魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
61 / 176
第1章 偽りの騎士

第11話 ウロボロスの愛 3

しおりを挟む
 どうしてウロボロスは倒れてしまったのか。過度な仕事量よりも倒れるくらい辛くて、かつ、人間関係でないものがあるのだろうか。うーん、ブラック企業に勤めていた俺ですら皆目見当も付きそうにない。

「ふむ……そうじゃのう。ある意味でこれはウロボロスの望んだ結果と言えなくもない。故に、例え仕事が全く無くなろうとも、人間関係の悩みが無かったとしても、いや、他のあらゆる負の要因が一切合切無かったとしても、何度でも倒れるじゃろう」
「ど、どういうことだ?」

 負の要因が一切合切無いって、それはつまり、人それぞれが個々に感じるはずのストレスの性質や重さによらないと言うのか。
 そんな話があるのか。人はみんな違う。嬉しいことも、悲しいことも、辛いことも、系統が似ていたとしても全て同じということはあり得ない。だからこそ人間関係に悩むのではないか。こちらが良かれと思ってやってあげても、向こうからすれば煩わしく思ってしまっているかもしれない。そんな毎日を繰り返すから思い悩むのではないのか。
 少し話がそれたが、要は、それくらい人がストレスと感じるものは多岐に渡ると思う。予想だにしない物事に対してストレスを感じてしまう。カルマは、その個人差も含めた全てが一切無かったとしても倒れると、そう言うのか。

「魔王様、無礼な物言いと承知であえて尋ねるのじゃが、ウロボロスの思いを過小評価されてはおらぬか?」

 それがこの話に関係するのだろうか。今はさっぱり繋がらない気がするものの、恐らくカルマには何か考えがあるのだろう。ウロボロスが倒れた原因に至れるのなら、ここは素直に言われたままのことを考えてみるか。
 ウロボロスの思いか。自分で設定しておきながら、正しく評価しているとは思えない。なぜなら、ウロボロスに限った話ではなくカルマたちもそうなのだが、俺の想像を超えて凄まじい働きを見せてくれるから。その中でもウロボロスは抜群に俺のことを強く思ってくれているのだと、漠然とわかった風になっているだけなのかもしれない。

「そうだなぁ……もの凄く強く俺を思ってくれている……と思うけど」
「では初めて魔王様とお会いした時、ウロボロスはどんな様子じゃった?」
「どんな……って」

 素っ裸で隣に寝ていた、丁度さっきの貴女のようにね。なんて、言えないよな。それが何だっていう話だし。でも、あの時はそれがもの凄くインパクトが強くて、残念ながら、他に何か気にするべき点があったとしても思い出せそうにない。いや、それじゃあ駄目だな。ウロボロスのためだ。何としても思い出さなくては。
 あの時、ウロボロスは凄く嬉しそうにしていた。はしゃいでいた、と言ってもいい。そうでなければ裸で俺の布団に潜り込もうとるだろうか。いや、うーん、それからほぼ毎日見た光景だな。まぁ、少なくとも言えることは、はしゃいでいた。ここが大事。自意識過剰かもしれないけど、俺たちと一緒にいられるこの世界に対して希望を抱いていたと推測できる。あ、まさか、そうやってはしゃぎ過ぎて倒れたなんて言わないよな。それは余りにも子どもっぽいし。

「この世界のシステムに気付いていたのではないかのう?」
「こ……この世界のシステム……?」
「例えば……メッセージ機能やメニュー画面、装備などじゃ」

 言われてみれば、ウロボロスはたどたどしいながらも、メニュー画面を開いて服を着たな。確かに気付いていたと言える。でも、だから何だというんだ。それが今回の件を考える手がかりになるだろうか。

「魔王様も含めて、ワシらはウロボロスがおったからこの世界で戸惑わなかったじゃろう? メニュー画面のことも、こうしてお会いできたのも、ウロボロスのお陰ではないか」

 言われてみればその通りだ。俺がこの世界で目覚めた時、隣にはウロボロスがいてくれた。戸惑う俺を気遣って、色々と教えてくれて、見せてくれて、導いてくれた。だから俺はスムーズにこの世界を受け入れられたのだと思う。
あの時はそういうものだと思ってしまったけど、もしも目覚めた時に誰もいなかったとしたら。想像しただけでも恐ろしい。いくら見たことのある部屋だったとしても、見慣れたゲームキャラクターになっていたとしても、そう簡単に受け入れられるものか。

「御身は初め、寝室におったじゃろう? ワシらも同じじゃ。きっとウロボロスも同様。では、一番初めに目が覚めたであろうあやつは一体どんな気持ちじゃったか……ワシにはわからぬ」

 そっくりそのまま俺の想像通りだろう。そこがオラクル・ラビリンスの中だとはわかっても安全かどうかはわからない。他に誰がいるのか、武器は、防具は、そもそも自分の強さは通用するのか。何もかも不明。そんな真っ暗闇の中、メニュー画面を見付けて、俺を探し出してくれた。目が覚めるまで傍にいてくれて、皆にも声をかけてくれた。

「それら全てをたった1人で乗り越えた、その覚悟は今もなお続いておる」
「今も……?」
「ウロボロスはワシらの将じゃ。ワシらが思う以上に、あやつは将であろうとする。常に御身の傍に控え、その上で、ワシらの上に立ち続けるために見聞を広めておったのじゃ。ご存知ないかのう?」

 心当たりはある。ある朝、目を覚ますと本を抱えて眠っていた。あんな無理を続けていたのだろう。そうでなければ、コーヒーやお茶菓子、抹茶など出て来るはずがない。きっと、そうして仕入れた知識はあれらだけでは済まないだろう。この世界に関する情報もたくさん仕入れているに違いない。

「では、いつその時間を確保しておったか」
「……まさか、あいつ」

 起きている間は四六時中一緒にいた。俺と一緒にいる間、あいつは常に尽くしてくれていた。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...