前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ

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第34話「永遠を誓う日」

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 朝靄の立ちこめる王都。
 聖堂の鐘が、まだ誰もいない石畳の通りに、ゆっくりと鳴り響く。

 その音を聞きながら、フィオーレ・アメリアは、静かに息を吸い込んだ。

 鏡の前に座り、白いドレスに身を包んだ自分と向き合う。

 母から受け継いだヴェール、伯爵家の紋章が刺繍されたリボン、そしてレオナードから贈られた、あの銀の髪留め。

「……今日、私はあなたの隣に立つのね」

 呟いた声は、少しだけ震えていた。

 けれど、瞳の奥には揺るぎのない意志があった。

 

 部屋の扉が静かに開き、クラリスとソフィアがそっと顔を覗かせた。

「フィオーレ様……」

「うわ、ほんとに綺麗……もう、見惚れちゃうわ」

 ソフィアが両手を頬に当てて感嘆の声を上げ、クラリスは目を潤ませながら微笑んだ。

「こんな日が来るなんて……本当に、よかった……」

「ありがとう、クラリス。あなたがいてくれたから、私はここまで来られたの」

 

 式の始まりを知らせる鐘が、もう一度鳴る。

 花嫁の時間——それが、訪れた。

 

 

 王都の中心、白亜の聖堂。

 高い天窓から陽が差し込み、煌びやかな光が大理石の床に反射していた。

 祝福に集まった人々の間を、フィオーレはゆっくりと歩き出す。

 父が差し出した腕に、そっと手を添えて。

 

 祭壇の前には、彼がいた。

 レオナード・ヴェルシウス。

 黒と銀を基調にした正装の騎士服。
 その姿は、凛々しく、どこまでも誠実だった。

 その瞳が、真っ直ぐにフィオーレだけを見つめている。

 

 歩くたび、胸が高鳴る。

 過去の自分がどこかで見ていた「理想の幸せ」を、今、自分が歩んでいる。

 

 そして、ふたりが並んだ瞬間。

 レオナードが、そっと言った。

「綺麗だ……本当に、綺麗だ」

「ありがとう、レオナード様……いえ、レオナード」

 彼の瞳が微かに揺れたあと、柔らかくほころぶ。

 もう“様”はいらない。
 これからは、対等な“人生の伴侶”として、歩いていくから。

 

 司祭の静かな声が響く。

「ふたりは、生涯を共にすることを誓いますか?」

 

 フィオーレは、彼を見上げる。

「はい。喜びの日も、涙の夜も、共に歩みたいと願います」

 

 レオナードは、ゆっくりと頷いた。

「必ず守る。君が笑っていられるように、いつだって、隣にいる」

 

 誓いの言葉が終わると、聖堂に柔らかな光が差し込んだ。

 天窓のステンドグラスから、虹のような光がふたりを包む。

 

 そして、最後の問いかけ。

「では、あなたの妻となる者に、口づけを」

 

 レオナードが、フィオーレの手を取り、そっと抱き寄せる。

 彼の瞳は、どこまでも真っ直ぐで、やさしかった。

「……フィオーレ」

「ん……?」

「君と出会えて、よかった」

 

 言葉のあと、そっと唇が触れ合った。

 それは、過去も未来も、すべてを包み込むような、あたたかな口づけだった。

 

 大きな拍手と、祝福の音が響く。

 花びらが舞い、音楽が奏でられ、ふたりの愛が、たしかにここに結ばれた。

 

 

 披露宴のあと、レオナードとふたりきりになった時間。

 夜風が吹き抜けるバルコニーで、フィオーレはふと空を見上げた。

「ねぇ、レオナード……」

「うん?」

「もし、あなたに合う前の私がこの空を見ていたら、きっと信じられなかったと思うの。私が誰かと手をつないで、こんなに幸せになるなんて」

 

 レオナードは、黙って彼女の肩を抱き寄せる。

「でも、君は変わった。変わろうとした。俺は……そんな君をずっと、誇りに思ってる」

 

 胸の奥が、あたたかく満たされた。

「ありがとう。あなたがいたから、私は自分を好きになれた」

 

 月明かりの下で、ふたりはそっと額を寄せ合った。

 

 孤独だった少女は、もういない。

 信じる人と、支え合いながら、明日を迎えられる。

 

 そのすべてが、彼女が選び取った“幸せ”だった。
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