前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ

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第35話「愛して、これからも」

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 結婚式の翌朝。
 鳥のさえずりと柔らかな日差しに包まれて、フィオーレ・アメリアはゆっくりと目を覚ました。

 隣に感じる温もり。

 その存在に、頬が自然と緩む。

「……レオナード様……」

 彼はもう起きていたようで、カーテンの隙間から差し込む光を背に、部屋のソファに腰掛けていた。

 読んでいた本を閉じ、静かに微笑む。

「おはよう。……フィオーレ」

 名前を呼ばれるだけで、胸の奥があたたかくなる。
 もう“夢”ではない。
 この時間は、たしかにふたりの“現実”なのだと実感する。

 

 ふと、フィオーレは立ち上がり、鏡の前に立つ。

 薄く揺れるナイトドレス。無造作にほどけた髪。けれど、鏡に映る自分の目は、力を宿していた。

(……私は、もう前の私じゃない)

 

 レオナードがそっと近づき、彼女の肩に手を添える。

「なにを見てた?」

「……あなたに出会う前の自分のこと。今、ふと思い出してたの」

 

 窓辺へ移動し、ふたり並んで腰を下ろす。

 静かに、風が吹き込んだ。

「前の私はね、誰にも必要とされずに、誰も必要としなかった。怖かったの。心を許すことも、頼ることも」

「……」

「でも、あなたに出会って、変わっていった。クラリスやソフィア、家族やみんながいて……私は少しずつ、自分を好きになれた」

 

 そう言って微笑むフィオーレに、レオナードは言葉ではなく、手を重ねる。

 強く、あたたかく、そっと包み込むように。

「ありがとう、フィオーレ。君がいてくれて、俺は……何度も救われた」

「私のほうこそよ」

 

 そしてふたりは、過去も未来も越えて、今この瞬間を噛み締めるように見つめ合った。

「これから、いろんなことがあると思う。楽しい日も、つらい日も。でも……」

「君となら、乗り越えていける。そう思える」

 

 指先が絡まる。

 ふたりで歩む人生は、ここからが本当の始まり。

 

 

 その後。

 アメリア伯爵家では、ふたりの新しい住まいへの引っ越しの準備が進んでいた。
 
 クラリスは、相変わらず変わらないやわらかな笑顔で、そっと言った。

「これからの生活……どんな日々になるのか、わたしも楽しみです」

「うん。一緒に、幸せになろうね」

 

 ソフィアは少し涙を浮かべながら、笑い混じりに言った。

「なんだかんだで、フィオーレが一番にお嫁にいっちゃったのね~。でも、すっごく、すっごく綺麗だった」

「ありがとう、ソフィア。わたし、あなたがいてくれて本当によかった」

 

 

 夜。

 新しい部屋のテラスで、ふたりは並んで月を見上げていた。

「ねぇ、レオナード」

「ん?」

「わたし、今ならはっきり言えるの」

 

 フィオーレは、ゆっくりと、そして穏やかに口を開いた。

「この人生が好き。あなたと出会えて、あなたと歩めるこの世界が、前世より何倍もあたたかいの」

 

 彼は何も言わず、ただ彼女をそっと抱き寄せた。

 言葉はもういらなかった。

 ふたりの心が、静かに重なるその瞬間——

 

 フィオーレの瞳には、涙が光っていた。

 それは悲しみの涙ではない。
 生きることを、愛することを、こんなにも強く、肯定できるようになった今の自分が誇らしくて——

 ただ、あふれてしまったのだった。

 

「……愛してる、レオナード」

「俺も、フィオーレ。……これからも、ずっと」

 

 ふたりはゆっくりと唇を重ねた。

 

 静かな夜。風が木々を揺らし、月がやさしく照らす。

 その光のもと、ふたりは永遠を誓い合いながら、未来へと歩き出した。

 

 もう、迷うことはない。

 前世の孤独も、今世の愛も、すべてが彼女の歩んだ軌跡。

 

 そしてそれは——

 誰よりも強く、やさしいフィオーレ・アメリアという女性の物語だった。

 

 

 ――終――
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