愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀

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12.不満(カミーユ視点)

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「あれはジョセフ卿酔っ払っていたな」
「だな。妹の旦那、しかもレーヌ家の当主に対してあの挨拶の仕方はないだろう」

 カミーユも呆れた表情を浮かべつつ、令息たちの会話に混ざる。

「ああ。あれではファルス家の家督を継げるようになるのはまだまだ先のようだ」
「兄妹揃って大変ですね」
「夜会はまだ始まったばかりだ。後でじっくり話をするさ」

 しかしあの調子なら、カミーユが何を言ってもあっさり答えてくれそうだ。みっともないとは思うが、カミーユにとっては利点となる。

(白身魚か。最低なチョイスだな)

 よりにもよって、カミーユが嫌いな料理を薦めて来る頭の悪さに溜め息が漏れる。
 オデットと初めて食事を共にした時、彼女も白身魚を使った煮込み料理が好きだと言っていた。しかもカミーユが嫌いだと言った直後にである。
 そんなことを二度と言うなと厳しく叱り付けた。空気の読めなさは社交界で生きていくのに、大きな障害となるからだ。

 どうやらオデットはそのことをジョセフに説明していなかったらしい。いや、聞いていたとしても忘れている可能性が高い。


 待つこと数分。ようやくマリュン公爵からジョセフが離れた。
 マリュン公爵はトマとかいう男爵令息と未だに話を続けている。なので先にジョセフだ。
 既に他の貴族たちと会話をしていたが、カミーユにとっては格下の者ばかり。構うことはない。

「私も混ぜてもらえないだろうか。久しぶりに義兄とこうして顔を合わせたんだ」
「構いませんよ、カミーユ様。それと先程は失礼しました。トマ卿をマリュン公と引き合わせることばかり考えていましたので」

 へらへらと笑うジョセフに合わせるようにカミーユも口角を上げる。
 こんな会話をしている場合ではない。早くオデットを返せ。
 そんなカミーユの焦燥感など気付きもせず、ジョセフの隣にいた赤毛の貴族が声をかける。

「これはレーヌ伯。ようやく私の味方になってくれそうな方が来てくださった」
「何のことだ?」
「妻に苦労している者同盟でも組みませんか? 貴殿もオデット様には苦労されていると聞きました」

 赤毛の貴族……確かトラネル伯だったか。彼は笑みを浮かべつつ伴侶への不満を語り出した。

「本日は妻も夜会に参加するはずだったのですが、足腰の弱い母親が階段で落ちたとかで実家に帰ってしまったのです」
「夜会があるのにか?」
「そう! 何でも頭も強く打ち付けたそうで……見舞いに行ったところで傷の治りが早くなるわけでもないのにですよ!」

 まるでオデットのようだ。トラネル伯の嘆きに、カミーユは大きく頷いた。

「親が引き留めているのか知らないが、あれは迷惑だな。いつまで自分たちの娘扱いしているのやら」
「困りますよね。もう夫の家の人間になったということを認識してもらわないと」
「……ということだ。ジョセフ殿、私は困っているんだ。貴殿からご両親に話をしてもらえないだろうか」

 最高のタイミングで話を切り出すことが出来た。トラネル伯に親近感が沸くと共に感謝しながら、ワインをちびちび飲んでいる義兄に話をそう頼んでみる。
 自分が声をかけられると予想していなかったらしい、ジョセフはきょとんとした表情で、

「え? 何故私がそんなことを?」

 と答えた。これにはトラネル伯と顔を合わせて苦笑いである。

「何をとぼけていらっしゃるんですか。あなた、オデット様の兄君でしょ」
「え~? そりゃそうですがねぇ」

 ジョセフが嫌そうに顔を歪めると、トラネル伯は嘲笑を口元に張り付けた。

「そんな面倒臭がらずに。ジョセフ卿とて、ご自分の妻がそんなくだらない理由でいつまでも家に帰って来なかったら腹が立つはずですよ」
「うーん……」

 そう言われても……。そう言いたげな様子のジョセフに苛立ちを覚え、カミーユも焦れたように口を開く。

「ジョセフ卿。貴殿はまだ妻がいないから分からないだろうが、妻が自分より家族を優先して腹が立たないのか?」
「立つわけないでしょ。親が大変な時なら側にいさせてやりたいと思うし、多分私も見舞いに行くと思います」
「……私がこんなに困っているというのに、オデットの味方をするつもりなのか?」
「オデットは私の妹ですよ。兄が妹の味方にするのは当然かと」
「妹想いなのは素晴らしいが、少々視野が狭いように思える。その妹の夫がそんなに信用ならないとは私も胸が痛む」

 嫌みを含んだ物言いをすれば、ジョセフは戸惑いの表情を見せた。
 流石に自らの考えが偏っていることに気付いたらしい。

「はぁー!? 妹が信じられないと言っている人を信じられるとでも!? 私はオデットの兄であって、聖人ではありませんが!?」

 ……驚愕するジョセフの声がホール内に響き渡った。


 
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