愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀

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27.薬(カミーユ視点)

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 男──カミーユが自分は治験者になっているのだと気付いたのは、暫く経ってからのことだった。
 その日カミーユは顔面に猛烈な痒みを覚えて起床した。昨夜飲んだ薬が原因であるとすぐに気付く。他の症状は現れないものの、とにかく顔が痒い。痒すぎる。
 両手を使って掻き毟る。その間だけは束の間の快楽を得られるが、掻くのを止めるとすぐに痒みが襲ってきた。まるで皮膚の下で毛虫が蠢いているかのような感覚。皮膚が破れて血が出ても掻くのは止められなかった。
 これで痛みがあればまだよかった。だが何故か顔の周りだけ痛みを感じず、痒みしか感知出来なかった。

 痒みを訴えるカミーユの顔に軟膏を塗りに来た看護師が、カミーユはレーヌ家の強い要望でこの施設に収容されたのだと教えた。
 大して肉体労働をしたことのない長男のことだ。農具を握って土を弄る生活を繰り返していれば、いつか体にガタが来て使い物にならなくなる。
 現レーヌ伯爵であるリオンや先代のダミアンとしては、カミーユがどうなろうが知ったことではない。しかし野放しにしてオデットの下に行っては困る。

 そこであらゆる労働を免除する代わりに、危険性の高い治験に差し出そうと決まったらしい。
 カミーユが生きている限りはこの施設に閉じ込め、時には死ぬより辛い苦痛も与えることが出来る。レーヌ家にとっては一石二鳥というわけだ。

 そこまで聞かされ、カミーユはようやく自分はレーヌ家に見放されたのだと実感することが出来た。ダミアンが迎えに来るはずもない。
 大きなショックを受けたが、今は顔の痒みをどうにかして欲しい。軟膏を塗られた部分が熱を持ち、更に痒みが酷くなった。掻こうとすれば、「せっかく薬を塗ったのだから」と両手を拘束されてベッドに縛り付けられた。
 まるで拷問を受けているかのようだった。

 その日は当然眠ることなんて出来ず、ひたすら元家族への恨み言を吐き続けた。

 自分をレーヌ家の子として誕生させた神も恨んだ。他の家に生まれていればもっとカミーユを敬い、丁重に扱っていただろうに。

 朝になると異臭に気付いた。臭いの元は自分の顔から。
 様子を見に来た看護師に鏡を見せられる。顔の至るところに吹き出物が出来て、緑色の膿のようなものが垂れていた。それに無数の引っ掻き傷で顔は酷い有り様だ。
 乾いた膿が頬にこびりつき、喋る度に引き攣れる。早くまともな薬を寄越せと叫び、すぐに用意された軟膏のおかげで痒みも膿も治まったが、出来物の痕と傷痕はくっきり残ってしまった。

 それからすぐ。施設に王家直属の騎士団が乗り込んで来て、医者や看護師が拘束された。
 何でも鎮痛剤という名目で違法薬物を精製、それを治験者に試させた後に自分たちが服用するという事件が起きたらしい。この頃、薬師協会は腐敗していたのだ。

 騒ぎの中、カミーユは長年貰い続けていた給金を持って施設から逃げ出した。
 ここにいてはいつか殺される。それに騎士団に保護されたとして、次はどこに連れて行かれるか分からない。
 自分を捨てたレーヌ家には未練などない。だがいつか復讐をするつもりだ。両親にも、愚弟にも恥辱にまみれた最期を迎えさせる。
 だが今は奴らよりも。

「今迎えに行くぞ、オデット……!」

 会えない月日は、愛しい妻への想いをより一層強くさせた。
 自分はこれだけオデットを愛し続けている。ならば、オデットも自分に真実の愛を差し出す義務がある。
 口で言って分からないようなら、体に教え込ませるだけだ。行為の仕方はしっかりと覚えている。オデットを満足させて、今度こそ自分の子を産ませることが出来るだろう。
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