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17.父の罪
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応接間に着くと、メイドはカミーユに紅茶を出して、オデットたちには出さなかった。そう命じられているのだろう。アデルと視線が合うと、申し訳なさそうに頭を下げていた。
こんな嫌がらせまでするなんて。オデットがそう思っていると、メイドは何故か誰も座っていないカミーユの隣にも紅茶を注いだカップを置いた。
ダミアンが来る予定になっているのだろうか。けれどカミーユから放たれた言葉に、オデットは唖然とした。
「お前の席はこちらだろう、オデット。何故そちらにいる?」
そう言ってカップが置かれた席を指差すのだ。
「あれ、カミーユ様はまだオデットとやり直せると思っていらっしゃるのですか?」
「当然だ。俺はオデットを今でも愛している。なのに片方だけが喚いて離婚など信じられない」
「わたくしはカミーユ様を愛してなどいません。今までわたくしに冷たく接していた方から今更愛していると言われて、喜ぶとお思いですか?」
「オデット……残念だ。本当に俺の愛が伝わっておらず、男の愛し方も知らなかったのか」
「男の愛し方ぁ?」
ジョセフが疑問と嫌悪を綯交ぜにした声を出した。アデルは氷の眼差しをカミーユに向けていた。
メイドが顔を引き攣らせているが、カミーユは憮然とした態度で語り始めた。
「いいか、俺がオデットに冷たく接し続けていたのはオデットのためだ。オデットは令嬢の中でも大人しく穏やかな性格をしている。容姿も俺には遠く及ばないが、よく見れば案外愛らしい。それは内面の清廉さが外見に出ているからだ。だが、俺からの寵愛を受ければ、傲慢になって内外ともに醜くなってしまう。それを防ぐために俺は敢えて厳しくしていた。……俺の愛が理解出来たか?」
自信ありげに聞かれ、オデットは真顔で首を横に振った。
「それがカミーユ様の愛なのでしょうけれど、わたくしはそのようなものを望んでなどいませんでした」
「……だからお前は男の愛し方を分かっていないんだ」
「え?」
「夫となった男の愛がどんなに分かりづらくても見極める。妻ならそれが出来て当然と思っていたが……まあ、いい。今回は特別に許そう。次から気を付けるんだ」
「カミーユ様……」
オデットは溜め息混じりに彼の名を口にした。
彼の本心を聞いても心が惹かれない。むしろ背筋に悪寒が走るだけだ。
アデルと視線を合わせる。これ以上は時間の無駄だ。本題に入ってしまおうと、固く口を閉ざしていたアデルが沈黙を破った。
「ところでカミーユ様。あなたはここ最近、貴族社会で横行している下劣なビジネスをご存知ですか?」
「……ビジネス?」
「ええ。未婚の若い令嬢を欲求不満の既婚男性の屋敷に向かわせ、行為を及ばせて男性から報酬を受け取るというものです。言わば派遣型娼婦のようなものですね。元夫はその仲介人を行っていました」
「……………」
「……カミーユ様、あなたもこちらをご利用されていましたよね? 仲介人は別の者でしたが、コンスタンの動向を調査中にあなたの名が出てきましたわ。レーヌ家への請求書も、あなたのサインが入った書類も発見されていますし、令嬢や馬車の御者の証言もあります」
「……………」
黙り続けるカミーユに、痺れを切らしたかのようにアデルは言葉を突き付けた。
「如何でしょう? 離婚の原因としては十分すぎるかと思いますけれど」
本当は弁護士からそれらを説明するはずだったのに、アデルが全て言ってしまった。そのくらい、腹が立っていたのかもしれないが。
カミーユもこれには苦虫を噛み潰したような表情をしている。流石に離婚に応じると思い、オデットが安堵していた時だった。
「そんなことで離婚をするわけがないだろう。俺が令嬢たちを抱いていたのは、心変わりしたわけでも性欲発散のためでもない! 練習に使っていただけだ!」
「れ……練習? 何ですかそれ?」
震える声でジョセフが尋ねると、カミーユはオデットの両手を掴み、柔らかに微笑んでみせた。
「オデットには優秀な男児を産んでもらう必要がある。そのために男児を宿しやすい技巧を学んでいたんだ」
ジョセフは無言で妹の手からカミーユを引き剥がした。
こんな嫌がらせまでするなんて。オデットがそう思っていると、メイドは何故か誰も座っていないカミーユの隣にも紅茶を注いだカップを置いた。
ダミアンが来る予定になっているのだろうか。けれどカミーユから放たれた言葉に、オデットは唖然とした。
「お前の席はこちらだろう、オデット。何故そちらにいる?」
そう言ってカップが置かれた席を指差すのだ。
「あれ、カミーユ様はまだオデットとやり直せると思っていらっしゃるのですか?」
「当然だ。俺はオデットを今でも愛している。なのに片方だけが喚いて離婚など信じられない」
「わたくしはカミーユ様を愛してなどいません。今までわたくしに冷たく接していた方から今更愛していると言われて、喜ぶとお思いですか?」
「オデット……残念だ。本当に俺の愛が伝わっておらず、男の愛し方も知らなかったのか」
「男の愛し方ぁ?」
ジョセフが疑問と嫌悪を綯交ぜにした声を出した。アデルは氷の眼差しをカミーユに向けていた。
メイドが顔を引き攣らせているが、カミーユは憮然とした態度で語り始めた。
「いいか、俺がオデットに冷たく接し続けていたのはオデットのためだ。オデットは令嬢の中でも大人しく穏やかな性格をしている。容姿も俺には遠く及ばないが、よく見れば案外愛らしい。それは内面の清廉さが外見に出ているからだ。だが、俺からの寵愛を受ければ、傲慢になって内外ともに醜くなってしまう。それを防ぐために俺は敢えて厳しくしていた。……俺の愛が理解出来たか?」
自信ありげに聞かれ、オデットは真顔で首を横に振った。
「それがカミーユ様の愛なのでしょうけれど、わたくしはそのようなものを望んでなどいませんでした」
「……だからお前は男の愛し方を分かっていないんだ」
「え?」
「夫となった男の愛がどんなに分かりづらくても見極める。妻ならそれが出来て当然と思っていたが……まあ、いい。今回は特別に許そう。次から気を付けるんだ」
「カミーユ様……」
オデットは溜め息混じりに彼の名を口にした。
彼の本心を聞いても心が惹かれない。むしろ背筋に悪寒が走るだけだ。
アデルと視線を合わせる。これ以上は時間の無駄だ。本題に入ってしまおうと、固く口を閉ざしていたアデルが沈黙を破った。
「ところでカミーユ様。あなたはここ最近、貴族社会で横行している下劣なビジネスをご存知ですか?」
「……ビジネス?」
「ええ。未婚の若い令嬢を欲求不満の既婚男性の屋敷に向かわせ、行為を及ばせて男性から報酬を受け取るというものです。言わば派遣型娼婦のようなものですね。元夫はその仲介人を行っていました」
「……………」
「……カミーユ様、あなたもこちらをご利用されていましたよね? 仲介人は別の者でしたが、コンスタンの動向を調査中にあなたの名が出てきましたわ。レーヌ家への請求書も、あなたのサインが入った書類も発見されていますし、令嬢や馬車の御者の証言もあります」
「……………」
黙り続けるカミーユに、痺れを切らしたかのようにアデルは言葉を突き付けた。
「如何でしょう? 離婚の原因としては十分すぎるかと思いますけれど」
本当は弁護士からそれらを説明するはずだったのに、アデルが全て言ってしまった。そのくらい、腹が立っていたのかもしれないが。
カミーユもこれには苦虫を噛み潰したような表情をしている。流石に離婚に応じると思い、オデットが安堵していた時だった。
「そんなことで離婚をするわけがないだろう。俺が令嬢たちを抱いていたのは、心変わりしたわけでも性欲発散のためでもない! 練習に使っていただけだ!」
「れ……練習? 何ですかそれ?」
震える声でジョセフが尋ねると、カミーユはオデットの両手を掴み、柔らかに微笑んでみせた。
「オデットには優秀な男児を産んでもらう必要がある。そのために男児を宿しやすい技巧を学んでいたんだ」
ジョセフは無言で妹の手からカミーユを引き剥がした。
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