『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ

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第17話:特別な一杯にこめた想い

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 リリアが用意をしていると、レティシアは当然のように、グレイヴァンの隣の席へ腰掛けようとした。

「今日はご一緒させてください。私なら、ここよりもずっと上等な紅茶をご存知ですよ?」

 彼女は当然のように、グレイヴァンの隣の席へ腰掛けようとした。

 しかし——

 「座るな」

 低く、しかし冷静な声が、空気を凍らせた。

 レティシアの動きが止まる。

 「……どういう意味かしら?」

 「ここは、俺が気に入っている場所だ。お前が勧めるどんな高価な紅茶より、ここの茶が一番合っている」

 グレイヴァンの灰色の瞳は、冷たい静けさをたたえていた。

 「それに——他人を貶めて自分を持ち上げるような人間と、俺は一緒に飲む気はない」

 言葉が静かに、しかし確かに響いた。

 レティシアの顔がみるみる紅潮し、唇を噛んだ。

 「……わたくしは、ただ——」

 「もういい。帰れ」

 その一言に、彼女は肩を震わせながら、扇子で口元を隠した。

 「……今日のところは失礼しますわ」

 わずかに涙を浮かべながら、レティシアはその場を去っていった。

 ——そして、庭には静けさが戻る。

 リリアは少し離れた場所からそのやり取りを見ていた。

 心臓が、早鐘のように打っていた。

 (……私のために、ではない。きっと、ただの信念。けれど……)

 それでも、何かが胸に染み込んでいくようだった。

 

 リリアは、奥の棚から白磁のティーポットを取り出した。大切に取っておいた特別なものだった。

 そして今日のために選んだ、特別なブレンド。優しさの中に、力強さと希望がある香り。

 (言葉にできない気持ちを、もし届けられるなら……)

 静かに、彼の前にティートレイを置く。

 「お待たせしました。今日の——いえ、“わたしの特別な一杯”です」

 グレイヴァンは静かにうなずき、湯気の立ちのぼるカップに口をつける。

 ひとくち。
 そして、目を伏せたまま、ぽつりとつぶやく。

 「……お前の、香りがするな」

 「……えっ?」

 リリアは驚いて顔を上げた。

 彼は相変わらず表情を変えず、カップを持つ手だけが、いつもより少しだけ丁寧だった。

 「毎回、違う香りだ。でも……いつも“お前らしさ”がある」

 言葉にならない想いが、胸に広がっていく。

 「……わたし、グレイヴァンさんに少しでも安らいでもらえたらと思って……」

 「それは、伝わってる」

 ふと、風が吹いた。

 テーブルに置かれたカップがかすかに揺れ、リリアの髪がなびく。

 そして、彼の手がそっと伸びて、リリアの手の甲に指先が触れた。

 その仕草は誰にも気づかれないほど、控えめで。
 けれど、確かにそこに“想い”があった。

 (……この一杯で、わたしの気持ちは、ちゃんと届いた)

 リリアは微笑んだ。

 グレイヴァンが無言で、けれど確かに彼女を見つめるその目に。

 はじめて、同じ景色を見つめられているような気がした——。
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