シャーラ様と馬車の御者に支えられながら中に入ると、白衣を着た老齢の女性が迎えてくれた。この人がシャーラ様の仰っていた元神官の医者みたい。
「こんにちは、シャーラ神官長。……そちらのお嬢さんは?」
「私のメイドよ。急にお腹の下辺りが痛くなったそうなの。診てあげてちょうだい」
「ええ。今はちょうど他に患者もいませんので、すぐに診察できます。さあ、こちらへどうぞ」
穏やかな声に促されながら診察室に向かう。シャーラ様と御者はここまで。
先生は診察用の寝台でぐったりと横たわる私に聴診器を当てたり、下腹部に手を当てて何かを確かめているようだった。それから瞼の裏の色を確かめたり、注射で血を抜いていた。
そのあと、「これで少しは楽になるはずです」と何かの薬液を点滴される。すると先生の言っていた通り、天敵が終わる頃には痛みも大分楽になっていた。
ほお……と安堵の溜め息が漏れる。ぼんやりと外を眺めていると、シャーラ様が診察室に入って来た。
「アンリエッタ、まだ痛む?」
「いえ……先生のおかげで楽になりました」
私がそう答えると、シャーラ様は嬉しそうに笑った。けれどすぐに表情を曇らせて、先生へ視線を向けた。
「すぐに処置ができたってことは、痛みの原因を突き止められたのよね?」
「はい……アンリエッタ様のような症状に苦しむ患者を何人も見てきましたから」
先生は私を見下ろすと、心配そうに目を伏せた。
もしかしたら私は重い病気に罹っている……? 恐怖がぶり返していると、先生は私を安心させるように「心配しないでください。投薬治療でよくなりますからね」と言ってくれた。
さっき血を抜いたのは検査のため。その結果が分かるのは一週間後ということで、また来て欲しいと言われた。子宮に問題があったようだけれど、その原因を調べるためらしい。
それまでの間に服用する薬も渡された。代金は私の給金から引いて欲しいと言ったものの、シャーラ様に「このくらいうちで払うに決まってるでしょ」と断られてしまった。
先生にお礼を言ってから診療所を出る。来た時と違って、一人で歩けるようになっていた。
「さあ、早く帰りましょう。ミリルたちとっても心配していたから」
「は……」
はい、と返事をしようとした時だった。
「アンリエッタか……?」
聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。
まさかと思って振り向くと、視線の先にいたのはセレスタンだった。
そして彼の隣には見覚えのあるネックレスを着けた女性がいた。
109
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる