愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀

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19.商売

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 令嬢を使った『商売』は架空の話だと考える者も数多くいたが、ファルス家とレーヌ家の一件で事実だと確定したことで貴族間に激震が走った。
 それに関与していた者たちの殆どが処分を受けた。コンスタンやカミーユと同様に除籍となり、平民へと落とされた者も少なくはない。

 事件の詳細をジョセフから聞かされたオデットは、その不快さに顔を歪める。

「何て酷い……お父様と同じ考えの方々はたくさんいらっしゃったのね」
「うん。これについてはマリュン公爵もかなり怒ってた」

 令嬢の多くは弱小貴族の次女や三女だった。相手は伯爵、或いは侯爵ばかり。
 そして令嬢の両親が実の娘を進んで差し出したというのだから救われない。金目的もあるだろうが、それだけではない。娘と一夜を過ごした貴族との繋がりを手に入れることが最大の理由だった。
 異性を惹き付ける容姿も、夫を助け支えられるような頭脳も持たない娘では、地位の高い貴族に嫁ぐのは難しい。なので欲を満たす道具として売ることにしたのである。

 ファルス家の元当主であるコンスタンが仲介人に就いていたのも、人脈を広げるためだったと本人は釈明している。
 そんな仕事で手に入れた薄汚れた人脈なんて、このファルス家には不要だ。そう思う自分は潔癖すぎるだろうかとオデットは考えたが、

「そんなものに頼るくらいなら、こんな家潰れた方がいいでしょ」

 とジョセフが吐き捨てたので少し安心した。
 だがオデットには一つ気になることがあった。

「……カミーユ様は令嬢で練習していたと仰っていました」
「うん。あの瞬間の母上の顔すごかった。あいつ母上に殺されるかと思ったし、僕も殺してやりたかった」
「つまり……ええと、いらっしゃるのではないでしょうか? カミーユ様の子を身籠られた方が……」

 欲を発散させるための行為だ。基本的に令嬢は避妊薬を飲んでから男性の邸に向かっていた。
 しかし本人曰くカミーユは……。

「練習に障るとして避妊薬を飲むことを禁じていたみたいだよ。そのせいか分からないけど、身籠った令嬢は何人かいる。……ここから先は僕の口からはあんまり言いたくないなぁ」
「分かりました。教えてくださってありがとうございます」

 言いたくないというより、聞かせたくないのだろう。それにどうなったのか、おおよその見当はつくのでオデットは深く追及しなかった。

「……暗い雰囲気になっちゃったね。気晴らしに何かしようか。オデットしたいことある?」
「わたくしですか?」
「何でも付き合うよ。あ、狩猟は準備に時間がかかるからそれ以外でお願いね」
「そうですね……」

 狩猟はあまり興味がないので特に問題ない。
 カミーユから解放されたので思う存分勉強も読書もし放題なのだけれど……。

「……あ」
「何するか決まった?」
「パンです」
「ん? パン食べたいの?」
「いいえ、わたくし自分でパンを焼きたいのです」

 そう答える妹に、ジョセフは不思議そうに首を傾げた。
 
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