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19.花冠
別荘の庭園には赤、オレンジ色と明るい色の花がたくさん育てられている。火の神をイメージしているだけじゃなくて、この国では暖色系の色は『生命』と『活力』の色とされているから。確かに美しいながらも力強さを感じて、見ているこちらも元気を分けてもらえるみたい。
ふんふんと鼻歌を歌いながら薔薇の剪定を行う。薔薇はソール家に植えられていなかったけれど、クロードさんに教わったおかげでこうして自分一人でもできるようになった。
最初の頃はきごちなかったクロードさんとのやり取りも、一週間もすると慣れてきた。私の背後や横にじっと立っているのは何か用件があって、けれど話しかけられずにいる時。私が聞きたいことがあれば、作業中でも手を止めて耳を傾けてくれる。
「…………」
「何でしょうか、クロードさん」
「……ミリルが二人で食べるようにと」
休憩中に二人でお菓子を食べるようにもなった。
今日のおやつはミリルさん特製のギモーヴ。ベリーの果汁をたっぷり使ったそれは甘酸っぱくてジューシーで、とっても美味しい。ここに来てから好きになった食べ物の一つだった。
「あ、クロードさん。私がこんなにいただいてしまったら、あなたの分が少なくなってしまいます」
「あなたはこれが好きだと、ミリルが言っていました」
「それはそうですけれど、こういうものは仲良く分け合って食べるものですから」
私に多くギモーヴを渡そうとするので、ちょうど半分こになるようにクロードさんにその分を返す。
「……随分とよくなった」
私の顔をじっと見詰めてからクロードさんがぼそっと言葉を零した。
「ここに来たばかりの時は体調が悪そうで心配していました」
「……はい。皆さんのおかげです」
「どうしてあんな状態になっていたのか、聞いてもいいですか」
私について詳しく知っているのは、シャーラ様以外だとミリルさんだけ。
逡巡してから私は口を開いた。
「逃げ出してしまったんです……夫には何も告げずに」
答えになっていないと思う。けれど私にはそう言うのが精一杯だった。
クロードさんも察してくれたのか、「そうですか」と相槌を打って会話を終わらせてくれた。
あとからミリルさんにこの時のやり取りを話すと、「あのクロードさんが自分からそんなことを聞くなんて珍しい」と彼女に驚かれた。
その翌日、私が薔薇の剪定をしていると、クロードさんから花冠を差し出された。私に? と尋ねると、彼の首が縦に振られた。
「赤い花冠には『壊れた夫婦仲を再生する』という言い伝えがあります」
「そういえばそうでしたね……」
火の神は人間の女性と結婚したのだけれど、一度だけ大喧嘩をして奥さんに逃げられてしまったことがある。その時に花の神の助言を受けて、火の神は奥さんが大好きな赤い花で冠を作り、『許してくれ』と言いながらプレゼントしたのだとか。
クロードに花冠を頭に載せられると、ふわりと優しい花の香りが鼻腔を擽る。
「ありがとうございます、クロードさん」
「……あなたの幸せを願っています」
私は感謝の笑みを浮かべながら頷いてみせた。
けれど彼の願いが叶うことはなかった。
「アンリエッタさん、今日のお昼はパンとパスタのどちらにしますか?」
「そうですね。私はパンが……んっ」
「アンリエッタさん!?」
ミリルさんの質問に答えようとした瞬間、激しい痛みが下腹部を遅い私はその場に蹲った。
叩かれたり、蹴られた時よりもずっとずっと痛くて、意識が遠退いてしまいそう。ミリルさんが何度も私を呼ぶけれど、それに返事をすることすらできずにいた。
ふんふんと鼻歌を歌いながら薔薇の剪定を行う。薔薇はソール家に植えられていなかったけれど、クロードさんに教わったおかげでこうして自分一人でもできるようになった。
最初の頃はきごちなかったクロードさんとのやり取りも、一週間もすると慣れてきた。私の背後や横にじっと立っているのは何か用件があって、けれど話しかけられずにいる時。私が聞きたいことがあれば、作業中でも手を止めて耳を傾けてくれる。
「…………」
「何でしょうか、クロードさん」
「……ミリルが二人で食べるようにと」
休憩中に二人でお菓子を食べるようにもなった。
今日のおやつはミリルさん特製のギモーヴ。ベリーの果汁をたっぷり使ったそれは甘酸っぱくてジューシーで、とっても美味しい。ここに来てから好きになった食べ物の一つだった。
「あ、クロードさん。私がこんなにいただいてしまったら、あなたの分が少なくなってしまいます」
「あなたはこれが好きだと、ミリルが言っていました」
「それはそうですけれど、こういうものは仲良く分け合って食べるものですから」
私に多くギモーヴを渡そうとするので、ちょうど半分こになるようにクロードさんにその分を返す。
「……随分とよくなった」
私の顔をじっと見詰めてからクロードさんがぼそっと言葉を零した。
「ここに来たばかりの時は体調が悪そうで心配していました」
「……はい。皆さんのおかげです」
「どうしてあんな状態になっていたのか、聞いてもいいですか」
私について詳しく知っているのは、シャーラ様以外だとミリルさんだけ。
逡巡してから私は口を開いた。
「逃げ出してしまったんです……夫には何も告げずに」
答えになっていないと思う。けれど私にはそう言うのが精一杯だった。
クロードさんも察してくれたのか、「そうですか」と相槌を打って会話を終わらせてくれた。
あとからミリルさんにこの時のやり取りを話すと、「あのクロードさんが自分からそんなことを聞くなんて珍しい」と彼女に驚かれた。
その翌日、私が薔薇の剪定をしていると、クロードさんから花冠を差し出された。私に? と尋ねると、彼の首が縦に振られた。
「赤い花冠には『壊れた夫婦仲を再生する』という言い伝えがあります」
「そういえばそうでしたね……」
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クロードに花冠を頭に載せられると、ふわりと優しい花の香りが鼻腔を擽る。
「ありがとうございます、クロードさん」
「……あなたの幸せを願っています」
私は感謝の笑みを浮かべながら頷いてみせた。
けれど彼の願いが叶うことはなかった。
「アンリエッタさん、今日のお昼はパンとパスタのどちらにしますか?」
「そうですね。私はパンが……んっ」
「アンリエッタさん!?」
ミリルさんの質問に答えようとした瞬間、激しい痛みが下腹部を遅い私はその場に蹲った。
叩かれたり、蹴られた時よりもずっとずっと痛くて、意識が遠退いてしまいそう。ミリルさんが何度も私を呼ぶけれど、それに返事をすることすらできずにいた。
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