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3.手作りのパン
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「うふふ……ふふふっ!」
オデットは珍しく浮かれていた。自室に戻り、口元を緩めながら笑い声を漏らす。こんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。
だってクロエとのパン作りはとても楽しいものだったのだ。
粉やら牛乳やらを混ぜて生地を温めると大きく膨らみ、それを焼くとオデットがいつも食べているパンが完成した。
端の方を千切って食べてみて……その美味しさに感動した。ほんのり熱が残っている生地は柔らかく、噛めば噛むほど味がする。ジャムもバターもいらない。あれだけで十分美味しかった。
クロエはいつも厨房を借りてパンを焼いて、自分の夜食にしているらしい。
またあのパンが食べたいから、夜中にこっそりクロエの部屋にお邪魔しよう。そう思っていた時だった。
「オデット様!」
ノックもせずにメイドが入ってきた。無礼だとは思わない。尋常ではない様子だったから。
「どうしたの? そんなに慌てて……」
「オデット様、クロエと一緒にパンを作っていらっしゃいましたよね!?」
「え、ええ……」
もしかしたら、そのパンを食べたいのだろうか。そんな呑気な予想は大きく裏切られることとなる。
「そのことを知ったカミーユ様がお怒りなんです! 今すぐクロエを解雇すると仰って……!」
「何ですって……お二人はカミーユ様のお部屋?」
「はい……」
どうしてそこまで怒っているかは分からないが、クロエが解雇されると聞いて黙ってはいられない。
オデットは今にも泣きそうなメイドを連れて、カミーユの執務室に急いだ。
「カミーユ様、失礼します!」
ノックをしてからドアを開き、目の前の光景に息を呑む。
床に座り込み、自分の頬を押さえるクロエ。
冷たい表情でクロエを見下ろすカミーユ。
そして彼の足元に転がる一斤のパン。
「クロエ!」
「オデット様? どうしてここに?」
「あなたが解雇されると聞いたの。何があったの!?」
「それは君が一番よく知っているはずだ、オデット」
オデットに振りかかる冷淡な声。カミーユを見上げれば、アイスブルーの双眸と視線が合った。
「ようやく部屋から出てきたと思えば、そのメイドとパン作り? 俺が何を望んでいるのかも知らずに……」
「わたくしが夫人らしからぬ行動を取ってしまったことは謝罪致しますし、罰も受けます。ですがクロエはわたくしの我が儘を聞いてくださっただけ。彼女が責められる理由などどこにもありません」
どうにかクロエを助けなくては。その一心でオデットは口早に告げたが、効果は今一つのようだ。
それどころか、眉間に皺を寄せている。
日常的にカミーユから叱責を受けているが、ここまで深刻なのは初めてかもしれない。
初めて顔を合わせた時、一方的に罵倒されたことを思い出す。
「なるほど、罰を望むか。だったら、その女を解雇する。それでいいだろう?」
「どうしてそうなるのです? わたくしではなくクロエにばかり強く当たる理由は何でしょう?」
「……君は本当に馬鹿だな。それでよく才女と呼ばれたものだよ」
「…………」
「何だ、私を無視するのかオデット」
「……申し訳ありません」
謝るしかない。これ以上言えば更に怒らせてしまう。
心を真っ白にして、ひたすらカミーユの怒りを鎮めることだけを考える。
今だけは。
「……今回は許してやろう。だが、次はないと思え」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
クロエも恐る恐る頭を下げて礼を言う。
そのクロエに見せ付けるように、カミーユはパンを踏みつけた。
「おい、邪魔だ。これを早く片付けろ」
「……かしこまりました」
クロエは潰れたパンに手を伸ばそうとするが、横から伸びた白い両手に奪われてしまった。
「オデット様?」
オデットは無惨な姿となったパンを赤子のように抱き締めて微笑んでいた。それはどこか慈愛を感じさせ、何か『強さ』を感じさせるものだった。
「では失礼しました、カミーユ様」
いつも通り、穏やかなオデットの声。
クロエも、恐らくはカミーユもそれを聞き入っていた。
そして二人ともオデットが何を計画しているのか、この時はまだ知る由もなかった。
オデットは珍しく浮かれていた。自室に戻り、口元を緩めながら笑い声を漏らす。こんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。
だってクロエとのパン作りはとても楽しいものだったのだ。
粉やら牛乳やらを混ぜて生地を温めると大きく膨らみ、それを焼くとオデットがいつも食べているパンが完成した。
端の方を千切って食べてみて……その美味しさに感動した。ほんのり熱が残っている生地は柔らかく、噛めば噛むほど味がする。ジャムもバターもいらない。あれだけで十分美味しかった。
クロエはいつも厨房を借りてパンを焼いて、自分の夜食にしているらしい。
またあのパンが食べたいから、夜中にこっそりクロエの部屋にお邪魔しよう。そう思っていた時だった。
「オデット様!」
ノックもせずにメイドが入ってきた。無礼だとは思わない。尋常ではない様子だったから。
「どうしたの? そんなに慌てて……」
「オデット様、クロエと一緒にパンを作っていらっしゃいましたよね!?」
「え、ええ……」
もしかしたら、そのパンを食べたいのだろうか。そんな呑気な予想は大きく裏切られることとなる。
「そのことを知ったカミーユ様がお怒りなんです! 今すぐクロエを解雇すると仰って……!」
「何ですって……お二人はカミーユ様のお部屋?」
「はい……」
どうしてそこまで怒っているかは分からないが、クロエが解雇されると聞いて黙ってはいられない。
オデットは今にも泣きそうなメイドを連れて、カミーユの執務室に急いだ。
「カミーユ様、失礼します!」
ノックをしてからドアを開き、目の前の光景に息を呑む。
床に座り込み、自分の頬を押さえるクロエ。
冷たい表情でクロエを見下ろすカミーユ。
そして彼の足元に転がる一斤のパン。
「クロエ!」
「オデット様? どうしてここに?」
「あなたが解雇されると聞いたの。何があったの!?」
「それは君が一番よく知っているはずだ、オデット」
オデットに振りかかる冷淡な声。カミーユを見上げれば、アイスブルーの双眸と視線が合った。
「ようやく部屋から出てきたと思えば、そのメイドとパン作り? 俺が何を望んでいるのかも知らずに……」
「わたくしが夫人らしからぬ行動を取ってしまったことは謝罪致しますし、罰も受けます。ですがクロエはわたくしの我が儘を聞いてくださっただけ。彼女が責められる理由などどこにもありません」
どうにかクロエを助けなくては。その一心でオデットは口早に告げたが、効果は今一つのようだ。
それどころか、眉間に皺を寄せている。
日常的にカミーユから叱責を受けているが、ここまで深刻なのは初めてかもしれない。
初めて顔を合わせた時、一方的に罵倒されたことを思い出す。
「なるほど、罰を望むか。だったら、その女を解雇する。それでいいだろう?」
「どうしてそうなるのです? わたくしではなくクロエにばかり強く当たる理由は何でしょう?」
「……君は本当に馬鹿だな。それでよく才女と呼ばれたものだよ」
「…………」
「何だ、私を無視するのかオデット」
「……申し訳ありません」
謝るしかない。これ以上言えば更に怒らせてしまう。
心を真っ白にして、ひたすらカミーユの怒りを鎮めることだけを考える。
今だけは。
「……今回は許してやろう。だが、次はないと思え」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
クロエも恐る恐る頭を下げて礼を言う。
そのクロエに見せ付けるように、カミーユはパンを踏みつけた。
「おい、邪魔だ。これを早く片付けろ」
「……かしこまりました」
クロエは潰れたパンに手を伸ばそうとするが、横から伸びた白い両手に奪われてしまった。
「オデット様?」
オデットは無惨な姿となったパンを赤子のように抱き締めて微笑んでいた。それはどこか慈愛を感じさせ、何か『強さ』を感じさせるものだった。
「では失礼しました、カミーユ様」
いつも通り、穏やかなオデットの声。
クロエも、恐らくはカミーユもそれを聞き入っていた。
そして二人ともオデットが何を計画しているのか、この時はまだ知る由もなかった。
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