前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ

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第17話「舞踏会の光の中で」

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 広間のシャンデリアが無数の光を放ち、春の舞踏会は一層のきらめきに包まれていた。

 貴族たちの笑顔、ドレスの色、音楽、香り。すべてが夢のような空間を演出し、その中心に立つのは——

 淡いミントブルーのドレスに身を包んだフィオーレ・アメリアと、黒の正装に身を固めた王太子付き近衛騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。

 彼と並んで歩くだけで、胸がふわりと高鳴った。

 先日、交わした言葉。

——「あなたを選びたい」

 それが今夜、こうして隣に立つ勇気になっている。

「……あなたが隣にいてくれる。それだけで、安心できます。」

 フィオーレがそっと言うと、レオナードは微かに微笑んだ。

「俺も、同じ気持ちです。」

 舞踏会の第一曲が始まると、彼は自然な流れで手を差し出した。

「踊っていただけますか?」

「……喜んで。」

 フィオーレは笑みを浮かべてその手を取った。

 ステップが始まれば、周囲の視線も、音楽も、遠く感じる。

 彼のリードに身を委ね、くるりと回転するたびに、ふたりの距離は確実に縮まっていく。

 そして——

 曲が終わると、周囲から優雅な拍手が湧いた。

「フィオーレ!」

 明るい声が聞こえ、振り返ると、そこには親友のソフィア・メルヴィルの姿があった。

 くるんとした栗色の髪、シャンパンゴールドのドレスが彼女らしい可憐さを引き立てている。

「踊ってたじゃない、レオナード様と!」

「う、うん……」

 つい頬が熱くなる。ソフィアは楽しげに笑いながら、ひそひそと続けた。

「しかも、あのレオナード様がよ?団長様って、普段はほとんど笑わないって有名なのに……あんなに穏やかにあなたを見てた。」

「えっ、そうだったの?」

「見てたこっちが赤面したわよ。……で?」

「で……?」

「そろそろ“恋人です”って名乗ってもいいんじゃない?」

「ちょ、ちょっとソフィア……!」

 言いながらも、否定できない自分がいた。

(だって、あの人の隣が、こんなに自然に感じるなんて——)

 ふたりはくすくすと笑い合いながら、舞踏会の空気を楽しんだ。

 しばらくして、ソフィアが「レモン水取ってくるわね」とその場を離れると、レオナードが戻ってきた。

「……楽しそうでしたね。」

「ええ。ソフィアは、私の一番の理解者なんです。」

「そうですか。」

 彼はふと視線を外し、少しだけ口元を緩めた。

「……彼女が羨ましいと思いました。」

「えっ?」

「あなたの笑顔を自然に引き出せることが。……でも、今夜は——俺がその役を果たしたかった。」

 低く響く声。真っ直ぐな眼差し。

 その言葉に、胸の奥がふっと熱くなる。

「……レオナード様。」

 ふたりはそっと広間を離れ、外のバルコニーへと出た。

 星がきらめく夜空。風は柔らかく、花の香りがふんわりと漂う。

「この景色、綺麗ですね。」

「あなたの方が、ずっと。」

 さらりと囁かれたその一言に、フィオーレの頬が一気に熱を帯びた。

 けれど彼は、それ以上何も言わず、ただ隣に立ってくれる。

 それが何より嬉しかった。

 少しの沈黙を破ったのは、彼の静かな声だった。

「……この先も、あなたの隣を歩いていきたい。」

 ふと差し出された手。

 それは、騎士団長としてではなく、ひとりの男としての意思表示だった。

「わたしも……レオナード様となら。」

 フィオーレはためらいなく手を取った。

 星の光に照らされるふたりの影が、そっと重なっていく。

 舞踏会の華やかさの中で——それとは対照的な、静かで確かな誓い。

 それが、ふたりの未来を優しく照らし始めていた。
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