愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀

文字の大きさ
28 / 33

28.許さない(カミーユ視点)

しおりを挟む
 カミーユが惨めな日々を送っている間に、世界は大きな変化を遂げていた。
 まず、一部の都市でしか見られなかった列車が広く普及している。このおかげでカミーユはかつて自分が暮らしていた街に戻ることが出来た。

 オデット。ああ、早く会いたい。ファルス邸に辿り着くが、門番に追い払われてしまった。自分はカミーユだと名乗ったものの、「誰だそれ」と若い門番は首を傾げる。
 そうこうしているうちに玄関の扉が開き、壮年の男が姿を現す。カミーユは一目見て確信した。ジョセフだと。

「外が騒がしいようだから来てみたのだけれど……彼は誰だね?」
「それが『私はカミーユだ。とっととここを通せ』と言いまして……ジョセフ様ご存知ですか?」
「ご存知も何も……」

 ジョセフの顔に不快の色が浮かぶ。
 このままでは捕らえられる。そう悟ったカミーユは急いでその場から離れた。

「……何ですか、あの男は?」
「君は若いから知らないか。昔カミーユってとんでもないクズがいたんだよ。ただ……」
「ただ?」
「あの男、本当にカミーユか……?」

 ジョセフと門番がそんな会話をしていることなど、知るよしもなかった。



 
 逃げた先で安い宿屋を借り、ついでに新聞を買って読んでみる。
 そこには写真と呼ばれる奇妙な絵が掲載されていた。まるでこの目で見たものをそのまま紙に描き写したかのようだ。

 更に気になる記事を発見した。

「……『マリュン協会創立記念日』?」

 マリュン公爵が絡んでいると思っていいだろう。記事に目を通していく。
 マリュン協会とは、性被害に苦しむ女性への救済、支援活動を行う団体だ。望まぬ妊娠によって生まれた子供たちの保護も行っており、その活動は数十年前から続いている。
 記事の外にある備考欄には、協会創立の詳細が綴られていた。
 かつて貴族間で横行した薄汚いビジネスにより、令嬢が性被害に遭った。そんな彼女たちを救うためにマリュン公爵夫妻を中心に、オデット・ルヴェール、トラネル伯爵などが立ち上がったのがきっかけであり……。

「オデット……ルヴェール!?」

 聞いたことのない姓だった。ファルス家のものではないはずだ。
 もしや平民と結婚をして……?
 いや、違う。有り得ないとカミーユは脳裏に浮かんだ可能性をすぐさま消し去った。

 しかしそんなカミーユに追い討ちをかけるような文章があった。
 オデットの元旦那も令嬢たちに無体を働き、オデットに対しても酷い行いをしていたと。認めたくないが、自分のことだとカミーユはすぐに分かった。
 さらに兄の罪を償うため、レーヌ伯爵リオンも活動資金を援助していると一文も記載されていた。

 オデットはこんな記事の掲載を許可したのだろうか……。これではカミーユは悍ましい犯罪者だ。
 カミーユの愛を理解するどころか、陥れようとしている。

「オ、オデット……こんな女に俺は、俺は……!」

 カミーユは一枚の写真を睨み付けた。そこには現在のオデットの姿があった。
 たるんだ頬と目元に刻まれた数本の皺。髪も白く染まったみすぼらしい見た目で、下品な笑みを浮かべている。

 こんな醜い女に固執していた自分を恥じる。オデットのせいでカミーユは貴族でなくなり、農奴となり、実験動物となった。

 許すものか。
しおりを挟む
感想 310

あなたにおすすめの小説

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」  あなたがそうおっしゃったから。  わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。  あなたがそうおっしゃったから。  好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。  全部全部、嘘だったというの?  そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?  子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。  貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。  貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。  二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。  しかし。  結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。  だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。  それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。  三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。  それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。  元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。  もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。  いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。  貴族の結婚なんて所詮そんなもの。  家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。  けれど。  まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。  自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。  家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。  だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。  悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……  夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。  彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

(完結)婚約解消は当然でした

青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。 シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。 お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。 エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

処理中です...