魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第9話 まさかの戦い 6

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 その表情はとても凛々しく、俺は見惚れてしまっていた。時が止まったとすら感じた程に。

「……人間、貴女は後悔するでしょう」
「はい。私、損して得取るタイプですから」

 ウロボロスは俺の方を向くと、真剣な顔つきで頭を下げた。その様というか、オーラというか、とにかく、その姿はどこを切っても戦士のもの。数々のボスと相対した時に見せてくれた、オラクル・ナイツ団長としての姿がそこにあった。そう見えてならなかった。

「我が君、お願いがあります。今一度、戦いの機会をお与えください」
「あ……あぁ、それはいいけど……」
「ありがとうございます。では――」

 ウロボロスの体が白い光に包まれていき、やがてそれは霧散した。鎧を脱ぎ捨て、普段の巫女服姿になったのだ。そうしてグングニル改12を両手で握り直すと、高速で回転させながら旋回させ、やがて腰の辺りで止めて構える。

「先程までの非礼を詫び、そして再戦の機会を与えて頂き感謝します、騎士ルーチェよ。一撃が全て故に鎧を着込むなど愚の骨頂でした。加えて名乗りもせず刃を交えた無礼についても謝罪します。私は、栄光あるオラクル・ナイツ団長、ウロボロス」
「では私も改めて。聖リリス帝国四大将軍、そして聖天騎士団二番席次、ルーチェ」

 空気が張り詰めていく。ウロボロスが本気を出したら勝敗などわかりきっているのに、ただの傍観者のはずの俺の膝が小刻みに揺れてしまう。止まらない。押し付けてみてもかえって震えてしまう。恐いのか、もしかして。そう理解した時、思わず座り込んでしまった。腰が抜けるってこういう感じなのか。

「……6本ですか」
「そう見えるなら、きっとそうなんでしょう」

 気が付くと戦いは始まっていた。ルーチェの周りには、ランスロットだったか、緑色をした風の槍が6本浮いていた。
 ウロボロスがポツリと呟いたのはこのためか。先ほど、ルーチェは7本の槍を扱っていた。それが今は6本。必ずもう1本がどこかにあるはず。少なくとも周辺には見当たらないが。

「さぁ、行きます!」
「シールド展開!」

 ルーチェは駆け出す。しかし風の槍は先ほどの位置で静止したまま動かない。残りの1本の所在はわからないままである。
 さっきの戦い方を思えば、このまま馬鹿正直に突っ込んで来ることは絶対にないだろう。どう来る。どう裏をかいてくる。俺がわからないように、ウロボロスもまた想像できていないのだろう。既にシールドを展開し終えているというのに厳しい表情をしている。

「ランスロット、ファイア!」

 ルーチェの槍がシールドと接するか否かのタイミングで、止まっていた風の槍が動き出す。その瞬間、ウロボロスの注意がわずかに、その槍の軌道に沿って動いた。
 戦慄した。出会ってからのわずかな時間でウロボロスを理解したというのか、ルーチェは。四六時中一緒にいるはずの俺ですら、二度目を見せられてようやく悟ったというのに。

「そ……そうか。これがウロボロスの弱点か……」

 壁は攻撃を受けるのが仕事。相手の攻撃を味方に通す訳にはいかない。例えあらぬ方向へ曲がる攻撃だろうと絶対に。だからこそ、弱いとわかりきっている攻撃すらも見逃せず、結果、反応してしまう。風の槍6本がウロボロスの両脇の地面を抉った。それだけのフェイクだというのに注意はどうしても反れてしまう。
 だが、これを弱点と呼ぶのは少々乱暴な気もする。考えてもみろ。ウロボロスはもっと高速で展開される戦闘をいくつもこなして来ている。どんな攻撃にも反応こそするが、他にも来ると常に警戒し、攻撃を認識してから次の攻撃に備える心理的な動きは尋常じゃなく速い。そのか細い隙を狙い撃ちされるなんて常識では考えられない。明らかに人間の領域を超えているだろう。

「その槍も通しません!」
「わかっています!」

 今回ばかりは別だ。舐め切っていたさっきとは違って、今のウロボロスの集中力は研ぎ澄まされている。その証拠に、何かを仕かけられる前に注意を前方へ戻している。
 そこへルーチェの槍が突き立てられた。当然のようにへし折る。ここで終わりだろう、普通の相手なら。でもまだだ。軽過ぎだ。ルーチェの最後の一手にしては。本命の7本目が必ず来る。

「次は――」

 来ると確信しながらも、俺も、そしてウロボロスもまた、その方向の見当がつかない。右か、はたまた左か、ひょっとしたら頭上、背後かもしれない。ウロボロスもそんな予測をしたのだろう。ありとあらゆる方向へ注意を向けため、

「――え?」

 最大の隙が、前方にできた。
 前にはシールドがある。絶対に破られないと信じて疑っていない盾がある。その絶対的な自信が、盾とウロボロスとの間に突如生成された7本目への反応を致命的に遅らせた。

「破牙二峰刃!」

 防御、無理。受け止めたらさっきの二の舞。回避か。もう手遅れだろう。それでもウロボロスは身をよじってみせた。一瞬の攻防が終わってみると、

「騎士よ、貴女の勝利です」
「それはどうも」

 ウロボロスの胸元に一筋の傷が走っていた。
勝敗は決した。二度目の敗北だというのに、先ほどと違い、ウロボロスは晴れ晴れとした顔付きをしていた。一方で、ルーチェは全ての力を使い果たしたのか、そのまま地に伏したのだった。
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