魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第11話 ウロボロスの愛 4

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 振り返ってみれば、俺はウロボロスとずっと一緒にいるのに、先に眠ったところを見たことがなかった。そしてただの一度以外、俺よりも早く起きて活動していたじゃないか。だから断言できる。本を読んで見聞を広める暇があるとすれば、俺が寝た後、それしかあり得ない。

「あやつは超が付くほどの馬鹿真面目じゃ。喜々として自分よりも魔王様を優先する。決してお傍を離れず、それでいて自己研鑽し続けるじゃろう。これまでと変わらぬ思いを持つ限り」
「それじゃあ……」

 倒れるだろう、何度でも。あんな無茶が許されるのは、それこそゲームのキャラクター。つまりデータの頃だけだ。今、あいつは生きている。間違いなく生きているのだと、この手で触れてよくわかっている。どうして気が付かなかった。きちんと休まず働き続けたらどうなるのか、俺が誰よりもよく理解しているはずなのに。

「どうして……気が付かなかった……っ! 誰が頼んだ!? そこまでやれと、一体誰がっ!」
「ワシらの性格設定は、ここに記されておるじゃろうて」

 目の前にウィンドウが突き付けられる。そこには、俺が入力したウロボロスの設定文が長々と書かれていた。その中の一文が目に留まる。魔王ユウを愛して止まない。常に研鑽を重ね、団長として相応しくあろうとする、と。確かに書いたさ。そうであって欲しいと願ったさ。でも、だからってこんな結果になるなんて。

「ストップじゃ、魔王様」

 元々の原因も、止められなかったのも、何もかも悪いのは俺だ。そこまで思い至った時、唇に人差し指を優しく当てられる。見ると、吐息がかかる程に近い所から、カルマは見上げるようにして微笑んでくれていた。そして指で唇を少しだけ押されると、そっと離れていく。

「積もる思いは多々あろうが、それをぶつけるべきはワシではない。感謝も怒りもウロボロスに届けるのじゃ。そのどれもが、あやつの糧となろう」
「……あぁ、そうだな」

 この一件、全ての責任は俺にある。待て。この一件だけだと。馬鹿を言うな。きっとそれ以上だ。ウロボロスがルーチェに遅れを取ったのだって、コンディションが最悪だったからだろう。最初から今までずっと、無自覚に倒れてしまう程の無理を強いて来たのは俺じゃないか。
 そう、全ての責任は俺にある。それにも関わらず、先に深々と頭を下げてくれたのはカルマの方だった。

「魔王様……どうか、ワシらの大切な将、ウロボロスをよろしく頼むのじゃ」

 情けなかった。なぜ謝罪を止められなかった。この期に及んでもなお、俺は自分が可愛くて仕方がないとでも言うのか。ふざけるな。認めない。そんな体たらくで、どうして魔王ユウを名乗れる。どうしてこんなにも素敵な皆の主でいられるものか。
 心を入れ替えよう。ここから再出発しよう。必ず、絶対に。いつまでも皆と一緒に居続けられるように。

「カルマ……本当にありがとう、真剣に思ってくれて。じゃあ、行ってくる!」

 急いでウロボロス用の寝室へ向かい、この世界に来て初めて中へ入る。改めて絶句した。ウロボロスの奴、恐らく、ただの一度もここへ帰って来ていないのだろう。部屋中にうっすらと埃が積もってしまっている。
 そんな一角に置かれているベッドの上で、ウロボロスは静かな寝息を立てて眠っていた。胸が上下し、小さな寝息を立てている。手を取ると温かい。

「我が君……」
「……ごめん、起こしちゃったな」
「あぁ……我が君がこんなにも近くに……」

 目を覚ましてくれたウロボロスは、目を背けたくなる程にボロボロだった。目の下には大きな隈があり、顔色も良くない。覇気も無い。それなのに俺を求めてくる。両手を俺の頬に添えて、額を合わせてきた。その表情は疲れ果てて弱々しいものの、とても幸せそうに微笑んでいる。これが俺のしてきた結果か。

「なぁ……ウロボロス。お前はどうして……そこまで俺を慕ってくれるんだ?」
「なぜ……? 我が君を愛するのは当然のことではありませんか」
「……誰が頼んだ? そんなボロボロになるまで……誰が……っ!」

 俺だよ。ここまで来て何を寝ぼけたことを言っているんだ。そう思っているはずなのに、俺じゃないと、俺であって欲しくないと、そう思ってしまっている。卑怯だな。いっそここで突き飛ばされでもすれば目が覚めるのかもしれない。そんな他人任せな思考をしている時点で、これまた卑怯だというのに、どうすればいいのかわからない。言いたいことがたくさんあったはずなのに、頭の中がグシャグシャで、言葉になってくれない。

「わ、我が君?」
「嫌なんだよ……こんな……こんな……」

 皆には幸せになって貰いたい。そのためなら何でもしたい。心からそう願っているはずのに、こんな無理をさせて倒れさせて。これで、よくもまぁそんなことを願っていると臆面も無しに思えるものだ。
 大体、設定文を作って皆の性格を決めたのは俺じゃないか。本気で懺悔するつもりがあるのなら、いっそ白紙に戻してしまえばいいのに、そんな勇気は出せそうにない。恐いんだ。皆に嫌われるかもしれなくて。はは、本格的に屑野郎じゃないか、俺は。

「泣いて……おられるのですか?」
「……何だこりゃ、一丁前に」

 泣いていた。泣きやがった。涙がボロボロと止まらない。泣きたいのはウロボロスたちの方だろう。俺の勝手な都合で心を弄られて、嬉しいことや悲しいこと、辛いことまで全て決め付けられて、それに抗うことは当然できなくて。本当に泣きたいのは皆の方だ。それすら縛り付けている俺にそんな資格は無い。
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