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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第287話 イグニスの企み
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プロフェッサーにマリーの魔導砲の携帯許可と使用許可を得るため、職員室まで移動する。アトリエから職員室へ行く途中には学長室と応接室、教頭室が並んでいるのだが、教頭室にだけ明かりが灯っているのが廊下の端からでも窺えた。
放課後の遅い時間ということもあり、退勤が懸念されたが教頭室に明かりがあるならば多分大丈夫だろう。そう考えながらメルアの少し後ろを歩いていると、メルアが不思議そうに首を捻った。
「あれ? 教頭室に明かりついてる……。しかもなんならイグニスがいるじゃん」
「……え?」
身長が違うのでどうしてもメルアに遅れてしまうのだが、急いで彼女の隣に並ぶ。イグニスという発言が出たが、僕にはその姿を見ることが出来なかった。
「イグニスって?」
「しーっ」
メルアがそう言いながら自分の目を指差して見せる。メルアは無意識に浄眼で教頭とイグニスのエーテルを見透したのだろう。
「こんな時間になんの用なんだろうね?」
メルアにだけ聞こえるように出来るだけ小声で囁く。
「生徒会総選挙に向けて不正の相談だったりして……」
「そうじゃないといいけれどね」
その可能性は高いけれど、そうじゃないことを祈りたいところだ。
「まあ、素通りするのもなんだから――。我に音を届けよ。シークヒア」
なんの抵抗もなく使ったけれど、メルアの詠唱は盗聴魔法のものだ。教育機関では少なくとも習わないはずなんだが、メルアが使えるということはこれまでにも必要な場面が幾つもあったんだろうな。
ここでイグニスと教頭の話を聞かないという選択肢は僕にもなかったので、廊下を進みながら二人の会話に耳を澄ませた。
『……どうなってる。取り巻きに根回しさせてるのに、エステアが優勢だぞ』
『申し訳ありません。ですが、事前の意識調査は正直――』
『五月蠅い!』
おっと。僕たちの足音が離れたとあって、イグニスが声の大きさを元に戻してきたらしい。メルアの方を見ると、耳を指差して片目を瞑ってみせている。僕もメルアの仕草を真似て苦笑を浮かべた。
『……こうなったら、票を操作しろ』
『そんな……』
沈黙の間に何らかの悪態が聞こえたが、そこは流しておこう。明らかに不機嫌さを滲ませたイグニスの声に教頭は絶句して押し黙ってしまった。
「なんか可哀想だね。明らかに脅されてるじゃん」
メルアの呟きに頷いてみせる。これまでイグニスが有利になるように加担してきた教頭も、生徒会総選挙という生徒の民意を問うものには手を出すことに抵抗があるようだ。だが、イグニスはお構いなしに続けた。
『そのために選挙管理委員長にしてやったのをもう忘れたか?』
ああ、デュラン家の後ろ盾を使えば、票の操作は別として、選挙に直接関わる人選に口を出すことすら可能なのだ。同じことはマリーでも可能だろうけれど、マリーの性格なら決してやらないだろうな。だから僕はエステアたちを信頼することが出来ているのだけれど。
『……なにを躊躇うことがある。こっちの票を増やしてエステアの票を捨てるだけだ。簡単だろう?』
『しかし、そんなことをすれば民意が……』
教頭が戸惑っているのも無理もない。生徒会総選挙はカナルフォード学園の生徒全員が投票権を持つ選挙なのだ。イグニスがある程度の人気を集めていない限り、票の操作は真っ先に疑われる。僕から見てイグニスの人気というのは、どう足掻いても貴族寮の一部の生徒にしか影響しないように思う。デュラン家の名を出して脅したとしても、その支配が続く生徒会を多くの生徒は望まない。反対に、エステアの再任は多くの生徒に望まれている――これがカナルフォード学園の民意だ。
『つべこべ言うな。俺様の命令は絶対だろうが』
イグニスの言葉が厳しいものに変わっていく。教頭は殆ど消え入りそうな声で、でも……しかし……と繰り返すだけになってしまった。
「うわ~。想像してたのの何倍も悪いね、これ……」
いたたまれなくなったのか、盗聴魔法を解除してメルアが溜息を吐く。
「今の話がまかり通れば、選挙の意味がなくなるね」
民意とは真逆の結果を生む不正選挙は、なんとしても止めなければならない。だが、盗聴魔法で企みを聞いたとなれば、こちらの評判も落ちるし、証拠としても心許ない。
「どーしよー」
僕と同じ考えに至ったのか、メルアが頭を抱えて身体を左右に揺らしている。
でも、この企みは誰かに知らせた方が絶対にいい。こんな時に役立ってくれそうなのは――。そこまで考えて、プロフェッサーの正体に思い至った。プロフェッサーはこの学園を正常化させるために派遣されたエージェントだ。当然この選挙を正しく行い、終わらせることも彼の任務に入っているはずだ。
「……プロフェッサーに相談しようか」
「プロフェッサー? なんで?」
僕の提案に、プロフェッサーの正体を知らないメルアが当然の反応を示した。本当のことを言うわけにはいかないので、適当にそれらしい理由を付けておこうか。
「どの派閥にも属していなさそうだし、対策を考えてくれるかもしれない」
「そーいえば、プロフェッサーも選挙管理委員会だし、ちょーどいいね!」
思ったよりもあっさりとメルアが納得してくれたので、僕は安堵しながら職員室へと歩を進めた。
放課後の遅い時間ということもあり、退勤が懸念されたが教頭室に明かりがあるならば多分大丈夫だろう。そう考えながらメルアの少し後ろを歩いていると、メルアが不思議そうに首を捻った。
「あれ? 教頭室に明かりついてる……。しかもなんならイグニスがいるじゃん」
「……え?」
身長が違うのでどうしてもメルアに遅れてしまうのだが、急いで彼女の隣に並ぶ。イグニスという発言が出たが、僕にはその姿を見ることが出来なかった。
「イグニスって?」
「しーっ」
メルアがそう言いながら自分の目を指差して見せる。メルアは無意識に浄眼で教頭とイグニスのエーテルを見透したのだろう。
「こんな時間になんの用なんだろうね?」
メルアにだけ聞こえるように出来るだけ小声で囁く。
「生徒会総選挙に向けて不正の相談だったりして……」
「そうじゃないといいけれどね」
その可能性は高いけれど、そうじゃないことを祈りたいところだ。
「まあ、素通りするのもなんだから――。我に音を届けよ。シークヒア」
なんの抵抗もなく使ったけれど、メルアの詠唱は盗聴魔法のものだ。教育機関では少なくとも習わないはずなんだが、メルアが使えるということはこれまでにも必要な場面が幾つもあったんだろうな。
ここでイグニスと教頭の話を聞かないという選択肢は僕にもなかったので、廊下を進みながら二人の会話に耳を澄ませた。
『……どうなってる。取り巻きに根回しさせてるのに、エステアが優勢だぞ』
『申し訳ありません。ですが、事前の意識調査は正直――』
『五月蠅い!』
おっと。僕たちの足音が離れたとあって、イグニスが声の大きさを元に戻してきたらしい。メルアの方を見ると、耳を指差して片目を瞑ってみせている。僕もメルアの仕草を真似て苦笑を浮かべた。
『……こうなったら、票を操作しろ』
『そんな……』
沈黙の間に何らかの悪態が聞こえたが、そこは流しておこう。明らかに不機嫌さを滲ませたイグニスの声に教頭は絶句して押し黙ってしまった。
「なんか可哀想だね。明らかに脅されてるじゃん」
メルアの呟きに頷いてみせる。これまでイグニスが有利になるように加担してきた教頭も、生徒会総選挙という生徒の民意を問うものには手を出すことに抵抗があるようだ。だが、イグニスはお構いなしに続けた。
『そのために選挙管理委員長にしてやったのをもう忘れたか?』
ああ、デュラン家の後ろ盾を使えば、票の操作は別として、選挙に直接関わる人選に口を出すことすら可能なのだ。同じことはマリーでも可能だろうけれど、マリーの性格なら決してやらないだろうな。だから僕はエステアたちを信頼することが出来ているのだけれど。
『……なにを躊躇うことがある。こっちの票を増やしてエステアの票を捨てるだけだ。簡単だろう?』
『しかし、そんなことをすれば民意が……』
教頭が戸惑っているのも無理もない。生徒会総選挙はカナルフォード学園の生徒全員が投票権を持つ選挙なのだ。イグニスがある程度の人気を集めていない限り、票の操作は真っ先に疑われる。僕から見てイグニスの人気というのは、どう足掻いても貴族寮の一部の生徒にしか影響しないように思う。デュラン家の名を出して脅したとしても、その支配が続く生徒会を多くの生徒は望まない。反対に、エステアの再任は多くの生徒に望まれている――これがカナルフォード学園の民意だ。
『つべこべ言うな。俺様の命令は絶対だろうが』
イグニスの言葉が厳しいものに変わっていく。教頭は殆ど消え入りそうな声で、でも……しかし……と繰り返すだけになってしまった。
「うわ~。想像してたのの何倍も悪いね、これ……」
いたたまれなくなったのか、盗聴魔法を解除してメルアが溜息を吐く。
「今の話がまかり通れば、選挙の意味がなくなるね」
民意とは真逆の結果を生む不正選挙は、なんとしても止めなければならない。だが、盗聴魔法で企みを聞いたとなれば、こちらの評判も落ちるし、証拠としても心許ない。
「どーしよー」
僕と同じ考えに至ったのか、メルアが頭を抱えて身体を左右に揺らしている。
でも、この企みは誰かに知らせた方が絶対にいい。こんな時に役立ってくれそうなのは――。そこまで考えて、プロフェッサーの正体に思い至った。プロフェッサーはこの学園を正常化させるために派遣されたエージェントだ。当然この選挙を正しく行い、終わらせることも彼の任務に入っているはずだ。
「……プロフェッサーに相談しようか」
「プロフェッサー? なんで?」
僕の提案に、プロフェッサーの正体を知らないメルアが当然の反応を示した。本当のことを言うわけにはいかないので、適当にそれらしい理由を付けておこうか。
「どの派閥にも属していなさそうだし、対策を考えてくれるかもしれない」
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思ったよりもあっさりとメルアが納得してくれたので、僕は安堵しながら職員室へと歩を進めた。
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